第198話開戦、激戦、悪戦、苦戦?



「お主はいったい何人いるのじゃっ!」


 ナジメは対戦相手のバサを視界に収めながらも驚きの声を上げる。


「さぁ、何のことか分からない、わっ!」


 バサは含み笑いを浮かべながらナジメに疾走する。

 その速さは大型の武器を持っているとは思えない程の速さだった。

 素のナゴタと同等かそれ以上だろう。


「は、速いのじゃっ!『土壁』 んなっ!?『土壁』!!」


 ナジメはそのバサの速さに驚愕しながらも、魔法を展開する。

 そしてすぐさま背後にもう一枚、同じ土壁を作る。

 合計2枚を。


 バサは目の前の土壁を避け回り込み、ナジメの右脇腹に大剣を振るう。


 しかしナジメはすぐさま真上に土壁を展開し、大剣を防ぐことなく、


 ゴガンッ


「うがぁっ!?な、何故じゃっ!!」


 大剣での攻撃をまともに受け、小さい体が大きく飛ばされる。


「うぬぬっ、今度は左側面なのじゃっ!『土壁』」


 ナジメは飛ばされながらも足を付き、バサの攻撃を防ぐために再度土壁を展開する。 が、そこには誰もいない。


「かかったわねっ!」

「んなっ!?」


 何故ならいるのはナジメの真上だからだ。


 バサは飛ばされるナジメを追走しながら跳躍していた。


 そして両手に握った大剣を、全体重を乗せてナジメの脳天に叩き下ろす。


 ガンッ!


「うぐぅっ『土壁』!」


 ナジメはその攻撃を受け、前のめりになるが何とか踏み留まり倒れはしない。

 その代わり土壁をバサと自身の間に展開して、追撃を防いでいた。


 バサはそれを見て、後ろに跳躍し距離を取る。

 一度仕切り直すつもりだろう。


「あははっ!元Aランクって言っても所詮冒険者だけの話なのねっ!Aランク冒険者は国が抱える程の存在だって聞いてたけど、全然大した事ないわぁっ!あははははっ!!」


 仕切り直すと思われたバサはただ単に、ナジメを罵っているだけだった。

 冒険者の存在を否定したくて。自身の強さをひけらかしたくて。


「…………お主のそれはどんな特殊能力なのじゃ?」


 そんな高笑いをしているバサにナジメは鋭い視線を向ける。


「さぁねぇ、誰がわざわざ手の内なんか教えるのよ馬鹿じゃないのぉ!」

「くっ!」


 そんなナジメの視線をいなして、バサは軽口でナジメを煽る。



 私はその異様な光景を見て、傍らのユーアに視線を落とす。


「ねぇユーア、バサって奴が何人いるかわかる?」

「はぁ?スミ姉、どう見たってあのキモい口調の男はひとり――」


「…………何か増えたり減ったりします。スミカお姉ちゃんとは違って……」

「そう。わかったありがとうユーア」


 ユーアは私の問いかけに、首を傾げながら答えてくれた。

 ハッキリしたことはユーアでも分からないようだった。今は。


「お姉さま、あれはいったい何でしょうか? あれほど気配や殺気をバラ撒かれては、ナジメが的を絞れません……それに――」


「え、な、何がナゴ師匠?」


「――それにナジメが優秀であればあるほど引っ掛かるよあれはっ!それに単純にバサって奴は強いぞっ!」


「へっ? ゴナ師匠までっ!?」


 ユーアへと私の会話に気付いたナゴタとゴナタも、その話に割って入る。

 ただラブナはまだ、今のおかしな状況が理解できないようだった。



「ではこれはどうじゃっ!『土団子』」

「なあっ!?」


 ナジメは自身の頭上に100を超える鉄球を出現させる。

  

 ここから続く攻撃は……


「『土合戦』なのじゃっ!」


 ナジメは無数の鉄球並みの土の玉を、バサに向かって一斉に撃ちだす。


 ヒュヒュヒュヒュヒュッ!!!!!!


 バサの能力など関係ない、範囲での攻撃を仕掛けた。


 だがその無数の土団子はバサに集中せずに散発になっていた。

 目に見えるバサだけではなく、あちこちの周囲に撃ち出されていた。

 それは感じる気配の全てに反応したのだと分かる。


「うらららららぁっっっ!!!!」


 ガガガガガガンッ!!!!


