第502話ナジメ竜の空中・・・戦?
「あははははは――――っ!」
「ぐふふふふふ――――っ!」
「ぷ、ぷぷぷぷ――――」
小さな体躯に不釣り合いな巨大な腕。更に、幼い容姿とはアンバランスな大きな翼を見て、とうとう我慢できずに吹き出した三人。
「くっ! い、いつまで笑ってるのよっ!」
チラチラとこっちを見ては、笑いを自重しない三人に、エンドが堪らず一喝する。
「いやいや、それは仕方なかろう。さすがに一瞬度肝を抜かれたが、そんな巨大な羽根を出したところで、逆に戦いにくいのは誰が見ても明らかじゃろうて」
「そりゃそうよっ! スミ姉みたいに華やかで、あまり主張しない羽根ならお洒落だけど、その大きさと形は自己主張し過ぎなのよっ! そんなの邪魔なだけじゃないのっ!」
「な、なにを言って? 我のこれは羽根ではなく、竜の翼よっ! しかも飾りでは――――」
「もう、二人ともやめなよぉっ! スミカお姉ちゃんの綺麗な羽根と違うからって、エンドちゃんが可哀そうだよっ!」
「なっ!?」
言い訳を挟む余地もなく、ユーアにフォローされてエンドは絶句する。
『く、くく、フーナ以外の人間に、この我が同情されるなんて……』
最後の一言が効いたのか、ユーアの姿を瞳に映し、微かに肩を震わす。
長年に渡り、人族を見てきたエンドだったが、ここまでの屈辱を受けたのは初めてだった。この姿を見た者は、人間に限らず、どの種族も怯え、恐怖に顔を歪ませていたと言うのに……
それはエンドの主の、あのフーナも例外ではなかった。
『……だと言うのに、この人間たちは――――』
余程鈍いのだろうか?
同じ人族でも、何故ここまで差があるのだろうか?
『それとも我のこの姿を上回る人間がいるって事かしら? 見た目の姿と形以上に、更に衝撃を受ける存在を、この人間たちは知っているのかしら? だとしたら……』
ふと頭をよぎったのは、この三人からたまに漏れる、とある人族の名。
何かにつけて、比較対象として名前が挙がる、蝶の英雄と呼ばれる新人冒険者。
『ならそういう事で間違いないわね。この三人は竜と言う存在よりも、更に規格外な存在を目の当たりにしているんだわ。我がフーナと出会ったように。だから恐怖だけでは、上書き出来ないのも納得できるわ』
正体を知っても尚、怯むどころか、自分たちのペースを崩さない三人。
冒険者歴が長いナジメならともかく、他の二人にも臆した様子がないのは、素直に称賛に値する事象だ。
「どうしたのじゃ? 何やらブツブツと言っておるが?」
「うふふ、何でもないわ。ちょっとだけ認識を改めていただけよ」
「認識じゃと? 一体なんの?」
「あなたたちのリーダーに少し興味が出ただけよ。それだけだから別に気にしないでちょうだい。これからの戦いに影響が出るわけでもないし、我の勝利は変わらないから」
口角を僅かに緩めながら、ナジメに返答するエンド。
「……そうか、なら続行するのじゃ! じゃが、お主だけが自在に空を飛べるとは思わぬ事じゃっ! 今のわしはお主と同じ竜なのじゃからなっ!」
エンドの勝利宣言にカチンときたようで、土竜の中で啖呵を切る。
「はぁ? そんな作り物の木偶の棒の竜と、我を一緒にしないでくれる? そもそもそんな矮小な翼で空なんて――――」
「ぬんっ! これならどうじゃ~っ!」
バサッ!
