第234話SSラブナの歓迎会2 とお姉ちゃんの条件



 ※このお話は13話前の『SSラブナの歓迎会1 と姉妹喧嘩』の 

  続きのお話になります。

  お忘れの方、初めての方は一度戻られる事をお勧めします。

  繋げて置けなくて申し訳ございません。



※※※※



「ったく、ほんと、スミ姉はユーアを子ども扱いし過ぎなのよっ! それといつもいつも甘やかしすぎっ!」


 そう言って、椅子から立ち上がり私に指を突き付けるラブナ。

 その出で立ちはいつもの腰に手を当てての仁王立ち。


「そうかな?」

「だからユーアも子ども扱いされて、ムクれる時もあるって事っ!」

「いやだって実際まだ子供だし」

「ほらっ!それが証拠なのよっ! ユーアからも少し文句言ったほうがいいわよっ! いつまでも子ども扱いしないでってっ!」


 そんな力説をしてラブナは勢いよくユーアに振り返る。


「うん? 何? ラブナちゃん。 もぐもぐ」

「………………」


 そんなユーアは一心不乱にトロールのステーキを頬張っていて、私たちの会話は聞こえていなかったらしい。


 そう言えば気絶しそうなくらい美味しいって言ってたしね。


「ちょっと、ユーアの為に話してるのに何食べてるのよっ! しかもソースで口周りがベトベトじゃないのっ!」


「あ、ありがとうラブナちゃんっ!」


 ラブナは腰のマジックポーチよりお手拭きを出して

 ユーアの口をごしごしと拭いてあげている。


『………………』


 さっき、私に甘やかすのがどうとか言ってなかったっけ?


 何だかんだでラブナも孤児院の生活でユーアの影響を受けたんだと思う。

 小さい子の面倒を見る頑張り屋さんのユーアを見て。


 だって昔の話を聞いた時はそんな面倒見のいい性格じゃなかったからね。



※※



「スミ姉とユーア、ごちそうさまでしたっ! どれも美味しかったわっ!」


 ラブナは満足そうに食後の紅茶を啜っている。


 オークやトロールの料理も美味しそうに食べてたけど、スイーツのレーションシリーズが大のお気に入りだったらしい。ユーアと一緒にお替りしてたからね。


「満足してもらえて良かったよっ。それで今日は泊ってくんでしょ?」


 私はすっかり寛ぎモードのラブナにそう聞いてみる。

 

「うん、そうするわっ!ナゴ師匠たちにもそう言ってきたからっ!」

「そうなのっ?ラブナちゃんっ! やったーっ!!」

「ちょ、ちょっとユーアっ!? 暑いからぁっ!」


 私からの返事を聞いて「きゅっ」とラブナに抱きつくユーア。

 そして嫌がる素振りだけのラブナ。その顔はだらしなく歪んでいる。

 そんないつも通りの二人だった。



「そう言えばユーアって、アタシの事お姉ちゃんって思ってる?」


 ふと二人のイチャイチャが落ち着いたと思ったら

 ラブナがそんな事を口にする。


 その目が真剣な事から、かなり真面目な質問だと思う。


「う~ん」


 その質問に対し首を傾げて悩む素振りのユーア。

 何やら即答は出来ないみたいだ。


「えっ? な、何でいちいち考えるのよっ!」

 

 そんな悩み顔のユーアを見て思わず声高になるラブナ。


「え~~、だってラブナちゃんボクより後に孤児院に来たし」

「はぁ? だってアタシの方が年上よっ!」

「それにボクの方が先に冒険者になったし」

「た、たった半年くらいじゃないっ! 誤差よ誤差っ!」

「あと、お料理できないし」

「うぐぅっ!」

「お洗濯も畳めないよね? 上手に」

「がはぁっ!」

「あっ でもっ!」

「何か、あ、あるのっ!」


 ユーアはここでハッと何かを思いついた顔をする。

 きっとラブナの数少ないお姉ちゃん要素を見付けたのだろう。


『くすっ』


 いや、もっと早く思いついてあげてよ、ユーア。

 ラブナのHPはもう一桁だよ? 倒れこむ寸前だよっ?


「ボクより背の高さも、お胸もお尻も大きいねっ!お姉ちゃんだねっ!」


 そう笑顔になってラブナの特徴的な部分を見ている。


 い、いやいやっ!


 それは個人差であって、お姉ちゃんの要素とは関係ないよねっ!?

 その理屈で言えば、ユーアより大きい人はみんなお姉ちゃんだよっ?

