第129話姉妹のケジメとラブナの気持ち





 私たちはたくさんの歓声に包まれていた。

 こんなに大勢から注目されるのも、歓声も受けるのも人生で初めての事だった。


『いや、これより大勢からの視線を浴びた事はあったかな? 卒業証書授与の時とか、あ、でもあれはどっちかって言うと、私個人を見ていたんじゃなくて、景色の一部として映ってたんじゃないかな? 私も知り合い以外はそんな感じで見てた気がするし…………』


「ちょ、ちょっとスミカお姉ちゃんっどうしたのっ!!」

「へっ? どうしたのハラミ?」


 声を掛けられた方に振り向きそう答える。

 そこには真っ白な大きな犬がいた。


「スミカお姉ちゃんっボクはこっちだよぉっ! 呼んだのもボクだよぉ !それにハラミは話せないでしょっ! それよりスミカお姉ちゃん大丈夫? なんかボーっとして空見てたよ?」

「へっ? そ、そうなんだ。で、でも今は落ち着いたから大丈夫。ありがとね、ユーア心配してくれて」

「う、うん、大丈夫ならいいですけど……」

「………………」


 私はどうやら大勢の前で晒されている自分の状況と、大勢の前で演説したその反応に驚いて、その現状から脳が把握するのを拒絶したらしい。変な事考えてたし。


「さ、さすがお姉さまですっ! あのような演説聞いたこともありませんっ!」

「う、うんっ! さすがお姉ぇだぜっ! ワタシも言ってみたいよっ!」

「あはははははっ! スミ姉ぇはやっぱりスミ姉ぇなのねっ! 面白いわっ!!」

『わうっ!!』


「クククッ、スミカ嬢らしいぜッ! ホントになッ!!」

「ふふっ、でもそれが返って良かったのかもしれないですね? 一人の人間として、飾らない言葉で語ったことが。ふふふっ」


「あ、あんたらねっ~っ!」


 もうそれって誰も褒めてないよね ?殆ど呆れてるよね?

 だって仕方ないでしょっ? 本当に思ってた事を言っただけなんだからっ!



