第74話スミカと双子姉妹の戦い
私は、その謎の姉妹の前に飛び降りながら、空中でクルっと回転して、鱗粉効果を剥がして着地する。
「……………あのさ?」
「……………………あなた、冒険者ですよね?」
「……………………お前、冒険者だろ」
「………………?」
これはどう答えたら正解なんだろう。
二人の視線は、さっきまで談笑していたものとは、まるで別物だ。
その視線は、私を射殺す程の鋭い視線。それが二人とも。
一挙手一投足、油断なく私を監視しているようだ。
『ふうん、中々かな? 二人とも。だったら私の答えは――――』
「冒険者だけど、何?」
そう答える。
そんな二人の視線に我慢できるはずもない。
戦闘が好きだから?
違う。
二人とも自分より育っているから?
う、うん、ち、違うよっ。
それじゃ、なんで?
そんなの決まってるじゃない――――
『コイツら姉妹の、私を見る目は、私を敵と認識した目だ』
そう、私が冒険者を名乗ってからは、その差は顕著になっていた。
こんな小娘が冒険者を名乗るのが、許せないのか?
隠れて覗いていたのが許せないのかは、わからない。
わからないけど――――
「何を、そんなに殺気立ってるかはわからないけど、相手してやるから、さっさとかかってきたら? それとも、そんな無駄な肉を二つも垂れ下げているから、その分動作が鈍いのかな?」
その私に向けるその視線を、私のプライドが許せるわけがなかった。
私
「ナゴ姉ちゃん、コイツは……」
「……ゴナちゃん、分かってるわ。出し惜しみなしでいくわよ」
二人はそう言って、腰の布袋から、その容量を無視した大きさの凶器を取り出す。マジックバッグの類だろうか?
どうやら嫌味を込めた挑発は、無意味に終わったようだ。
予定では
「垂れてありません!(ないぜっ)」
て向かってくると思ったのに。
『うんと、ナゴ姉ちゃんと呼ばれた方は、両剣って奴? ゴナちゃんの方は、ウォーハンマー?』
私はあまりそういった武器には詳しくない。
けれど、その大きさだけは異常に思えた。
二人の構える武器はその二つとも、自身よりも大きなものだったからだ。
「いくぜっ!蝶の姉ちゃんっ! あまりワタシたちを、がっかりさせんなよなっ! それと大怪我させても、悪いのはお前だかんなっ!!」
ハンマーを持った方のゴナちゃんはそう言って、私目掛けて走り出す。
『早いっ! けどブーストアップ使ったルーギルくらいかな?』
私は一度、そのハンマーを受け止めようと透明壁を盾に見立てて展開する。
そして、その巨大なハンマーが私に向けて振られる。
「もし、恨むなら、弱い冒険者の自分を恨むんだなっ!」
ブフォンッ!!
ガッ
『よし、受け止めっ――』
「んんんっ、オラ――ッ!!」
ガッギ――ンッ!!
「なっ!?」
私は攻撃を受け止めたまま、横殴りに地面と平行に飛ばされる。
『すんごい、馬鹿力だねっ! 面白いっ!』
素直に感心する。
その超重武器を振り回す腕力に、私ごと吹っ飛ばすその膂力に。
「まだまだ、これからですよ。あなたが弱い自分に絶望するのは」
そんな声が、私の飛ばされる後方より聞こえた。
『って、いつのまに後ろにっ!?』
その声の持ち主は、両剣で切り裂こうと背中に向けて切り掛かっていた。
「っとっ!」
ヒュンッ
ガキンッ!
が、その攻撃は私に当たることはない。
「…………一体なにで防いだのですか?」
何故なら
私はその攻撃を、後方にスキルを展開して防御したからだ。
『ナゴ姉ちゃんの動きがまるで見えなかった。それとゴナちゃんのあの怪力は?』
そう、ナゴ姉ちゃんと呼ばれるその少女は、私は飛ばされながらも、その姿を油断なく視界に捉えていたはず。
なのに、気付いたら後ろに回り込まれていた。
ただ、その常識外の動きをする時は、薄っすらとその姿が光っていたのは確認できた。ゴナちゃんもそうだ。
『なんか特殊なスキルなのかな? 姿が光ると、片方はパワー、もう片方はスピードが大幅に上がるみたいな?』
私は双子を見て、そう分析する。
『それと、いちいち、その光が消えることから、もしかしたら回数か時間制限か、負荷に体が耐えられないとか、そんな感じかな?』
私から離れて、慎重に私を伺っている二人を見てそう思う。
今はその光が消えているからだ。
「ナゴ姉ちゃん、なんかコイツ変なんだよっ! ワタシの攻撃も、ギリギリで見えない何かで防いだんだよっ! なんなんだよ、あれ?」
「なるほどね、もしかしたら、魔法使いかもしれないわね。その変な格好も、それで納得がいくわ」
二人は、私のスキルをそう判断したようだ。
中々に冷静で、この場面で、そう分析する余裕もあるしで、かなり戦闘慣れしている様子だ。まだ若いのに、大したものだと感心する。
「ふうん、二人とも中々やるね。その調子でもう一度、かかってきたら? もしかしたら私に当たるかもしれないし」
更に挑発してみるが、
「あなた。私たちの攻撃を見ても、まだそんな余裕があるなんて、その恰好といい、面白いわね」
「ナゴ姉ちゃんっ! コイツもしかして、ただ防御魔法がうまいだけなんじゃ? さっきからつまんない挑発ばかりで、全然攻撃してこねえもんな」
『と、挑発にも動じないっと、なるほど』
「さあ、どうかな? 実は肉弾戦が得意かもよ?」
二人の私に対する印象の言葉に
「シュッシュッ!」とシャドウボクシングの真似事をする。
「随分と舐められてるわね、私たちを『ナゴタ』『ゴナタ』姉妹って知っても、そんな口が利けるのかしら?」
ナゴ姉ちゃんと呼ばれている、青白いドレスの方が、腕を前に組みながら、さも知ってて常識みたいなそんな事を言う。
「うん?………………」
ナゴタとゴナタ姉妹?
