第567話マヤトテコンビと悪食メーサの攻防
※スミカ視点 (メーサの胎内の謎の空間の中)
「マジか…………」
薄暗く、広大な液体の中で、私の独り言だけが寂しく響き渡る。
ここを脱出しようと、スキルを使い暴れてみたが、全く意味を成さず。
MAP機能も、もう一度試してみたが、これも徒労に終わった。
「はぁ~」
何の成果も出せず、時間だけが過ぎていくことに、苛立ちと焦燥感を覚える。
『…………ケロ?』
「あ、起こしちゃった? ごめんね」
私の焦りが伝わったのか、フードの中で寝ていた桃ちゃんが目を覚ます。
『ケロロ?』
「え? どうしたのかって? どうやらここに閉じ込められたみたいなんだよ。脱出しようにも出口がないし、装備で転移しようにも、MAPに何も映らないから、ここを出られないんだよね」
こんな事態なのに『蝶道』が使えないのは予想外だった。
移動先を指定しようにも、MAPに何も映ってないんじゃ不可能だ。
いや、正確には言えば映って
オートマッピングも問題なく機能している。
ただし、映し出しているのは、異次元とも異空間とも思える、この謎の空間だ。
『きっとこの魔物は、アイテムボックスとか、マジックバッグとかの技術を応用して創られた、ジェムの魔物の一種だと思う。マヤメのマスターの後に、その役職に就いた、優秀でサイコな科学者がいるって聞いたことがあるから』
確か名前は『マカス』だったはず。
プレイヤーなのか、この世界の住人なのかは今のところ不明だ。
ただその科学者が、魔物を魔改造し、ジェムの魔物を生み出し、この世界の人々から、何かしらのエネルギーを集めているのは確かだ。
その他にも、怪しげなアイテムや、武器や防具をバラ撒いているらしい。
『ケロロ』
「あ、ほったらかしにしちゃってごめんね? ちょっと混乱しちゃってさ。早くここから出ないといけないのに、何も思い浮かばなくってさ」
正直焦る。
外の状況が全く分からず、脱出もままならないから。
『ケロロ?』
「うん、マヤメたちが心配なんだよ。簡単に捕まるわけはないと思うんだけど…………」
外の二人は、私が捕食される、一部始終を目撃しているわけだし、マヤメの影の能力や、トテラの身体能力があれば、そうそう下手を打つことはないと思う。
ただ気掛かりなのは、この魔物がジェムの魔物の可能性が高い事。
だとしたら、私が抜けた事で、苦戦はもとより、最悪は――――
『ケロッ!』
「え?」
『ケロロッ!』
「あ、うん、そうだよね、桃ちゃんありがとう。なら私も信じてみるよ。あの二人が手を組んで、何とかこの状況を打破してくれることをね」
かなり悔しいが、今の私に出来る事は、ほぼ何もない。
なら、外にいる二人を信じて待つしか、今は出来ない。
「……うん、今更だけど、やっぱり仲間っていいかも。こんな事、この世界に来る前の『クリア・フレーバー』の私だったら、考えられない事だよ」
大事な家族を守るために強くなった。
その為には、誰にも縋らない、圧倒的な強さを手に入れる必要があった。
だけど今は――――
「あ、マヤメたちのおかげで外に出られたら、二人にはとっておきをご馳走しようか? シスターズの慰労会でみんなが持ち寄った、美味しい料理がまだ残ってるからね」
『ケロロッ!』
――――だけど今は、他人を信頼し、身を委ねる事に、安穏さを感じていた。
ただ、この心境の変化こそが、心が弱くなったと、卑下する人もいるだろう。
他人を信じるより、自分で勝ち取る事こそ、弱肉強食の摂理なんだと、声高に訴える人もいるだろう。
だがそれは逆だ。
自分以外の誰かを信じる事こそ、心の強さが必要になるから。
自分以上に誰かを信じるには、心の強さが大事だから。
「ま、そんな訳だから、こっちでも色々試しながら、二人でマヤメたちを待っていようか? あ、喉乾いたなら、美味しいお水あるよ?」
『ケロロ~♪』
桃ちゃんに水を飲ませながら、自分でも一口、口に含む。
心配事はまだ尽きないが、水と一緒にそんな気持ちを飲み込み、不安感に蓋をする。
『ケロロロ~♪』
「ふふ」
なんて、桃ちゃんと一緒に一息ついていると――――
『ゲロロッ!?』
ドプンッ!
