第358話お仕事の報告と思わぬ遭遇




 ※前半はナゴタゴナタ姉妹の、姉のナゴタ視点のお話です。

  前話の早朝からのお話です。


  後半は澄香とロンドウィッチーズの面々のお話です。





「今日はどんな訓練をするんだい? ナゴ姉ちゃん」

「そうね、今日は街を出ないで、訓練場で実戦形式の模擬戦でもしてみる?」


 妹のゴナタと二人、目覚め始めた街の中を冒険者ギルドに向かって歩く。


「それいいなっ! だったら能力は禁止した方が良いなっ!」


 私の案を聞いて、パッと笑顔に変わるゴナタ。


「それがいいかしらね。ただ今日はお姉さまの知り合いで、腕に覚えのある年配の貴族の方が来るから、その実力次第ね」

「ああ、ワタシたちの代わりに指導してくれてた人たちだなっ! 確かムツアカさん? だっけか?」

「そうね。ただ今日はそのムツアカさんだけしか顔を出さないわね。他の方は色々と忙しいらしいから」

「そうなんだ。それでもお姉ぇみたいに強かったらいいなっ!」

「いや、それはないからね、ゴナちゃん」


 ブンブンと、嬉しそうに手を振って歩くゴナタに突っ込む。


「うん、それはわかってるけど、ただ強い人と戦いたいって事なんだよなっ!」

「ああ、そう言う事ね。なら私もゴナちゃんと同じ意見ね。強い人と戦ってお姉さまに追いつきたいって事よね?」

「そうなんだけど、でもお姉ぇに追いつくって何だろうな?」


 ここで急に話を中断し、腕を組み考え込むゴナタ。

 珍しく悩んでいるようだ。


「……そうよね、追い付くなんて簡単に言っちゃったけど、それは不可能なのかもしれないわね?」

 

「あ、やっぱりナゴ姉ちゃんも、そう思うかい?」


 私の呟きにも似た、独り言に反応するゴナタ。


「うん、もしかしたら私たちの、特異な能力の部分だけなら、今後追い付けるかもしれないけど、それだけじゃないものね? お姉さまは―― ん?」

「そうだな、それだけじゃ全然ダメだよなぁ? お姉ぇは―― え?」


 ここで私たちはお互いの顔を見合わす。

 きっと双子らしく思っている事は一緒なんだろう。


「「だって、お姉さま(お姉ぇ)は、全てに於いて最高の存在だものね(だからなっ!) 追いつくなんておこがましいわ(よなっ!)」


 声を揃えて言ったあとで、自然と笑顔で見つめ合う。


 私たち姉妹はお姉さまに心酔している。

 いや、崇拝してるって言った方が当てはまる。


 お姉さまを讃えて、忠誠を誓い、一生付いていくと決めている。

 そしてお姉さまの隣で、肩を並べて歩きたい。


 だから私たち姉妹は強さを求める。

 そこだけが、私たちが誇れる部分だからだ。


 そして、お姉さま(誇り)を守る事も、私たちの使命だ。

 それを愚弄するものが現れたら容赦はしない。


 例え、それで過去の過ちを繰り返したとしても構わない。

 それ程のものを私たちは貰ったのだから。


 そう姉妹で話し合って既に心に決めている。



 ただこの時は、そんな輩が現れるとは思わなかったけど。



※※



「へぇ~、朝の時間は意外と混んでるのね? 辺境って聞いてた割にはさ」


 ギルドに着くなり、微妙な感想を言うリブ。

 それって、褒めてるの? 聞く人が聞いたら怒られるよ?


 なんて、思っていると……


「ス、スミカさんっ! お、おはようございますっ!」

「え? おはよ。誰?」

「え、英雄さまっ! おはようですっ!」

「お、おはよう?」

「スミカさまっ! 今日はお早いんですねっ!」

「う、うん。まぁ、ね」 

「スミカの嬢ちゃん? 珍しいな、こんな時間に。おはよう」

「あ、ギョウソ。おはよー」


 最後だけ見知った顔だったので、手を軽く上げて返す。


「なんか、知らない人たちに挨拶されたんだけど。みんな冒険者だよね?」


 チラチラと私たちの様子を伺っている人だかりを見る。


「それはそうだろう。と言うか、嬢ちゃんは未だに自覚がないのか?」

「自覚? はて?」


 ギョウソの問いかけに軽く首を傾げる。


「はぁ、そうだよな。嬢ちゃんだものな…… いいか、お前は有名人だ。そして冒険者たちの憧れだ。それが珍しくこんな時間に来たら、普通は挨拶するだろう。 これでいいか?」


