第490話フーナの完全勝利?



 ※フーナ視点




『な、なんで蝶のお姉さんの居場所がわからないのっ!』


 全力を出すと言った蝶の英雄のお姉さん。

 何かを呟いたと同時に、その強さが一気に変わったんだ。


 前の状態でも物凄く強かった。

 今まで戦った一番ではないけど、実際は一番かもしれない。


 だって戦いずらいんだもん……

 力が強いとか速いとか、そんなわかりやすい強さじゃないんだもん。


 いつも私を見てるし、何故か先回りされるし、ずっとずっと隙が無い。

 他には魔法も効かないし、私の攻撃だって、直接的には一回も当たってないし。



『今度は右?左? 違う、目の前だっ! 痛ぁっ!』


 だって言うのに、更に強くなるんだもん。

 今までとは数百倍? いや、もっともっと強くなった感じ。


 でも今度の攻撃は、意外と普通の攻撃ばかりだった。

 パンチやケリが殆どで、さっきみたいに変な魔法はあまり使わない。



『で、でも威力が凄いしっ! 全然捕まえられないしっ! めっちゃ痛いっ!』


 魔法少女に変身した私は、ぶっちゃけ基本的な能力はあまり変わらない。

 力も速さも魔力も打たれ強さも、元の幼女の私のままだ。


 見えないほどの速さや消える敵には、魔力を大量に放出して感知してたんだ。

 魔力の波の揺らぎを見付けて、そこに相手がいるってわかっちゃうから。


 ならなんで変身したのかって?


 そんなの決まってるじゃん。


 その方がカッコいいし、なんか強くなった気がするもん。

 強さ云々の話じゃなくて、気分的に強くなるんだもん。



『うぁっ! また消えたっ! 魔力を放出してるのになにも感じないよっ!』


 だから魔法少女になった私は、幼女の姿の時よりも頑張るんだ。


 いかにも変身して強くなったみたいに、魔法少女が最強で最高なのを、みんなに知ってもらう為に、私は変身するんだ。


 だからこの姿になった私には敵はいない。

 速い攻撃も当たらないし、相手の姿が透明でも関係ないんだ。


 でも、この蝶の英雄さんは速すぎて、反応が間に合わない。


 いや、速すぎるなんてもんじゃないや。

 そんな相手は今まで大勢いたもん。


 だからこのお姉さんが異常なんだよ。


 まるで空間から空間を移動しているみたいで、あっという間にやられちゃう。

 だから気付いた時には、数えきれないほどの攻撃を受けてる。 


 しかも物凄い力で、女神から貰った体が悲鳴を上げるくらいに体中が痛い。

 強く、鋭く、更に死角を突き、私の急所ばかりを執拗に狙って来る。


 そんな強さを目の当たりにし、私が気が付いた事。


 この人は戦闘の熟練者で、私はただの素人だったという事実だった。

 女神に貰った能力にかまけて、何もしてこなかったのが、こんな時に露呈しちゃった。



「うぎゃぁっ!」


 ドゴオォォォ――――――ッ!!


 お姉さんの渾身の蹴りを喰らって、勢いよく地面に叩きつけられる。

 今までで一番強い攻撃に、お腹の底から悲鳴が出た。



『う、ううう、体中が痛いよぉ~。だからもう私の負けでいいよね? この人がいればも安心だよね? だからみんなもわかってくれるよね? きっとメドだって――――』


 地面に横たわったまま、この場をやり過ごそうとギュッと目を閉じる。

 このまま気を失ったふりしてれば、ここから離れてくれるのを期待して。


 だって、どうせ立ち上がっても、また痛い思いをして辛いだけだし。



 だけど思い出す――――



『…………メドがこんなカッコ悪い私を見たらどう思うかなぁ? それにアドもエンドも私が負けちゃったって聞いたら悲しむかなぁ?』


 だけど思い出す。


 こんな私にずっと付いてきてくれたみんなの顔を。

 強い私こそが絶対的な主と信じている、いつも笑顔の幼女たちの事を。



『そう、だよね…… だからもう一泡吹かせてやろう…… ううん、そんな弱気じゃダメだ。一泡どころか、泣いて謝るくらいに追い詰めてやるんだ。でも――――』


 でも、この蝶の英雄には隙が無い。

 そんな簡単に逆転なんてできるわけがない。


 だってこの人は私と違って戦闘のプロなんだもん。



 でもそんな凄いお姉さんにも、ようやく隙が出来た。

 渾身であろう一撃で、私を地面に叩きつけた後でようやく油断した。


 回復の為に一瞬気が抜けたのを、私は見逃さなかった――――



 ガバッ


「ここだっ! 『ういんどかったー』」


 パリ――――――ンッ!


「あっ!」


 回復のアイテムが割れる音と、お姉さんの短い悲鳴が耳に入る。


 バッ!


「よしっ!」


 この隙に立ち上がり、蝶の英雄に一気に迫る。

 唖然としている今こそが、最後のチャンスだと信じて。


 だって、ここで勝てなきゃみんながいなくなってしまうから。

 弱い私に呆れて、みんなに嫌われちゃうのが一番最悪だから。


 それだけは阻止しなければならない。

 

 メドのお風呂も、アドの胸枕も、エンドの脇の下も、シーラちゃんのプリプリお尻も、全てが消えてなくなってしまうから。まだまだやりたい事はたくさんあるんだ。


 だから、



「このまま一気に行くよっ!」


 ダンッ!


 だから私も全力を出す。

 痛い体に鞭打って、勢いそのままで特攻する。


 今までの事が泡になって消えないように。

 私の大切な生きがいを守るために、心から勝利を目指す。



 そして―――― 



「うわ――――んっ! もう許してぇっ! 全部謝るから、観念するから、だからもう止めてぇ――っ! うわ――――んっ!」



 そして私の勝利が確定した。



「やった~っ! わたしが英雄さまに勝ったよぉーっ!」


 泣きじゃくる、蝶の英雄の情けない姿をみて、完全勝利を確信した。



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