第95話予定完遂!!急げユーアの元へっ!




「激突する前に、スキルを操作して落下地点を調整すれば良かったんだ」



 私はそれに今更ながらに気付く。

 その色々ぶちまけた予想外の惨状を見て。



 透明壁の中の姉妹とシルバーウルフは、激突の衝撃が大きかったせいか、それぞれが中で横たわっている。


 どうやら気絶しているようだった。



「まあ、起きたら起きたで、更に驚きそうだけど。この状況は」


 「はぁっ」とため息をつきながら、この状況を片付ける為に動き出した。



※※



 シュタタタタタタタッ!



 私はまだ暗い森を駆けていく。



 姉妹と一匹は目覚めさせず、頭上に視覚化した透明壁[■]に乗せている。

 目を覚まさせて、色々説明してる時間はなかったから。



 それとみんなが寝ている間に、トロールの回収も済ませた。

 全部私が貰うのもおかしいので、後で分け前はきちんと話し合うつもりだ。

 姉妹のふたりにも、オオカミにも手伝ってもらったし。


「………………ん」


 見上げると、木々の隙間から、薄っすらとだが光が見える。

 もう少しで、夜が明けてしまいそうだ。



「早く帰らないと、ユーアが目を覚ましちゃうよ」



 私は更に速度を上げる。



「ん、ここは!?」

「う~ん、ワタシたちは一体?」


『わうっ?』



 速度を上げたための風圧か、その振動で目が覚めてしまったのか、寝ぼけたような声が頭上から聞こえてきた。



「あ、ごめん、起こしちゃった?」


 なので、私は一度透明壁スキルを地面に降ろす――



 事はしない。


 だって、急いでるんだもん。

 いちいち降ろして話するのも、時間が勿体ない。


 だから――



「もっとスピードあげるから、舌噛まないように気を付けてねっ」


 そう告げて、更にスピードを上げていく。



「えっ!?」

「はぁ!?」


『わう!?』


「あ」


 あれ? これって最初から空中を走って行った方が速いんじゃない?

 姉妹には、特殊なスキルを披露しちゃったし、オオカミは問題ないし。


「ごめん間違った。やっぱり空から行くから、振り落とされないように気を付けて。私が操作してるから、大丈夫だとは思うけど一応ね」


「そ、空っ!?」

「えええっ!?」


『わうんっ!?』



 私は再度、頭上の二人と一匹にそう伝え、木々の抜けている箇所から森の上に出る。透明壁スキルを頭上に展開したまま。


 東の空がかすかに明るくなっている。

 夜明けはもうすぐだろう。



 私は何度も足場を展開して、森の上を駆けていく。

 50メートルの足場を何度も作りながら、橋のように渡っていく。



「あ、そうだ。これからビワの森の手前に、私たちが設営してる場所があるから、そこにナゴタもゴナタも連れて行くね。もちろんオオカミも」


 頭上の驚いてる雰囲気の姉妹とオオカミに声を掛ける。



「えっ!? そうなのですか?」

「そうなのかっ!?」


『ばうっ!?』


「うん、そう。だからその中では、私が戻るまでは大人しくしててね。顔見知りがいると思うけど、あまりちょっかい出さないで頂戴。あ、それとオオカミは途中の森の中で待っててもらうから。いきなり魔物が来たらみんな驚くだろうし」


 私は簡単にそう説明した。

 もう着いちゃいそうだし。



「えっ! それはいいのですが、スミカお姉さまは何処かにいかれるのですか? そのような内容に聞こえましたが、なら、私たちも一緒に――」


 設営地に着いた途端に、置いてけぼりされると思ったのだろう。

 心配そうな声で聞き返す、ナゴタの声が聞こえた。



「ううん、何処にも行かないよ。ただ着いたら、設営している家のお風呂に入ろうかなと思って。何となく汚れてる気がするし」


 別に一切チート防具の効果で、汚れなどないのだが、あの巨大トロールの惨状を見た後だとなんとなく全身を洗いたくなる。


 気分の問題と、乙女の嗜みなのだ。



「えっ! 設営地にお風呂があるのですかっ!?」

「お風呂っ!? だったらワタシたちも一緒にスミカ姉とっ!」


「それは、却下」


 にべもなく、バッサリと姉妹のその提案を断る。



「え、ええ、そ、そうですか、それは残念です……」

「そ、そうか、なら、仕方ないなぁ……」


 私の返答に、わかるくらいにトーンを落として返事をする姉妹。


『………………』


 だって、わかるでしょ?

 一緒に入ったらどうなるかなんて。


 姉妹の二人はいいかもしれない。



 何処に出ても(出しても)恥ずかしくない『トップランカー』なのだから。

 誰もが羨望するだろう。その未だ成長途中の大きな実を見て。


 なのに、そんな姉妹とお風呂に入った日には私は発狂する。

 この世は不公平だって、私は神を呪うだろう。もちろん異世界の。


『………………』


 私は走りながらも、足元を見てみる。


 そこには――――


「…………………クッ」



 視界良好で、断崖絶壁。

 足元の光景が良く見える。


 きっと上の姉妹の二人なら、つま先さえ見えないだろう。

 そのビッグマウンテンが邪魔をして、靴紐が緩んでいても見えないだろう。


 そう、まるでお相撲さんのように。

 よくは知らないけど。


 ただ私はそこに遮るもの、視界の邪魔になる「山」も何もなかった。

 山だけじゃなく、なだらかな丘陵さえも見えない。



「………………はぁ」


 いや、あるのはあるのだが、この



 これを脱ぐと高ランクの私が姿を現す。はず。

 それが本来の姿だが今は訳あって隠している。はず。


 姉妹とお風呂に入って、正体をばらしたくない。

 私はあくまでも『高ランク』の存在なんだから。



「ああ、私は一緒に入らないけど、今日は二人にも貸してあげるよ」


 とだけ告げる。

 姉妹だって年頃の乙女だ。


 それに、オオカミに、ペロペロされたところも洗い流したいだろう。

 戦闘の汚れとか、旅の汚れとか、色々あるし。

 だって、女の子だもん。



「はいっ! ありがとうございます。ふたりで入りますねっ!」

「うん、、ナゴ姉ちゃんと入らせてもらうよっ!」


 元気のよい声が聞こえる。

 ここからは見えないけど、きっと笑顔になってるんだろう。



『なんか「今日は」て強調してた気がするけど、気のせいだよね?』


 前方の森の木々が薄くなっている所が視界に映る。

 そしてその中心に2軒のレストエリアが見えた。

 見た感じ特に異常はないようだった。



 「やっと帰ってこれたよっ」


 オオカミは途中で降りて貰って、説明後に呼ぶようになっている。

 ついでにログマさんの所の生肉を置いてきた。



 私と姉妹はまだ薄暗い、レストエリアを設置している土地に入る。


「それじゃ、適当に休んでて、くれぐれもさっきの件よろしくね」



 私は姉妹に、そう言って、4人掛けテーブルセットと、ケーキタイプのレーション(ショートケーキとマロンケーキ)と果実水をそれぞれ姉妹の分を出す。



「はい、何から何までありがとうございます。スミカお姉さまっ!」

「ここでゆっくりしてるから、のんびりしてきてよ。スミカ姉っ!」


「うん、ありがとう二人とも。助かったよ。それじゃまた後で」



 二人にそう返事をして、ユーアが眠るレストエリアに入っていく。



『ただいまぁ~~~~ユーア』


 ユーアの可愛い寝顔を確認してから、お風呂場に急ぐのだった。





 こうして、澄香から語られたお話は終わりです。


 次回は現実時間に戻っての物語が再開します。



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