 溜息交じりだけど、掻い摘んで説明してくれる碧眼の男ギョウソ。

 さすがこの街の冒険者をまとめる男だ。



「ああ、なるほどね。なら身構えなくて良かったんだ」

「いや、身構える意味がわからないぞ。お前は何をするつもりだったんだ?」


 ジロリとギョウソに睨まれる。

 そうは言っても、口元は緩んでるけど。


「ん~、それは相手次第?」


 人差し指を立てながら答える。


「安心した。そんな奴は絶対にいないからな。誰も元とはいえ、Aランクに勝てる冒険者に挑もうって奴はいないだろうな。それとBランク姉妹をも素手で倒す嬢ちゃんにはな」


 ニヤニヤしながら返答するギョウソ。

 その表情から軽口に乗ってたんだってわかる。



「ね、ねぇ、スミカ。あなた本当に有名人なのね。みんなこっち見てるわよ? ついでに私たちも注目されてて居心地悪いんだけど」


「よそ者が嫌いなんでしょうか?」

「注目されてます」


 後ろからツンツンと背中を差し、耳元で訴えるリブたち3人。


「ん? そうだね。きっとリブたちが珍しいんだよ。魔法使いの格好だから。なら2階に上がろうか? そこなら誰も来ないから」


 ヒソヒソと話す3人にそう提案する。


「は? 2階って何さ? そこにも受付けあるの」


 キョトンとした表情で聞き返す。


「うん、あるよ。私はいつもそこだから。それじゃ行こうか」


「う、うん」

「はいお願いします。スミカさん」

「はいです」


 ギョウソに軽くリブたちの事を紹介して2階に上がる。

 厳つい男たちに注目されてたら落ち着かないだろうしね。




「おうッ! 今日はやけに早えなッ! 昨日の報告かッ?」

「おはようございます。スミカさんとロンドウィッチーズの皆さん」


 書斎の扉をノックして中に入る。

 ルーギルもクレハンも仕事中らしかったが、笑顔で迎え入れてくれた。

 

 

