第503話謝罪と後悔
「何よあれはっ! まさかあんなものが我を狙ったって言うのっ!?」
外れたとはいえ、感じた魔力量に驚愕する。
速さ自体もかなりの脅威だったが、それよりも、内包された魔力が尋常ではなかった。
「そうじゃよ。あれがお主を攻撃したのじゃよ。まだ使いこなすのには、
土竜の首から顔を出し、ニカと誰かに微笑み掛けるナジメ。
その視線の先には、髪色と同じ赤いローブを纏う少女がいた。
「やっぱりまだ狙いが甘いわねっ! 自分の視点じゃないから難しいし、軌道を途中で変えられないから、その感覚に慣れないわねっ! でも今ので何となく調整したから、今度は直撃させるから覚悟しなさいよねっ!」
ビッとエンドに指を突きつけ、いつもの仁王立ちで啖呵を切るラブナ。
その背後には、エンドを攻撃した物と同じ物体が、2つ浮遊していた。
「さっきのはあなたが放ったって言うの?」
次は当てると豪語した、ラブナに詰問する。
「そうよ。どうせもうわかってると思うからタネを明かすけど、そこから魔法を撃ったのよ」
「この見た事もない、鏡のようなアイテムから?」
ラブナと自身の周りに浮く、直径20センチほどの物を注意深く見る。
「そうだって言ったじゃない。原理は知らないけど、そこに魔法を貯められて、自分の意志で放出できるのよ。ただ撃てるのは無属性の魔力の塊で、それぞれ一発が限界だし、本来の使い方と違うんだけど」
「一発が限界……ね? だけどこんなもの我は見た事もないわ…… でもこれはかなりレアなもののようね? もしかしてフーナが持ってる国宝級と同じものかしら?」
全てを把握しているわけではないが、記憶にないものなら、それで間違いないかと問いかける。
「さあ? そんな事知らないし、国宝級とかそんな大袈裟な物じゃないわよ? スミ姉がポンとくれたんだから。これから出会う
「スミ姉?……… ああ、あなたたちのリーダーね」
またこの名前が出た。
スミ姉ってのは、今までの話から、蝶の英雄の呼称だとわかってはいるが……
『本当、に何者なのよ? 新人冒険者だとは聞いてはいるけど、元とは言え、ナジメのようなAランクを手なずけているし、その他の仲間からも、絶大の信頼を寄せてるみたいだわ。それに――――』
再度、謎のアイテムを横目で見る。
やはり見覚えがないし、魔力を貯めて放つようなものも記憶にない。
『そんなものをサラッと渡すって、誰が見ても普通じゃないわ。けど単に度量が広いって訳ではないないようね。ラブナの話によると、この先を予見して渡しているようだし……』
これから出会う
ここだけ聞いたならば、そこまで深く考える事もない。
けどこのパーティーは、ナジメも含めて、予想より戦闘力が高い。
前衛職こそいないが、それでも数々の属性魔法と、経験値の高いナジメが指揮を取る事で、そこそこのバランスが取れている。
そこへ更にあのような物を渡すって事は――――
『…………蝶の英雄って冒険者も、この先を予期しているって事で間違いないわね。我の同族たちが住む国だけではなく、この国にもいずれ災害が訪れるであろうことを、英雄なりに察しているようね』
20年前、そして10年前にも起こった、悪夢のような災害を思い出す。
フーナは勿論、我たち家族も討伐に参加し、数々の功績を上げた代わりに、色々なものを失った。
そしてその10年後の現在に、またあの災害が繰り返されようとしている。
その予兆は既に現れ、各地に正体不明な魔物が出没している。
蝶の英雄は既にそれを承知で、自分たちの戦力を増強しているかのように映る。
そうでなければこのパーティーが、普通の魔物如きに苦戦を強いられる事など、あまり想像できないからだ。
「……なるほどね、確かにこれならメドが期待するのも頷けるわ。我たちが去った後の事を、多少なりとも任せられるぐらいには――――」
空から三人を見下ろし、自分なりに考えを纏める。
「もうっ! さっきからなにジロジロ見てるのよっ! そっちが仕掛けないなら、こっちから行くわよっ! 土よ風よアタシの敵を縫い――――」
「はあ? 何をいまさら普通の魔法なんて…… おっと危ない」
詠唱を始めたラブナではなく、後方より放たれた魔力弾を咄嗟に躱す。
「通常魔法を囮にして、背後から魔力弾を撃ってくるのはわかっていたわっ! これで浮いてる分の鏡の残弾はゼロねっ! この我を相手するのなら、もっと知恵を絞りなさい。ただでさえ――――」
「『風の縫い針』っ!」 ×20
エンドの小言の最中に、唱えていた魔法を放つラブナ。
小枝程のサイズの、風を纏った土の針を射出する。
「だから今更そんなもので、って、どこを狙ってるの?」
全く見当違いの方角に飛んで行った風の縫い針。
四方八方に飛び散り、エンドにはかすりもしなかった。
「それで終わりかしら? なら先ずはこの目障りな物を破壊して、逃げ惑うあなたたちの姿が良く見えるように、我が掃除してあげるわ」
漆黒の翼を一振りし、ラブナが建てた『土爪大柱』の一つに迫る。
片腕を振りかぶり、石の塔に向かって、巨大化したままの拳を撃ち込む。
ところが、
ドガンッ!