「え?」
何処かで見たような人影が、突然目の前に落ちてきた。
「あれ、って? まさ…… か?」
『ケロッ!』
――――――――
時は少し遡り、その頃の、マヤメたちとメーサの戦いは、と言うと、
『やっぱりコイツらやりづらいじゃんっ!』
マヤトテの急造コンビ相手に、悪食のメーサは攻めあぐねていた。
マヤメ一人だけなら、エナジーが尽きるまで追い込み、捕食するだけだが、トテラと言う、兎族の出来損ないが、かなりウザイ。
仕掛ける素振りを見せては、すぐさま距離を取り、ピョンピョンと跳ね回りながら、何度もちょっかいを出してくる。
ぴょんっ
「わはははーっ! こっちだよ~、サメちゃーんっ!」
「いい加減鬱陶しいじゃんっ! この駄ウサギっ!」
「ん、マヤもいるの忘れない」
シュッ
「お前も本当面倒くさいじゃんっ! 能面女がっ!」
トテラを追うとマヤメが影から、マヤメを狙うとトテラが距離を詰め、一気に攻められる。
もちろん、捕食しやすいのは、地上を跳ねるだけのトテラの方だったが、今や――――
タタタンッ!
「うん、これなら全然いけるよっ!」
マヤメの投げた、影のナイフを足場に、立体的な動きを可能としたことで、トテラの存在も非常に厄介なものとなっていた。
「シャーっ!」
バクンッ!
ナイフもろとも、周囲の空間ごとトテラを捕食する。
ぴょぴょんっ!
「あ、ぶなーっ!」
が、メーサが動いた瞬間には、既にその姿はなく、ナイフからナイフを伝い、一瞬でその場を離脱していた。
そんなトテラの武器は、脚力だけではなく、生存本能や野生の勘にも似た、危機察知能力もかなり高かった。
「ん」
シュン
更にメーサを苦しめるは、
ガキンッ!
「ちっ! 危ないじゃんっ!」
「ん、おしいっ!」
トテラに気を取られると、その影からマヤメが姿を現し、斬り付けてくる。
そんな攻防を幾度も繰り返し、マヤメのエナジーを削るどころか、逆にメーサの消耗が、加速度的に増えていった。
『ち、本当にこいつらイライラするじゃんっ! それとアイツはどこ行ったじゃんっ!』
相性の悪さもそうだが、自分の相棒がいない事に、更に苛立ちが募る。
半ば、強制的に駆り出されたとは言え、任務は任務だ。
予想外が重なっても、役目を全うしなければならないと言うのに。
純粋な戦闘力では、自分が遥か上なのは間違いない。
半端な攻撃や小細工ならば、丸ごと蹴散らし、捕食するだけだった。
だが、相性の悪い相手が二人も揃えば話が違ってくる。
劣勢や苦戦とは程遠いが、難戦なのは間違いなかった。
この世界に来ている筈の、あの実験体がいれば、また違った状況になったかもしれない。
「それもこれも、全部アイツとマカスのせいじゃんっ!」
ズボッ
「あ、サメちゃんが潜ったっ!」
何かを叫びながら、地面を捕食し、一瞬で姿を消したメーサ。
空いた穴に砂が流れ込み、瞬く間にその形跡を失くす。
「ん、今度は下から来るっ!」
「うん、そうみたいだねっ! でもアタシには効かないよっ!」
マヤメに手を振り答えながら、トテラは長耳をピンと立てる。
どうやら優れた聴力を頼りに、メーサの居場所を探知するようだったが、
「お? なんか、めちゃくちゃ砂の中グルグルしてる?」
地中を無作為に動き回っているようで、簡単には居場所を特定できなかった。
ザッ
「んっ! トテ――――」
「うん、わかってるっ!」
ぴょんっ
それでも、マヤメの警告よりも先に動き、その場を離脱する。
背後から聞こえた、小さな物音を聞き取り、緊急回避するが、
「わっ! また腕が追いかけてきたっ! でもこれぐらいならっ!」
