第446話バージョンアップした孤児院と響き渡る絶叫




「ロアジムもお疲れさんね。それじゃユーアも送迎よろしくね」


「うん、ボクとハラミでおじちゃんをお家に届けますっ!」

『がうっ!』


「ではまたな、スミカちゃんっ! 依頼の詳細は明日ルーギルに報告するな」

「うん、よろしく~っ!」



 街の明かりが目立ち始めた頃、私たち6人はようやく孤児院に着いた。


 ユーアはロアジムをお屋敷に送り届ける為に、ハラミと貴族街に向かって行った。

 残ったのは、ナルハ村を出てきた、酪農職人ラボとその娘のイナ。



「ふあ~ なんかまた見た事ない変な形の大きな家だなぁ~。しかもここが孤児院って、この街は裕福なんだな。さすがはスミカ姉の住む街だなっ」


「ああ、しかもここに来るまでの舗装された綺麗な道と言い、街灯も多くて夜でも不安が無いな。孤児院を囲む柵もちょっとした防壁みたいに頑丈そうだ」


 敷地に入って早々、また二人の解説にも似た感想が始まった。



「いや、それはもういいから早く中に入ろうよ。お腹も減ったし、疲れたし」


 キラキラとした目で孤児院を見上げる二人に催促する。


 なんか、留守にしている間に色々と設備が増えたみたいだけど。

 孤児院がライトアップされてるし、道すがら街灯もあったし。



「ん? ねぇね、帰ってきたのか?」


 ガチャと扉を開けて、いつもの格好のナジメがヒョコと顔を出す。

 耳がいいので、私たちの会話が聞こえたみたいだ。

 因みに中の声は外には漏れない作りになっている。



「うん、ちょっと予定より遅くなったけどただいま。ユーアたちはロアジムを送って行ったから、もう少ししたら戻ると思う。それにしても随分と様変わりしたね。って言うか増えたね?」


 夜なのにかなり明るい、孤児院の敷地を見渡しその変化に感嘆する。



「うむ、物置小屋の他にも、休憩所や、子供たちの遊具も作ったのじゃっ! それと水遊び場も作ったのじゃっ! 夏も近いしのぉっ!」


 ふんすと胸を張って、得意げな表情で成果を自慢するナジメ。


 確かにナジメがドヤ顔をするくらいの変わりようだった。



 屋根の付いたテラスの休憩所が4か所に、子供たちが遊ぶ、幅広の滑り台や大きな砂場、アスレチックのようなザイルクライミングやロープウェイ、はたまた小さいながらも子供用のプールも出来ていた。



「おお~っ! 私の注文以上に凄いのが出来たねっ! これナジメが作ったの?」


 八重歯を見せてふんぞり返っているナジメに尋ねる。


「そうじゃっ! と、言いたいが、さすがに全部ではないのじゃ。職人に教わりながら魔法で造ったのじゃっ! それで費用が抑えられるからなっ!」


 さっきよりも胸を逸らして、頑張ったアピールするこの街の領主。

 もう、そういう職業に就いた方が良いんじゃないかと思うぐらいの出来だ。



「おお~っ! よしよし。私が留守中なのによくできたね。全部ナジメに任せて良かったよ。子供たちもきっと喜んでくれるよ」


「う、うむ、そうじゃろ、そうじゃろっ~!」


 深緑の髪の頭を撫でながら、頑張ったナジメを褒める。

 小さな鼻がいつもよりも高く見える。



「あ、あのさ、その子供も孤児院の子かい?」


 私とナジメの様子を見ていたイナが、遠慮気味に聞いてくる。



「ううん、違うよ? 前にも言ったけど、私のパーティーメンバーなんだ」

「え? この幼女がかっ!?」


 小さな自分と見比べて、更に小さなナジメの姿に目を見張る。



「幼女って、これでもこの街の…… まぁ、その話は中に入ってからにしようか。 あ、ナジメ、子供たちはご飯食べたの? まだなら一緒にご馳走になりたいんだけど、ついでに部屋も借りたいんだけど」


