第60話謎のアイテムと他の転移者の影




「これって、誰かに操られてるか? 人工的に作られてない?」


 2体の異常な個体のオークを指さして、そう三人に伝える。

 私だって確信があるわけではない。


 ただその方が色々説明がつきそうだなと思っただけだ。



「スミカさん、それって一体どういう――」

「そうだぜ嬢ちゃん、いくら何でもそんな事はァ……あんのかァ!?」

「スミカお姉ちゃん?」


 クレハンは、私の説明が欲しかった様子で聞いてきたけど、ルーギルは私の表情から、あながちあり得ない事ではないと思ったのだろう。


 ユーアはよくわかってない様子で首を傾げている。



 そんな私は――


「まぁ、私だって、ハッキリそうだって言いずらいんだけど…… 今はそれよりも、コイツらは私が倒したいんだけどいい? 多分必要だと思うの。今の私に」


 三人にそう提案する。

 その理由は先に私の目的を果たしたいと思ったからだ。



「別にいいけどよォ、どうせ俺たちじゃ、手に負えねえからよ。悔しいがァ」

「必要ですか? スミカさんが…… わかりました。わたしもギルド長と同じで異論はありません」


「うん、ありがとう」

 

 二人は私のわがままを文句なしに受け入れてくれた。

 本当は戦闘に加わりたかったんじゃないかと思うけど。



「ユーアはもそれでいい?」


 私は一人返事をくれないユーアに問いかける。


「……スミカお姉ちゃん、ボクも一緒に戦いたいです。スミカお姉ちゃんのお手伝いをしたいですっ!」



 そんな嬉しい事を言ってくれる。


 今までのユーアだったら、戦いたいだなんて言わなかっただろう。


 今回の戦闘はユーアを成長させてくれたとともに、自信にも繋がったようだ。

 それもたくましいほどに。


 でもまあ、見た目は可愛い小動物だけど。


 これで、この先の冒険も大丈夫だろう。

 なんの気後れもなく、私と一緒にいられるだろう。


 ただこうなるとユーアは頑固だ。何が何でも私に付いてくる。



 そんなユーアに私は――――



「ごめんね、ユーア。コイツらは私の為に必要だと思うの。って言っても意味わかんないと思うけど私のわがままだと思って。それと夜はお詫びに、開くからさっ!」


 両手の手の平を顔の前で合わせて、ウインクしながら「ねっ!」とお願いしてみる。

 ついでにも忘れない。


『……………………』


 こ、これで、釣れるかなっ? 


 どきどきっ――――



「うんっ! いいよっ! スミカお姉ちゃんっ!」

『よしっ!!』


 簡単に釣れたっ! エサ投入したら速攻で釣れた。

 お肉で釣れば入れ食いになるんじゃないの?この子は。



 ただ、私の存在は『肉』以下だったかと思うと、ちょっと悲しくなった。



 まあ、ユーアの場合は、私のお願いに気遣ったんだと思う。

 お肉に釣られたして――――



「わ~~い、わ~~い、夜はお肉パーティーだぁっ!!」


 そんなユーアは両手を挙げてルーギルたちの周りを嬉しそうに回っている。


『――――――――』


 これも、、だよね? きっと。



 ぴょんぴょんとはしゃぎ回るユーアを見て、私はそう信じたいと思った。





※ ※ ※





「それじゃ、魔法解くよっ! 大丈夫だと思うけどそこから動かないでねっ!」



 私は最初に、動きが異常に素早いとルーギルが言っていた、小さいオークを開放しようと、三人に声を掛ける。因みに三人には透明壁スキルで囲ってある。念のために保護色にもして。


 まあ、保護色にしても私には見えるけど、オークには見えづらくなっているはずだ。戦闘の途中にユーアたちにちょっかいを出されても面倒になるだけだから。


「はいっ!」


 私はスキルを解除する。


 シュッ


「いっ!?」


 スキルを解いた直後に、もうその姿は視えなくなっていた。

 さっきまでは、身動きの出来ない透明壁の中で、藻搔いていたはずの姿は、もうそこには何もなかった。


「速いっ!!」

   

 ルーギルに少しは聞いていたけど、予想以上に速い。

 ていうかまともに視認さえできない。


 体躯も小さいから余計に早く見える。

 それと動きが、視界の外へ外へと移動しているから更にその姿を見えなくしている。


 普通の人間だったら、間違いなく、姿が消えた瞬間にその凶刃にかかって身を切り裂かれていただろう。


『………………うん?』


 「シュシュシュ」と風切り音だけが聞こえる。

 それも私の360度周囲から。


「…………私の周りをグルグル回って、様子を見てる?」


 多分オーク自身が、奇妙な魔法で閉じ込めた私の能力を警戒しての行動だろう。


 ブゥンッ!


