第126話逃げられなかった無双少女2と水面下にて
私たちパーティーは、ルーギルやクレハン、ギョウソ、ワナイたちに先導されて、ギルドの訓練場に足を踏み入れる。
人混みはギョウソ率いる冒険者たちが数名で抑えてくれて道を作ってくれた。
その中を私たちは進んで行った。
その際、注目を集めた私たちに、観衆からの冷やかしや驚きの声。
はたまた、私たちの容姿やその功績を褒め称える人々も多くいた。
「おい、本当にあの子供達が、数多くの魔物から街を救ったっていうのか?」
「正直胡散臭え。けど、あのBランクの双子姉妹もいたんだろ?」
「ああ。その双子を配下に入れたのが、あの先頭の蝶の格好の少女らしいな」
「はんっ! そんな少女の配下じゃ、双子の実力も大した事ねえんじゃないか?」
「ワナイが言ってたのは、あの少女たちか?」
「そうらしいぞっ! あの双子はもちろん、特に、蝶の少女と魔物の上の子供は色々この街では有名だからな。大豆屋の件も含めて、繁華街の店や屋台の物を買い占めたらしいし」
「へえ、そんな子供が私たちの街を救ってくれたんだ」
「ああ、だから今平和なのも、あの子供たちのお陰かもな」
「お、おいっ、あの双子姉妹ヤバくないかっ! なんて物を持ってやがるっ!」
「はあ? いちいちお前は大げさなんだよ、どれどれって、うおっ! 爆NEW」
「あの子っ! ネコの格好してた子じゃないか? 大豆工房サリューで」
「ほ、本当だっ! 今日はワンピースなんだなっ! か、可愛いっ!」
「お、あの赤い子も中々じゃないか? ちょっとキツメだけど、それも……」
「ああ、悪くない。それに結構なものを持ってるじゃないか。うん有りだ」
「お母さん、あの犬、大きくて、フサフサしてそうだよっ! 触りたいっ!」
「あら本当。それに大人しそうなのね? 今度見掛けたら撫でさせて貰おうね」
「お、おい、先頭のあの蝶の少女があの噂の少女だ……………」
「ああ、ワナイの話だと色々見せてくれるらしい。蝶の衣装の中味を」
「ま、まじかっ! でも俺はどっちかと言うと、双子か赤い方が……」
「いや、オレは蝶の少女も、あの魔物の上のワンピースの子もいけるっ!!」
「そっ、そっかぁ? あれは色々マズいんじゃ…… ま、まあ人それぞれだしなっ」
「自分は寧ろストライクゾーンだ」
「「「……………………」」」
※※※※
そんな歓声やら嘲笑やら、色々な声を聞きながら、
私たちは訓練所の中央に集まる。
周りを見渡すと、訓練所を中心に人混みが出来ており、一応中に入れないように柵が設置してある。
その付近にはこの街の警備兵らしき姿もあった、きっとワナイの同僚警備兵なのだろう。
そして大勢の冒険者たちも一般の人は中に入れないように塞いでいた。
そして皆一様にこちらに注目していた。
そして私たちの近くにいたルーギルとクレハンが一歩前に出る。
「オウッ! 今日は大勢集まってくれてありがとなッ! オレはこの街の冒険者ギルドのギルド長のルーギルだッ! こっちは副ギルド長のクレハンだッ!」
「はい、ギルド長よりご紹介預かりましたクレハンです。今日はお集りいただき感謝いたします。今回皆さまにお集まりいただいたある程度の詳細は、ワナイ警備兵と冒険者の方々、それに人伝に聞き及んでいるかと思いますが、それで――――」
「ア――、クレハン、いちいち前置きが長えッ、もっと簡単に説明できねえのかァ? それじゃ、集まった冒険者も街の奴らも退屈で帰っちまうぞォ? こんなのはわかり易い方がいいんだよォ」
とクレハンの無駄に丁寧な挨拶を遮って、ルーギルがちゃちゃを入れる。
それを聞いた冒険者や、街の人たちから「そうだっ! 長げえぞクレハン! ルーギルと代われッ!」「ルーギルの言う通りだ! 手短にしろッ!」「わははッ!」なんて、からかいにも似た、笑いやヤジが飛んでくる。
「仕方ねえ、俺がやるかァ…………」
それを聞いて、頭の後ろをガシガシ掻きながらルーギルが呟く。
「お前らァ、良く聞けえッ! ここにいる俺とクレハン、そしてこの『バタフライシスターズ』のメンバーで、この街に攻めて来るであろう魔物のオーク95体、それとトロール12体を殲滅してきたッ! で、その中でもッ――――――」
