第399話長女の手作り料理とは
「うん? もう陽が落ちてきたね」
湖面に映る、赤く染まった夕やけ雲に気付く。
やっぱり楽しい時間は過ぎるのが、あっという間なんだって。
何だかんだ、最初は恥ずかしかった水着にも慣れ、みんなとたくさん楽しんだ。
ナジメやラブナの水の魔法での撃ち合いや、ナゴタの水上走り。
ゴナタの大岩を使っての水切り石や、ユーアとハラミの氷柱を使っての空中曲芸。
私も何か披露したかったけど、装備を脱いでいるので楽しく鑑賞していた。
それでもユーアに泳ぎを教えたり、キューちゃんたちも交えてみんなと遊んだりして、本当に時間を忘れるぐらいに楽しんだ。
―
「みんな~っ! そろそろ寒くなってきたから上がるよ~っ!」
先に上がって、キャッキャと飽きもせずに、遊んでいるみんなに声を掛ける。
「「「は~~~~いっ!!」」」
号令を聞いて、バシャバシャと湖から上がる。
最初は恥ずかしがっていた水着にもどうやら慣れたみたいだ。
「着替えたら、ちょっとゆっくりしてて? 晩ご飯の用意は私がするから」
タオルとドリンクレーションを出してみんなに渡す。
「え? お姉さまも着替えちゃうんですか?」
髪を拭きながらナゴタが聞いてくる。
「う、うん、さすがにこれじゃ恥ずかしいからね、陸に上がると」
自分の水着を眺めて、苦笑交じりに答える。
なにせ、真っ裸に近い姿だからね。
いくら大事な部分にモザイクが入っていても気恥ずかしい。
因みに、ゲーム内でこの姿をしていた男どもは、一人残らず消滅させたけどね。
妹の清美に見られる前に。
「そ、そうですか、もっとお姉さまの素肌を脳裏に焼き付けて…… ごにょごにょ」
「うん? 何か言った? もしかして水着が欲しいなら上げるよ?」
夕陽なのか何なのか、顔の赤いナゴタ。
「えっ! そのお召しになっているお姉さまの水着をですかっ!?」
「………………は?」
「で、でしたら頂戴いたしますっ! それでお姉さまの温もりを身近に――――」
「あ、だったらじゃんけんしようっ! ワタシも欲しいんだっ!」
ナゴタの話に唖然としていると、ゴナタも話に加わってきた。
「ア、アタシも記念に貰ってもいいわよっ! ユーアのと一緒にっ!」
「はぁっ!?」
なぜかラブナも手を挙げて乱入してくる。
「うぬ? ならわしも参加するのじゃっ! ねぇねの水着を着て歩きたいのじゃっ!」
「いやいや、それはヤバいでしょっ! 普通に考えてっ!」
更におかしな事を言って、嬉々としてナジメも加わってくる。
「どうしたんだろう、みんな。お顔が真っ赤だよ?」
『わう?』
そして蚊帳の外のユーアとハラミ。
不思議そうにその様子を眺めている。
『はぁっ!?』
何なのコレ?
いつから私の水着をあげる話に?
しかもなんで、使用済のものなの?
「み、みんなっ! ちょっと違うって、私があげるって言ったのは、今、みんなが着ている水着だからっ! 私のじゃないからっ!」
両手と首をブンブンと振って慌てて訂正する。
「そ、そうなのですかっ! それは残念です…… はぁ~」
「なんだ~、そうだったのかぁ~ ちょっと残念だなぁ」
「へ、そうなの? まぁ、そんなに欲しくなかったけど、ちょっとだけ残念だわ」
「うむ? そうなのか? せっかくみなに見せびらかそうと楽しみじゃったのに」
「そ、そうなんだよ、だから諦めてね、ごめんね」
分かりやすく落ち込むみんなに手を合わせ頭を下げる。
『はぁ~』
ってか、なんで私がみんなに謝るんだろう?
なんて、内心思ってたけど雰囲気がそうさせてしまった。
だって、遊んで上がっていたテンションが、一気にMINになるんだもん。
『それに欲しがる理由もハッキリしないし……』
そもそもコレを姉妹が着たら大変な事になるよ?
モザイクに収まらないかもよ? 私でもギリギリだったし…… うん。
ラブナだって、それ何しに使うの? ユーアのも含めてどうするの?
まさか、ご神体にするつもりじゃないよね? ユーア成分補充用の。
ナジメは更に絶対にダメだ。
だってこの幼女はただでさえ、領主として微妙な立場なんだよ?
それをこれ以上、自分で立場を貶めてどうするの?
公然わいせつ罪で、お縄にかかるよ?
