第94話超高速自己再生能力!?関係ないよっ私には。
『グオォォォォッッッ!!!!!』
再生を終えたトロールは立ち上がり、その巨体を震わせ空に向け咆哮を上げる。
ビリビリと、その咆哮が空気を震わせ、その振動が私にも伝わってくる。
「あ―もうっ! 治った途端にうるさいんだよっ!」
ヒュンッ
『ガボォッ!?』
私はあまりのう騒音に、三角錐のスキル▲を展開して、その口を塞ぐ。
塞ぐというか、完全に口から頸部を貫通してしまったが。
まぁ、大人しくなればそれでいいんだけど。
「よっし、これで静かになった。それじゃ空中遊泳に行って見ようかっ!」
トロールの真下から、突き上げるように透明壁スキルを展開する。
ドゴ――――ンッ!!!!
『ッッッッッ!!!!』
トロールの15メートルの巨体は、その一撃で50メートル程上空に跳ね上がる。
「おっと、危ない、スキルの射程がギリギリになっちゃうよ」
足場の代わりにもう1機、透明壁スキル[□]を展開して巨体の姿を追う。
『ブボォ―――ッ!!』
トロールは未だに喉をスキルで貫かれたままで、身動きの取れない空中で、ジタバタと藻搔いている。
そこへ追いついた私は更に、
「もっと高くて、見た事もない景色を見せてあげるよっ!」
ドゴ――――ンッ!
『ッ!!』
2機目のスキルを展開して、さらにトロールを上空に打ち上げる。
もう一度、
ドゴ――――ンッ!!
そして、
ドゴ――――ンッ!!
更に、
ドゴ――――ンッ!!
繰り返し、繰り返し、トロールの巨体を上空に向けて打ち上げる。
それに離されないように、私もその後を追って、スキルを展開していく。
――
「ひゅ~っ! さすがに高いねっ! この高さで日本の某電波塔と同じくらいかな? 絶景っ! ではないなぁ~、周りはまだ薄暗いし」
せっかく異世界の景色を上空から堪能したかったけど、まだ夜は明けてはいない。
それを見て、ちょっとだけ落ち込む私。
今、私は、打ち上げたトロールの真上に着き、重力に任せて落下している。
高さは凡そ、300メートル位だ。
バタバタと衣装が風でなびいているが、寒さは殆ど感じない。
このゴスロリ衣装の効果のおかげだ。チート装備さまさまだ。
上空で周りを見渡してみても、今はまだ夜。特にきれいでも美しくもなかった。
月明かりで、映し出されて見えるのは、足元の暗い森と遠くの山の影だけ。
私とユーアが住む、コムケの街なんかはさすがに見えなかった。
「明るかったらきっときれいなんだろうね、この景色は」
風で乱れる、長い髪を抑えながらそう思った。
ユーアが住むこの世界は、きっと美しいものなんだろうって。
「今度ユーアでも連れてきたいねっ! 『怖くて楽しいよぉ! スミカお姉ちゃんっ!』て言って、私に抱き着いてくるんだよ、きっと。まあ連れてこようと思えばいつでもできるけどね。それよりも――――」
真下で地面に向かい、落下しているトロールに目を向ける。
「さすがに、強化された自己再生能力でも、全身が跡形もなく粉々になれば、絶対に再生はできないよね。アンタも」
自身の上に透明壁を展開して、それを蹴って真下のトロールに急降下する。
シュンッ
「それっ!」
ドゴォンッ!
『グゴッ!?』
その勢いのまま、トロールの背中に跳び蹴りをする。
更にトロールの落下速度が上がっていく。
次に再度透明壁を蹴って、今度はトロールを追い抜く。
その際にトロールを、真上から抑え込むように、20メートルサイズの平面体[□]の透明壁を展開する。
その数は『6機』いずれも重さは今の最大の『5t』になっている。
合計重量『30t』
それを背負ったトロールは、地上に向けて落下していく。
ビュオォォォォッッッ――――
風切り音を出しながら、30tもの重しを乗せたトロールは、その速度をグングンと上げていく。
『グオォォォォッッッ!!』
ガンッガンッ ガンッガンッ!!
速度を上げ落下するトロールは、背中を押されながらジタバタと抵抗するが、空中では身動きが取れないせいで、透明壁の範囲から脱出できない様子だった。
せいぜい壁に石斧を叩きつけるだけだった。
因みに喉を塞いでいたスキルは解除してある。
「よし」
トロールが動けないのを確認し、更に地上に向けて透明壁を蹴っていく。
ヒュンッ!
