第107話仲良しの方法はお体ふきふき?
今回も、ある少女の思い出話になります。
前回のあらすじなんだからねっ!
孤児院に入ったアタシは、その性格の為か、いつも一人だった。
孤児院裏の雑木林の奥で、八つ当たりを繰り返し、次第にそれは泣き声に変わる。
そんなアタシに声を掛けてきた少女がいた。
※ちょっとシリアスが続きます。
※少女同士のイチャイチャはあります。
悲しくも、心温まる友情のお話です。きっと。
(2/2)
「ラ、ラブナちゃんっ、だよねっ?」
そう言って、アタシに声を掛けてきたのは、
いつも小さい子の面倒をよく見ている、ボクっ娘の少女だった。
アタシは泣き顔を見られないようにと、咄嗟に顔を隠すが、
「どうして泣いていたの? ラブナちゃん…………」
それは遅かったようで、もう泣き顔を見られていたようだ。
「べ、別に泣いてなんかいないんだからっ! それにアンタになんか関係ないでしょっ! もう、どっか行ってよっ! アンタなんか嫌いなんだからっ!」
アタシは、アタシを心配してくれたこの少女を突き放すように、そう大声を上げる。拒絶するように、その優しい少女を睨む。
『なんでいつもこうなのっ! なんだってアタシはっ! 本当は……』
アタシは貴族だった、まだ父が領主をしていた頃からそうだった。
通っていた学園でも似たようなものだった。アタシはいつも威張り散らしていた。
それは拒絶じゃなく、防衛本能に近いものだったんだろう。
年の離れた幼い三女っていうのもあったとは思うけど、舐められないように虚勢を張って生きてきた。アタシは、父の妾に産ませた子供だった事が、大きい理由かもしれない。
そこに劣等感を感じていて、それを気付かれるのを嫌った。
見下されるのも嫌だった。
だって、母はどうであれ、アタシはアタシ自身なんだから。
それにアタシを愛してくれた父も大好きだった。
だからアタシは自分が傷つく前に、他人を傷つけて自分を守ってきた。
でも、それは関係ない。
アタシは守るべく立場もプライドも、もうない。
今はただの小娘に成り下がっているんだから。
なのに、辺り構わず威張り散らすアタシはおかしかった。
ここにいる子供たちとは、みんな平等だ。
それでもアタシはある意味その『癖』が抜けなかった。
だからこの声を掛けてくれた少女も、アタシから離れて行くだろう。
もうアタシには関わらないだろう。
そして、アタシはまた独りになる――――――
ザッザッザッ
地面を歩く音がする。アタシは諦めて視線を降ろす。
きっとこんなアタシから、遠ざかっていく音だ。
アタシを嫌いになって、離れて行く歩みの音だ。
『でも、本当は、ホントのアタシは――――っ!』
また涙が出そうになる。
だってまたアタシは独りぼっちになるから。
ザッ
ガバッ
『えっ?』
その時アタシは、柔らかく、暖かいものに包まれていた。
それと、ちょっと甘い匂いがした。ミルクのような。
「な、なっ!」
アタシはその少女に、抱きしめられている事に気付いた。
「ラブナちゃんはお腹が空いているんだねっ! ボク良いもの持ってるから、分けてあげるよっ! これ取りに、
そういって、アタシに見せてきたのは、何かの赤い木の実だった。
何これ? 見たことないんだけど。
もしかしてこれを取りに、
「えっえっ? べ、別にアタシお腹なんか減ってないわよっ! なんだって、こんな訳の分からない食べ物なんてっ! グボッ!? す、すっぱ~~~~~~いぃッッ!」
会話の途中で木の実を無理やり入れられ、その味に絶叫するアタシ。
「えええっ! す、すっぱかった? ちゃんと熟してるのを選んできたのに?」
見当違いにアタシを慰めるこの少女は、首を傾げながら「あれっ」って顔をして、自分も一つ口に入れる。アタシに食べさせたみたいに。
「あれ? 甘いよ? 甘くておいしいよ? ちょっとだけ酸っぱいけど」
「はぁっ? なんでアタシのだけ酸っぱいの食べさせたのよっ! アンタわざとやってるんでしょ! アタシが嫌いだからっ!」
アタシは訳の分からないこの少女の行動に、いつものように金切り声を上げる。
アタシのだけ酸っぱいだなんて、理不尽過ぎるっ!
『あっ!』
アタシはまたいつもの『癖』が出た事に気付く。
慌てて両手で口を塞ぐが、口から出た言葉は帰ってこない。
『――――――ううっ』
アタシは、そ~と指の間から様子を伺う。
幸い立ち去る気配は感じない。まだ取り返しがつくだろうか?