「えっ? 大きくっ!?」
小馬鹿にするエンドの前で、ナジメ竜の翼が大きく開かれた。
土魔法で巨大化させた翼で、バッサバッサと羽ばたいて見せるが、
「ふぬ~っ! 全然浮かぬのじゃっ! もっと大きさが必要なのじゃっ!」
「ゴホゴホッ! ちょ、ちょっとナジメっ! 土埃が舞うからバサバサしないでよっ!」
「ケホケホッ! 目にも入っちゃったよっ! だからもう止めてナジメちゃんっ!」
全く飛ばないどころか、仲間の二人に非難される。
「くっ! 何故じゃっ! わしの竜は完璧なはずじゃっ!」
「竜って、いつまでそこに拘っているのかしら? そもそも形を模しただけのガラクタで飛べるわけないじゃないの。翼は舵を取る役割が主で、体は魔力で浮かせているのよ」
「うぬぬ~」
更に、敵対していたエンドにもダメ出しされ、拳を握り悔しがる。
「うう~、もういい加減うるさいのじゃっ! 空は飛べなくとも、わしの竜が強い事を証明してやるのじゃっ!」
ブンッ!
空に浮かぶエンド目掛けて、怒りのままに腕を振り上げるナジメ竜。
勿論、ナジメ竜より上空にいるエンドには届かない。
ところが、
ギュルルル――――――ンッ!
「え?」
腕の付け根から一気に伸びて、余裕を浮かべていたエンドの表情が強張る。
「ちょ、いちいち土魔法で伸ばしたのっ!?」
「そうじゃっ! わしの竜を舐めるななのじゃっ!」
「それのどこが竜よっ! 腕が伸びる竜なんて聞いたことないわっ! あなたの方が竜を侮蔑しているわよっ!」
ズバンッ!
目前まで迫ってきたナジメ竜の腕を、漆黒の翼の一振りで切断する。
「んなっ!? そんないとも容易くっ! わしの能力が上乗せされていると言うのにっ!」
「そりゃそうよ。あなたの能力がいくら優れていると言っても、腕が伸び切ったところに攻撃したのだから、脆いのは当たり前よ」
わざとらしく肩をすくめて、薄目でナジメを見下ろす。
「くっ! わしの能力にそんな弱点があったとは、これは更に改良の余地があるのじゃ。今回の空中戦ではわしの竜の負けを認める。じゃが」
「はぁ? 負けるも何も、最初から勝負にもなってないわよ? しかもあれが空中戦って、いつまでふざけているのかし――――」
「じゃが、わしの頼もしい仲間が仇を取ってくれるのじゃっ! きっとお主を地上に引きずり下ろすのじゃっ! そこをわしの竜が止めを刺すのじゃっ! お主が空でも強者だと言うなら、その実力をわしたちに証明してみせるのじゃ」
薄笑いを浮かべるエンドをキッと睨み、盛大に吠えるナジメ。
それは端から見たら、ただの負け惜しみか、子供に全て丸投げした挙句、最後に美味しいところだけ持っていく、ダメな年長者のようだった。
「はぁ? 言われなくてもそのつもりよ。どうせあなたたちは満足に空を飛べないし、人間の魔法だって我にはそこまで脅威ではないわ。だから精々地面を這いつくばって、我の攻撃から必死に逃げ惑いなさ――――」
キュンッ!
「いっ? な、なに?」
何の前触れもなく、眼前を掠めていった何かに驚愕し、思わず空を見上げる。
地上ではなく明らかに、自身より上からの軌道の攻撃だった。
「な、何よあれは?――――」
言葉に詰まり、見上げる空には、見た事のない物体が浮いていた。
日差しを反射して輝くそれは、菱形【◇】の鏡のように見えた。それが2つ。
「ま、まさか、あれが我を狙ったとでもいうの? そもそも一体なんなのよあれは?…… もし仮に、直撃したとしたら――――」
長い時代を生きてきたエンドでも初見のものだった。
得体の知れない物を目の当たりにし、混乱すると同時に僅かに恐怖する。
反応が出来なかった事もそうだが、込められていた魔力が尋常ではないと感じたからだった。
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