第7蝶 蝶の少女と双子姉妹との邂逅編

第73話スミカと双子姉妹の出会い




「「「……………………」」」


『~~~~~~っ』


 な、なんだろう、みんなの視線が突き刺さる。


 特に、下に降ろしたルーギルと、ユーアの視線が痛い。


 ルーギルはわかるとして、ユーアはなんで頬まで膨らませているんだろう?

 もしかして怒っているのかな?


 ナゴナタ姉妹をユーアの手を借りて、攻撃したことを。



 ツンツンッ


 プヒュッ!


「スミカお姉ちゃんっ!」

「わっ!」


 うう、膨らんだ頬っぺたツンツンしたら余計に怒られた。


 プンプンモードのユーアも可愛い。私は悪くない。


 むくれてるユーアは子供が拗ねているみたいで、ちょっかいを出したくなるのだ。だから私のせいではない。はず。


 そんな中、クレハンは――――


 大人しく座って、みんなに渡した果実水を落ち着いて飲んでいる。

 私が話し出すのを待っている感じだ。


 そして、この騒動の渦中の二人の姉妹はというと


「じぃ~~~~」

「じぃ~~~~」


「………………?」


 なんだろう。その熱視線が痛い、ていうか、怖い。

 なんで、この姉妹は私とユーアをチラ見しているのだろう?


「……………………ポッ」

「……………………ポッ」


「っ!?」


 うわっ、目が合ったらモジモジしだしたっ!

 こ、怖いっ! 一体なんなんだろう!?



 私は気を取り直して「コホンッ」と一声発してから話を切り出す。


「それじゃ、まずは簡単に報告をするね」



「はい、スミカお姉ちゃん」


「はい、スミカさんお願いします」

「オウッ!よろしく頼むぜッ!」


「はい、スミカお姉さま」

「ああ、スミカ姉」


 私は5人の返事を聞いて話し出す。


「オークの死体は全部回収してきて、そこでナゴタとゴナタの姉妹と会って、ついでにトロールを倒してきたんだよ」


 「だから遅くなったんだ」とも付け加える。



「えええっ! スミカお姉ちゃんオーク回収してくれたの!? あと、お話短いよっ!」


「ハァッ!? トロールまで倒した?? そこんとこもっと詳しくッ!! ってか簡潔すぎんだろっ!」


「……………やっぱりそうでしたか。なんとなくそんな予感が。でもナゴナタ姉妹は? 話が簡潔過ぎて状況がわかりません」


「あの時の、スミカお姉さまは素敵でしたっ!」

「ああっ!そうだったな、ナゴ姉ちゃん!」


 ユーアはナゴナタ姉妹とトロールの話より、なぜかオークの回収に強く反応していた。絶対にオークのお肉が目当てだ。


 ルーギルとクレハンはわかる。

 あれが普通の反応だ。


 ナゴナタ姉妹は、正直よくわからない。


 二人抱き合ってキャッキャッしてるし。

 そしてムギュってなってるし。

 その憎い二つの塊同士が。チッ。



「それじゃ、もう少し詳細を細かく話すね。えーと、ルーギルとクレハンには、夜中に出かけるって話はしたんだよね?」


「ああ、肉を馳走になってる時に聞いたぜッ。サロマ村に気になる事があったんだろッ?」

「ええ、それの確認と、忘れ物があるとの話でしたね」


 私の問いかけに二人はそう説明してくれた。


「スミカお姉ちゃん、なんでボクに言ってくれなかったんですか?」


 ユーアが少し悲しそうに聞いてくる。


「それはね、私が行くって言ったらユーアは付いてくるでしょう?」


「はい」


「ユーアは、その日は初めての実践とたくさんの魔物と戦ったでしょう? だから夜だけはゆっくりして欲しかったんだよ。それにユーアは育ちざかりなんだから、夜はしっかりと寝ないとね」


 そう説明した。

 

 本当はもう少し理由や、まだ話せない事もあるけど、大体はユーアを思っての事が大半だ。だから私は間違ってはいない


「うん、わかりました。スミカお姉ちゃんっ!」


「スミカお姉さまは、お優しいです。まるで天女さまのようにっ!」

「ああ、スミカ姉は、優しいなっ! ユーアちゃんも幸せだなっ!」


「………………はい?」


 ユーアと話をしてるのに、なぜこの二人は割って入ってきたんだろう?


 あなたたち姉妹の話して無いよね?

 あと、その私に対する高評価はなんなの?


 今までも気になっていたけど、二人の地雷をどこで踏んでしまったんだろう?


