第384話愛しのあの子は何処に?




「んん、近い」

「そんなのいいから、さっきの話を、く・わ・し・くっ!」


 『私のキューちゃんが帰ってくる、かも……』


 そんな可能性の話を聞いて、勇み足で詰め寄る私に不満を言うメヤ。

 だけどそれを無視して、更にズイと超至近距離で問いただす。

 


「ん、さっき?」

「キューちゃんたちが生きてるかもって話だよっ!」

「ん。それは………… 何だっけ?」

「はぁ~っ!?」


 ここまで来て小首を傾げ、突然話をはぐらかすメヤ。

 相変わらず掴みどころがないと言うか、無表情も相まって思考が読めない。 


『くっ!』


 もしかして、ここから先は取引をしなくちゃダメなの?

 忘れた振りして、私を試してるって言うの? 見返りに何かを求めてるの?



「だったらこれあげるよっ!」


 私はメヤに、あるものを突き付ける。

 せっかくお昼にみんなにも出すはずだったのに。



「ん、何これ?………… パンツ?」

「あ、間違えたっ! ここ、こっちだよっ!」


 バッとそれを奪い返して、本来の物を押し付ける。


『ふぅ~、危ない危ない。慌ててユーアのパンツを渡しちゃったよ。このユーア成分補充用のものを……』


 額の汗を拭う。振りをする。

 間違ってご神体渡すところだったよ。


 グイグイ


「ん?」

「あの、なんでボクのパンツを持ってるの?」

「え?」


 そのやり取りを見ていた持ち主に、羽根を引っ張られ薄目で突っ込まれる。


「その模様のお気に入りだったのに、ちょっと前に無くなったんだよ?」

「あ、何でだろうね? 私のと間違ったのかな? あはは」

「でもそれ、洗う前にどっか行っちゃったんだよ? なんで持ってるの?」

「ううっ」


「「「じ~~~~」」」


「はっ!?」


 強い視線を感じて振り返ると、ラブナを筆頭にみんながこっちを見ていた。

 全員揃ってジト目のままで何か言いたそうだった。



「あ、あの、これはね、なんて言うかねっ ――――」

「ん。相変わらず仲良し。で、これは?」

「あ、ああ、それはね、ある街に現れた虫の魔物のサンドイッチなんだよっ!」


 メヤに振り向き、薄目のユーアから逃げるように答える。

 渡りに船とは、この事だろう。



「ん、この中味は見た事ないかも」

「まぁ、虫のお肉だからね。普通はあまり見ないよね?」

「ん、でもこのお肉、蛍光ピンクできれい、美味しそう」

「え? そ、そう? 見た目はあれだけど、確かに絶品だよ」


 変わってるね、この子。

 サンドウィッチの具材を虫って明かしたのに、それでその感想とは。


 まぁ、女の子に虫を出した私が、言うのもあれなんだけど。

 でも、その見た目に反して、大いに裏切られる事だろう。



 パク

 

「…………ん、凄く美味しい」


 躊躇なく一口食べて、その味を絶賛するメヤ。

 これはかなりの好感触だ。


「でしょっ! でしょっ! だからキューちゃんたちの事教えてよっ!」


 なので、その余韻が収まらないうちに再度尋ねる。



「ん、別に元々言うつもりだったけど」


 ペロっと一切れ食べて不思議そうに私を見る。


「そうなの?」

「ん。さっきは情報を検索するのに時間がかかっただけ。でも思い出した」

「へ、へ~、なら良かったよ」


 なんか言い方が引っ掛かるけど、教えてくれるならいいか。

 サンドウィッチ上げた意味なかったけど。



「キュートード水中では速い。それと臆病」

「速い? あのキューちゃんが?」


 臆病ってのはわかるけど、速い要素なんかあるだろうか?

 だって、ちょっと大きくて、カラフルなカエルだよ?



