第327話従魔のハラミ日記




 ※今話は、前半「スミカ視点」

      後半「ハラミ視点」 のお話になっています。




 ビエ婆さんたちを孤児院に残したまま、ナゴタとゴナタを連れて街中を歩く。

 昼食を済ませたので、カイたちの様子を見に行くためだ。


 さすがに私が紹介をしておいて、顔を見せない訳にはいかないだろう。

 なので姉妹と3人で、大豆屋工房サリューに向かっている。


 因みに、ハラミは子供たちのお昼寝に巻き込まれて一緒に寝てしまった。

 お腹いっぱいになった子供たちが、その毛皮を抱いてお眠になったからだ。

 ハラミも随分と子供たちに、懐かれて人気があるようだった。



『元々人懐っこいってのもあるんだけど、それよりもユーアが連れてるって事が子供たちに安心感を与えてるんだよね、きっと』


 今では街中でハラミに驚く人たちも減ってきた。

 従魔の首輪もあるが、それでも魔物は人々に畏れられるものだ。



 そうならないのは、Bシスターズのメンバーって事もあるんだけど、それよりもハラミとユーアが一緒にいる場面が、多く目撃されてる事だと思う。


 それに、他の子供たちやナジメも背中に乗ってるのも大きかったりする。



『これはナジメの領主って立場より、子供たちと楽しそうにハラミと一緒にいる影響が大きいんだよね、きっと。ふふっ』


 無邪気な笑顔で、背に乗る子供たちを思い浮かべて口元が緩む。

 そしてその中に紛れるナジメに違和感がないのが可笑しかった。



「どうしたのですか?お姉さま。何か楽しそうですけど」

「うん」


 思い出し笑いが漏れてしまったのであろうか。

 隣のナゴタが顔を覗き込んでくる。


「うん、なんかハラミの事を思い出してね」 

「ハラミですか?」

「そう、何か魔物のくせして、子供たちに懐かれてるのが可笑しくてね」

「そうだなっ! あれだけ人間に慣れてるって変わってるもんなっ!」

「あと戦闘力も高いですし、魔法も扱えますし、本当に変わった魔物ですね」


 私の一言からゴナタも加わり、ハラミの話で盛り上がる。

 出会って数日だけど、今では立派な私たちの仲間だ。


 元々はシルバーウルフと言う魔物だと思っていたけど、恐らく違う。

 ただその正体については、今ではどうでもいいと思ってる。


 人間に危害を与えるどころか、その存在を街の人々に認められてきている。

 このまま何もなければ、きっと街中の子供たちのマスコットになるだろう。



「……ただ、やっぱり気になるよね?」

「うん、そうですね、お姉さま。私も気になります」

「ワタシも気になるなぁ? どんなに強いのか」


 

 マズナさんのお店に向かう道中は、そんなハラミの話題で盛り上がった。

 その数々の謎の能力と、未だに未知なその強さに。 




※※ ハラミ視点





『くしゅっ!』


「どうしたのハラミ、寒かったの? みんな起きちゃったから」


 心配そうに顔を覗き込んでくれるユーア姉さま。

 さっきまでわたしと寝ていた子供たちは、今はお片付けのお手伝い。


『わうっ!』


「違うの? なら良かったぁ。ハラミはみんなの体も心も暖めてくれるから、何かあったらボクもみんなも心配しちゃうからね」


 ガバッ!

 ギュッ


『わう?』

「だからボクがハラミを暖めてあげるよっ! だからいつまでも元気でいてねっ!」


 そう言ってユーア姉さまは、優しい笑みのまま抱きついて来ます。

 その体は小さいけど、わたしはそれだけで暖かくなれます。


『わうっ!』


 ぺろぺろ


 お礼とばかりに、ユーア姉さまの首筋を舐め上げます。


「きゃははっ! くすぐったいよぉっ!ハラミ~っ! わはははっ!」


 そんな他愛のないユーア姉さまのやり取りでさえ、わたしを暖かくしてくれます。


『わう~っ!』

「も、もう、どこ舐めてるのぉ~っ! ハラミっ!」


 だからわたしはユーア姉さまのそばで、生き続けたいと願います。


 それは命を救っていただいた恩だけではなく――――



「よ、よし、今度はボクの番だぞっ! こちょこちょこちょ」

『わ、わう?』


 ――ユーア姉さまの近くが、わたしの生涯の居場所と決めたから。


「あれ? くすぐったくないの? なら足の裏だよっ!」

『わう~~っ!』



 ――そして、この優しいお姉さまが、本当の仲間だったらいいなと思いました。



 抱きつくユーア姉さまの柔らかい髪を見てそう思いました。

 だってその髪色は、わたしの毛皮と同じきれいな銀色だったから。




◆◆



 ※ここからはハラミの思い出の話になります。

  時間軸は貴族街とスラムに訪れたあたりです。



 


