第288話大人たちの話と助ける理由
落ち着いてもらうために、みんなには温かいものと簡単な軽食を配る。
屋台で大量購入していたサンドイッチや味噌汁などを全員に配った。
「それじゃ話を聞きたいんだけど、……って、どうしたの?」
ビエ婆さんが味噌汁片手に難しい顔をしている。
他のみんなは珍しながらも美味しそうに口を付けてる中で。
「いや、お主は――――」
「あ、名前教えてなかったね。澄香って呼んでくれていいよ。敬称はいらないから」
「うむ、スミカ? じゃったな。お主はなぜわしたちを助けに来たんじゃ。わしらに払えるものなど無いというのに…… それと見た事もない明かりを灯すマジックアイテムといい、たくさんの食べ物といい、みなが毛嫌いするわしたちをなぜここまで世話するのじゃ」
「うん、それはね――――」
疑っているわけではないけど、信用できないって感じかな?
無報酬でここまでする私を、無条件で助けに来たって事に。
「それはね、虫が出るって、ボウから聞いたから昆虫採集にきたんだよ」
「こ、昆虫採集じゃと? その姿と関係あるのかい?」
「そう、私は虫を集めるのが趣味なんだ」
「そ、そうだったのか? スミカ姉ちゃんっ!」
「だ、だからあんなに簡単に……」
それを聞いて、反応する双子姉妹。
「そ、そうなの、変わった趣味の人もいるものねぇ…… 格好も蝶だし」
ニカさんは私をジロジロ見て納得している。
もしかして同じ昆虫仲間だとか思っているんだろうか。
「こほん、まぁ、そんな冗談はさておいて――」
「え? 冗談じゃったのかっ! ならその格好はっ?」
「へ? ならその格好は何なのよ?」
すかさずビエ婆さんとニカさんのツッコミが入る。
そこはスルーしてほしかった。
「う、これはこういった装備なんだよ。色々便利な」
「クル」と後ろを向き背中の羽根をパタパタ動かす。
「「ふ~ん………………」」
「………………」
ああ、これは絶対に信用していない目だ。
色々と証明したいけど、今は我慢する。
絶対に話が脱線して進まなくなるから。
「え~と、私がなんでここに来たかって話だったよね? それは私の住むところに近くて、大事な人や街に何か危険があっても嫌だからだよ。この街結構気に入ってるし」
「それはそうじゃが、それはスミカではなくても良かろう?」
「でも、それだって自分の危険とを天秤にかけたら、普通は来れないわ」
私の話を聞いても、大人の二人は微妙に納得できないようだった。
魔物を倒す力があっても、その目的に不安を感じているんだろう。
ただ何かの見返りを求める程、この街は裕福ではない。
だからよからぬ未来を想像しているのだろう。
身売りとか、強制労働とか、この街の解体とか。
「まぁね、それに他にも理由があって、小さな子供が不安になりながらも、一人で助けを呼びに来たんだよ? 厳つい大人たちがいる冒険者ギルドに。そんな子供を助けたいと思うのは普通でしょ?」
姉のボウの頭を撫でながらそう話す。
「あと、そんな姉を心配して、危険を顧みないで探す妹をほっとけないでしょ?」
今度は妹のホウの頭を撫でる。
そんな姉妹は、顔を見合わせて笑顔になった。
「わ、わしらみたいな、つまはじき者をそこまで思ってくれるとは……」
「そうね、そんな街の人なんていなかったし……」
ビエ婆さんとニカさんは、笑顔のボウとホウを見て頬を緩ます。
どうやら少しは信用してくれたみたいだ。
「あ、あともう一個、一番簡単な理由があるんだけど」
「なんじゃ? 更にわたしらを信じさせたいのか?」
代表してなのか、ビエばあちゃんが微笑みながら問い掛けてくる。
「うん、私にはこの街を襲った魔物を倒す力があるから。それが一番簡単な理由」
弛緩した空気の中、人差し指を立ててそう説明した。
「…………ふふ。わしたちには何も払えるものが無いのじゃが、それでもいいのかの? 今はこんな豆ぐらいしか渡すことは出来ぬが」
そう言って微笑んだまま、皮に包まれた緑色の何かの実らしいものを出す。
「……これって?」
渡されたものは茹でた後の枝豆だった。
「これは街の外れでも良く取れるし、栽培をして食料の足しにしておるのじゃよ。そんなに珍しいものなのか、この街では」
手に取って眺めているだけの私にビエ婆さんが聞いてくる。
「いや、別にそういう訳ではないんだよ。最近になって人気が出た食材なんだ。私の知り合いのお店でだけど……。これっていっぱいあるの?」
「あ、スミカ姉ちゃんっ! それはあの森にたくさんあるんだよ」
「森って? ああ、もしかして壁であっちの街とこっちを分けてた?」
「そうだぞ、スミカ姉ちゃんっ!」
ボウが嬉しそうに説明してくれた。
この街に入った時の、あの穴の開いた壁のあたりだろう。
確かに森があったけど、大豆があるのには気付かなかった。
写真では見た事あるけど、実物は見た事なかったから。
『それにしては、ナゴタたちが住むエリアと繋がってるのに、あっちには無かったのは何故だろう? ユーアが見たら一発でわかるだろうし』
そうは言っても、小さい山を一つ越えているので、そこに群生する植物も違いが出てくるのだろし、それか誰かがスラム側に種を蒔いた可能性もある。
「そうなんだ、教えてくれてありがとうね、ボウ。それと今飲んでいるスープも大豆から出来てるからね」
得意げなボウの顔を見ながらそう教える。
「え、この具沢山の茶色い美味しいスープが?」
ボウに引き続き、他のみんなも驚き味噌汁に視線が向く。
「そうだよ。作り方は私は知らないけど、枝豆以外にも色んな食材にできるんだよ。栄養価も高くて、畑のお肉って言われるぐらいで、街には専門店があるぐらいだからね」
そうは言っても、メルウちゃんのお店だけだけどね、今のところは。
「そ、そうじゃったのか、わしたちは煮るか、茹でるかしか知らなかった」
「そうよね、たくさんあって、ただの豆だから、そんな事考えた事ないわよね」
大人の二人も何やらショックを受けているようだ。
「でも、その色々ある作り方は、元々この国じゃ広まってなかったから仕方ないよ。確かシコツ国? って国では普通に売られているらしいけど」
慰めも含めて、うろ覚えで聞いたことを思い出す。
それにしてもいい事を聞いた。
「それじゃ、今度はここが安全って言った訳だけど――――」
みんなが美味しそうに、味噌汁を飲んでるのを見て話を戻す。
※※
私はみんなと別れて、今は街の中の建屋の屋根の上を駆けている。
それはもちろん趣味の昆虫採集の為。
じゃなくて、みんなが恐れる
「う~ん、それにしても殆ど情報がなかったな。それも当たり前って言えば、そうなんだよね。虫の魔物が出たのは今朝の話だし、未知の魔物から逃げるので精いっぱいだし」
ビエ婆さんもニカさんからも、虫に関する情報が殆ど無かった。
ボウと同じで、突然現れて無差別に襲われたって話だけだった。
「ただその中でも、残ったのは子供が多いって偶然なの? 大人が反撃したから? それとも子供より大人の方が良い理由とかある?」
何やら嫌な予感を感じながら、屋根の上から降り、街の外壁に向け歩く。
「ここならみんなから遠いし、意外と広いから戦いやすいかも」
10メートルを超える街を守る外壁の前に到着する。
この壁の周辺にも建物があるが、外壁から離れているので幾分広い。
これを超えるともう、コムケの街の外だ。
「私の予想だと、あの虫たちは地中を穴だらけにして、どこかを根城にしてるよね。さすがにさっきの虫たちが出てきた小屋の穴は入れないし、なら――――」
ドゴォ――――ンッ!!
視覚化した透明壁スキルをそのまま地面に叩きつける。
形は何の変哲もない、キューブのようなただの立方体。
ドゴォ――――ンッ!!
それを当り構わず叩きつける事、十数回続けていると……
((ギギギギギ――――))((ギギギギギ――――))
((ギギギギギ――――))((ギギギギギ――――))
「おっ! やっと来たね」
私を中心に、あの奇声が地中から聞こえ始める。
もちろん聞き間違える筈がない、あのハサミ虫の魔物だ。
「どうやら予想通りみたいだね、簡単におびき出せたし」
街の人や、ホウが襲われたのは恐らく物音のせいだと見当をつけていた。
朝の忙しい時間帯の街の人の多くの足音や物音。
それとホウが姉を探しに行った時も一緒だ。
だからここまでは、屋根の上を移動してきた。
そして地面を叩いて
全てをおびき出すために。
『ギギギギギ』『ギギギギギ』『ギギギギギ』
『ギギギギギ』『ギギギギギ』『ギギギギギ』
『ギギギギギ』『ギギギギギ』『ギギギギギ』
ぞろぞろと地面から穴を開け、虫の魔物が現れる。
その数は23体。
いずれも体長は2メートルを超える。
そしてハサミを頭上で構え、私に向かって威嚇している。
「おお、私一人なのに、随分と大層な歓迎だね。まぁ、それもそうか、あんなに大きな物音を立てたらヤバいのが来たって思うもんね、本能的に」
恐らく、地響きにも似た程の物音で慌ててやってきたんだろう。
「さあ、あんたらを退治して、さっさとボスにきてもらおうかっ!」
私は、頭上と両手に透明壁スキルを展開する。
『円形+湾曲』 ×5
その形は厚みの薄い、なんちゃってフリスビー。
それを両手と、周りに3機展開し待機する。
一度に数機を操る練習は、おじ様たちとの模擬戦で練習したので問題ない。
「それじゃ、昆虫採集の開始と行こうかっ!」
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