第289話いざ昆虫採集へ
『ギギギギギ』『ギギギギギ』『ギギギギギ』
『ギギギギギ』『ギギギギギ』『ギギギギギ』
『ギギギギギ』『ギギギギギ』『ギギギギギ』
ガサガサと尻尾をもたげ、私を囲んでいくハサミ虫の魔物。
その数は23体。
いずれも体長は2メートルを超える巨大な虫。
甲殻は真っ赤で、頭は真っ黒。
胴体の裏側と足は真っ黄色で、尻尾にあるハサミは真っ青。
どの部分もカラフル過ぎて逆に気持ち悪い。
まるで自然から生まれ出た色ではないように。
「さあ、昆虫採集のはっじまっりだぁっ~!」
そう張り切って声を上げるが、実際はそんなテンションではない。
無理やりに上げてみただけだ。
虫なんて好きこのんで見たくもないし、女性だったら普通に毛嫌いするものだ。
私の格好も虫に近いけど、それは今は言わないで欲しい。
だって、私の装備はあんな虫みたいに気味悪くないからだ。
どっかのギルド長だって『蝶々の妖精』って言ってたし。
「よっと」
シュッ
シュッ
まずは、両手の偽フリスビーを一番近い魔物に投擲する。
ザザンッ
1体のハサミの根元と胴体を裂き、もれなく3分割する。
『ギギ、ギ、ギギ』
それでも息の根を止めるまでには至らない。
ここから倍以上、細切れにしなくてはならないからだ。
『ギギギギギ』『ギギギギギ』『ギギギギギ』
それを見て、他の虫たちも襲ってくる。
ただ一度に私を襲えるほど体が小さくない。
せいぜい一度に5匹が限界だ。
「次はそんな物騒なものちょん切っちゃおうかっ!」
頭上に待機していた3機の偽フリスビースキルを操作して、
襲い掛かる5匹のハサミ部分のみを切断する。
ザザザザザンッ
『ギギギッ』 ×5
ハサミを失った虫からは、白い体液が噴き出すが透明壁スキルで防ぐ。
「後ろにいるのも、もたもたしてると大事なところちょん切るよっ! そもそもハサミを人に向けちゃダメって習わなかったっ!」
最初に飛ばした2機と今の3機を操作し、後列にいる残りのハサミも切断する。
ザザザザザザザンッ――――
『ギ、ギギギギギッ――――』 ×19
「よし、これで攻撃手段の一つは全部封じたね」
『ギギギッ』『ギギギッ』『ギギギッ』
『ギギギッ』『ギギギッ』『ギギギッ』
それでも虫たちは首を振り回したり、体当たりを仕掛けてくる。
私はバックステップし、十メートル程距離を離す。
だが、途端に距離を詰めてきてすぐさま囲まれる。
「って、足も大きいせいか、やっぱり素早いね。それでもハサミはないから怖くないかな? 足に注意すれば、後は体を刻んでいくだけだもんね」
ガンッ
突進してきた3体を、地面から出した透明壁スキルで空中にカチ上げる。
「よっ!」
タンッ
私もそれに向かって跳躍し、偽短剣スキルで切り刻む。
ザザザザンッ――――
それを30片以上の塊にして、そのまま空中で回収する。
『ギギギッ』『ギギギッ』『ギギギッ』
『ギギギッ』『ギギギッ』『ギギギッ』
「おっ!」
下では、残りの20体が着地地点に先回りし、待ち構えている。
武器であるハサミはないけど、何でも噛み砕きそうな口顎が残っている。
「うん」
だけど特に慌てる必要などない。
透明壁スキルで足場を作り、更に上昇する。
「残りもバラバラにして、回収して終了だね」
空中に立ちながら、スキル5機を偽フリスビーにし、押しよせる20体全てを、丁寧にバラバラにしていく。あまり傷つけると価値が下がりそうだからだ。
それにしても随分と操作にも慣れてきた感じがする。
トンッ
空中より地面に足を付け、大量の破片を見渡すが動くものが無い。
どうやら全滅できたみたいだ。
「ふぅ、さて次はどう動く? 子分が全てやられちゃったけど」
虫たちを回収しながら索敵モードに切り替える。
そこにはひと際大きなマーカーが映っている。
平面でしか表示されないが、位置的には私が立ってるところだ。
「そろそろかな?」
念のため足場を作り、10メートル上空に移動する。
地響きが鳴っているので、そろそろこの真下付近に現れるはずだ。
このハサミ虫たちを操っていたボスの魔物が。
ズズゥ――
「っ!! きたっ!」
ズ、ズズズバァ――――ンッ!!
『ギギギギギギギギギギィ――――ッ!!!!』
辺り構わず轟音の類の奇声を上げながら、地面から龍の様に立ち昇る虫の魔物。
一見すると、穴から「ヒョコ」と体を出すチンアナゴに見えなくもない。
「うわぁ~~っ! こ、これはっ!」
ただ、あの可愛いチンアナゴはあんなに気味悪い多足ではないし、あそこまで自然を無視したカラフルな見た目ではない。それに触覚だってないし、気味悪く鳴く事もない。
それに一番の分かりやすい違いは――――
「ま、まさかこんなに巨大だとは思わなかったよっ!」
10メートル空中にいる私を見下ろす程のチンアナゴなんていない。
恐らく20メートルは近い大きさだ。太さは私の身長の倍以上。
『ギギギギギギィ――――ッ!!』
「っ! ってうるさいっ!」
黒光りする目で私を見下ろし、威嚇をする超巨大なハサミ虫の魔物。
クワガタの顎のような口をカチカチと鳴らしている。
そして、その巨大さよりももっと気になる事が
「やっぱり………… 来て正解だったよ」
私はそれを見て、予想が当たってた事を確信し、複雑な気分になる。
最後に現れた巨大な魔物の胴体に巻かれている、あるものを見て。
それはあろうことか、サロマ村とビワの森で戦った、3体の異常な個体が身に着けていたものに酷似している。
身の丈が通常より小さい、だが私の数倍速かったオークの魔物。
かたや身の丈が5メートルを超える、あり得ない大きさのオーク。
そして、超高速再生能力を持った巨大トロール。
その規格外の3体は、全て特殊な装飾の腕輪をしていた。
それと似たような装飾の物を、この魔物もしている。
だから、ただの大きさだけでは強さの指標にならない。
恐らく何かしらの能力を持っている可能性が高い。
「不死身とかは、さすがにないだろうけど、もし再生されても面倒だよね」
未だアイテムボックスの内で保管している謎の腕輪と、私を見下ろしている魔物の身に着けてるアイテムらしいものを、見比べてそう思った。
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