 今日は朝からユーア姉さまたちと出かけました。


 そして貴族と呼ばれる人間の一人と戦いました。

 ユーア姉さまと赤いお姉さまとの3人で。

 

 その戦いには勝てましたが、わたしは悔しかったです。

 だって、あまりユーア姉さまのお役に立てなかったから。



 なのでわたしは帰ってきた後、住処の裏の林に狩りに来ました。

 もっとお役に立てるために強くなるために。それは


 ユーア姉さまが大好きな、あの蝶のお姉さまの様に。



『わう』


 それにしても、あの蝶のお姉さんは何者なのでしょうか?


 初めて会った時も、魔物のわたしに怯える事もなく話しかけてくれました。

 そんな人間は、ユーア姉さま以外にいなかったです。


 森の大きなトロールという魔物を簡単に倒すその強さ。

 ユーア姉さまを誰よりも守り通す、その意志の強さ。 


 わたしもユーア姉さまの様に、あの蝶のお姉さまに憧れます。

 そして追いつくために、今日も頑張ります。




 ザシュッ

 ガブッ

 

『がう?』


 数匹の獣を倒した後、何かが地面の中を動いているのを感じました。

 匂いは土の中なのでわかりません。


 それでも気配と振動で、数体の大きな生物だとわかります。

 ここにいる獣より、よほど狩りに向いていると思いました。


 わたしは狩りをした数々の獣を魔法で仕舞います。

 持って帰るとユーア姉さまが喜ぶからです。

 そしてそれはわたしの食料にもなるからです。



『ギギギギギッ』『ギギギギギッ』『ギギギギギッ』

『ギギギギギッ』『ギギギギギッ』『ギギギギギッ』



 全ての獣を片付け終わると、地面から細長く赤い生物が出てきました。


『がう』


 知ってます。

 これは虫と呼ばれる生物です。

 この森の中でもたまに見かけますから。


『わう?』


 ただ、こんなには大きくなかったです。

 ユーア姉さまの2倍くらいあるので。

 なのでこの生物も魔物なのでしょう。



『ガウッ!』


 わたしは姿勢を低くし、すぐに動ける態勢をとります。

 

『ギギギギギッ』 ×6


 そんな魔物たちはわたしには目もくれず、街の方に向かって行きます。

 わたしの威嚇には全くの無反応でした。

 どうやら敵と思われていないようです。



『ガルッ!』


 ただそれでもわたしは魔物に向かって行きます。

 今のわたしにちょうどいい、狩りの相手が現れたから。


 それに、魔物が向かう先にはユーア姉さまたちがいる大きな家があるから。



 シュタッ


 ガギィッ!


『ガウッ?』


 一番後ろの魔物に前爪で攻撃しましたが、跳ね返されました。

 今まで多くの魔物を切り裂いてきた自慢の爪なのに。


 ただよく見ると、その体は傷がついてました。

 だけど、そんな小さな傷では意味がありません。


『ギギギギギッ』『ギギギギギッ』 

 

 ビュンッ!


 魔物たちはわたしに気付き、鋭い尻尾の先で攻撃してきます。

 どうやら敵だと認識したようです。


『ガウッ!』


 ガギッ!


『ギギッ!』


 わたしは尻尾を避けながら、今度は牙で攻撃したけどさっきと一緒でした。

 小さな傷はつくけどそれだけです。ダメージはないです。

 今まで出会ったどの魔物よりも固いです。



『ガウッ!』


 自身の周りに氷の柱を4本出現させます。

 どれも先が鋭利な氷の槍の様な。


 ガンッ


『ギギッ?』


 わたしは1体を前足で払って、空中に浮かせます。

 それでも魔物には効いていません。


 なので、


 ヒュン ×4


 氷の柱を魔物の背中ではなく、裏側に撃ち込みます。

 きっと背中より柔らかいから。


 グサササッ!


『ギギィッ!』


 やっとわたしの攻撃が効いたようです。

 4本の氷の柱が、見事に魔物を串刺しにしたからです。


 ブンッ!


『ワウッ!?』


 それでもその魔物は、降りながら攻撃してきます。

 体中を氷の柱が突き刺さったままで。


 シュンッ


 わたしは躱しながら距離を取ります。

 そして更に4本の氷の柱を撃ち込みます。


 グサササッ!