「まだじゃぞ。ならわしが言っておくのじゃ。部屋も用意してくれるように頼んでおくのじゃ。それと話が変わるが、後で話があるのじゃ」 


 笑顔から徐々に、真剣な表情に変わる。


「ありがとう、お願いするよ。で、話って?」

「うむ、ちとねぇねが留守中に起こった事と、ある人物についてなのじゃが」

「わかった。それじゃ落ち着いたら声掛けるよ。ナジメも泊ってくんでしょう?」

「うむ、ねぇねがいるならわしも泊まるのじゃ」



「スミカお姉ちゃ――――んっ! ただいまぁっ!」

『がうぅ~っ!』


 そうこうしている内に、ロアジムを送って行ったユーアたちも帰ってきた。

 辺りはもう真っ暗だったが、孤児院の周りだけは暖かい光に照らされていた。




――――――




「お、お帰りなさい、スミ神さまとユーア姉さまっ!」

「「「お帰りなさ~いっ! スミ神さまとユーアお姉ちゃんっ!」」」


 孤児院に入ると、シーラを先頭に子供たちが出迎えてくれた。



「うん、みんなただいま~。何か変わった事あった? 仕事とかも大丈夫?」


 最年長のシーラに聞いてみる。

 暫く留守にしてたから、きちんと聞いておかないと。



「あ、わたしとホウはお仕事頑張ったんだっ!」

「はいっ! ボウお姉ちゃんと楽しく働かせていただいてますっ!」


 シーラに聞いたのに、ボウとホウが元気に教えてくれる。


「そう、それは良かったよ。ならみんなも話したそうだから、ご飯食べながら聞こうか? いい匂いもしてきたからね。それじゃイナたちも入って。後で自己紹介するから」


 ボウとホウの二人を撫でながら、ラボとイナを促して中に入る。




「お帰りなさいませ、お姉さま」

「お帰りなっ! お姉ぇっ!」


 大広間兼、食堂に入ると、ナゴタとゴナタが出迎えてくれた。

 そんな二人は子供たちと一緒に、晩ご飯の配膳を手伝っていた。



「うん、ただいま~。って、二人とも来てたんだ。今日も冒険者の指導してたの?」


「はい、今日は早朝から遠出をして、討伐依頼を兼ねての実践訓練でした」

「うんっ! サロマ村まで行って来たんだっ!」


 二人はお皿を並べながらそう教えてくれた。


「ん? サロマ村?」


 前に聞いた事があるような?


「私たちとお姉さまが、初めて会った村です。オークに全滅させられた」

「ああ、あの村かぁ。で、そこに依頼なんか出てたの?」


 ナゴタに教えられて思い出した。

 私の初めての依頼と、そしてオラオラ時代のナゴタとゴナタと戦った場所だ。



「うん、オークがいなくなったけど、その後に魔物が住み着いたんだっ!」

「魔物って…… ジェムの魔物とは違うよね?」


 詳細を教えくれたゴナタに尋ねる。


「ええ、違います。ラビット系やラット系、それにウルフ系が大半でした。ただ……」

「ただ、なに? 何か気になる事あるの?」


 言葉に詰まったナゴタの顔を見る。


「ええ、普段は山地や洞窟にいる魔物が多かったんです。それが気になりまして」


「でもその魔物はそこまで強くなかったんでしょ? 訓練に使うくらいだから」


「はい、Eランク冒険者でも十分討伐可能な魔物でした」 

「ラブナもバンバン倒してたからなっ! また調子に乗ってたけどっ!」


「そうなんだ。でも一応気になるから、その動向を注意しておこうか」

 

「はい、それでは明日以降にでもギュウソさんに話してみますね」

「ワタシも他の冒険者にも頼んでみるよっ!」


「うん、お願いするね。それで大活躍だったラブナはどこ行ったの?」


 二人の弟子のラブナが見当たらない。

 いつもならユーアの近くにいるんだけど。



「ラブナは先にお風呂に行きました。返り血で汚れてしまったので」

「そうなんだよなっ! まだ加減がわからなくてデカい魔法使うからだなっ!」


「あ、そう言う事。入ってるのはラブナだけなら先に食べちゃおうか?」


 みんなを待たせてるのもあれだからとそう提案する。



「いいえ、実はリブさんたちロンドウィッチーズの方々も一緒に行きました」

「え? リブたちまだ孤児院に泊ってるの?」

「はい、一応宿泊費のお金を貰っていますが。どうやらここを気に入ったらしくて」

「あ~」


 やっぱそうなるよね?


 ユーア風に言うと、ここは『快適お家』だもんね。

 この世界のどの宿屋よりもきっと快適だろうし。



「まぁ、リブたちも共闘した仲間だしね。私も気に入ってるし。ビエ婆さんたちや子供たちが迷惑に感じなければいいよ。依頼でこの街を離れるまでは」


 それにラブナは同じ魔法使いとして、マハチとサラワとも仲良かったしね。

 冒険者ランクも高いから、リブたちに教わる事も出来るだろうし。


 なんて、ラブナの事を考えていると、



 ((うぎゃ――――――っ!! な、な、な…………))


 お風呂場の方から、つんざく様なラブナの悲鳴が聞こえてきた。



「え?」


 一体お風呂場で何があったの?



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