「っと!」
スタン
私は足場を何度か展開して、落下速度を緩め、トロールより先に地面に辿り着く。
風圧で髪がボサボサになってしまったが、手櫛で適当に直しながら空中を見上げる。
「ス、スミカお姉さまっ! そ、空を飛んでいましたよねっ! 今!」
「うんっ!うんっ!!」
『わうっ!』
そんな驚いた声が、森に近い所から聞こえてくる。
念のために透明壁で覆っていた、ナゴナタ姉妹とシルバーウルフだった。
「違うよ。魔法壁を足場にして、跳んで行ったんだよ。それよりも――――」
上空から視線を外さず、姉妹にそう説明する。
「はいっ? な、なら、トロールはなぜあんな上空に飛んで行ったんですかっ!? あ、あれもスミカお姉さまの魔法の効果なんですかっ!?」
「うんっ! うんっ! あれどうなったんだっ!」
こんな時なのに、姉妹の二人は私に食って掛かってくる。
余程の衝撃を受けたんだとは思うけど、
『う~ん』
今はいちいち説明するのが面倒くさい。
ていうか、時間がない。トロールが落ちて来るし。
「二人とも、それは追々話すから、今はちょっと待って。だってトロールを倒すのが先決でしょう。それにそろそろ地面に落ちて来るからね」
30tもの重りを背負ったトロールが落ちて来るであろう地点に、
視覚化した透明壁[■]を設置する。
300メートル以上の上空からの落下スピード。
20メートル四方の5tの透明壁を6機。合計30tの重し。
後は、私が地面に展開した透明壁で、あのトロールをプレスする作戦だ。
そんな物に挟まれたら、一瞬で全身が粉々に。
しかも地面には破壊不可能な、私のスキルの透明壁がある。
『きっと、粉々じゃすまないなぁ』
事の成り行きを見る為に、落下してくるトロールに注視する。
「みんなっ! 一応気を付けてっ! トロールが落ちて来るよっ!」
見上げながら透明壁の中の姉妹二人と、一匹にそう声を掛ける。
手振りで新たに設置した、視覚化した透明壁を指差しながら。
「えっ! まさか地面に叩きつけるつもりですか!?」
「スミカ姉っ! それだけじゃあいつは倒せないんじゃ! すぐ回復しちゃうよっ!」
『がうっ!』
二人と一匹は、それでは倒せないと判断したようで、不安そうな声を上げる。
まぁ、姉妹とオオカミには、トロールが背負う、巨大で透明な重しは見えていないのだから、その反応が当たり前だろう。
ただ単に地上に激突するようにしか見えないし。
「いいから黙って見ててっ! あと衝撃が来るから、身構えててっ!」
心配する姉妹とシルバーウルフに声を掛けるが、その異変に気付く。
「あれっ!?」
風圧なのか、元々の落下地点の予測が間違っていたのか、トロールと共に落ちてくる超重量の透明壁は、私が地面に設置した透明壁の軌道より
「えっ?」
「はっ?」
『わうっ?』
それは、そんな短い驚きの声を上げる透明壁の中の姉妹と一匹に向かって、超高速で落下していく。
グオォォォォッッッ――――
「あ、やばっ!」
そして、
ゴッガァ――――――ンッ!!
グジャァ――――――ッ!!!
姉妹と一匹が入っている、透明壁の
そしてその威力にトロールは破裂する。
「キャアァ――――ッッ!!」
「うっわァ――――ッッ!!」
『キャンッ!!』
「うわ、やっちゃった~っ!」
すぐさまその惨状を確認する。
そこには、辺りを真っ赤に染めた、姉妹たちが入った透明壁。
そして、私の足元には、あの腕輪がコロンと転がってきた。
それを拾い上げて、アイテムボックスに収納する。
「…………この後どうしよう」
姉妹たちを囲む、透明壁の屋根の隙間からは、その肉片やら、体液やらが、ボチャボチャと垂れ落ちてきている。グロイ。
そして、その周りにはかなりの異臭が。
更に、透明壁の天井には
中から見たら、さぞかしスプラッターだろう。
私はその惨状と、ショックで気絶している姉妹と一匹を見て、泣きたくなった。
「みんなが無事なのは良かったけど、そこに落ちると困る……」
それはどうスキルを解除しようかという事だった。
だって、解除した途端に、そのグロイ物体が、中の姉妹とオオカミに降りかかりそうだったから。それで起きたら、更に大変な事に。
「う~ん。どうしたらいいんだろう?」
トロールを倒す事よりも、私にとっては難しい問題だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます