第466話アドとエンドとシスターズ



 スミカたちとフーナが邂逅した、ほぼ同時刻。

 コムケの街から10キロほど西に離れたサロマ村では。



「フォレストウルフは群れで動くから気を付けて下さいっ!」

「アンダーラビットはキバ以外にも後ろ足に注意してくれよなっ!」


「「はいっ!」」

「「おうっ!」」


 数か月前に廃墟と化した、このサロマ村では、ナゴタとゴナタが先導して、訓練も兼ねての冒険者たちによる魔物の討伐が行われていた。


 この村は以前にオークの襲撃に合い滅んだ村で、その要因となったオークはスミカたちによって殲滅したが、その後にもまた魔物が出現するようになった事で、ギルドからの討伐依頼が出ている村だ。

 


「今度はアイアントが出ましたっ! これは私が対処しますっ!」

「あっちにはロックベアーが出たぞっ! ワタシが相手するぞっ!」


 新たな魔物の出現に、ナゴタとゴナタも戦線に加わる。

 訓練に連れてきた冒険者だけでは手に余りそうだと判断したからだ。



「にしてもよぉッ! ギョウソからの報告では聞いていたが、本当に種族や生息地関係なく、ごちゃ混ぜに魔物が出てくんなッ! オラッ!」


 更に双剣使いの熟練者も加わって、魔物の数を減らしていく。   

 その腕前と風貌は、どこかで見たことあるギルド長だった。


「それにしてもルーギル。なぜあなたがここにいるのですか?」

「ナゴ姉ちゃんの言う通りだ。なんでいるんだい?」


 ナゴタは鉄の硬度を持つアイアントの首を両断しながら、ゴナタはロックベアーの岩の体を粉砕しながら、本来ここにいる筈のない、ギルド長を訝し気に見る。



「んあッ? そ、それはお前たちを尾行…… じゃなくてだな、サロマ村の視察に来たんだよッ! ここ最近、急に魔物が増えたって聞いたんでなッ!」


 姉妹に答えながら、襲ってきた魔物を双剣で葬る。



「それは本当なのですか? わざわざギルド長自らが出てくる依頼でもないですが。敵が多いだけで、私たちだけでも殲滅可能ですから」


「そうだぞっ! だからあんまり張り切るなよなっ! このくらいなら、ここにいる冒険者とワタシたちだけで十分だぞっ!」


 加勢に来たルーギルを、どこか邪魔者扱いするナゴタとゴナタ。

 どうやら手柄を横取りされると思っているようだ。

 以前にスミカに頼まれていたこの件を、自分たちで解決したいと。



「いや、お前らだけで対処がどうとかの話じゃなくてだなッ! あの子供を見失った先が、偶然ここだって聞いたもんだから、俺が出張って…… おっと、なんでもねえ、今のは無しだッ! そ、それよりも向こうにもでたぜッ!」


 スタタタタ――――


 前方を指差し、新たな魔物を見付けたと言って、慌てた様子で離れるルーギル。


「はい?」

「え?」


 ただしその方向には魔物の影はもちろん、冒険者の姿も見えなかった。

 誰が見ても明らかに挙動不審で意味不明だった。



「なにか聞き捨てならない単語が聞こえたような?」 

「うん、尾行とか子供とか言ってたなっ!」


 そんなルーギルの後ろ姿を見ながら、顔を見合わせて怪しむ姉妹。



「ナゴタさんとゴナタさん。向こうにゴブリンが出たんですが、一人が負傷してしまったので手を貸してください。数は凡そ20体です」


 何の気配もない建屋に入って行ったルーギルを眺めていると、若い冒険者から手助けを頼まれる。  


「はい、なら私が行きます。ゴナちゃんはこの付近を警戒してて」

「うん、わかったぞっ! ナゴ姉ちゃん」


「ありがとうございます。こっちです」


 妹のゴナタに声を掛け、若い冒険者の後を着いていく。

 

 

 タタタタ――――


「それでゴブリンはどこですか?」

「あそこの廃墟の中にまとめて追い込んでいます。ケガ人は逃がしてあります」

「そうですか、わかりました」


 前を行く、落ち着いた態度の冒険者に、緊急性は低いと安堵していると、


 

「がうっ!」


 ドガガガガガガ――――ンッ!!


「なっ!?」

「うわっ!」 


 目の前の建物に、無数の氷柱が豪雨のように降り注ぎ、ゴブリンもろとも破壊した。


「あ、あなたはっ!」

「あの子供はっ!」


 建物を崩壊させた余波で土煙が舞う中、一人の子供が空から降りてくる。


 トン


「がう? こっちがおっぱいの姉ちゃんだったなっ! 大正解だっ!」


 ナゴタの姿を見付けて、屈託のない笑みを浮かべる子供。


 それはコムケの街に来ていた、エンドの連れのアドだった。


  