「コホンッ。まあ、私が夜に出かけた理由はわかったよね」


「「はい(オウッ)」」


「それじゃ、出かけた時からゆっくり話すね」



※※



 ※ここからは、澄香の回想シーンになります。


 ただ全てを語ってるわけではないですが

 この話では澄香の考えや思いも含まれます。





「よし、ユーアはぐっすりだね。今日は疲れたでしょう? 本当にお疲れさま」


 私は眠っているユーアの頬を撫でてそう独り呟く。


 ユーアが望んだ事とはいえ、私と出会ったばかりに、こんな事にも巻き込まれたり、心配させたりして、本当に迷惑をかけてたんだと思う。


 元々変化を望まない私からしたら、大迷惑な存在だと思う。



「でも、ユーアはきっと、そんな風に思ってないんだろうな」


 そうユーアはきっと思ってない。

 この子はそういう子だ。


 私に付いて行きたいという思いはあるけど、その中身は、常識知らずの、変な格好をした、ちょっとだけ年上の私を心配しての行動なんだと思う。


 ほっといては危ないし心配だと。


「でも、迷惑かけてる分は、私がユーアを守るし、ユーアが望むものは私も協力する、ユーアには、なんでも与えてあげたいから――――」


 私は、スクっと立ち上がる。


「――――だから、まだまだ私と一緒にいてね。もっと世界を二人で見てみようよ。それじゃ行ってくるね、ユーア」



 レストエリアを出て、再度バリケード代わりの透明スキルを張りなおす。


 透明壁スキルのレンジを超えてしまうけど、操作ができないだけで消滅するわけではないから安全だ。


 アイテムボックスより、ナイトビジョンゴーグルを出し装着する。


別に夜目が効かないわけではないが、高速で動く予定なので念の為にだ。小さいものに躓いても嫌だし。



 私はそのまま夜の森を疾走する。


 まずはサロマの村。

 オークたちに全滅させられた村だ。

 

「う~、素早くて小さいオークの未知の腕輪は回収したけど、巨大オークの分は回収忘れてたからね……」



 森を抜け、昼間に行ったサロマ村の破壊されたままの柵が見えてくる。


「まだ、オークの死体は残ってるよね? ユーアとログマさんの所に持っていきたいんだから」


 オークの肉は、非常に美味しいらしい。


 だからユーアにあげたいって言うか、一度、トロノ精肉店のログマさんの所に持ち込んで、解体してもらうつもりだ。


 お礼にオークの肉を沢山あげてもいいしね。




 村の柵を抜けて、中に入る。

 オークの死体が散らばっているのは、もう少し先のはず。


「ううっ、なんか、臭いっ! 腐った匂いじゃないけど――」


 すでに入り口付近まで匂いが漂っていた。


 そりゃそうだろう。

 100近い死体が放置されてるんだから。



「まずは、巨大オークの身に着けていた腕輪が先だね」


 記憶を頼りに、その地点を目指してゆっくり駆けていく。


「あった、この辺だっ!」


 壊れた家々の近くに、大きく穿かれた穴を見付ける。

 その中に踏み入って、荒れた地面の中を探す。


「よし、これで一つ目の目的は終了っと。後はオークの回収と、ん?」


 私はここで言葉を止める。


『こんな夜中の、こんな滅んだ村に人がくるの?』

 

 索敵モードに切り替えた私は、二つのマーカーを確認する。


『ちょっと変な感じするね、こんな時間だし…… でも一応確認しておこうか。もしかしたら迷ってるだけかもしれないし』


 念のために、蝶の羽根を動かして自分を透明化する。



『こっからだと、200メートルくらいは先か。一体何者だろう?』


 その二人を視認するために、地上からではなく

 スキルを使って空から跳躍していく。



『いた。二人なのは間違いない。けど、なんであんな子供が?』



 見下ろして見た二人は、私とそんな変わらない背丈の女の人だった。



 片方は、青白い感じのドレスの格好。

 身長は私より少し上かな?


 髪型は、肩まであるサイドテール。

 優しそうな顔立ちの美人ではあるが、なんか陰を含んでそうな表情。


 武器らしきものは持ってない。



 もう一人は、顔と身長は同じぐらい。

 白いTシャツみたいなものと、赤いホットパンツ。

 すらりとして、引き締まった足が見える。


 髪型はツインテールで、少し気が強そうな印象を受ける。

 こちらも武器を所持していない。もちろん防具も。



『双子? だよね、きっと』



 印象がまるっきり正反対だから、一瞬わからないけど、顔だけ見れば、それだとわかる。それに――――



『…………あれは、きっと私の敵だ。間違いない』



 その双子は、これでもかってくらい女性の部分を強調していた。


 胸の開いたドレスから見える、そのたわわな双丘。


 主張し過ぎて、胸元が盛り上がり

 シャツが捲りあがっておへそが覗く程の物量。



『クッ』



 この世界で初めて、完膚なきまでに敗北を悟った瞬間だった。



 今まで、大きな人はいなかったわけじゃないけど、ログマさんの奥さんのカジカさんは、お世辞に見ても、ランクBくらいだった。


 その他、コムケの街には、それなりの人はいたけどこれは別格。


 私は一応成長予定だから、会った人たちの事はあんまり気にしなかった。


 けど――


『あれは、いくら私が成長しても無理…………』


 それほど圧倒的なものなのだ。

 戦う前から勝敗は決していた。



「お――い、ナゴ姉ちゃん、オークの死体が沢山あるぜっ! 貰って行こうよっ!」


「え? このオークの大群に滅ぼされてしまったのかしら? 久し振りに寄ったというのに」


「でも、きっと退治されたんだろっ? この死体がその証拠じゃないか?」


「それはわかるけど、ここの人たちにも会いたかったのに残念だわ。それよりもゴナちゃん」


「ああ、わかってるよっ、ナゴ姉ちゃんっ!」


 二人は雑談を途中で止めて、空中を見上げる。



「そこに誰かいるのは、わかっているわよっ!」

「おい、コソコソ覗いてないで、出て来いよっ!」


 そう叫んでいた。

 思った通りに只者ではなかったっていう事か。



 こんな夜中に、武器も防具も付けずに、かと言って護衛もいない。

 オークの死体を見ても驚かない。

 そして見えない筈の私をすぐさま察知する。


 これだけ証拠が揃えば、あの子らが普通じゃないってわかる。



「待って、今降りるから」


 そう言って私は、足場にしていた透明壁から飛び降りる。



『なんか面倒な事にならなきゃいいけど』



 そう呟きながら。



 その何気ない呟きが、フラグになるとは知らずに。



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