第257話ラブナの想いとみんなの想い


 今話は「ラブナ視点」「ユーア視点」「ハラミ視点」で

 進んでいきます。



―――――――――



 ※ラブナ視点



「水よ、風よ、我が敵を切り裂く大渦となれっ! 次唱」

「火よ、火よ、火よ、土よ、我が敵を焦がし潰す岩となれっ! 待機」


 二つの混合魔法の詠唱を終え、そのまま待機状態にする。


『………………』


 その間にも、ハラミの背の上で目まぐるしく景色が回っている。

 今までの比ではない速度をもって旋回していた。


 ハラミも、それを操るユーアも今までにない程集中していた。

 それが今日一番の、今の最高速度に繋がっている。 


 そんな中でも、アタシの集中は切れさせるわけにはいかない。

 途切れた瞬間に待機している魔法が霧散してしまうから。


『ふぅ、ふぅ、ユーア、ハラミ、頼むわよっ!』


 額に汗が浮かぶのと、目減りしていく魔力を感じる。

 その状態で、アタシはユーアたちが作ってくれる好機を待つ。


 今できる最高の一撃を、アイツに喰らわせてやるために。

 そして何もかも証明するために。


 だからアタシが今出来るのは、ユーアたちを信じて待つ。



 だたそれだけ。



 

 ユーア視点 (ラブナ詠唱中) 



「よっとぉっ!」


「もうっ、何で当たんないのっ!」


 ボクはボーガンを2つ構えながら悔しくて大きな声が出ました。


『視えてても当てられないのは何でなのっ? もっと早くなのっ?』


 バサさんに全然当たらない。

 もう少しで当たりそうにもならない。


「あらら、随分と悔しそうな表情になったわねぇ。でもいくら焦っても、当たらないものは当たらないわぁ。もっと工夫したり、先読みしない限りは無駄打ちよぉっ!」


 今のボクが出来る一番の攻撃『10矢一斉射撃』

 そして、ハラミの速いとゆっくりを混ぜてからの射撃。


 どんなに頑張って、撃っても当たりません。

 当たったと思ったら、それは偽物ばかりです。



『は、早く、早くしないと、ラブナちゃんがっ!』



 どんどん砂時計が減っちゃいます。

 全然、けんせいも出来なくて焦っちゃいます。


 時間もそうなんだけど、ラブナちゃんがどんどん疲れちゃうの知ってたから。



『ごめんなさいスミカお姉ちゃんっ! ハラミもラブナちゃんも頑張ってるのに、ボクだけ何もできないです。スミカお姉ちゃんに貰った武器なのにっ!』


 ボクは心の中で、スミカお姉ちゃんに謝ります。

 スミカお姉ちゃんの為に何もできなくて。



 それにここは広いけど、ハラミには狭いです。

 もっとハラミは速いんです。なのに走りずらそうです。


 速く走るとすぐに着いちゃいます。

 見てる人たちのテーブルのところに。


『でも、今はそれしかないんだから、何とかしないとっ! ボクとハラミで頑張って、最後はラブナちゃんに当ててもらうんだからっ!』

 

 ボクは一番のスミカお姉ちゃんのいもうと。

 だから諦めちゃダメなんだ。



『………………』


 一つのボーガンをしまって、ハラミの毛皮をぎゅっと握ります。


 もうこれしか方法がなかったからです。

 秘密にしたかったけど仕方ありません。


 だからボクはハラミに『こまんど』(命令)します。


「ハラミっ! ゴーだよっ!」





 ハラミ視点 (ラブナ詠唱中)



『くぅ~ん』


 ユーア姉さまが悔しがってるみたい……でもわたしも悔しい。

 怒ってる姉さまの力になれてないから。


 あの人間が強いのはわかる。

 あちこちに気配をバラまくから、わたしも姉さまも反応が遅れちゃうから。


 それとそれ以外でもわたしは困ってるの。


 ここは狭くて動きずらい。

 いっぱい走ると、直ぐに境界線を越えてしまうから。


 でもこのままだと負けちゃう……


 そしたらユーア姉さまがもっと悔しがる。

 だからわたしももっと頑張る。


 今できる力を使ってわたしも戦う。


 だってユーア姉さまにはいつも笑ってて欲しいから。

 わたしの背中をもっと好きになって欲しいから。

 そして帰ったらぶらっしんぐしてもらいたいから。


『がうっ!』


 だから早くわたしに『コマンド』(命令)して、ユーア姉さまっ!





 ラブナ視点



「え? え? な、何これどうなってんのよっ!」



 ユーアがハラミに手を振り上げ、叫んだ時から変化した。

 視界が今までとは明らかに違うところを何度も映す。

 グルグルと目まぐるしく地面が回る。


 宙に飛んだと思ったら、また地面に。

 地面を蹴ったと思ったら、何もない空間を蹴ってまた地面に。


「は、速いって、そんな次元じゃないわよっ! 目が回りそうよっ!」


 地面から空中に。空中から地面に。空中から空中に。


 そんな風にハラミの動きが変わっていた。

 地面じゃないところを踏み台にした。

 空中を蹴っていた。



『い、一体何を蹴って移動してるのよっ!』


 それでも振り落とされない事に安堵しながら、着地の瞬間を見る。


 地面は地面。

 それは分かる。


 だったら空中は――――


『はぁ? これって氷を蹴ってる? 氷を足場にしてるって事なのっ!』


 目を凝らすと広場の空中にあちこちに、無数の氷柱が浮かんでいる。


 それは増えたり、減ったりと、絶えずその数が変化している。

 見た感じ最大で「5個」


 それが消えたり現れたりしている。

 どうやらそれを足場にして、立体的な動きを可能にしているようだ。



「なはぁっ! あ、危ないわぁっ! ギリギリだったじゃないのっ! 一体どこからその柱は出てきたのよぉっ! ラブナちゃんなのぉ!」


 バサは、ハラミの動きに翻弄されながらも、ユーアの攻撃を回避する。

 上下左右、前後からの攻撃に、浮かべていた余裕の表情はとうに消えていた。


 投影幻視を3体駆使しても、回避だけで精一杯のようだ。



『何が何だかわからないけど、これならいつかは……』


 バサを捉える事ができるかもしれない。

 そしてアタシの一撃を喰らわせる事ができるかもしれない。


『も、もう待機できる魔力がヤバいんだけどっ! それと時間は?』


 アタシはあるはずの砂時計を探すが諦めた。

 

 地面だったものは、すぐさま空色に。

 空だったものは、瞬く間に土気色に。


 これだけ目まぐるしく景色が変わったら見えるはずがない。


『だったら、見極めるのよその瞬間を。絶対にユーアたちが作ってくれるから』


 アタシは心を落ち着かせ、今は魔力を保つことに集中する。

 そしていつでも発動できるように気を張る。


『………………』


 ただその瞬間はすぐさま現れた。


『えっ!?』


 見えるバサの幻影全てが硬直したように、固まっているからだ。

 ユーアたちは一体何をしたっていうのっ?


「ラブナちゃんっ! 本物は真ん中だよっ! だから――――」


 驚いているアタシにユーアが叫ぶ。

 その時が来たことを知らせる。


「わ、わかったわっ! アタシに任せてっ! 『水刃竜巻』そして『火山岩弾』」


 アタシは待機させていた混合魔法×2を

 バサに向かって放った。


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