第457話魔物の天災のお話 前編




 冒険者ギルドでは、Fランクの隠れ貴族のロアジムとギルド長のルーギル。

 そして副ギルド長のクレハンの3人が応接室に集まり話し合いが続いていた。 



「それは本当なのか? フーナちゃんがこの街に帰ってくるってっ!」


「はい、その手紙のよると2日後くらいには到着する予定です」

「まぁ、帰って来るって言ってもよぉ、直ぐにまた出て行くぜッ?」


 フーナから届いた手紙をロアジムに渡すクレハン。


「おお―っ! 本当に戻ってくるんだなっ! 早く再会したいぞっ!」


 内容を確認して年甲斐もなくはしゃぐロアジム。 

 手紙に何度も目を通しながら、その内容に歓喜する。



「ああ、そう言えばロアジムさんもフーナに縁があるんだよなぁッ?」


 手紙を見てニヤケている初老の男に声を掛ける。


「そうだな。わしが冒険者を好きになった理由の発端の人物じゃからな~」


 天井を見上げて、目を細め、どこか遠い目をしながら答える。


「確か助けてもらったんでしたよね? トロールに襲われているところを」


「うむ、その通りなのだよクレハン。10年前ぐらいに他国への移動中に会ってな。まぁ、向こうはわしの事には気付かなかったみたいだがな」


「と、言いますと?」


「恐らくフーナちゃんたちも移動中で、たまたま魔物を見かけて討伐したみたいだったからな。わしがお礼を言う前に空を飛んで、あっと言う間にいなくなってしまったんだよ」


 うんうんと一人頷きながら、その当時の様子を語る。

 腕を組み目を閉じて、一人その思い出に浸っている。



「ああ、アイツはそう言う奴だかんなッ。子供以外には興味が無かったからなッ。アイツにしてみれば進路を邪魔されただけとか、そんな風にしか感じちゃいねえだろうよぉッ」


「それにしてもトロールと遭遇するなんて、ロアジムさまは何処を通って移動していたんですか? 通常の陸路ですと滅多な事では遭遇しないと思うのですが」


 ルーギルが話し終えたタイミングで、ふと疑問に思った事を聞くクレハン。

 山岳や森林地帯以外ではあまり目撃例がないからだ。



「ん? クレハンはあの時代に起きた、魔物の災害を知らぬのか?」


 意外だとばかりに視線を向ける。

 頭脳担当の副ギルド長が知らないとは珍しいと。



「え? 10年前の災害ですか……… あっ! もしかして、他国の一部の地域で魔物が異常に発生した事ですか? 生息場所関係なく、様々な種族の魔物が現れ、村や街を無作為に襲ったあの事件ですか?」


 ハッと顔を上げ、記憶の中にあった事件の詳細を話すクレハン。

 更に続けて、


「ですが、あの事件はこの国ではなく、西南の…… 確かここから馬車で半年はかかる遠方の国ですよね? しかもその事件はすぐに収束したって聞いていましたが」


「ああんッ! その情報は間違っちゃいねえぞッ。俺も行った事のない国の話だかんなッ。で、この国は、その余波を受けたって訳だ」


「え? 余波ですか? それは一体……」


 ロアジムの代わりに答えたルーギルに視線を移す。


「んッ? それは簡単な話だッ。他国のある地域に普通じゃねえ魔物が大量に現れたんだッ。その魔物に追いやられて、普通の魔物がこの国に押し寄せてきたって訳だッ。まぁ、こっちは一部の噂話だけどよぉッ」


「それで事の発端となった魔物は急に全滅したのだよ。突然、糸が切れたようにぱったりと動かなくなり、冒険者たちによって討伐されて事なきを得た。犠牲者は多数出たがそれが収束した理由じゃな」


「そうだったんですか、わたしは当時Fランク冒険者でしたけど、そこまで細かい詳細は知らされてなかったです。まさかそんな理由があったとは……」


 ルーギルとその話に付随して詳細を話すロアジム。

 その事件の顛末を聞いて眉を顰める。



「まぁ、駆け出しな上に証拠となる魔物が消えちまったんだから、こんな辺境の街までは詳しい情報は流れて来なかっただろうよッ。で、この話を聞いて何か引っ掛からないかッ? クレハン」 


「ちょ、ちょっと待って下さいっ! また新たな情報が出て来たじゃないですかっ!? 消えたって話は今まで出て来なかったですよね?」


 更なる情報の出現に、一人混乱するクレハン。

 思わず声を大にして聞き返してしまう。



 こうしてびっくり箱のような話し合いが続いていった。




――――



 3人の話が盛り上がっている頃、この街の上空では小さな影が二つ現れた。



「ねぇ、アド。フーナに内緒で勝手に出てきちゃって良かったのかしら? 屋敷でお留守番しててって言われたけど。他の子はみんな大人しくしてたわよ? まぁここまで来ておいて我が言うのもあれなんだけど」


 小さく見える街並みを見下ろしながら、隣の人物に話しかける。


「がう? 別にいいだろ? 会って驚かせるのが目的だからなっ!」

「はぁ~、フーナの事だから怒られる事はないと思うけど気が引けるわ」

 

 一緒に飛んでいる、アドの返答を聞いて嘆息する。

 その理由が余りにも短絡的で単純過ぎて呆れる。


「がう、心配性だなエンド姉ちゃんは。でも着いてきてくれたから嬉しいぞっ!」

「それはそうよ。だってアド、コムケの街の場所覚えてなかったでしょう?」


 笑顔で返す相方に、薄目になって答える。


「そうだな、がうっ!」

「だから来たのよ」


 澄香たちの拠点とするコムケの街の上空では、人型の女性二人が街を見下ろし、ワイワイと話し合っていた。その容姿と体躯は何処から見ても子供だった。いや、幼女だった。


 アドと呼ばれた幼女は、群青色のボーイッシュなショートカットに青色の短パン。

 そして目を疑う程の、体に似つかわしくない二つの双丘を持っている。 


 もう一人、エンドと呼ばれた方は、黒髪の長髪に、同じく黒を基調とした簡素なドレス。

 身長はさほど変わらないが、巨乳のアドとは対照的に女性の膨らみは皆無だ。


 この二人の幼女はAランク冒険者、フーナの家族の一員だ。

 そんな二人は現在この大陸には生息しない、珍しいドラゴン族だったりする。


 

「で、先に到着したけどどうするの? このまま街に入るのかしら?」

「がう? う~ん、他に行くところないから入るぞっ!」

「そうね。その方が時間も潰せるしそうしましょう。久し振りだから楽しみだし」

「だぞっ! 美味しいものもあるかもしれないし、強い奴も増えたかもしれないしっ!」

「我は食べ物もそうだけど、冒険者にも興味があるわね?」


 そんな二人は僅かな楽しみと、それぞれの退屈を埋めるために、この先、蝶の街と呼ばれる事になるコムケの街に吸い込まれるように入って行った。


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