第546話復活するなりすましとオネエの想い




「「「う、うう…………」」」


 ルーギルから説明を聞いていた最中に、何者かにやられた4人。

 赤・黒・白・黄色のマスクを着けた男たちは、みな同様に気を失っていた。



「あなたたちが何故っ!? 一体何が起こったのですかっ!?」


 そこへ、血相を変え、仲間に慌てて駆け寄る、青マスクの男だったが、



「んあ? なんだぁ? 痛くも痒くもねえぞっ!」

「はっ!? 潰れたと思った、鼻も顎も無事だっ!」

「お、俺も鎖みてぇなのに首絞められたんだが何ともねぇっ!?」

「???」


 まるで何事もなかった様にムクリと起き上がる4人。

 不思議そうにお互いを見渡すが、特にケガなどの外傷は見当たらなかった。



「はっ!? なぜ? あんなに派手に吹っ飛んだのに、どうしてっ!?」


 かすり傷一つ見当たらない仲間たちに、青マスクの男は驚愕する。

 無事な事に安堵しながらも、どこか解せない表情を浮かべていた。





「ぬっふっふ、早速ルーギルはを使ったようじゃなっ! にしても、シスターズたちはみな揃って堪え性がないの。いや、あれでも堪えていた方かの? ユーアを含め、ずっとみなも不機嫌じゃったしの。にっしっし」


 混乱している男たちを見て、何故か楽し気なのはナジメ。

 土魔法で設置したベンチ(屋根付き)の中で、独りほくそ笑んでいた。   



「なっ!? あれとは一体どういう事じゃナジメよっ!」

「あの冒険者たちなんでっ!?」


 そんなナジメに反応したのは、一緒に観戦していたロアジムとゴマチ。

 ベンチから身を乗り出し、ナジメと男たちを見比べていた。



「ああ、あれはじゃな、ねぇねから貰った回復薬をルーギルが使ったのじゃよ。じゃが、あまりにもその効果が高過ぎて、一瞬でキズを癒すから、痕跡が残らずわかりにくいのじゃが」


「はあっ!? 何故わざわざ治す必要があるのじゃ?」

「そうだよっ! そんな凄い回復薬をなんでっ!」


 ナジメの説明を聞き、更に声高になる祖父と孫。

 腰かけていたベンチから立ち上がり、その勢いでナジメに詰め寄る。



「ちょ、落ち着くのじゃっ! 最初から教えるから、一度座るのじゃっ!」


 興奮する二人を宥めて、ナジメは説明することにした。

 スミカからの言いつけの件と、ルーギルたちと話し合った事を。





「あらん、早速やられちゃったわね~。これじゃあまり伸びないかも」

「?」


 そんなナジメたちの脇には、ニスマジとクレハンも同席していたが、一瞬で倒された男たちを見て、ニスマジが意味深な事を呟いていた。

 

「え? 伸びるって、何がですか?」


 今の状況に相応しくない単語に、クレハンが聞き返す。   


「ああ、それは売上よん」

「売上? ですか」

「そうなのよ。あそこに屋台やお店の従業員が見えるでしょ?」

「え?」


 そう答えるニスマジは、集まった観客たちの方を指さす。


「あっ! いつの間に?」


 そんな人混みの向こうには、多くのカラフルなのぼり旗が見え、人混みの中には、やたらガタイのいい半裸の男たちが、せわしなく動いていた。


 そののぼりには『トロの精肉店』や『大豆屋工房サリュー』などの店名が書かれており、何やらその周辺から、鼻腔をくすぐるいい匂いが漂っていた。


 そして、筋骨隆々で半裸の男たちは、蝶の羽根付きリュックと蝶のアイマスクを着けて、集まった人たちに何かを手渡し、何かを受け取っていた。 



「あ、もしかしてっ! この状況を利用して商売してるんですかっ!?」


 男たちに手渡された硬貨を見て、そう結論するクレハン。


「ご名答よ。さっきあなたも気付いたようだけど、この人の多さはわたしが事前に告知しておいたのよぉ。今日のこの時間帯に、ユーアちゃんたちと偽物が対決するって」


「あ、やっぱりそうでしたかっ! あんな短時間で、この人数が集まるのが不思議に思ってましたっ!」


「それでぇ、わたしはログマとマズナ親子に声を掛けたのよぉ。お祭りがあるから屋台を出してって。そうすればもっと人が集まるし、わたしのお店の商品も便乗して売れるからってね」


 人差し指を立て、体をクネクネさせながら説明するニスマジ。


「な、なるほど。その抜け目のなさは流石は商売人ってところでしょうか…… でもなぜ今日だとわかったのですか? ユーアさんがいつあの人たちに仕掛けるかなんて―――― あ、もしかしてこれもっ!?」


「そうよぉ、これもわたしが仕組んだのよね。実はね、二日前にユーアちゃんがわたしのお店に来たのよ。スミカちゃんの事を悪く言う、怪しい人がいるって、ゴマチちゃんに聞いてね」


「ゴマチさんですか。それでどうやって今日だと?」


「それでぇ、あの人たちが悪いことをしたら教えてって、ユーアちゃんに頼まれたのよぉ。それが今日たまたま、わたしのお店の商品を盗んでねぇ、それで知らせたってわけ」


 最後にバチンとウインクして、ニスマジは話を締めくくるが、


「本当に、たまたまなんですか?」


 今の話に違和感を感じ、ニスマジの顔を覗き込むクレハン。

 偶然だと言っているが、この規模で準備が進んでいた事に疑問を感じたようだ。



「あらん、流石はルーギルの右腕ね? ルーギルもわかったみたいって言うか、直感的に勘づいたって言った方が正しいかしらん」


「あっ! て事は、ギルド長も今の話を――――」


「もちろん知ってるわよぉ。さっきわたしたち人混みの中ではぐれたでしょう? その時にね」


「なるほど。その時にギルド長に話をしたってわけですね。窃盗はだったと」 


「まぁ、簡単に言うとそうね。わたしの拳の中に隠した商品を、あたかもあの男のポケットから出た様に演技したのよ。あ、でもユーアちゃんはこの事知らないわよ? これはわたしの独断でした事だから。だってあんなに険しい顔のユーアちゃんなんて見たくないから」


「………………」


「あの子には笑顔でいて欲しいのよ。スミカちゃんが来るまで、ずっとあの子は苦労してたから。でもその笑顔を守っていたスミカちゃんはいない。だから――――」 


「だから、大人のわたしたちが守ろうって事ですね。でも直接手を出すことは出来ない。きっとユーアさんなら遠慮するだろうし、それだけ時間もかかるから。だから手助けなら出来ると」


「まぁね。でもそこに打算がないって言ったら噓になるかしらねぇ。わたしは商売人。だからこの状況を利用する事に躊躇ったりしなかったわ」


 そう自虐的に話すニスマジの顔は、卑しい商売人の顔には見えなかった。

 

 格上で、屈強な男たちを前に、臆することなく立つユーア。

 そんなユーアを見る目は、どちらかと言うと――――



「…………なんか、ニスマジさんもお姉さんみたいですね」

「あ、あら? そう? そう言って貰えると嬉しいわ……」


 クレハンの一言に、ニスマジは目を逸らしながら答える。

 飄々としたさっきまでとは違い、若干照れているように映った。


 そんなニスマジは、性別はもちろん、ユーアの血縁関係でもないが、それでも妹を心配する、一人の優しい姉に見えた。



 そして、オカマ兼、非公認の長女役に見守られながら、初戦は、ユーアと黄色マスクとの模擬戦が開始された。



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