「ククッ、悪りぃ悪りぃ、それでよォ、この後は『あれ』やるんだよなァ? このいい雰囲気のままでもよォ」


 ルーギルはおちゃらけた空気を止めて確認をしてくる。

 『あれ』と言うのは姉妹たちとの模擬戦の事だろう。


「うん、やるよ。街の人たちはこれで問題ないと思うけど、やっぱり少しでも安心させたいからね? この街の冒険者の人たちには」


 ルーギルに答える。


「ああ、わかった。それじゃお前たちは一度ギルド内に入ってろ。その間でここは俺とクレハンとギョウソたちで纏めとくからよォ」


「うん、わかったよ。それじゃみんな私たちは一度建屋に入ろうか? 後はよろしくね、ルーギルとクレハンとギョウソ」


 私たちバタフライシスターズは冒険者ギルドに入っていく。



※※※※



「あ、あのさっ! さっきユーアにちょこっと聞いたんだけどっ! スミ姉と師匠が戦うって本当なのっ!?」


 誰もいないギルドのフロアに入ったところでラブナが開口一番叫びだす。


「ええ、それが私たち姉妹のケジメになるんですよ。ラブナ」

「ナゴ姉ちゃんの言う通りだっ!ラブナ」


「ケジメって何でさっ! アタシにはわかんないわっ! もうこの街の英雄のパーティーメンバーなんだからいいんじゃないのっ!? 意味ないわよっ!」


 姉妹の二人の返答に困惑、そして憤怒の表情を見せるラブナ。


「それにさっ、師匠の二人はスミ姉に勝てないんでしょ? それっぽい事言ってたよね! だったら何故なのっ! それこそ意味ないじゃないのよっ!!」


「それはね、ラブナ――――――」


 続けて姉妹の二人に怒りの表情で詰め寄るラブナに私は声を掛けようと、


「お姉様。私たちからラブナに説明するので大丈夫ですよ?」

「うん、うん」


「そう、それじゃお願いするね。二人とも」


 割って入って来たナゴタとゴナタに任せる。

 私はちょっと離れて姉妹とラブナを見ているユーアの元へ行く。


「スミカお姉ちゃん、ナゴタさんたち大丈夫?」

「うん、あの三人なら問題ないよ。きっとラブナも納得するでしょ」


 私はユーアとハラミを連れてテーブルセットに移動する。


「だからなんでよっ!?――――」

「ラブナこれは私達には必要な事なの――――」

「うんうんっ!」



『………………』


 まあ、正直模擬戦なんてやらなくてもいい気がするけど、今の状況だと。


 でも姉妹はやる気だし、元々打ち合わせでも手加減無しって言ってある。

 ハッキリ言ってこの模擬戦は姉妹の今までの経歴に泥を塗る戦いになる。

 Bランク冒険者としての実力を疑われる事にもなる。


 姉妹と私との試合は、ある意味出来レースみたいなもの。

 私が勝って認められて、姉妹が負けて恥をかくだけのそんな戦い。


 でもそれこそ意味がある。


 姉妹のこれからと過去の過ちのケジメを取る意味でも必要な事だ。

 私が姉妹に圧勝して、姉妹は私に手も足も出ないで敗北することは。


『……そう、それで私の実力は姉妹を大きく上回る証明になり、その姉妹は私の傘下に入る。傍から見れば監視下に入るみたいなものかな…………』


 これで今まで姉妹の被害にあった冒険者は少しは安心するだろう。

 ただ遺恨は少なからず残る事にはなるが、それでも今までよりはずっといい筈。



「それじゃ行きましょうか? お姉さま」

「よし行くぞっ! スミ姉ぇ!」

「ふんっ!」


 姉妹とラブナの話し合いが終わったのだろう、こちらに来てそう声を掛けてくる。


「うん、わかった。大丈夫だったの?」


 私の前に来た三人に声を掛ける。


「はい、どうにかですが、お姉さま」

「まあ、中々納得できないよなっ! 普通は」

「べ、別にっ? でもスミ姉も必要だと言ってるから納得しただけよっ! でも少しだけだかんねっ! 全部は納得してないんだからねっ! アタシは」


「ふうん、そう言えば、なんでラブナは反対だったの? 理由を聞いてなかったよ」


 そう、ラブナは開口一番反対していたけどその理由を聞いていなかった。

 まだこのパーティーに加わって数時間なのに何が気に入らないのだろうか?


「ア、アタシは………………」


「うん?」


「ア、アタシは、アタシの師匠になったナゴ師匠とゴナ師匠が負けるのを見たくないのよっ! しかも大勢の前でっ! だってアタシの師匠が負けちゃったら、その師匠に師事しているアタシが馬鹿にされるじゃないのっ! 弱いと思われるじゃないのっ! それに………………」


「うん」


「…………それに、師匠と戦うスミ姉も、スミ姉と戦う師匠にも、三人にケガして欲しくないんだからっ!!」


 そう言い放ち、ラブナはそっぽを向いて肩を震わす。


 そこにナゴタとゴナタが寄っていき、その小さい背中に二人は抱き着く。


「えっ?」


「ふふ、ラブナ。あなたは心配し過ぎですよ?私たちとお姉さまの戦いを見てからそう言いなさい。それと心配するのは私たちだけで充分ですよ。ケガするのは私たちだけだから」


「え、な、なんで!? だって師匠たちはBランク、いくらスミ姉でもっ!」


「はぁ? ラブナお前は何を言ってるんだ? お姉ぇにはランクなんて関係ないだろ? お姉ぇの強さは、ワタシたちの理解の外だろう? でも心配してくれてありがとなっ!」


 二人に抱きしめながらラブナは髪の毛をワシャワシャされていた。


『ふふ』

「良かったよぉ~~~~!」

『わう』


 そうして私と姉妹は、私たちのこれからの為にギルドを後にした。

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