どっかで聞いたような……そして冒険者だよね、間違いなく。
私は首を捻り、少しの間思案する。
最近確かに聞いたはずだ。
「ああ、ワタシたち、コムケ街出身のBランク冒険者『ナゴタゴナタ姉妹』を知っていたら、ふざけた態度はとれない筈だぜっ! なぁ、ナゴ姉ちゃんっ!」
姉に続けて妹が付け足す様に語る。
「え~と、コムケ街のBランクの冒険者で………… ああっ! 思い出したっ! あんた達が『ナゴナタ姉妹』」
ポンっと手を叩いて全てを思い出す。
こいつらは確か、ユーアに害をなす恐れのある存在だ。
「ナゴナタって、まあいいけど。それで思い出してどうするの、まだやるのかしら?」
「ナゴ姉ちゃん、アイツが思い出したって関係ないよ。だって結局ワタシたちは、この戦いを止めるつもりがないんだぜっ!」
「そうね、そうだったわね。コイツが弱い冒険者なら、私たちが排除しないとねっ!」
「よし、ナゴ姉ちゃん、いくぞっ! 今度は全力でぶん殴ってやるっ! 弱い冒険者は必要ないっ!」
二人は物騒極まりない事を、平然と言い放ち、再度襲い掛かってくる。
妹の方は、先ほどと同じように超重武器を大きく振りかぶってくる。
姉の方は、その姿がすでに見えなくなっていた。
「おうらっ! 今度はフルパワーだっ! 村の外まで、ぶっ飛べっ!」
ブゥフォンッ!!
巨大なハンマーが、私を粉砕しようと恐ろしいほどの風切り音で迫ってくる。
私は先ほどと同じように、透明壁スキルを盾に見立てて展開する。
ただ先ほどと違うのは透明じゃなく、赤く『視覚化』した盾だ。
それに――――
「おおっ! 今度は目に見えるんだなっ! でもそんなの関係ないぜっ!」
ガッ!!
遠心力と、超重量と、妹の人外の膂力の渾身のハンマーを受け止める。
「ここから、ぶっ飛べっ!! って、なんだっ! 受け止めたのかっ!?」
――それに、視覚化ついでに『重さ』をプラスしているのだから。
先ほどと似てるのは形だけで、その性質自体が違っている。
「んなあっ! あり得ねえっ! ワタシのスキルの全力だぞっ! それをそんな小さな盾みたいなので、防ぐなんてっ!? あっ! なんだこれっ? 動けねえぞっ!?」
「はい、終わり」
攻撃を受け止めるついでに確保も完了させる。
難なく妹のゴナタを透明壁に閉じ込める。
「はあっ!? ゴ、ゴナちゃんの攻撃を止めただけじゃなく、何かで囲っているのっ!? そ、そんなっ!」
姉のナゴタの声だろう。
妹のゴナタが拘束されたのを見て、驚きの声を出していた。
しかし相変わらず、その姿は視認できない。
これだけ早いと、索敵モードも役に立たない。
未知の腕輪をしていた、あの小さいオークよりも
倍、いや3倍近く早いだろう。
『……あり得ない速さだね、もう人間の目には絶対に見えないよ。妹といい、この姉といい、Bランクってのは、こんな化け物ばかりなの? それとも、この二人が特別強いの?』
シュバッ!
スイッ!
「なっ!? なんであなたは、見えない速さの、私の攻撃を簡単に躱せるのよ! このぉっ! あ、あああっ!」
「はい、お姉ちゃんも確保完了っと」
姉のナゴタの超ハイスピードの攻撃を躱したついでに
こちらもスキルで閉じ込める。
「それじゃ、これからは、こっちのターンだね。さっき言ってたよね? 妹の方が私に向かって『防御魔法がうまいだけ』『攻撃してこない』てさ。だからその考えが間違いだって、今から教えて上げるよ。その身を持って、私の強さの一端を、ほんの少し教えてあげる」
私はまず妹のゴナタに向かって足を進める。
二度と私に逆らえないようにするために。
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