 そんな行動に、私は振り向きざまに蹴りを放ってみるが、当たった形跡は全くなかった。それどころか、蹴りを避けて、私の首を目掛けて切りつけてくる。


「っ!? 避けられないっ!!」


 私は蹴りを放ったままの不安定な状態で、避けるのは諦める。

 そして目前に迫るオークに掌底を放つ。


「痛っ!?」


 私は痛みに声が漏れる。

 オークはその掌底まで避けて、私の指を切りつけていったからだ。


「スミカお姉ちゃんっ!!」

「まさか、嬢ちゃんが!?」

「スミカさんっ!!」


 驚いた三人の声が、私の耳に入ってくる。


「大丈夫だよ。ちょっと切られただけだから。そんな心配しないでいいよ」


 私は切られた指先を口に含んで、三人にそう伝える。


「だって、スミカお姉ちゃんがケガしてるっ!」

「そうだぜ、嬢ちゃん。なんだって魔法を使わねえんだァ! 使えば嬢ちゃんならケガしねえだろォ!」

「ユーアさん、それとギルド長っ! スミカさんの事だから、何か考えがあるんですよきっとっ!」



「………………」


 かなりみんなに心配をさせてしまったようだ。でもこれも今の自分には必要な事。

 今回この獲物にスキルは使わないと決めていた。そんな楽な事はしない。


 なぜなら――――――


「もう、思い出したから大丈夫」



 私は自分の中の『Safety安全 device装置 release解除』する。



 そうそう、この感じ――――っ! 



「そこぉっ!!」



 私は再度、振り向きざまに前蹴りを放つ。

 だが、同じ蹴りでも速度と威力はさっきの『倍』だ。


『グギャッ!?』


 ドゴォ――ンッ!


 その刹那、何かが吹き飛び建屋の壁を粉々にする。


 だがその跡には粉々になった壁の破片だけ。オークはそこにはいない。

 そしてまた私の周りを「シュシュシュ」と回り始める。



「意外と頑丈だねっ! それとしつっこいねっ!!」


 今度は回し蹴りを、真横に放つ、が、感触がない。これはさっきより簡単に避けられた。


 そしてその蹴りを戻す前にその蹴りの上の空中を「ガシッ」と掴む。


「はい、捕まえた。案外簡単に誘導に引っ掛かかっちゃったね」


 その掴んだ手にはジタバタするオークの首を握っていた。


「えっ!? スミカおねえちゃん?」

「マ、マジかァッ! あの速度の奴を捕まえたァ!?」

「い、いや、それよりも、スミカさんの動きが一瞬早くっ!?」



 握っていたそれを切り付けられるより早く、頭上に振りかぶり――


「ばいばいっ! なかなか強かったよ。それとありがとうっ!」


 ブフォンッ!!


 ドゴォ――――ッン!!!


『ブギャッ!!』


 で、地面に叩きつけた。



 その爆発音にも似た程の衝撃で、地面に大穴を穿つ。

 巨大オークの攻撃と比べても、遜色ないほどの威力だった。


「スミカおねえちゃん!!」

「やったのかァ!?」

「さ、さすがに、あれでは、粉々でしょうっ!!」



 私は開いた大穴の近くに寄って確かめる。


「………………」


 パラパラと、地面の破片やオークだったものが降ってくるが、それは頭上にスキルを展開して降りかかるのを防ぐ。


 その中心には、腕輪が一つ残されていた。

 あのオークが付けていたものだ。



( これって、誰かに操られてるか? 人工的に作られてない? )



 私が捕縛した時、最初に言ったのはこれの存在があったからだ。



 私はそれを拾い上げる。


「………………」


 その腕輪は、地面に大穴を開けるほどの威力でも傷一つなかった。


「これって――――?」


 拾った腕輪を調べながら、自分の表情が険しくなるのを感じる。



『この世界のものじゃない…… かと言って、私の元のゲーム内でも――』



 私の記憶にもないアイテム。多分これは『他のゲーム内アイテム』だ。

 直感的にだがそう思った。



『うん…………』


 私以外にも、異世界に来れた者がいる。

 しかも、ソイツは決して真っ当な人間ではない。


 一つの村を、もしくは人間を殲滅させる為にオーク共を動かしていたのだから。

 その腕輪はあの巨大オークも身に着けている。


『一体何者なの? 私よりも前に来ている、そいつは何が目的?』



 もう一体のこの世界の物ではない腕輪をしているオークを見ながら、



「まあ、私の守るものに手を出したら、問答無用で潰すけどねっ!」



 一人決心を固めるのであった。

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