「ん。後は、変わった能力持ってる。弱いから」

「能力? ってどんな」

「ん、それは――――」


 メヤは私の疑問に、つらつらと思い出す様に話し始めた。



――――



「え? あのキューちゃんたちにそんな能力が? それとオスとメスいないの? あと、エサはあまり食べなくていいの? そんなの全然知らなかったんだけどっ!」


 メヤの説明を聞き終わり驚く。

 ノトリの街で聞いた話よりも、情報が多かったからだ。



 その詳細は――――


「まさか、水中では頭の花を開閉して、それで泳ぐだなんて…… 確かにあのホワホワの手では水掻けないもんね。しかも閉じてる間は姿が見えないって」


「ん、だから水中では消えたり現れたりして、しかも速いから普通の魔物には捕まえられない。それと敵意や物音に敏感だから、すぐに逃走する」


「へ~、しかも魚を好きって聞いてたけど、太陽を頭に浴びてればそれが栄養になるんだ。なんか光合成してるみたいで魔物って感じしないけど」


「ん。それでも数週間に一回はエサ食べてる。あとは、住む水場の面積によって、数は調整するみたいだから増えすぎる事も、絶滅する事もない。繁殖力が高くても」


「うん、それならどこに行っても生きていけるね。さすが可愛いだけのキューちゃんじゃなかったねっ!」


 メヤの説明の内容はこんな感じだった。



 弱い魔物だけに、絶滅の危機や逃げ延びる能力に長けてたようだ。


 なら何故ノトリの街では、名物と言われるまでに出回っているのだろう?


 なんて疑問も湧いたが、その訳もメヤが教えてくれた。



「ん、単純にあそこは水深が浅い。だから泳げない。湖の一部を囲っておけばそこで増える。多分それで養殖みたいな事してる」


 との、事だった。


 今までの説明を聞いていれば確かに納得できる。



「いや~、かなりいい情報を聞いたよ。ささ、飲み物も飲む? 話過ぎて喉乾いたでしょ? これはキューちゃんから採れた、甘くて美味しいジュースなんだ」


 更なるお礼に、枕を抱いたままのメヤにキュージュースを渡す。

 これはノトリの街の屋台で買ってきたものだ。



「ん、またカラフル。虹みたい…… でも美味しい」 

「でしょ? それにミルクとか入れたらもっと美味しいよね。冬は温めても良いだろうし」


 どうやら今度も満足してもらったみたいだ。

 表情が分かりずらいけど、ちょっとだけ笑顔に見える。気がする。



「ん、それじゃ、メヤはこれで帰る。お昼寝もあるし、お仕事もあるから」

「そう? 結構忙しそうなんだね。どうせなら、もう少し話を聞きたかったけど」


 キュージュースも飲み終わり、帰る素振りのメヤにそう声を掛ける。


「ん、ありがと。そしてご馳走さま。でもまた会えると思う」

「うん、そうだね。また会えるかもね。それじゃ元気でね。色々ありがとうっ!」

「ん、それじゃまたね」


 そう挨拶を交わして、謎の少女、

 メヤは森の中に消えて行った。

 


『う~ん、結局何者かはわからなかったなぁ……』


 けれど悪い人間ではないって事はわかった。


 あれだけの情報を持っていたのだから、きっとキューちゃん好きに違いない。

 だったら尚更悪人なわけはない。



 『それと、一番いい情報も教えてくれたしねっ!』



「あ、スミカお姉ちゃんっ! あの花がそうなの?」

「お姉さまっ! どんどん増えていきますよっ!」

「うわ~、本当に色んな色の花が咲くんだなっ!」

「おうっ! わしも久し振りに見たのじゃっ! きれいじゃなっ!」

「って、スミ姉っ! 本当に100匹連れてきたのねっ!」


 みんなが湖面を見て騒ぎ出す理由、それは、


『ケロロ』『ケロロ』『ケロロ』『ケロロ』

『ケロロ』『ケロロ』『ケロロ』『ケロロ』


 色取りどりの花を湖面に咲かせたキューちゃんたちが戻ってきたからだ。



「うわ~っ! 本当に帰ってきた~っ!」


 私もそれを見て、嬉しさのあまり両手を上げて絶叫する。



 何の事はない。


 キューちゃんたちは、もちろん、ここの主に食べられたわけではなくて、私たちが森を無理やり突っ切ってきた物音に驚いて、水の中に逃げて行っただけだった。

 それが落ち着いて、また水面に姿を現したって事だった。



『いや~、みんな戻って来て嬉しいよっ! あのメヤって女の子には感謝だよっ! 次に会ったらまたお礼を言いたいねっ!』


 さっきまでここにいた、無表情の不思議少女を思い出して、心の中で感謝する。

 あの子のお陰で、みんなにもキューちゃんに会わせる事ができた。



『ん~、ただちょっと気になる事があるんだよね。 私、あの子に名前教えてないよね?』


 メヤの去り際の挨拶を思い出して、不思議に思った。



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