――――



 一方同時刻。


 スラムにある牛舎の外では、牛たちの様子を見に来ていた、ナジメとユーア、そしてラブナの前にも、ある人物が姿を現した。


 それはAランク冒険者のフーナの家族である、エンドだった。



「して、お主はなぜまた現れたのじゃ? もうここにはお主が興味を示すものなど無いじゃろうに」


 腕を組み、黒い子供に話しかける。

 その後ろにはユーアたちを隠しながらも油断なく睨みつける。



「我がどこに行こうとあなたには関係ないわ。それとも許可が必要なのかしら?」


 それに対し、髪をかき上げ、どこか挑発するように答えるエンド。

 その目はナジメだけではなく、その背後にも向けられていた。



「そんなものは必要ないのじゃ。じゃが理由ぐらい話しても良かろう。ここには牛とスラムの人間ぐらいしかおらぬのだからな」


 エンドに視線に気付き、僅かに体をずらしてユーアたちを隠す。


「あら? そうかしら。あなたもそうだけど、後ろの少女たちもいるでしょ?」


「何の事じゃ? わしらはこの土地の人間ではないのじゃ」


 黒い子供を睨みつけながら答える。


「はぁ、そう意味で言った訳ではないのだけれども、まぁ、いいわ。ついでだから自己紹介するわ。我の名はエンド。この国のAランク冒険者のフーナの従者の一人よ」 


 片足を斜め後ろに下げ、ドレスを摘まみ、優雅にお辞儀をするエンド。

 その見た目に似合わずに、かなりサマになっていた。



「うわ~、小さいのに偉いねっ! エンドちゃん」

「ふ~ん、子供のくせに中々に上手じゃないの」


 その挨拶を見て、ユーアとラブナから称賛の声が飛ぶ。


「ふんっ! わしだって挨拶の心得はあるのじゃっ!」


 同じぐらいの幼さのエンドに対抗意識を持ったのか、鼻息荒く、自分も出来ると宣言して真似をするナジメ。

  

 だったが、


「んぬっ!? こうヒラヒラと摘まめないのじゃっ! わしの自慢の装備なのにっ!」


 いつものぴったりとフィットした、スクール水着の装備のせいで、スカートの部分を持ち上げることが出来ず、半泣きになるナジメ。



「はぁ、そんなのやる前からわかり切ってるじゃな――――」

「そ、それよりもお主は何用じゃっ! 用事は何じゃっ!」


 エンドが溜息と共に言い終わる前に、無理やり方向転換する。



「そうよ。なんでAランク冒険者の付き人がここに来るのよ」

「エンドちゃん今日はどうしたの? 迷子ならボクが案内するよ?」


 ナジメに次いでラブナとユーアも、その動向が気になったようだ。

 ただし、警戒するナジメとは正反対だったが。



「そうねぇ、用事と言えば単なる暇潰しかしら? 連れのアドも途中でいなくなっちゃったし」


「暇潰しじゃと? じゃからここにはお主が暇を潰せるものなど――――」


「いるじゃない?」


「何がじゃっ!」


 話を途中で遮られ、声を荒げるナジメ。



「元Aランクの鉄壁の開墾幼女、そしてその後ろの蝶の英雄の妹たちが」


「お主は一体何を言っておるのじゃっ! わしたちは――――」


「知ってるわよ? あなたたちこの街では結構有名人じゃない。肝心の英雄さまは不在らしいけど、それは後からの楽しみとして取っておくわ。だから前菜としてあなたたちと遊ぶことに決めたのよ」


 斜に構え、舌なめずりをし、ナジメ達をねっとりとした瞳で見るエンド。

 見た目の幼さとは裏腹に、まるで娼婦のような妖艶な笑みを浮かべる。



「…………そうか。どうしても引かぬと言うのだな。お主の言う『暇潰し』をしたいと。わしたちを相手に戦って退屈を埋めたいと。そう言うのだな?」


「え? エンドちゃん、そうなの?」

「はぁ、なんでアタシが子供相手に戦う流れになるのよ?」


 ナジメの話を聞いて、困惑気味のユーアとラブナ。   


「そうよ。この街で強い匂いを感じたのは、あなたたちだったから。だから遊びに来たのよ。それでもフーナに比べたら弱々しくて、息を吹きかけるだけで霧散しそうだけど」


「ほう。随分わしたちを過小評価するものじゃな。そんなにお主のあるじは強いと言うのか? わしたちのリーダーの蝶の英雄よりも」


「そうね、単純に強いわ。全てがデタラメ過ぎて、正直わからないけど…… ただハッキリと言えるのは、あなたたちのリーダーよりは強いわ」


「なぬっ!?」

「えっ!?」

「はあっ!?」


「きっとフーナにかかれば一撃で倒されるんじゃないかしら? 英雄ごっこでいい気になってる、そんなリーダーなんかは足元にも及ばないわ」 


「「「………………」」」 


 エンドの話を聞き終え、感情を無くしたかのように、能面になる三人。

 そしてお互いに顔を見合わせて、一斉に振り向き、ビッと指を突きつける。


 自分たちの尊敬する姉を愚弄した、愚か者に制裁を加える為に。


「だったらわしたちも暇だから、お主に付き合ってやるのじゃっ!」

「うんっ! ボクも頑張るっ! ハラミ戻っておいでっ!」

「アタシも暇だったからちょうどいいわっ! 仕方なく遊んであげるわよっ!」



 こうして、シスターズのたちとフーナの家族の暇潰し(戦い)が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る