第258話ラブナの想いと決着と




「わ、わかったわっ! アタシに任せてっ! 『水刃竜巻』そして『火山岩弾』」


 待機させていた混合魔法をバサ目掛けて放つ。


『え、あれは?』


 バサの足元をよく見ると、何故か氷の上に立っている。

 もしかしなくとも、ハラミが凍らせたんだろう。


 ただ不思議なのは、バサの足は凍結していない。

 なのにバサの動きは止まっている。

 完全に氷の上に立っている、のにだ。


 何故この状況でバサの動きを止められたのだろう。

 そしてバサの居場所を見極めたのだろう。


 飛び回るハラミの上で、一瞬バサの姿を見失っていたらそうなっていた。


 その理由を知っているのは恐らくユーアとハラミだけだろう。


 一体どうやって? ――――


『って、今はそれどころじゃないわっ! ユーアとハラミが作ってくれたこの機会をものにしてみせるんだからっ! 失敗はそのまま負けに繋がるんだからっ!』


 すぐさま意識を元に戻し、魔法に集中する。

 何せ、2つの混合魔法の内の一つがバサに届いていないからだ。



「うぬぁっ! 何だって魔法の矢に当たってないのに体が痺れてるのよぉっ! それにこの竜巻だか、渦巻はなんなのっ? これじゃ痺れが解けてても動けないじゃないのっ!」


 アタシが放った水刃竜巻の中で、バサが喚き散らす。


 それを聞いてわかった事は、バサは何らかの方法で痺れたこと。

 もう一つは、自由を奪っていた痺れが現在は解けてるということ。



『ま、まずいわっ! 早く『火山岩弾』を当てないと気付かれるわっ!』



 バサに最初に届いた魔法は、水と風属性の混合魔法の『水刃竜巻』


 これはバサの足元から発生し、バサを中心に渦巻と竜巻を同時に起こすもの。


 攻撃魔法というよりは、相手の動きを封じる結界に近い。

 中心から出ようとすれば、水と風の刃に切り刻まれるからだ。



 そして時間差で、アタシの頭上から落ちてくるのは『火山岩弾』


 火魔法で岩の魔法を覆い、ゴウゴウと燃え盛る岩石になっている。


 この岩石を覆っている火は、中心にいくほど青白くなっている。

 その中心温度だけで鉄をも溶解するほどの熱量になっている。


 それは詠唱時に、火魔法を3度重ね掛けしてあるからだ。


 ただそれでも、ここまで温度が上昇する訳ではない。

 アタシの半端な魔法ではまだ早い。


 だったら、何故ここまでの熱量が出ているのだろう。

 その答えはアタシの魔力にあった。


「も、もう早くしろってのぉっ! 魔力もギリギリなんだからねっ!」


 アタシはかなり焦っていた。


 『火山岩弾』の纏う高熱量の炎。

 それはアタシの魔力を燃料に燃え盛っているからだ。


 だから人知れず焦ろうというもの。

 火にくべる薪の様に魔力をくべているのだから。

 

 それに、今バサを覆っている『水刃竜巻』

 これの弱点を見つけれられたら直ぐに逃げられる。


 何せ、バサの真上にだけは魔法の効果がないから。

 だって竜巻も渦巻も真上は空いているものだから。



「はぁ、はあ、もっと真剣に魔法を勉強しておくんだったわ。小さい時から頑張ってればもっと上手に操れたし、もっと持続できたのに」


 もう残り少ない魔力を感じながら呟くように愚痴る。


 そしてノロノロと頭上から落ちてくる『火山岩弾』

 これもアタシが落下地点を操作している。


 もう少し魔力と、その扱いの練度が高かったら、とっくに終わっている。

 今頃は二つの混合魔法でその威力を発揮していた事だろう。



「ラブナちゃんもう少しだよっ! 頑張ってっ!」

『わうっ!』

 

「う、うん、任せてっ!」


 ふらふらと立っているアタシにユーアが応援してくれる。

 その意味を知ってか知らずか、ハラミも声援をくれる。


 確かにもう少しで――に接触する。

 ほんの数瞬で到達する。


 ところが


「ああ、何よぉ、良く見たら真上だけ魔法で覆ってないじゃないのぉ? 痺れもないからここから脱出できるわぁ~」


 魔法の渦の中からバサの拍子抜けした声が聞こえる。

 それは弱点がバレた事を告げていた。


『うきぃ~っ! は、早く早くっ!』


 これを外したらもう次はない。

 同じ手はバサに通じない。


『そ、それに魔力だって、もう枯渇寸前よっ! だから早くっ!』


 アタシは願うように水刃竜巻の真上に視線を這わす。

 高さはバサの倍以上あるが、難なく脱出してくるだろう。


『早くっ! もう少しっ!』


 が、無惨にも黒い影が渦の中から飛び出す。


「さ、させないよっ!」


 それを見てすかさずユーアが光の矢を撃つ。


「おわっ! ってやっぱり狙い撃ちされるわよねぇ?」


 バサは予想してたらしく、身を翻して矢を躱した。


「あああっ! また外しちゃったっ!」


 そのバサを見て絶叫を上げ、驚くユーア。

 正直アタシも驚いている。


 あのタイミングで躱すバサにも、攻撃を見極める戦闘経験にも。


「も、もう大丈夫よ、ユーア」


 それでもアタシはユーアに安心してもらうように声を掛ける。

 最後の魔力まで燃料に変えたので限界寸前だ。


「え? だってバサさん中から出てきちゃったんだよラブナちゃんっ。あの燃える石も避けられちゃうよっ?」


「だ、だって、もう、『水刃竜巻』と『火山岩弾』は混ざるから、う、うん違うわ、混ざるというか、反発して、その威力を、発揮するから、だから、もう……」


「ラブナちゃんっ!? 何を言ってるの?」


 アタシはここで意識が朦朧とし、ユーアにもたれかかれ目を瞑る。

 これで安心して休める。


『はぁ~、疲れたわ……』


 結果は見るまでもない。


 そもそもの狙いはこれで全てだからだ。



「一体これは何なのぉ? いつまでもノロノロと進んでるだけでぇ」


 バサは殆ど動こうともせずに、頭ほどの大きさのそれを躱す。


 あり得ない程の高熱で燃え盛る、疑似隕石の『火山岩弾』を。

 それを不思議そうに見送る。


 端から見たら、これでアタシたちの攻撃は全て不発に見えただろう。


 ただ


 『水刃竜巻』と『火山岩弾』


 その二つが合わさる事で、反発しあう事で新たな力が生まれる。

 

 それは――――


 ジュッ!


「えっ!? 何よ?」


 ドッガ――――ンッッ!!!!


「ぐはぁっ!!!!」



 それは、水と高温がぶつかり合って起こす爆発のようなもの。

 熱した鉄に水滴を落とすと蒸発する時に生まれるエネルギー。



 『M・スチームエクスプロージョン』(魔法式水蒸気爆発)



 その余波を受けて、バサは広場向こうに勢いよく飛ばされていった。

 貴族の観客の人たちの上を軽々と飛び越えていった。


 その先では「ぎゃんっ!」と何やら悲鳴を上げてはいたけど。



 そしてその瞬間にバサの敗北が決定し、アタシたちの勝利が確定した。


 アタシたちの勝利条件には、バサに攻撃を当てる以外にも、

 場外への離脱か、退避も含まれていたからだ。


『ふう、良かったわ。これで』


 面目躍如ってわけではないけど、これで少しは自信が持てた。

 アタシもだって。そう言えるほどには。

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