第584話二度目の裏世界(リバースワールド)へ




 ※マヤメと桃ちゃんを残し、スミカが裏世界へ転移する、その少し前。

  一足先に、裏世界へと帰還した、タチアカたちは……




「うへぇっ!? こ、ここ、どこぉ~っ!」


 長耳をピンと立て、オドオドと周囲を見渡すトテラ。

 薄暗く、閉鎖的な空間から、人工物で溢れた、未知の景色に驚いていた。


 大きな広間の片隅には、見慣れない金属製の機械が並び、小さな光が点滅すると共に、時折、聞きなれない音を響かせていた。


 天井には、青白い光を放つ、円形の魔道具のようなものが規則的に並び、まるで昼間の様に部屋全体を明るく照らしていた。


 そして、遠目に視える真っ白な壁伝いには、金属製のパイプが無数に張り巡らされ、小さな扉が一つだけ設置されていた。

 


「な、なに? ここ…………」


 どこか別世界を思わせる景色に、トテラは警戒する。

 自然と身を低くし、本能的に臨戦態勢を取る。


 だが、そんなトテラとは対照的に――――



「はぁ~、相変わらず凛々しいお姿だった……」


 どこか物思いに耽け、心ここにあらずといった、タチアカがいた。



「あ、あのっ!」


「はぁ、以前のお姿も凛々しかったけど、今回の衣装も素晴らしかった……」


「あのぉ~?」


 ツン


「あの衣装を実装した、RROの運営には賛辞を贈りたい。正にあの方の為だけにあるような、最高の衣装を作ってくれたとっ!」


「あ、あのぉ~、き、聞こえています?」


 ツンツン


「あ、そう言えば、あの名前は本名だったのだろうか?…… だとしたら、あの方に相応しく、清楚さと、聡明さを感じさせ、尚且つ、可憐でいて――――」


「あ、あのぉっ!」


 ガンガンッ 


「…………なんだ?」


 鎧を叩くトテラに気が付き、ようやくタチアカは我に変える。



「あ、あの、ここって何処なんですか?」

「ここはワレたちが本拠地としている、とある島の地下にある転移用の施設だ」

「てんいよう?…… それとあのお人形さんは、どこ行ったの?」


 周囲を見渡すが、自分たち以外見当たらない。



「人形? ああ、ヒトカタの事か。奴はマカスが連れて行ったのだろう」

「連れてった? いつの間にっ!?」

「知らん。ワレたちが帰還した時すでに消えていた。恐らく奴が回収したのだろう。試作モデルとは言え、自慢のキメラらしいからな」


 興味がないというか、どこか苛立ちを含んだ様子で答える。

 


「きめら? それとマカスって?」

「……ち、話はここまでだ。早速そのマカスがお出ましだ」


 この部屋にある、唯一の扉に振り返るタチアカ。

 嫌悪感を剥き出しにし、白い扉を睨みつける。



 ガチャ



「おおーっ! その兎族がマコイの報告にあった、新しい検体かっ! ご苦労だったなタチアカよっ! 早速解剖実験に取り掛かろうぞっ!」


 部屋に入ってきたのは、背の丈170ほどの青年だった。


 長い金髪を後頭部で無造作にまとめ、一見、美少年に見えなくもない、整った顔立ちをしているが、身に纏う服装が、その全てを台無しにしていた。


 真っ赤なシャツに、真っ青なズボン。そして、人体の部位であろう、無数の手足や口や鼻、腕や足などが描かれている、不気味な白衣を纏い、頭には眼球を模したカチューシャを着けていた。



「ひえっ! な、なにこの人っ!?」


 気味の悪い出で立ちに、長耳の毛が逆立つトテラ。 


「さあさあっ! 早速、吾輩の研究室に案内しようっ! 向こうには美味しいお菓子も用意してあるからねっ! ちょっと痛いとは思うけど、その代わり、新しい自分になれるからっ! さあさあっ!」


「ふざけるなっ!」


 手を広げトテラに近寄る、マカスの前に出るタチアカ。



「この兎族は、ワレの配下にする予定だっ! 貴様なんぞに引き渡してたまるかっ! これまで一体何人ものシスターズを再起不能にしたか理解しているのかっ!」


「はい? なに言ってるのさタチアカ。天才である吾輩の実験材料に、なれただけ光栄だと思わないかい? マヤメを創った前任者のアイツよりも吾輩の方が優秀なのだよ?」


「知るかっ! ワレから見たら、貴様はただの異常者だっ! 利己的な欲望や、目的を遂げるために組織を悪用した、狂気の科学者だっ!」

  

 マカスにズイと詰め寄り、怒りの感情を露わにするタチアカ。 



「はぁ、随分な言われようだな。その異常者が開発したものを表世界で売り、ここの資金の調達や、君や、君たちの装備も開発していると言うのに。シスターズのメーサや、四天王だって、吾輩が手を加えたものだろう?」