『ギギィッ!』


『わう』


 合計で8本が突き刺さっても、魔物は地面に落ちながら威嚇してきます。

 ただ氷の柱が行動の邪魔のようで、地面で暴れているだけでした。



『がう…………』


 どうしましょう?

 思ったよりも手ごわい相手です。

 わたしの攻撃が殆ど通じません。


 このままでは逃げられてしまいます。



『ギギギギギッ』『ギギギギギッ』『ギギギギギッ』

『ギギギギギッ』『ギギギギギッ』


 気が付くと、残りの魔物がわたしを囲んでいました。

 そしてその速さに驚くわたしに、一斉に尻尾が振り下ろされます。

 

 ブブンッ!


『ッ!?』


 わたしはその攻撃を避け、前足や尻尾で払い、魔法で迎撃します。

 少しでも傷を負う訳にはいかないからです。


 ザッ!


 尻尾の攻撃の合間を抜けて、魔物たちの後ろに回り込みます。

 いくら魔物が素早くても、わたしには追いつけないです。


 でも囲いを抜けられたのはいいですが、これでは倒せません。

 こんな時、あの蝶のお姉さまだったらどうしたのでしょう?


 きっと、あっという間に倒してしまうでしょう。

 あの人が苦戦するところを想像できませんから。



『ガウゥゥ――――ッ!!』


 わたしは魔物に向かって咆哮します。


『ギギィッ!?』×6


 すると全ての魔物の動きが止まります。

 これは狩りに使う「威嚇の咆哮」と呼ばれる技です。


 わたしはすぐさま攻撃を再開します。

 きっとこの強さの魔物だと、すぐに動き出しそうだったからです。 



『ガウッ!』


 ガガギィンッ! ガギィンッ! ザクッ!


『ギギッ!』


 幾重もの攻撃に、一体の魔物の尻尾を切断できました。

 あの硬かった背中からです。


 これでわかったことがありました。


 この魔物の背中には細い線がある事を。

 そしてその線に沿って切断できたことも。


 なのでわたしは動きを止めてる間に氷を出現させます。

 今度は氷の柱ではなく、限界まで薄くした氷の剣です。



 わたしはそれで、魔物の背中の細い線を攻撃します。


 ザシュッ

『ギギギッ! ――』


 うまくいきました。見事に魔物を半分にできました。

 ただ一緒に氷の剣も砕けてしまいました。


 わたしは更に、4本の剣を作って攻撃します。

 半分になっても死なないのは分かっているからです。


『ギギギギギッ』『ギギギギギッ』『ギギギギギッ』


 次第に硬直から動き出す魔物たち。

 やはりこの魔物には「威嚇の咆哮」の効果は薄いみたいです。


『ガウッ!』


 木々を足場に、魔物の攻撃を掻い潜り、速さで牽制しながら氷の剣を撃ち込んでいきます。剣以外にも爪や牙をも使い、魔物を切断していきます。


 すると、どんどんと動きの鈍くなる魔物が増えていきます。

 たくさん細かくすると、動かなくなるみたいです。


 ただ弱点がわかっても、そこを攻撃する事が難しいです。

 細い線の部分だけしか、攻撃が通らないからです。


『ガウゥゥ――――ッ!!』


 それでも「威嚇の咆哮」と氷の剣と爪や牙で攻撃をします。

 まだ動けるのは半分以上いたからです。


『ガウッ!』


『ギギギッ!!』


 体力も魔力も絶え間なくなくなっていきます。

 それでも全力で戦います。


 この魔物はここで逃がしたら、ユーア姉さまに危険が及ぶかもしれないので。



――――――――



『ガウゥゥ――――ッ!!』


 ようやく全部を倒すことが出来ました。

 周りには細かくなって動かない、たくさんの虫だった塊だけ。


 わたしは首を動かして自分の体を確認します。


『がうっ!』


 大丈夫です。どこもケガしてません。汚れてもいません。


 これならユーア姉さまも心配しなくて済みそうです。

 ケガをしていたら、きっとあの方は悲しんでしまうから。

 わたしと出会った時の様に。



 ただ自慢の毛並みは乱れてしまいましたけど……。



 わたしは魔法で全ての虫の死骸を回収します。

 これで獣以外にもいいお土産が出来ました。



 こうして、わたしは狩りを終わりにして、森を後にしました。

 乱れた毛並みをユーア姉さまにぶらっしんぐをしてもらう為に帰ります。


『わふぅ~~っ!!』


 そしてお土産を喜んでくれる笑顔を楽しみにして。


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