「なっ!? 破壊できないっ!?」
半分以上崩れはしたが、未だ形を残したままの塔の姿に驚く。
「はっ! まさかこれは、ラブナじゃなく、ナジメが?」
「そうじゃよ。ラブナは『土爪大柱』の魔法を唱えた
ズシンと土竜を動かし、エンドが触れている土の塔に近づき、得意げな笑みを浮かべるナジメ。
「だから何だって言うの? こんなもの拳を使わなくても、我の翼の一振りで、一刀両断してあげるわっ!」
拳を引き、漆黒の両翼を大きく広げるが、
「な、我の翼がっ!?」
翼を広げた瞬間、何かが翼に突き刺さり、一瞬動きが止まる。
それはラブナが先ほど放った『風の縫い針』と呼ばれる魔法だった。
「な、なぜっ、こんなものがっ!? 全て外れたのは確認したはずよっ! 我に見落としはなかったわっ! しかもなんで振り払えないのよっ!」
突如起こった不可解な出来事に、我を忘れて混乱するエンド。
ダメージは全くないが、風を纏った魔法の効果か、翼に張り付き剝がれない。
「うわ~っ! まだそんなに動けるのねっ! さすがは竜って奴よねっ! 本来ならばかなり動きが鈍くなるのに。でも的が大きくて当たっただけで良しとするわっ!」
魔法を当てたであろうラブナが、微妙な表情で悔しがる。
「これを撃ったのはラブナねっ! 一体何をしたって言うのっ!」
「何って、あそこから撃っただけよ」
エンドの後ろで変わらず浮いている、菱形の鏡のようなアイテムを指差す。
「はあっ!? だってもう残弾はないはずよっ! それとも英雄と呼ばれる者の仲間は、嘘や偽りを混ぜて、騙し討ちするのが得意なのかしらっ! だとしたら蝶の英雄も卑怯者だわっ!」
「はぁっ!? 勘違いしないでよねっ! アタシはあれに魔法を当てて跳ね返したのよっ!」
「跳ね返した? あの鏡が? 魔法を?」
「そうよっ! そもそも説明してないんだから、卑怯者呼ばれる筋合いはないわっ! それとも懇切丁寧に、敵であるあなたにタネを明かせって言うの? そんな間抜けな奴いないわよっ!」
「そ、それは…………」
ラブナの剣幕に押され、さすがのエンドも言い淀む。
ド正論を言われて、次の言葉が出てこなかった。
「そこんとこどうなのよっ!」
「い、今のは忘れて頂戴。あなたの言ってることが正しいわ。それとあなたたちを罵ったことを謝るわ。だからこの話は終わりにしてくれると助かるわ」
眼下の三人を見下ろし、間違いを素直に認めて頭を下げるエンドだったが、
「うぬ? お主にしては中々殊勝な態度じゃな? じゃが、今までの行いを考えると、正直、胡散臭い気もするが……」
「でもエンドちゃんはまだ小さいのに、きちんと謝れて偉いよねっ!」
「そんなの当たり前じゃない? だって勝手に早とちりして、アタシたちを卑怯者呼ばわりしたんだからっ! 本当だったら土下座ものよっ!」
『くっ! こ、こいつらっ! 本当にムカつくわっ!』
そんな三者三様の反応を見て、頭を下げた事を後悔したエンドであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます