第75話スミカ無双vsゴナタ編




 私はスキルで囲まれて、身動きの取れない姉妹の内、まずは妹のゴナタの前までくる。


「………………っ」


 戦う意思はないように見えるが、私を見るその視線は未だに鋭い。

 恐らくだけど、その理由は――――



「ゴナタだっけ? あなた。私の冒険者としての強さに納得はしたけど、自分が負けたとは、まだ思っていないよね?」


 そう問いかける。


「んん、まあそうだなっ! ワタシはこうやって捕らえられたけど、これって相性の問題もあるだろ? ワタシの攻撃はあんたに当たってないけど、ワタシだって何も喰らってない、捕らえられただけだしなっ!」


「ふ~ん」


 まあ、そりゃそうだよね。


 私だって同じ状況なら、そう思ってしまう。


 ただ卑劣な罠にかかって身動きが取れないだけなんだと。

 一撃も与えてないけど、一撃も受けてはいない。そう思うはずだ。


 ただそれは、スポーツや競技なら、そう納得しなくても構わないけど、ここは戦場。ある意味そこにはルールなんてものは存在しない。


 身動きがとれなくされた時点で、勝敗は決しているのだから。


 でも、今回はそれじゃ意味がない。


 私は、私とのヒエラルキー上下関係をはっきりさせる為に、この戦いを望んで、終わりにはしないのだから。


 勝敗を決するのは、相手が私に屈服させた時だ。

 その心と体に序列を刻み込む為に。



「もう、魔法を解いたから、動けるはずだよ」


 ゴナタを囲っていたスキルを解除して、そう告げる。


「おおっ本当だっ! もう何もないやっ!!」


 武器を上下左右に振って、確認している。


 そして私を睨みつけて、


「んで、これからどうすんだい? さっきの続きでもやらしてくれるのかっ?」


 動けると分かった途端に、強気な発言が出てくる。


「そのつもりだけど。今度はあなたが得意な戦い方でやってあげるよ。だからかかってきなよ」


 白に視覚化した円柱2本を両手に展開する。

 長さも太さも、標識のポールに似た感じのを。


「ああっ! それは、ありがと、よぉっ!」


 ゴナタは、その端正な顔を歪めて、超重量のハンマーを振りかざす。

 先ほどの特殊な能力を使っているのであろう。

 その体はわずかに光を帯びていた。


 ブフォンッ!!


 ガギィィィンッッッ!!!!


 私はその攻撃を、片手の円柱だけで、難なく受け止める。



「ぐうっ、さっきからそれはなんなんだってっ、よぉっ!!」


 ブウンッ!ブウンッ!ブウンッ!ブウンッ!


 ゴナタは、二度も止められた攻撃に今度は手数で打ち込んでくる。


 それを――


 ガギィッガギィッガギィッガギィッガギィッ!!


 私は先ほどと同じように、全て片手で防いでいく。


「ぐあああっ!!」


 ガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッ!!


 ゴナタはその手数を、更に回転を上げて打ち込んでくる。

 私はその全てを受け止める。


 手数を増やしたゴナタの一撃は、その手数の為、軽いと見られがちだが、その一撃一撃は、巨大オークの一撃に匹敵するほどの強さだった。


 クレハンだったら、何十回も即死している事だろう。



「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」


「それじゃ、今度はこちらからいくよ」


「っ!?」


 私はそう予告して、片方の円柱をその巨大なハンマーに叩きつける。


 ブンッ


 ガギィィィンッッッ!!


「っがあああっ!!」


 ゴナタは、その一撃だけで、たたらを踏むように後ろに後退する。



 私は更に追撃して、今度はスキルの円柱2機を交互に、ゴナタを守っているハンマーに打ち付けていく。


 ガギィッ ガギィッ ガギィッ ガギィッ!

 ガギィッ ガギィッ ガギィッ ガギィッ!


「ぐ、ぐぐぐぐぐぐっ! ぐがががぁっ!! な、なんだってこんな重い一撃をっ! か、片手でもワタシ以上にっ!!」


 ピタッ!


 私は一度、その攻撃を止める。


「今度は、上段から振り下ろすから、全力を出して受け止めなよ。じゃないと死ぬからね」


 そう宣言して、2本の円柱を頭上に振りかぶる。



「はぁっはぁっ、って、舐めやがってぇっ――――!!」


 

 ナゴタが頭上で構えているハンマーに、2本の円柱

 総重量『10t』を叩きつける。


 ブブンッ!


 ゴガァァンンンッ!!



「がぁっ! 重い、受け止められないっ! 負けるの、ワタシが――」



 私の一撃を受けたゴナタは、ガクガクとなんとか耐えてはいたが、次第に倒れ込んでいく。


 そして、パタリと武器を手放し、前のめりに倒れ込んだ。


「ふぅ」


 妹のゴナタは、超重量の攻撃に耐え切れずに、最後は能力を使い果たして気絶したようだった。


 ただ、あの一撃を受け止める力に正直驚いた。


 なんせ、重さが10tの一撃だ。



 それでも、体にはケガがないようだった。

 それは、私が元々武器しか狙ってなかったから。



 ただその脳裏には、きっと私との力関係がインプットされた事だろう。

 得意とした土俵で、完膚なきまでに叩きのめされたのだから。


 ガンッガンッガンッ


「ゴナちゃん、しっかりしてっ! い、今いくからっ! くっ、なんなのよっ! この頑丈な壁はっ! ゴナちゃんっ!」


 ただ、姉のナゴタは、崩れ落ちるそんな妹を見て絶叫していた。



 私はそれを見て、アイテムボックスより、リカバリーポーションを出して、妹のゴナタに使用する。



「うん、あれ? ワタシは何ともない、けど、負けたんだっ! ううっ」


 ポーションにより、回復した途端に、すぐ状況を把握して泣き崩れる。



『さっきの一撃を止めた限界を超える力といい、すぐに状況を把握する回転の速さといい、この妹はきっと後々に、そして姉の方も』



「ゴナちゃんっ! 大丈夫なのっ? ケガは、体はっ!!」


 目を覚まし、泣き崩れる妹を心配してそう声を掛ける。


「ナゴ姉ちゃん、ワタシ負けっちゃったよっ! 何も出来なかった! コイツは圧倒的に強かったっ! 全力を出しても、手も足も出なかったんだっ! うううっ」


「…………そんな事はないよ」


 泣き崩れる妹と、それを心配する姉に向かって声を掛ける。


「え?」

「グスっ?」


「そんなに悲観することはないよ。あなたは十分に強かった、だから顔を上げなよ。もう、どこも痛くないでしょ?」


「あ、ああっ全然大丈夫だっ! か、回復してくれたんだよな。ありがとなっ! でも―――― グスっ」


 顔を上げ、私を見るけど、また顔を下げてしまう。

 よっぽど負けが堪えたのだろう。


「なら、それでいいでしょう? 今回は私に負けたけど、まだまだ強くなる見込みはあるんだから」


「あ、ああ、そうだな、そうだよなっ!」


 何とか顔を上げて、私を見てくれた。


「あ、あなたは、一体何者ですか? ただの冒険者ではないでしょう?」


 妹のゴナタと私の話を聞いていた、姉のナゴタが声を掛けてくる。


「えっ? ただの冒険者だよ。それ以外何もないよね?」


「いえ、私に聞かれましても、あなた本人の事なので、私には――」


「う~ん」


 まあ、言えない事はたくさんあるけど、この世界ではただの冒険者で合ってるはずだ。別に、カッコイイ二つ名みたいなのや、伝説を残してるわけでもないしね。


 きっとみんなそう思ってるはずだ。間違いない。

 私はこの世界では、ただの冒険者だ。



「んん、それしか自分でも言えないから、今はそれでいいでしょう? それと、あなたを囲っている魔法壁は解除してあるから、もうそこから動けるはずだから」


「え、そうなのですか!? あ、本当ですねっ!」


 そう言って妹のゴナタに近づいて行く姉のナゴタ。


 だが


「あれ? 妹に何故、まだ魔法壁を張っているのですか?」


 妹に触れる距離に来て、その異常に気付く。


「ああ、だって、それは――――」


「はい」


「姉のあなたには、まだ納得してもらってないから」


「えっ!?」


「とりあえず、これからすることを邪魔されても嫌だなと思って」


「なぜ?」


「だって、そうでしょう? まだ私はあなたに、私の事をんだから。これから、姉のあなたにも戦ってもらうよ」


「えっ? だってそんな必要はもうないんじゃ、十分私たち姉妹は、あなたを認めていますよ? それでもですか?」


「うん、それでも」


「はぁっ、わかりました」


 一呼吸吐き出して、その手に巨大な両剣を握り締める。



 『なんだかんだ言っても、双子の姉妹なんだね』



 私はその武器を構える、姉の表情を見てそう思う。



『私を射殺そうとする程の鋭い視線なのに、そんな嬉しそうに口元歪めちゃってさ。もう戦う気満々だよね』



 この姉にして、あの妹あり。


 そんな二人を交互に見ながら、私は――


『これは二人とも頼もしいね。来たる何かの為の、戦力には――』


 そう思うのだった。

 これから起こるであろう、近い未来の事を思って。

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