第210話抱かれちゃうの私?byスミカ



 私はナゴタとゴナタを抱いて、ユーアとラブナのもとに戻ってきた。


『………………』


 ナゴタの方は外傷がないが、かなり衰弱している。

 そして下半身には殆ど力が入らないようだった。


 ゴナタの方は右足に打ち身の跡があり鬱血していた。

 それ以外はナゴタと同じように全身に力が入らない様子で、

 特に上半身がそんな感じだった。

 

 状態の違いは、お互いの能力の特性から来てるのと、限界を超えての能力を使った負荷が大きかっただろう事が良く分かる。


 そしてこの二人がここまで無茶する程の相手だったのだろうとも。

 


 だけど今回はナゴタとゴナタの双子姉妹が勝ったからといって、姉妹の想いの方がアオとウオの兄弟を上回った証明にはならない。


 人は想いだけで強くなれるわけもないし、そんなにこの世界は甘くない。

 想いは切っ掛けになりはするが、肉体的な強さは修練の賜物なのだから。


 なので今回はナゴタとゴナタの実力が単純にアオとウオを上回っていただけの事。想いの強さに優劣はつけられないし、そんな基準も存在しない。


「スミカお姉ちゃん!ナゴタさんとゴナタさん大丈夫?」

「ナ、ナゴ師匠っ!ゴナ師匠っ!!」


「うん、今から回復するから大丈夫だよ二人とも」

 私は急いで駆け寄ってきたユーアとラブナにそう告げる。


「うむ良かったのじゃっ!」

 とナジメが私の後ろから声をかけてくる。


「あれ?向こうはどうしたの?」

「ああ、双子には直ぐにアマジがきたから大丈夫じゃろぅ」

「ふ~ん、意外と仲間想いなのかな?そんな感じに見えないけど」


 私はナゴタとゴナタをユーアが出してくれたダブルサイズのシェラフの上に横たえながら、アマジたちに目を向けてみる。


「わしもそうは見えぬが、わしと戦ったバサのケガもそうじゃが、双子にもいい回復薬を使ってる様子じゃったぞ?ああ見えて意外と仲間想いやもしれぬな」


「うん、そうみたいだね……」


 確かにアマジたちはアオとウオを平らなところに横たえて、回復薬を使って、治療しているのが見える。ナジメの言う通りにバサも回復していて心配げに二人に声をかけていた。


「あのさぁ――っ!!」


 私はアマジたちに向かって大声で叫ぶ。


「なんだもう準備が出来たのか?なら早速始めるぞ」


「違うよ。あのさ、お願いがあるんだけど?」


「なんだ言ってみろ」


「ちょっと休憩しない?こっちも色々あるからさ。ね、お願い」


 仲間の状態や治療がどうこうとはっきり言わずに

 曖昧にだけ伝え、軽く頭を下げる。


「……そう、だな。ならお前らが準備出来次第声をかけろ」

「うん、わかったよ。ありがとうね!」

「ふん」


 私はそう会話を締めてナゴタとゴナタに視線を移す。

 多分だけど、アマジはああ言わないと聞かなかっただろうと思って。


 こっちの回復は一瞬だけど、あっちはもう少し時間かかるからね。


「お、お姉さま、私たちの為にアマジに頭を……すいません」

「お、お姉ぇ、ごめんよ、ワタシたちナジメみたく勝てなくて……」


 そんな二人は勘違いしたのか、横たわったまま力なく私に謝ってくる。


「そんな事ないよ。あの双子も強かったってだけだし。それにナゴタとゴナタも認めてるんでしょ?あの双子の事」


「はい、考え方は私たちとは全く違いましたが、そこは……」

「うん、あいつら強かったぞっ!考え方おかしいけどなっ!」


 どうやら二人ともアオとウオの実力は認めているようだった。ただ異常な双子主義の思想には賛成できない様子だった。


「それじゃ治しちゃうから。先ずはナゴタからね」

「はい、よろしくお願いしますお姉さま」

「うん」


 そう言って先にRポーションをナゴタに使う。


「さ、さすがですねっ!お姉さまの回復薬は――え、お姉さまっ!?」


「まさかナゴタがこんなに苦戦するとは思わなかった。私の見通しが甘かったよ。だからごめんね、こんな事に巻き込んでじゃって、しかも妹のゴナタにケガまでさせちゃってさ……」


 私は回復したばかりのナゴタの頬を両手で挟み、目を見て真剣に謝る。

 そしてナゴタの両手を握り頭を下げる。


 正直私は見誤っていた。


『…………』


 この世界の住人の強さを。



『……私は何を知った気でいたんだろう。何で思い上がっていたんだろう。この世界でまだ両手で数えても余るくらいしか戦ってないのに、それしか知らないのに……』


 言い訳すれば色々あるが、目の前で見たこと全てが真実だ。

 私のせいで二人を危険な目に合わせたのも現実だ。


 だから私はまず姉のナゴタに許しを請おうと頭を垂れる。


「あ、あ、あのお姉さまっ!私たち姉妹のお願いを覚えていますか?」

「へ?」


 こんな時にいきなり何言い出すの?


 『お願いって』もしかして――――


「あっ!お姉ぇっ!ワタシも治してくれよっ!」

「えっ?う、うん……」


 私はゴナタに急かされて、ゴナタもすぐさま回復する。


「ゴナタもごめんねっ、ケガさせちゃってさ――――」


 とゴナタにもナゴタと同じように手を握り頭を下げる。


「そ、それはいいからさっ!お願い、覚えてるよなお姉ぇ!」

「え?うん、うん、も、もちろん覚えているけど、何で?」


 私はゴナタの勢いに、若干どもりながら答える。


 あんな約束なんて忘れるわけがない。


『お、お姉さまを抱かせてくださいっ!!』

『お、お姉ぇを抱かせてくれっ!!』


 ってやつ。


 寧ろ、記憶から消し去りたい。

 みんなで記憶喪失になって欲しい。


 それにしても何でこのタイミングでそんな話題を出してきたのだろう。


 だってっ――――


『だ、だって、ここにはユーアたちだっているしっ!アマジたちだっているしっ!そして昼間だしっ!そもそも屋外だし、体洗ってないし、お気にの下着履いてきてないし……』


 それに心の準備だって――――


『はっ!? って、いやいや、私は一体何を考えてるのっ!なんでこの状況でそんな事考えてるのっ!この状況でそれは絶対にないでしょぉっ!二人がそういうシチュが趣味じゃない限り?――――も、もしかして、実はそういうのが趣味な……の?』


 ま、まさかナゴタとゴナタに限ってそういうのが好きなわけないよねっ!

 こういった状況が燃えて萌えるって、特殊な趣味の人じゃないよねっ!


 私は盗み見る様にチラと姉妹に視線を這わせる。


『っ!!』


 そこにはお祈りポーズで頬を染めて瞳が滲んでいる姉妹がいた。


「お、お姉さまっ!では約束のっ!」

「お、お姉ぇそれじゃ、や、約束なっ!」

「は、はひぃっ!」


 私は裏返った声でなんとか返事する。

 正直こんな変な声なんて今まで出したことない。


 う、嘘でしょっ!冗談でしょっ!

 わ、私、異性とだって――なのにいきなり同性ってっ!?


 私は予想外の展開に頭を抱えてぶるぶると振る。


「スミカお姉ちゃん良かったねっ!」

 そんな無邪気で無垢なユーアの声が聞こえる。


 ユ、ユーア、私は違うっ!違うからっ!!


「ぎゃぁっ!!ス、スミ姉がふしだらな事をっ!!」

 今度は絶叫あげるラブナの声が。


 ラ、ラブナそう思うなら早く助けてよっ!

 あなたの師匠でしょっ!過ちを正してよっ!


「わ、わしも長く生きておるがこうやって見るのは、は、初めてじゃなっ!むふふっ、なのじゃっ~~」

 と、何やら興味津々な幼女も一人。

 

 お、おいここの一番の年長者っ!

 なんか鼻息が荒いぞっ!

 むふ~むふ~うるさいぞっ!

 

「あ、ああっ!スミカ姉ちゃんがあっち側にっ!行ってはいけない世界にっ!」

 最後は最年少の俺っ娘が、声を震わせている。


 ゴマチお前もかっ!

 お前もラブナみたく耳年増な少女なのかっ!

 一体どこからその偏った知識を覚えてくるんだっ!


 ナゴタとゴナタ以外のシスターズのメンバーが口々に茶々を入れてくる。

 私はそれを沸騰する頭で突っ込みを入れていた。


 ガシッ


「えっ?」

 私は両手首を突如握られ、グイッと体ごと引き寄せられる。


 ムギュ

 ムギュ


「お姉さま。私たちのお願いを聞いて下さりありがとうございます」

「お姉ぇ。ワタシたちをいつも見てくれてありがとうなっ!」


 あ、あたたかい。


「お姉さま。お姉さまは私たちだけじゃなく、一人一人を見てくれて、笑顔にさせてくれるとても優しい方です」


 これって――


「お姉ぇはな、いつもみんなばかり励ましたり、慰めたり、勇気づけたり、色んな力を与えてくれるだろうっ!撫でてくれたり、抱きしめてくれたりしてさっ!」


 ――人の体温?


「だから今回は私たちがお姉さまを――――」


 ――ナゴタと


「だから今日はワタシたちがお姉を――――」


 ――ゴナタの


「「抱きしめてあげたいんです」」


 二人の温もり。


『――――――』

 私は、私を包む優しく温かい感覚に身を委ねる。

 「ふぅ―」と息をゆっくり吐き脱力する。


 頭も体も何もかも軽くなる。

 思考が透明になる。

 だけど心だけがポカポカする。


『ふぅ――――――よしっ!』


 でも甘えるのはここまで。


 私はリーダー。

 そしてみんなのお姉ちゃん。


 だからいつまでもこんな姿は見せられない。


「本当にありがとうね。二人ともっ!!」


 私はゆっくりとナゴタとゴナタの胸元から顔を上げる。

 そしてナゴタとゴナタには今できる最高の笑顔で感謝を伝えた。


「い、いいえ、お姉さまはいつもみんなに与えてばかりなので」

「だ、だから今回はナゴ姉ちゃんと話して、お姉ぇにもってなっ!」


「うん、ありがとう嬉しかったよっ!色々吹っ切れた気がするし」


 私は何故か、まだモジモジしている二人にそう声をかけた。


 すると、

 「つんつん」と袖を横から引かれる。


 今、隣にいるのは確か……


「ねえ?良かったでしょスミカお姉ちゃんっ!!」

 そこには溢れんばかりの笑顔を浮かべるユーアがいた。


「そうだね、ユーアの言う通りだったよっ!」

 そんな笑顔のユーアを撫でながら私も笑顔で答えた。


 さすがユーアだねっ!

 最初からこうなることを知ってたんだねっ!


 やはり私の妹は、純粋無垢で心も清流のように透き通ってるねっ!

 何処かの心が汚れた耳年増な幼女と少女とは違うね!


 ん、私っ?


 も、もちろん私だってある程度はこうなると思ってたよっ!

 ユーアと同じく清い心の持ち主だからねっ!

 やましい事なんて思っていなかったよっ!


 本当だよっ!!



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