そんな理由で、この水着を他の誰かにあげる訳にはいかなかった。
『ま、まぁ、帰ったらユーアには着せてみたいけどね。いつもと違うユーアが見られるし、これでエプロンや、ハラミに乗るユーアを眺めて堪能したいし』
チラと最愛の妹を見て、そんな
――
「スミカお姉ちゃんのお料理美味しそうっ! これ、全部作ったのっ!?」
着替えを最初に終えたユーアが、湯気を立てる料理を見て驚いている。
「ま、まぁね、ちょっと頑張りすぎたかな?」
キラキラとした目で、私と料理を交互に見ているユーア。
でも私が作ったってところには曖昧にしておく。
何せ、お皿にきれいに並べて、見栄えよくサラダをトッピングしただけだから。
キューちゃんの生態を聞きに行った、ノトリの街で買った料理の数々に。
「まさかお姉さまの手料理を食べられるなんて、キャンプに来て良かったですっ!」
「う~ん、いい匂いが着替えてた時からしたけど、お姉ぇの料理は美味しそうだっ!」
「おお~っ! ねぇねの手料理かっ! マスメアがいたら喜ぶじゃろぅなっ!」
次いで、ナゴタとゴナタとナジメも着替えが終わり、並べられた料理を絶賛する。
「うっ ま、まぁね。たまには私もね? みんなも頑張ったしねっ!」
ユーアと同じ目をした3人にも、曖昧に答える。
トコトコ
「ん? 料理の準備終わったのね? これがスミ姉の…… 手料理っ!?」
最後に着替えが終わったラブナが、料理を見て「ピタ」と固まる。
どうやらその出来栄えに感心しているようだ。
まぁ、私も結構頑張ったからね。
サラダの位置や色合いとか、料理に合うお皿選びとか。
「そうだよ? だから温かいうちに食べちゃ――――」
「ん? これと同じ料理、どっかで見た事あるんだけど、う~ん」
「え?」
サッサと食べて終わりにしようと勧めると、なぜか首を傾げるラブナ。
気のせいか、何か嫌な予感がするんだけど……
「あ、思い出したっ! ノトリの街の『あしばり帰る亭』で食べたんだわっ!」
「へっ!」
「だから手作りじゃないわっ! ただお皿に移しただけだわっ! 見た目一緒だし」
「あっ!」
名探偵宜しく、速攻で料理の素性を言い当て指を突きつけるラブナ。
それを聞いて、嫌な予感が的中した事を知った。
そして思い出した。
この中でラブナだけが、キューちゃんのフルコースを食べている事に。
「これ、スミカお姉ちゃんが作った物じゃないんですか?」
「うぇっ!?」
「お、お姉さまっ! ラブナの言った事は事実ですか?」
「い、いや~、どうだったかなぁ?」
「お姉ぇ。なんで空を見ながら答えるんだいっ?」
「え? あ、あの雲、キューちゃんに似てるよね?」
「ねぇね。わしたちは手作りで、お主は店屋ものを並べただけなのかのぉ?」
「わ、私も頑張ったよ? そ、それなりに………… ごにょごにょ」
みんなの突っ込みに、しどろもどろになり答える。
だってみんなと同じように、私も苦労したんだよ?
ここまでキューちゃんたちを連れてくるのに、頑張ったんだよ?
まぁ、力の入れどころを間違った気もするけど……
「そ、そんなの気にしないで、食べちゃおうよっ! お腹の中に入れば――――」
「スミカお姉ちゃん。食べる前にみんなに言う事ないの?」
満面の笑顔で、何かを促すユーア。
その頬っぺたは「ぷくぅ」と膨らんでいる。
「うう…………」
そんな妹の、膨れっ面を見たら、さすがに……
「ご、ごめんなさいっ! 全部ラブナの言う通りだよっ! 私は料理は出来ないんだっ! だからノトリの街の一番のお店で買って来たんだっ! でも味は絶品だから許してくださいっ!」
平身低頭で、全部を暴露し、言い訳無しで謝罪した。
だって、ユーアの目が過去最高に訴えてるんだもん。
嘘ついたらボクが許さないよ、みたいな目で。軽蔑しちゃうよってな瞳で。
そうして、初日の晩ご飯もみんなで美味しくいただいた。
何だかんだで、キューちゃんの料理は美味しいし、あのお店の料理長の腕前もいい。そんな店屋ものの料理だけど、みんなで舌鼓を打ちつつ、感想も言い合い、美味しくぺろりといただいた。
想いの籠った手作りも大事だけど、やっぱり食べる仲間も大事なんだと、それぞれの喜ぶ顔を見て、私も自然と笑顔になった。
決して料理が出来ない言い訳をしているわけではない。
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