ルーギルは大勢の観客や冒険者に聞こえるように大声を張る。
すると、
『ウォォォォ―――――――ッッッ!!!!』
辺り一面を覆う程の大勢の歓声と、
「さすがギルド長のルーギルだっ! ありがとよぉっ!」
「クレハンさんっ! カッコイイっ! こっち向いてっ! きゃあっ!」
「えっ、あの小っちゃい子も戦ったのっ!?」
「うおっ! なんだあの双子はっ! スゲエェッ!」
「ま、魔物もいるぞッ!」
「あれ? 蝶もいるぞ?」
「あ、蝶だっ!」
私たちに向けて色々なヤジや歓声も聞こえる。
『ふ~~ん』
ルーギルは街の人たちにも有名人で、かなり人気があるようだ。
クレハンは歓声って言うか、黄色い声が多かった。
うん、モテモテだね。
ユーアはその幼い容姿で驚かれていた。
ナゴナタ姉妹―――― うん、まあいいや。
ハラミもビックリされている。
けど時期に慣れるだろう。この街の人たちにも。
まあ、私はいつも通りかな? 元々自覚してるし。
「って、ちょっと待てぇッ! まだ俺の話は終わってねぇッ! 魔物を殲滅してきたのは事実だが、このメンバーの中でも一番の功労者を発表するぜッ! 寧ろ、こいつがいなかったら俺たちは勝てなかったし、もしかしたらこの街も救えなかった。そして俺たちは全滅していただろうッ! それをこの駆け出し冒険者の――――」
「えっ? え、な、何っ!?」
ここでルーギルは一度演説を止め、私の手を持ち上げる。
更に続けて、
「――――この蝶の格好のスミカが一人で、90体以上のオークと10体近いトロールを殲滅したんだッ! 俺たちとこの街は、このスミカに、それとスミカのパーティーのバタフライシスターズに救われたんだッ! そして今、この街に英雄が誕生した瞬間だァッ!」
「はっ、はぁっ!?」
その演説に驚き、ルーギルに上げられた腕を引き離そうとしたが、
途端に、またひと際大きい歓声に包まれた。
『ウォォォォ―――――――ッッッッッ!!!!』
『ワァァァァ―――――――ッッッッッ!!!!』
「うわっ!」
「ス、スミカお姉ちゃんっ!」
「っとっ、うるさいわねっ!」
『くぅ~~ん』
「お、お姉さまっ! こ、これは……」
「うわっ! びっくりしたっ!!」
それを聞いた私たち5人と一匹はその光景に圧倒される。
そしてルーギルに手を挙げられたままの私は、ここで一番の注目を浴びる。
「うお――っ! 蝶の姉ちゃんっ! ありがとなぁっ!」
「また屋台の商品をたらふく買って行ってくれっ! 多めに用意してるぞっ!」
「今度オレの店にも来てくれっ! なんでも仕入れてやるぞっ!」
「今日はネコの格好じゃないのか?」
そしてその熱気に触発されたかのように、また大勢の歓声が始まった。
そんな中でも、
「スミカ、俺も見に来たぞ」
「あら、スミカちゃん大人気ね。ユーアちゃんも」
「あ、ログマさんとカジカさん?」
見知った顔を見付けて驚く。
トロの精肉店の店主とその奥さんだ。
更に、
「わたしもいるわよぉ~~ん」
「え、ニスマジもっ!?」
そしてついでに変態もいた。
続けて、
「スミカさん俺たち親子も来てるぞっ! わはははははっ!」
「スミカお姉さんっ! ユーアさんっ! ありがとうなのねっ!」
「マズナさんと、メルウもっ!?」
大豆屋工房サリューの親子の二人も来ていた。
私は大勢の観衆の中に、数少ない知り合いを見つけて驚く。
みんなもお店を閉めて、わざわざ私たちの事を見に来てくれたらしい。
「ご、ごめんねっ! こんな忙しい時間にこんなとこに来てもらってっ!」
なので、顔の前に片手を挙げて、ごめんなさいする。
「いや、さすがにここに人が集まっては商売にならないだろう」
「そうよ、それよりも私たちはこの街を救ってくれた英雄を見に来たんだから」
これはログマさんとカジカさん夫妻。
「そうよぉ~! スミカちゃんの雄姿をわたしたちは見に来たのよぉ!」
こっちはニスマジ。
「スミカさんっ! 俺たち親子だけではなく、この街まで救ってくれるなんて、もう恩を返しきれないぜっ! がはははははっ!」