地中から延びる二本の腕が、トテラを執拗に狙ってくるが、その全てを軽やかに躱していく。
「ん、トテラ、離れすぎっ!」
今の攻防で、自分との距離が開いたことに、焦りを覚えるマヤメ。
すぐさまククリナイフを構え、後を追いかけようと、砂地を蹴るが、
「よし、上手くいったじゃんっ! 早速お前から捕食するじゃんっ!」
その矢先、マヤメの目の前に、サメの少女が姿を現す。
「ん、なんでっ!? だって今トテラを――――」
追いかけていた筈。
遠目に見えるは、二本のサメ腕を回避し、反撃を続けるトテラの姿。
従って、その地中には、それを追いかける本体が潜んでいるはず。
ナノになぜ、目の前には――――
「んっ! なんで腕あるっ!?」
両腕を腰に手を当て、堂々と立っているメーサがいた。
「下位だったマヤメは知らないじゃんね。元々アタイの子サメたちは着脱式で、単独行動も可能だったじゃんよ。このファスナーを外して放流すれば、獲物を勝手に捕まえてくれるじゃんね」
そのメーサの肩口からは、サメ腕とは違う、白い両腕が生えていた。
いや、生えていると言うよりかは、サメの袖を外したそれが本来のモノなのだろう。
「んっ!」
シュッ
「無駄じゃんっ!」
パシッ
メーサ目掛けて投げたナイフが、片手で容易く掴まれる。
「ふふ、お前の弱点は知ってるじゃんよ。お前の能力では、アタイたちの影には潜れないじゃんね。潜れるのは、せいぜい自分の武器か、あのウサギだけじゃんね」
「ん……」
「でも、その頼りのウサギは、アタイの子サメたちと遊んでいる最中。この距離では影も届かないし、今使えるのは、せいぜいこのナイフだけじゃんよ」
手に握ったマヤメのナイフを、これ見よがしに振って見せる。
「ん……」
「で、このナイフもアタイが持っていれば無駄じゃんね。触れられている状態では、能力が使えない事も把握してるじゃんよ」
「………………」
「それと伝えてなかったが、アタイはここで待ち伏せしてる間に、お前のマスターの工房らしきものを見付けたじゃんね。だからお前から聞き出す必要もなくなったじゃんよ」
「っ!?」
「そんな訳で、お前を始末してから、次にあの駄ウサギを捕食して、その後でお前のマスターの――――」
「ん、そんな事させないっ!」
シュッ
メーサに先を言わせぬまま、2本目のナイフを投擲する。
今度はメーサ本人ではなく、その頭上を目掛けて。
だが、これも――――
ガシッ
「んっ! 伸びたっ!?」
空いている左腕に掴まれ、あっけなく阻止されてしまう。
伸縮自在のサメの腕の方ではなく、何故か本来の腕の方で。
「お、そんなに驚く事ないじゃん? 元々アタイの腕は伸びるじゃんよ。お前たちが今まで見てたのは、伸びた子サメじゃなく、その中で伸びたアタイの腕だったじゃんね」
「………………」
「お? これ以上は無駄だって、どうやら観念したみたいじゃんね。なら、そのまま大人しく捕食されるじゃんねっ!」
いつもの無表情のまま、微動だにしないマヤメ。
遠くを見つめているだけで、反撃の素振りも、抵抗する気配も感じない。
「…………ならいただくじゃんよっ!」
そんなマヤメの態度と表情に、どこか軽い違和感を感じながらも、
「シャ――――ッ!」
パクンッ
メーサは、マヤメの立っていた地面ごと、広範囲に渡って丸飲みにした。
『うっしっし、これで後は、あの駄ウサギだけじゃんねっ!』
ドプンッ!
こうして、最大戦力のスミカに続いて、※※※も、メーサに捕食されたのだった。
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