 散発での土団子は、バサの大剣での腹の部分で薙ぎ払われる。

 どうやら速さだけでなく、膂力も中々の物だった。


「うぐぅ、お主だけに集中できぬのじゃっ!悔しいのじゃっ!!」

「ぎゃははははっ!」




『……………多分これは――』


 バサの能力は、多重に気配や殺気を操り、自在に出現させることが可能な能力だと、私は推測する。

 それも予想では最大2体。


 それはナジメのような感知能力が長けた者ほど相性が悪い。

 強者であればあるほど、その感知できる範囲も強さにも無意識に反応してしまうからだ。


 その殺気は離れている私たちまで、胸を抉られそうなほどに感じるもの。


 近くで対峙しているナジメ本人はきっと、


『…………喉元に刃物を突き付けられてる程の、殺気と恐怖と身の危険を感じてるかもしれない。頭では分かっていても、そんな状況じゃ身を守る為に体が勝手に反応するよ。条件反射って奴だね、それと――」


 バサが実際に、程の濃密な殺気を感じているのかもしれない。



「うぬぬ、なら次は『泥人形』『土蛇』!!」


 私がそう分析をしている間に、ナジメが次なる魔法を唱えた。


 そのナジメが唱えた魔法は、泥でできた無数の不格好な人型の、ていうかナジメの容姿そっくりな能面の土の人形と、無数の細かい蛇が地面から出現していた。


 その数は凡そ泥人形が50体強。

 土蛇が3桁を余裕で超える程の数だった。


「これならお主が何人いようとも関係ないのじゃ!全て捕まえてやるのじゃっ」


「わおっ!随分と大盤振る舞いしたじゃないっ!魔力は大丈夫なのぉっ!」


「行くのじゃっ!わしの分身と、無数の蛇たちよっ!!」


 ザザザザザッ!!!!


「っ!!」


 ナジメの号令により、土の魔法でできた軍団がバサとナジメの周囲に散開していく。これを見る限り、ナジメにはバサの姿は一人ではなく、数名が映っている事がわかる。


 この数であれば、確かにバサの本体を捉える事ができるだろう。

 ただしそれは、


 相手が普通の存在だったらの話だ。


 速さではナゴタ以上。

 膂力は未だ不明。


 だがそれだけでバサは、十分強者の枠組みにいる。体捌きが並みじゃない。

 そんな相手に目くらましにはなるが、足止めにはならない。


「ぎゃははははッ!そんなに攻撃を散らせてどうするのよぉ!」


 バサは泥人形と土蛇を両剣で薙ぎ払いながらナジメに接近し大剣を振るう。


 ブウンッ!!


「うぬっ!」


 ゴガンッ!


 ナジメはそれを土壁で咄嗟にガードする。

 その超反応はさすがだったが、


「そぉれっ!もう一発ぅっ!!」

「『土壁』うがっ!!」


 次の一撃はバサへの目測を誤り、頭上に展開したところを左脇腹に攻撃を受けて、再度吹っ飛ばされる。


「まだまだよぉっ!!」

「っ!!」


 そしてその飛ばされる後方に、バサが大剣を振りかぶり待ち構えていた。


「いい加減くたばりなっ!!この出来損ないのハーフなくせにっ!」

「な、なんじゃとっ!うがぁっ!!」


 ガンッ!

 ズザザザザザッッ――――


 ナジメはバサの攻撃を背中に強打し、そのまま森の中まで吹っ飛ばされる。



「ナ、ナジメちゃんっ!!」

「ナジメあんたっ!?」


「……………………」

「……………………」


 その光景を見て、ユーアとラブナはナジメの心配を、ナゴタとゴナタは両方とも事の成り行きを見守っている。


『…………………』


 私は――――


「クククッ、どうやらAランクとやらは大した事なかったようだな。もしこのまま続けてもバサの勝ちは揺るがないだろう。ナジメはバサを補足できないばかりか、魔力を絶え間なく消費している。これは時間の問題だな、もはやナジメは負けたのと同じだな」


 ナジメを視線で追う私に声を掛けてきたのはアマジ。

 その顔は口元が緩み、愉悦な表情を浮かべている。


 私は――――


 そんなアマジを無視し、ナジメが飛んで行った方向を見る。


 そして…………


「ナジメいい加減本気出したら?私に新技見せてくれるんでしょぉ~~!」


 土煙の舞う中に現れた小さな体のナジメに声を掛ける。


「うむ。そうじゃ」


 どうやら小さな守護者の能力でケガはないようだった。


「ねぇねにはそういう約束を最初にしておったな、新技を披露するとな。なら出でよ『ベティ( 土龍 )』よっ!」


 ナジメは私との戦闘でも見せたあの土龍を出現させる。

 その大きさはナジメの魔力に応じて巨大化をさせられる。


 巨大な龍を操作してバサもろともここら一帯を薙ぎ払うつもりだろうか。


「ね、ねえ、スミカお姉ちゃん!あの龍さん何か………?」

「へっ?」


 そこには確かにナジメの作った土龍がいた。


「えっ?龍だよね?あれ」


 その頭の上にナジメは腕を組み堂々と立っている。

 高い所好きだからね。


 でも、


「な、何んでっ!?」

 

 でもその大きさは2メートル程だった。

 私との戦いの時の1/10程の大きさだった。


『こ、これって――――』


 も、もしかしてナジメの魔力がもう枯渇寸前って事っ!?

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