「うん、そんな感じ。それとちょっと相談もあるんだけど。 ん? なに?」

「あ、あのさ、クレハンさんはわかるんだけど、もう一人の人は?」


 ルーギルにそう切り出すと、リブがまた背中をつついてくる。


「ああ、この見た目野蛮人は――――」

「おうッ! お前たちがロアジムさんが依頼したパーティーだなッ! 俺はこの冒険者ギルドのギルド長のルーギルだッ! よろしくな」


 私からの自己紹介を遮って、勝手に自己紹介するルーギル。

 忙しそうだから説明してあげようと思っていたのに無意味だった。



「うえっ!? こ、今度はギルド長っ! ス、スミカ、受付ってここなの?」


 また騒ぎ始めるリブ。

 アタフタと私とルーギルたちを視線が往復している。


「そうだって。ここでも普通にやってくれるから。混んでるの嫌でしょ?」


 何故か、ニヤニヤしているルーギルたちを見て答える。


「ふ、普通じゃないわよっ! ギルドのトップとナンバー2が一人の冒険者の為に、わざわざこんなっ!」

「スミカさんの常識がおかしいです」

「スミカさんは、ある意味恐ろしいです……」


 信じられないと言った様相で、私を見る3人。


「ん~、そうは言っても、冒険者証を受け取ったのもここだし、一昨日もラブナと来たし、ユーアだってここでランクアップしたし。今更言われても、ね?」


 同意を求めてルーギルたちの方を見る。


「んあ、その認識で構わねぇぞ、スミカたちバタフライシスターズの面々はなッ」

「スミカさんの場合は、下で話せない内容もあるので、こっちとしてもそれがいいんです」


 頷きながら笑顔でリブたちにそう説明してくれた。

 これで私が正しいって証明されただろう。



「はぁ~~ もういいわ。この街でのスミカの扱いが何となくわかったから。もうイチイチ驚くのにも疲れたしね。そんなものだって自分を納得させる事にするわ。はぁ」


 深い溜息と共に、肩をすくめるリブ。

 その後ろではマハチとサワラが無言で頷いていた。



「そんな事はいいから、早く報告しようよ。街を案内して欲しいんでしょ?」

「そ、そんな事ってっ! あっ! 思わずまた突っ込むとこだったわっ!」



 そうして、騒がしい中で、私たちは報告を終わらせたのだった。

 まぁ、主にうるさかったのはリブだけなんだけど。





「まだお昼まで時間あるから、少し街を案内する?」


 ギルドを出て歩きながら聞いてみる。


「ふぅ、そうね。お願いしようかしら?」

「はい…………ふぅ」

「ふぅ………………」


「なに? 何か疲れてない?」


 遠くを見て軽く息を吐くリブたち。


「そりゃそうよ。普通の報告より十倍くらい疲れたわよ。直接ギルドの重鎮2人に報告したんだから。気が抜けなかったわよ」


「そう? ルーギルは見た目と口調はあれだけど、冒険者思いのいいギルド長だよ? クレハンも堅苦しく見えて、結構柔軟な考え方だし」


 今度は肩をほぐす様に歩くリブに伝える。


「もうそんな意味の話じゃないんだけど…… まぁ、もう今はいいわ。それよりも冷たいものある? 緊張してノドが渇いちゃったわ」


「中で売ってるけど、混んでるから私のをあげるよ。はい」


 リブも含めて、マハチとサワラにも冷えた果実水を渡す。


「……冷たいままってのもおかしいけど、今はありがとうスミカ」

「ありがとうございます。スミカさん。冷たい」

「冷たいです。でもありがとうです」


 感想を言い合って飲み始める3人。

 

「あっ! そうだっ! 私、ルーギルに相談するの忘れてたっ! それとお土産渡そうと思ってたんだった」


 ギルドを少し離れた所で思い出し、立ち止まる。


「なに? 大事な話?」

「うん。お土産はいつでもいいんだけど、相談は急ぎかも」

「もう、よくそんなんでリーダー何かやってるわねっ! ここらで待ってるからさっさと行ってきなさいよっ!」


 バンと背中を叩かれ送りだされる。


「痛っ! うん、わかった。適当に時間潰してて」


 リブたちから離れ、ギルドに向かって走り出す。

 幸いすぐに思い出したので、目と鼻の先だ。



「あれでロアジムさんにもギルドにも、認められてるんだから不思議よね? 戦いの時も緊張感がないって言うか、真剣味が足りないって言うか、パーティーを率いる器量が薄いって言うかねぇ」


 小さな蝶の背中を見送った後で、声に出してふと漏らす。

 ただそれでも周りを安心させる魅力があるんだけど。

 何て心の中では付け足しながら。



「うふふ。確かにいつもそんな感じですね、スミカさんは」

「くふふ。スミカさん、いつも余裕ある感じ出てるです」


 どうやらマハチとサワラも同じような印象を持っていたらしい。

 クスっと笑って微笑んでいる。


「まぁ、あんなでも実力は申し分ないのよね―――― って、どうしたのっ! マハチとサワラっ!?」


 急に表情を一変させた二人に声を掛ける。


 そんな二人は強張った表情で、どこか一点を見つめている。

 目は見開き、顔色は蒼白になり、口元はわなわなと震えている。


「う、うう、あの人たちは……」

「あああ、な、何でこんな街にいるです……」


「っ!? ま、まさかっ!」


 私は二人が向ける視線の先に振り返る。

 ここまで怯えさせる存在を私は知っているから。



「…………あの姉妹で間違いないの? 二人とも」


 二人の視線の先を追い、マハチとサワラに確認する。


「………………コク」

「………………コクコク」


 視線を外さずに、首だけ振って答える二人。

 二人の細い肩が恐怖で微かに震えていた。

 なら間違いないだろう。



「…………そう、わかったわ。ならここは私の出番って事だ」


 私たちの視線に気付いたのか、相手とこちらの視線がぶつかる。

 向こうの視線も私と遜色ない程鋭い物だった。



『……何でか知らないけど、あいつらもやる気っぽいわね。なら受けて立とうじゃないの。マハチとサワラの未来を変えた冒険者狩りの姉妹、それを私が退治してやるんだからさっ!』


 その為に私は、二人の嫁を守れる強さを研鑽してきたんだから。


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