第398話レッツスライダー2(アダルト組編)




「そ、それじゃ、私が一番前で」


 サササッ


 我先にと一番前に陣取り、サッと腰を下ろす。

 これなら『あれ』に挟まれる心配もないし、心の傷も広がる事もない。



 今、私たち(ナゴタとゴナタとナジメ)がいるのは、高さが50メートル、全長が500メートルもある、ループ型スライダーの頭頂部だ。


 これはナゴタたち、アダルト向けに作ったので、360度回転する縦型のコースに、螺旋状に落ちていくコースなど、ちょっと激しいものとなっている。それと小さなジャンプ台が数か所に設置してある。


 

「うぬ、ねぇねが一番前なのか?」

「あ、ナジメが前がいいなら、交換するよ」


 スッと前の順番を譲る。


 さっきのユーアみたいに、足の間に座らせれば問題ない。

 どのみちこの配置ならむしろ大歓迎だ。姉妹に挟撃される心配もないし。



「おや? ナジメは私と肩車ではなかったのですか?」


 私の前に座るナジメに、ナゴタが尋ねる。


「おお、そうじゃったっ! わしはナゴタの肩の上じゃったっ! ちょうど足の置き場もあるから居心地がいいんじゃっ!」


「肩車? 足の置き場?」


 ヒョイと立ち上がり、ナゴタの上に乗るナジメ。

 ニコニコと無邪気な笑顔で八重歯を見せている。


「ああ」

 

 前に高いところが好きって言ってたからか。

 それでわざわざ肩車なんだと納得した。


 それと、


 ぐにゅ ぐにゅ


「………………くっ」


 ついでにの意味も良く分かった。

 ナジメに踏まれて形を変える、あの憎き物量の塊を見て。



「で、それでどうやって滑るの?」


 なんか予想と違う流れだなと、思いながら聞いてみる。


「え? だってお姉ぇはワタシと一緒だぞ?」


 意外だとばかりに、ゴナタが傍に来る。


「そ、そうなの? みんな一緒じゃなくて?」


「違うぞ? 二人一組で滑る事にしたんだっ! だって4人だったら危ないからって、ナゴ姉ちゃんが心配してたからなっ!」


「ふ、ふ~ん」


 チラと、そう話してたであろうナゴタを見てみる。


「はい、その通りです。お姉さま。はゴナちゃんが滑る事に決めてあるんです」


 ニコと微笑み、教えてくれるナゴタ。


「うん、確かに危ないかもね。ナジメは能力があるからいいとしても、ナゴタとゴナタがケガでもしたら…… ん、最初って?」


 ふと気になって、話の途中で聞いてみる。

 最初って何? これで最後じゃないって事?


「はい、最初はゴナちゃんとお姉さまで、次がナジメ、で、最後に私とですね」


 さっきよりも表情を崩して、満面の笑みで答えるナゴタ。


「え? は、はぁっ!?」


 なに、私だけ3回も滑るの?

 最初はゴナタで、次にナジメとナゴタの順番でっ!?



「ど、どうしてそんな事に?」


 聞き方がちょっとあれだけど、思わずそう聞いてしまう。


 だって、ナジメはいいとしても、姉妹と二人きりで滑るだなんて……

 これ以上傷口が開いたらどうするの? 絶対にそうなるパターンだよね?



「どうしてと言われましても、私たちはお姉さまと滑りたいと思って、3人で話し合って決めてたんです。もしかしてご迷惑でしたか?」


 笑顔から一転、申し訳なさそうに視線を伏せるナゴタ。


「うう~」


「そうなんだっ! 別に一緒でもそんなに危なくはないけど、お姉ぇに何かあってもイヤだからなっ! それとワタシもお姉ぇと一緒に滑りたいんだっ!」


 腕を頭の後ろに回し、ニカと笑顔で話すゴナタ。


「うむ~」


「そうじゃぞ、ねぇね。せっかくねぇねがこの機会を用意してくれたのじゃ、じゃからそれぞれ楽しみたいのじゃっ! わしも楽しみたいのじゃっ!」

 

 最後にナゴタの上で、腕を振って無邪気な笑顔で答えるナジメ。


「むむむ~ …………」


 そんな3人を前にして腕を組み、小さく唸るが、答えは直ぐに出ていた。


 私はみんなを楽しませる為に、このイベントを企画したんだ。

 なら答えは最初から決まっている。



「よし、私もそれでいいよ。それでいこうっ!」


 腕を解いて、みんなを見渡し笑顔でそう告げた。


「はい、ありがとうございます、お姉さまっ!」

「それじゃ、最初はワタシだなっ!」

「わしはその次じゃっ!」


「うん」


 ただしそこに私が楽しめる、その理由があるかは不明だったけど。



――



「はぁ、はぁ、はぁ…………」


 あれは何だったんだろう?


「ふぅ、ふぅ、ふぅ…………」


 あれが俗に言う、桃源郷だったのだろうか?


「い、いや、あれはそんないい物じゃないって、私からしたら、あれは――――」



 宴だった。



「ううう」


 ガクガク


 それを思い出しただけで身震いし、立っているのも辛い。


 バシャ


 両肩を抱いて膝を付き、水面を眺める。


「はぁ~」


 そこに映る私の顔は真っ赤だった。

 頬だけではなく、耳の先まで赤に染まっていた。


 なのでそのショックで、今は顔を上げることが出来ない。



『あ、あんな事は二度と経験したくない…… だってあんなにいろんな角度から攻撃されたら、私だって防げないし、あんなに埋まったのも初めてだし、それに身動きも取れなかったから……』


 なんであんなものを作ってしまったのだろう。

 全てはあのなんちゃってスライダーが原因だ。


 調子に乗って作るんじゃなかった。何が最高傑作だ。



「はぁ~」

 

 心を落ち着かせようと、再度息を吐きだす。

 脳裏に焼き付いた光景を、何とか頭から追い出すために。


 私は一度のライドで経験してしまったのだ。


 それは宴などという生易しい物では決してない。

 そんなもので、私がここまでの心的外傷を負う事はない。


 いや、宴って言えばあながち間違ってはいないけど、


 そう、あれは――――



 酒池肉林と言う名の、ハレンチな宴だったのだ。



――



「それじゃ、ナゴ姉ちゃんとナジメは後から滑って来てくれよなっ!」


 ゴナタが私の後ろで、後発組に声を掛ける。


「え? ナゴタたちは上で待ってるんじゃないの?」


 不思議に思い聞いてみる。

 だって、戻ってきた私と滑る予定だよね?


「うん、それだと上で待ってるのが勿体ないからさっ! 降りたらまたお姉ぇと戻ってくるんだよっ! その方がたくさん滑れるだろ?」


「ああ、なるほどね。確かにそうだね」


 ゴナタの説明に頷く。


「それじゃいくぞっ! お姉ぇっ!」


 ギュッ

 ムギュギュッ


「う、うん」


 ゴナタの合図と同時に、背中にもの凄い物量の柔らかな何かを感じるが、


「ぐっ!」 ギリリ


 なんとか歯を食いしばって堪える。

 そしてそのまま出発する。


 シャ――――――



「うはぁっ! やっぱり二人のが早いんだなっ!」

「ははは、そ、そうだねっ!」


 私はなんとか気丈に振舞い、平気そうに答える。


 ってか、出だしのスロープがほぼ直角なんだけど。

 早いどころではない、殆ど落下しているのだから。


 これはこれから先のコースの為の、助走ゾーンになってるからだ。


 この先には、360℃の螺旋スロープと、その先には目玉の360℃の縦型×2がある。

 さらに先には、細かいカーブや、最後に特大のジャンプ台も待っている。



「うひゃ~っ! 目が回るよ、お姉ぇっ!」


 ムギュ


「ちょ、ゴナタあまりくっつかれるとっ!」

「うん? 何か言ったかいお姉ぇ?」

「な、何でもないよっ!」

「そうか? 次は逆さまになる奴だなっ!」

「う、うん」


 そんなこんなで螺旋スロープを抜け、次は目玉の360℃の縦型スロープだ。


「よ~し、行くぞっ!」

「う、うんっ!」 


 だがそこで事件が起きた。

 予想だにしなかった、あの悪夢の出来事が。



 (うひゃ~っ! 高いのじゃ、早いのじゃっ!)

 (ちょ、ナジメっ! 肩の上で暴れると危ないですよっ!)


「ん?」

「あれ、ナゴ姉ちゃんたち、もう追いついたのかな?」  


 一つ目の縦型スロープを抜け切った直線で、頭上から後発組の騒ぎ声が聞こえた。

 その内容から、ナジメがはしゃいでるのだとすぐさまわかった。


 なんて、思っていると…………


 (あひゃっ!)

 (えっ!?)


 ナジメの素っ頓狂な叫びと、驚くナゴタの声の後で、


「うわ~っ! ナゴ姉ちゃんたちがこっちに落ちてくるぞっ!」

「え? えええっ~!?」


 ゴナタが上を向いて、そんな事を言い出した。


「うわ~、危ないのじゃ~っ! どいてくれなのじゃっ!」

「お姉さまっ! どいて下さいっ!」

「いや、それは無理だからっ!」

「危ない~っ!」


 ド――――ンッ!


 そうして、私たち4人は合流したのだった。

 恐らくだけど、ナジメが暴れたのが原因で落ちてきたのだろう。



「いつつ、みんな大丈夫?」


 離れずに、絡まったみんなに声を掛ける。


「は、はいっ! 私は大丈夫です」

「ワタシもだっ!」

「ね、ねぇね、すまんのじゃっ!」


「そう、ケガ無くて安心したよ」


 私はみんなの顔を見てホッとする。


 が、そこからが大変だった。


 自信作のコースは、まだ残り2/3もあるのだから。


 ギュムッ


「うぷっ!」 


 もぎゅっ


「わぷっ!」


 ぽよん


「おふっ!」


 ペタン


「痛てっ!?」


 4人で絡まったまま滑る私に、この世の物とは思えない、柔らかな感触が全身のいたる所に触れ、擦り、潰し、滑り、圧迫してくる。


 顔や胸や手の平に、はたまたお尻やお腹や、更には上下左右から挟まれる。



「わぷっ! ちょっと柔らか苦しいっ!」


 グイッ!

 ぷにゅん


「ああっ! お、お姉さま、そこは私のっ!」

「お、お姉ぇっ! そんなところに手をっ!?」

「ねぇねっ! ちょっと痛いのじゃっ!」


「だ、だって、このままじゃ、私が―― って、今度は連続カーブっ!?」 


 ギュルン

 

 ぽにゅん


「むぐっ!」

「うぴゃっ! あまり手を動かすと水着がっ!? それにお姉さまのお胸がっ!」

「わむっ!」

「ぴゃっ! お姉ぇどこを噛んでいるんだっ! そこはワタシの乳k」

「痛っ!」

「ねぇねっ! さっきからなんか失礼なのじゃっ!」


――


「はぁ、はぁ、はぁ――――」


 そんなこんなで、くんずほぐれつのままスライダーを終えた私は、耳まで赤くなった、恥ずかしい顔を見られないように、下を向いて水面を見つめている。


 ただし、そんな状態は私だけではなく。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ――――」

「うはぁ~」

「? みんなどうしたのじゃ?」


 一緒に滑ってきたナゴタたちも、息を荒げて茫然としている。

 あちこち水着が食い込んだ、官能的な状態で。


 ただし、一番の年長者の幼女を除いてだけど。



 こうして、私の宴は終わりを告げた。


 もう二度と調子に乗らないと心に決めた。


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