 年下のメルウちゃんもユーアのお姉ちゃんだよっ?



『こんにちはなのっ! ユーアお姉さんっ!』

『あ、あがってよっ!メルウお姉ちゃんっ!』

『ユーアお姉さん、ちょっとここ教えて欲しいの?』

『え、どこっ?メルウお姉ちゃん?』

『ここの、年号の語呂合わせなんだけど、ユーアお姉さん』

『ボク知ってるから教えてあげるねメルウお姉ちゃんっ!』


 なんて、摩訶不思議な会話になってしまう。


『………………』

 まぁ、私の頭の中も摩訶不思議なんだけど。

 何で二人が歴史の勉強してるシチュエーションなんだろうって。



「そ、そうなんだっ! それじゃアタシはユーアより一生お姉ちゃんだよねっ!そこんとこはっ!」 


 それを聞いて、何やら満足そうに腕を組み頷くラブナ。


 ええっ! そんなんでお姉ちゃんでいいのっ?

 それってただの個人差の話でしょ?

 意識的にはお姉ちゃんじゃないよね? 外見だけだよね?


「…………………はっ!」


 私はここでふと嫌な視線を感じる。

 それも纏わり付くような、私の全身を見透かすような。

 そんな粘っこい視線が……


「じぃ~~~~~~」

「………………」


 それはラブナから発せられていた。

 私の全てを押し図るように(サイズ的に)


「にやぁ」

「っ!!!!」


 そして勝ち誇ったかのような嫌らしい笑顔を浮かべて視線を逸らす。

 胸の前では小さくガッツポーズをして見せて。


「くっ! あ、相変わらずこの毒舌リアルツンデレ娘がぁっ!」


 なんて口には出せず、私は心の中で呪いの言葉を吐く。

 そしてラブナの体と見比べて更に落ち込むのであった。



※※



 その後。


 ユーアとラブナは二人でお風呂に入っていった。

 私はテーブルを片づけておくからって言って断った。


 元々仲がいい二人だけど、たまには私抜きで入ってきたらと。

 きっとラブナにもその方が良いだろうって。気兼ねしないでね。


『私がユーアを独り占めする訳にもいかないしね。ユーアも好きで、相手もユーアが好きなら尚更ね』


 そうして、私は二人の為にお風呂上がりの冷たいものを準備して待っている。

 冷蔵庫で冷やしておいたドリンクタイプのレーションをたくさん用意して。



 一方その頃お風呂場の二人は――――


「でもさぁ、ユーアって、何でスミ姉をお姉ちゃんて呼ぶのよ? 元々の血縁関係じゃないわよねっ? 全然似てないし」


 二人は頭と体を先に洗い、湯船につかりながらそんな話を始める。

 本人の前ではしづらい話なんだろう。


「けつえんかんけい?」

「血が繋がって、じゃなくて、本当の姉妹じゃないって事よっ」

「うんそうだよっ。でもお姉ちゃんなんだっ!ボクには」

「うん?」


「だって初めておんぶしてもらった時、ボク安心しちゃったんだもんっ! 危ない大人の人に襲われた時でも。怖かったのがなくなっちゃったんだもんっ」


 ユーアはちょっと興奮した様子でその時を思い出して語る。


「ああっ! それわかるかもっ! アタシもスミ姉に負けた時にちょっと抱きしめてもらったけど、何か温かかったわよっ! 何だろね、あの感覚ってさっ!」


 ラブナもその感覚を思い出してユーアに伝える。


「ボクも分かんないけど、きっとあれがお姉ちゃんなんだと思うんだっ」

「う~ん、何かお姉ちゃんって言うか、もっと包まれてる感じだけど」

「でも、これってお姉ちゃんと関係あるのかなぁ?」

「多分あると思うわよっ! ユーアがそう思うならねっ!」

「それにボク会った時からスミカお姉ちゃんって呼んでるからねっ!」

「アタシも気付いたらスミ姉って呼んでたしねっ!」 


「「ならもう二人のお姉ちゃんでいい(わ)よねっ!」」


 そうして二人は声を合わせて笑顔を浮かべるのであった。


 結局お姉ちゃんの意味は分からなかったけど、それはそれで二人が感じてる事が答え何だと気付かないままだった。



「なんかあの二人遅くない? もしかしてのぼせて倒れてないよね?」


 そう言って、二人を待つ姉のスミカは

 二人の妹を心配してお風呂場を覗きに行くのであった。


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