第495話まさかの?




 バリ――――――ンッ!!



「うそ、でしょっ!?」

「んっ! 澄香の魔法壁がっ!?」


「ほぉら、わたしが本気出せばこんなもんだよ~っ!」


 唖然とする私たちを前に、得意げな顔でガッツポーズを取るフーナ。

 マヤメも私の影から飛び出て、その光景に驚いている。



 そんなフーナの一撃を受けた透明壁スキルは、周りへの被害を最小限に抑えることに成功はしたが、十数個の破片となって、辺りに飛散し、そのまま消滅してしまった。



「あれれ~? どうしたのかなぁ、蝶のお姉さん? もしかしてショックで泣いちゃう? お姉さんの自慢の変な壁が壊されちゃったもんね~っ! もし泣くならわたしの胸貸してあげるよぉ?」


 茫然としている私たちを、更に煽ってくるピンクの悪魔。

 ポンポンと垂直な胸を叩いて、にやけた顔でふんぞり返っている。



「それとも負けを認めちゃう?」


「み、認めないし、まだ終わってないから」


「でも、これ以上やったらいじめになっちゃうよ?」 


「くっ………………」


「お姉さんの魔法は通じないんだから、もう観念した方がいいと思うよ?」


「くくっ………………」

 

 確かにフーナの言う通り。

 スキルが破壊されたのなら、このまま続けても敗北するのは目に見えている。


 ただし、


「く、くく――――」


 それが事実だった場合だけど。


「ん、澄香…………」


 俯いて、言葉を発しない私を心配して、マヤメが声をかけてくれる。

 私は下を向いたままで、震える声でこう答える。



「ぷっ! くくくっ―― た、確かに自力では負けてたけど、私の魔法は破られてないし、むしろこっからが本領発揮なんだよっ! 透明化解除」


 笑いを耐えながら、透明にしていたスキルを視覚化する。



「えっ! また赤い壁がっ!?」 


「んっ! 澄香?」


 砕け散った筈の、赤のスキルが突然に現れ驚く二人。

 十数個のスキルが、フーナの周りを包囲している。



「でもそんなの何度だって壊しちゃうから、いくら作っても魔力の無駄だよっ!」


 拳を振り上げ、周囲に浮かぶ、スキルを睨みつけるフーナ。


「無駄じゃないし、そもそも壊れてないから。あれはあなたの攻撃が当たった瞬間に『分割』して、威力を分散させたんだよ」


「え? 分割? 壊れたんじゃなくてっ!?」


「そうだよ。それに、さっきの強力な一撃だって、そんな連続で撃てないみたいじゃん。今だって会話しながら、魔力を溜めてるのはわかってるからね」


 薄っすらと輝きだした、右拳を見てそう告げる。


「うへぇっ! バレてたっ! でも今度こそ――――」


「だからさせないって」


 スキルの一つを操作し、フーナに向けて射出する。


 ヒュンッ!


「もうその攻撃は効かないよっ! ずっと何ともなかったんだからねっ!」


 迫るスキルに、空いた左拳を向けるフーナ。


 どうやら弾き飛ばそうとする、算段らしいが、



「だったらこれならどうっ! 【Gホッパー】&『追尾』」


 なので私は反発力のあるスキルに変化させ、ついでに追尾も付与する。



 ぎゅむ


「えっ?」


 ビュンッ!


「うわ――――――っ!」


 Gホッパーに攻撃を弾かれ、悲鳴を上げながら、真横に吹っ飛んでいくフーナ。

 一撃の威力が桁違いのせいで、弾かれる威力も半端なかった。



「って、今度はわたしの後ろにっ!? でも関係ないもんねっ!」


 真後ろに追尾したスキルに気が付き、態勢を整えたフーナ。

 高速で吹っ飛びながら、魔力のチャージを終えた右の拳を振るうが、


 それも――――



「『通過』」


 ブンッ!


「あれ? す、すり抜けたぁっ!? って、今度は上にっ! ぎゃんっ!」


 通過に変化させたスキルに放ち、渾身の一撃はまたもや不発に終わる。

 そんな災害級の一撃は、光の軌跡を残したまま、遥か彼方に消えていった。

 

 そして追尾していたスキルが頭に直撃し、そのまま急降下していく。

 その後を追って、残りのスキルもフーナを追いかけていく。



「んっ! やっぱり澄香凄いっ!」

「いや、こんな攻撃なんか全然効いてないよ。今まで散々やったけど、まるで効果なかったからね」


 タンッ


 称賛するマヤメに答えながら、フーナを追いかけ急降下する。

 

 

 