「そんなものワレは頼んだ覚えはないっ! そもそもそれは結果論の話であって、体のいい実験サンプルに利用されただけだっ! いくらラカンスに認められてるからと言って、この先も貴様の暴挙が許されると思うなっ!」


 マカスの胸ぐらを掴み、大声で吠えたてる。


「あ、そう。やっぱり君とは合わないなぁ。ま、昔から相性が悪いのは知ってたけど。そんなんだから、いつまでたっても厨二病が治らないんだよ」


「そ、それとこれとは話が別だっ! ワレのこれは――――」


「一緒だよ。要は精神が未熟な証拠なんだよ。だからいつまでたっても普通に話せないし、任務と割り切れない。アイツを始末した事も、マヤメを追放した事もね」 


「………………ちっ」 


 図星を突かれた話だったのか、力なく胸ぐらを放すタチアカ。 

 鋭い視線を向けたまま、忌々し気に小さく舌打ちをする。



「じゃ、そんな訳で、この検体は吾輩が貰っていくぞ」

「うぎゃっ!?」


 白衣に描かれた腕が実体化し、トテラの左腕を強引に引き寄せる。



「だからそれ以上、貴様の勝手を許すわけないだろうっ!」

「痛ぃっ!」


 トテラを奪われまいとタチアカは咄嗟に右腕を握る。


 その直後――――



 ズバンッ! ×2



「な、なにっ!?」

「う、ぐ………… な、なんだっ?」


 マカスの実体化した白衣の腕と、鎧ごと腕を切り落とされ、驚愕するタチアカ。



「…………これで腕一本分、借りを返したね。ってか、なに勝手にトテラ争奪戦始めてんの? 仲間割れするぐらいなら、私が貰っていくけど」



「お、おね、クリア・フレーバーっ! どうやってっ!? それとその姿はっ!」


 いきなり現れたスミカの姿と登場に、タチアカは激しく動揺し、 


「この灰色の蝶が、あのクリア・フレーバーだとっ!? 千を超えるプレイヤーたちを、単独で殲滅したと言うっ! しかもたった半日でっ!」


 マカスは後退あとずさりしながらも、その目は興味深く、スミカの姿を捉えていた。



「ス、スミカちゃんっ! なんでっ!?」


 そして、二人から開放されたトテラは――――



「………………」


 スタスタスタ

 ゴンッ 


「いたぃっ!」


 無言で近付いてきた、スミカに拳骨をもらい、涙目でしゃがみ込んでいた。



「なんでもなにも。マヤメが悲しんでたよ? 理由も言わずに勝手に行っちゃうんだもん。だから連れ帰る為にこっちに来たんだよ」


「マヤメちゃんがっ! で、でも、アタシの兄弟が、変な病気で……」


「変な病気? どんな症状?」


「なんか、どんどん衰弱しちゃうの。お薬も回復薬もあまり効かなくて。だからアタシはトリット砂漠と、この人たちの――――」


「衰弱? ああ、何となくわかった。もしかしたら助けられるかもだから、今は私から離れてくれる? 戻ったら詳しく話を聞くから」


「う、うん」


 タタッ――――


 半信半疑ではあったが、トテラは私の言う事を聞いて、ここから少し離れる。


 

「さあ、本当は10倍返ししたいんだけど、あまり時間ないから、残りの腕で許してあげるよ」


 タチアカに向き合い、挑発する様に手招きする。


「ク、ククク、貴様も片腕のくせに良く吠えるな。やはりそうでなくては面白くないっ!」


「後それと、そこのDQNでも着なそうな、悪趣味な白衣着てるのがマカスだっけ? さっきの私の説明だけど、かなり情報間違えてるよ?」


「なに?」 


「千を超えるプレイヤーじゃなくて、万を超えるプレイヤーね? それと、半日じゃなくて、1時間だから」


「なっ!?」



 こうして、二度目の裏世界では、タチアカとマッドな科学者二人の、元プレイヤーを相手取る事となった。マヤメとトテラの為に。




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 《表裏一体【表】モード》※表世界使用時


 表と裏の世界の、両方の理を併せ持つ姿になる。

 そこに存在はするが、条件を満たした相手には、触れることも認識することもできない。

 自身から相手への接触は可能。



 《表裏一体【裏】モード》※裏世界使用時


 裏世界へと転移が可能だが、第三者には認識される。

 移動先は、条件を満たした相手の半径20メートル内に任意で移動可。



 ※使用中は装備の色が灰色に変化し、一定時間ごとに薄くなる。

  解除するには装備が透明になるか、羽根を2秒纏って解除する。



 使用条件


 一度目の前の相手に、装備の下の装備(下着)を晒すことが第一の条件。

 その晒した時間=表裏一体モードの制限時間になる。



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『剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?』 べるの @19740413

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