「スミカお姉さんとユーアさん、それとバタフライシスターズのみなさん本当にありがとなのっ! またお店に来て欲しいのっ! サービスしちゃうのっ!」
最後はマズナさんとその娘のメルウちゃん。
どうやら私たちのせいで商売にならないみたいで、少しだけ罪悪感が。
そうは言っても、集まってくれた事を嬉しく思う。
『みんなありがとうね。後で一杯買い物するからね……』
なんて、胸が暖かくなった矢先に、
次のルーギルの言葉で現実に戻される。
「よしッ! それじゃ最後の言葉はお前が締めてくれやッ!」
ニヤニヤと私を見下ろしながら、そんな事を言ってくる。
「え、わ、私も何か言うのぉっ!? い、嫌だっ!」
なので、その話を寸断して躊躇なく断る。
「いや、最後はお前が締めねえとおかしいだろう? 手を挙げたままだしよォ」
「はっ!? 本当だっ!」
確かに、ルーギルが私の手を挙げたままだった。
この状況に圧倒されて、そんな事まで頭から抜けていた。
『くっ! 私としたことが、ルーギルに手を握られたままだったなんてっ!』
なんて、心の中で失態を責めていると、今度は、
「スミカお姉ちゃん、お願いしますっ!」
「ふんっ! さっさと終わらせなさいっ! スミ姉」
『わふぅ』
「お姉さま、リーダーとしてどうか一言お願いいたします」
「お姉ぇ、何言っても大丈夫だよっ! お姉ぇの事は信じてるし」
「スミカさんが締めないとこの後が続きません。なのでお願いします」
シスターズのメンバーと、クレハンにも後押しされてしまう。
『はあ、もう逃げられないかぁ…………』
ルーギルだけならまだいいが、みんなに言われたんじゃ仕方ない。
心の中で溜息を吐きながら、覚悟を決めて口を開く。
「私は――――」
※※
ここは、とある大陸の南方に位置する
小さな島の施設の中。
更に地下深くのとある場所。
「マヤメいるか?」
「呼んだ?」
「っておいっ! いきなり現れるなよっマヤメっ! 何で部屋の中でまでスキル使ってんだよっ! 心臓に悪いんだよっ!」
「ずっとここにいたけど。能力使ってない。モグモグ」
「ああっ! 使ってないって!?」
「うん。モグモグ」
「…………………」
「モグモグ、それで何か用?」
アタイはこの施設の研究者のマカスの話と、それと先ほど―――― に調査を頼まれたこともあって、この施設の地下にある訓練場、兼、闘技場のあるレストスペースにやって来た。
その目的は、突然現れたこの少女「マヤメ」に用事があったからだ。
本人曰く、ずっと近くにいたらしいが。
「………………」
「モグモグ?」
「っておい、いい加減に食べる真似するのやめろよっ!」
「わかる?」
「いや、わかるだろっ! 何も持ってねえんだからよ」
そう、この影の薄い少女は、アタイと会ってから絶えず口元を動かしている。
そして手に何も持っていない筈なのに、わざわざ口元に運ぶ仕草までしている。
「ん、見えないの?」(モグモグ)
「ああ、見えねえよ」
「マヤ、マイブームのエアーおやつ食べてるのに?」
「そんなの知らねえよぉっ!」
「…………欲しいの?」
「いらねえよっ!」
「…………上げない」
「ってか人の話聞いてんのかっ!? そもそも何も食べてねえだろっ!」
「残念。ホントはアメ舐めてた」
「んべ~~」とそれを下の上に乗せて見せて来る。
「だからあげない。モグモグ」
「あ~~もう話が進まねえよっ! マヤメ、お前に調査に行ってもらいたいところがあんだよっ! お前の能力なら向いてると思うからっ!」
アタイはいい加減に話が進まずにイライラと怒鳴り声を上げる。
「って、いねえしっ!!」
さっきまで目の前にいた少女はいなくなっていた。忽然と気配事消えてなくなった。
きっとその能力を使って逃げたんだろう。
「しかもさっきのアメじゃねえしっ! ゲソだったしっ!」
アタイはそう一人ツッコミ、マヤメを探しに部屋を出る。
反応がなくなった、腕輪の調査の依頼するために。
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