 こんな攻撃が効かない事は、とっくに周知している。

 現段階の戦力だけでは、倒しきる事が不可能な事も、とうに理解している。


 だったら出来る事は一つ。


 肉体的にダメージを与えられないのなら、心にダメージ与えるだけ。

 精神的に追い込み、負けを認めさせるしかない。



「不本意なんだけどなぁ…… こんな決着の仕方は――――」

「ん?」

「いや、こっちの話。ちょっと悔しいって思ってさ」

「ん」


 フーナは稀にみるほどの実力者だった。

 今まで対峙してきた、7桁を超える数々の相手が霞むほどに。


 それでも勝ちは揺るがない。

 けどそれと同時に、納得のある決着も望めない。


 それはフーナがあまりにも強すぎたから。


 だから望まない決着を選ぶしか、今の段階では選択肢がなかった。



「はぁ~」

「ん?」


 フーナを追うスキルの全てを、溜息交じりに【Gホッパー】に変える。

 この先は誰もが予想できる、コントのような結末になるだろう。

  


「うわわっ! いっぱいこっちに来たぁ~っ! こ、今度もすり抜けるの? それとも跳ね返る?」


 スキルの特質がわからずに、あわあわしながら身構えるフーナ。

 だが、そんな警戒とは関係なしに、反発力を持ったスキルはフーナに襲い掛かる。



 そうなると、必然的に――――


 ブンッ


「こ、こっちに来るなっ! うわ――――っ! またぁっ!?」


 反射的に反撃をし、スキルの効果によって弾き飛ばされる。

 最大張力とフーナの怪力も相まって、有り得ない速度で再び吹っ飛んでいく。 


 しかし、その先にも、


 ぎゅむ


「あ、うわ――――――――っ!!」


 飛んでいった先にもGホッパーが待ち構えており、三度、悲鳴を上げながら弾かれるが、今回はそれだけでは済まなかった。


 何せフーナの周囲には、数々のGホッパーが待機しているのだから。

 どこへ弾かれようとも、すり抜ける隙間などない程に包囲されている。



 ぎゅむ


「あっ!」


 ギュンッ


「わっ!」


 ぎゅむ


「ああっ!」


 ギュンッ


「あわわわわわ――――――っ!!」



 そんなフーナは、レトロなピンボールマシーンのように、包囲されたスキルの中を自由自在に―――― いや、この場合は、不自由不自在と言った、言葉の方が合うだろう。


 強力な反発力&高速で弾かれ続けるフーナには、どこにも自由などなく、自分の意志では何もできないのだから。



「うわわわわわ――――っ! め、目が回る――――っ! しかもめっちゃ気持ち悪いぃ――――っ!!」


 辛抱堪らずに、悲鳴と絶叫を上げ続ける、そんなフーナを目の当たりにし、



「ん、なんか楽しそう」 

「いやいや、絶対に酔うって。気持ち悪いって言ってるし」


 場違いな感想をポツリと零す、マヤメに突っ込む。



「でももう限界かもね。だからそろそろ決着をつけるよ。こんなところで吐かれても嫌だし、フーナも可哀そうだしね。あれでも女の子だからさ」


「ん、澄香優しい」


 これ以上は色々と危険と判断し、跳ね続けるフーナに声をかける。



「お~いっ! フーナ、聞こえる~っ! 罪を全部認めて謝罪したら――――」


「うえぇぇぇぇ――――――んっ! みんな助けてぇ――――っ!!」


「ん? 聞こえないみたい」

「だよね?」


 そりゃそうだ。

 そんな余裕なんてあるはずがない。



「なら仕方ない。少しGホッパーの張力を弱く――――」

「んっ! 澄香っ! フーナの周りが?」

「え?」


 マヤメに言われ、フーナ自身ではなく、その周囲に目を向ける。

 すると、直径が100センチほどの丸い形の物が、ゆっくりと姿を現し始める。

 その数は3つだった。



「は? 何処から来たのっ!? しかもあれって」

「ん、タマゴっ!」

「タマゴ? あんな大きくて? あんな派手な色で?」


 突如出現した、タマゴのような何かに驚く私とマヤメ。


 しかも大きさ以外にも、その色が特徴的で『白』『青』『黒』の3色だった。



「んっ! 澄香っ! 危険な感じする」

「わかってる。気配が半端じゃないからね」 

 

 放たれる気配が尋常ではない。

 強大で巨大な何かを前にしたような、押し潰されそうなほどの圧迫感だ。


 

『く、なんだって言うのっ! 今更まだ何かあるって言うの? ここまで追い詰めておいて、実は援軍とかだったらシャレになんないってっ!』


 一人でも手が余る強さだった、災害の魔法使い幼女フーナ。

 いや、手が余るどころか、寧ろ正攻法では完璧に負けていた。


 それに近い気配が一度に3つ。


 ラスボスを倒した直後に、更に倍以上に増えるなんて最悪だ。

 どこのクソゲーだって、思わず文句を叫びたくなる。



「ん、どうする澄香?」

「どうするも何も、向かって来るなら相手するしかないよ」


 段々と殻が割れていく、3つのタマゴを見て覚悟を決める。



『さあ、鬼が出るか蛇が出るか? どっちにしても敵だったら、を使うしか方法はなさそうなんだけど……』


 亀裂が進む、3つのタマゴに注意を向けながら、ゆっくりとスカートの裾に指をかけた。




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