「あ、あのっ、アタシはっ!!―――――」
「ねえ、ラブナちゃんはボクの事嫌いなの?」
離れるどころか、クリっとした目の可愛い顔が目の前にあった。
「~~~~~~~~!?」
『ち、近いからっ!』
「べ、別に、アンタの事なんてどうも思ってないわよっ! 何っ? アタシにそんなに気にして欲しいの? アタシに目を掛けて欲しいのっ!」
「どうも、思ってないんだぁ。でもボクはラブナちゃんの事好きだよ??」
「はぁ!? なんで本人のアタシに聞いてくるのっ! アンタの気持ちなんて知らないからっ!」
「ふうん、まあいいやっ。それじゃ行こうっ!」
「………………」
そう言ってアタシの腕を引いて立ち上がる。
『一体何なのよっこの子はぅ! まだ話の途中だったじゃないのっ! アタシを好きだって話は、どうなってるのっ!?』
「ちょ、ちょっと、アンタっ! さっきの話はっ!」
アタシは手を引かれ、ズンズンと前を進む少女に声を掛ける。
「ボク、アンタじゃないよ? ユーアだよっ!」
「い、いや、そうじゃなくてっ!――――」
「帰ったらラブナちゃんの体拭いてあげるね。ボク小さい子の体もいつも拭いてるから、結構得意なんだっ!」
「はぁっ!? 何言ってっ! アタシの事はっ! ――――」
ピタリ。
アタシの手を引いた少女。
ユーアはその歩みを止めて振り返り、
「今は好きかどうかわからないけど、これから好きになればいいでしょ? だってボク、ラブナちゃんとあまり話したことないからよく知らないもん。ね、だから体拭いてあげるね」
『え――――――』
アタシはその言葉に息をのんだ。
この少女は、アタシの上辺でだけで好き嫌いを判断しない。
アタシの中味を見てくれる。今までアタシを見てきた人たちとは違う。
「ね、だからねっ? 行こう、ラブナちゃんっ!」
「う、うん」
アタシはそのユーアの言葉に素直に頷く。
もっとこの少女の事を知りたい、もっとアタシを知って欲しいと思って。
雑木林を抜ける頃、そこにはユーアが持ってきた、あの
『赤い木の実』がなっていた。
『――――――なんでっ』
そう、わざわざアタシがいた、林の奥まで取りに来る必要はなかったのだ。
きっとアタシが心配で見に来てくれたのだろう。
『全く、この子は――――』
アタシは手を引かれながら、目の前の小さな背中をみる。
身長も体つきも、アタシよりずいぶん小さい。
きっと同世代に比べたら小さい方だろう。
でも、その心は大きかった。
アタシはその心に救われることになる。
でも、そんなユーアにアタシは夜にその洗礼を受ける。
「あれ? ラブナちゃんっ! お胸大きいんだねっ!」
そう。
帰ったらユーアの言っていたお体フキフキが待っていたのだ。
どうやら、小さい子たちも、これで仲良くなったらしい。
ユーアなりの儀式みたいなものだろうか。
「おおっ! 柔らかいねっ! おっきいねっ! いっぱいふきふきするねっ!」
そう言うユーアは、アタシに比べて小柄だ。
至る所がまっ平だった。どこを見てもストレートだった。
サワ、サワ、
ぷにっぷにっ
「ちょ、ちょっとっ! ユーアそこは自分でやるからっ!」
アタシは今まで、ユーアの好意だと思って我慢していたが、
ある部分まで来た時その腕を止める。
そ、そこはっ!
「ええ~~いいよ。ボク小さい子のここもきちんと拭いてあげてるし」
そう言って、アタシの手を振り払い、その手を進めていく。
「あっ、ユーア、も、もうちょっと、優しくっぅううんっ~~~~!!」
「??どうしたのラブナちゃん。もしかして痛かったの? ごめんね。先っちょだからもう少し丁寧にするね。また痛かったら言ってね」
「~~~~~~~~っっ!!!!」
『にゃっ! にゃあぁぁぁぁ~~~~~っ!!』
※
そんな事があって、ユーアが冒険者になって半年が過ぎた。
アタシはもう日課になっている、ある鍛錬を終わりにする。
「はぁっ、はぁっ、きょ、今日はここまでねっ! これ以上はきっと逆効果だし」
アタシは息を整えながら、草の上に「ゴロン」と寝そべる。
「ふぅ~~~~~~っ!」
鍛錬で掻いた汗に、サラサラと肌を撫でる、そよ風が心地いい。
そして空を見上げて気付く。もう日が傾いている。
「っと、こんなところで、ゆっくりしてる場合じゃないっ! もうそろそろ来ちゃうじゃないのよっ!」
アタシは「ガバッ」と起き上がって、雑木林の奥から孤児院を目指して、小走りで駆けていく。
そろそろ、あのボクっ娘が、孤児院に来るからだ。
ユーアが冒険者で稼いだお金を援助しに。孤児院に。
「さあ、今日はどんな話を聞かせてくれるのかな?」
タタタッ
「それに、そろそろアタシもここを出て良い頃合いかな?」
タタタタッ
「アタシもユーアと一緒の冒険者になるんだからっ!」
そうアタシは恩返しをしたかった。
アタシを救ってくれたユーアの為に。
ユーアのお陰で孤児院では、それ以来孤立する事がなくなった、
ユーアがアタシと孤児院の子供たちの間を取り持ってくれたからだ。
そんなユーアに逆らう子供もいなかった。
きっとユーアはみんなに愛されているんだろう。
「アタシが冒険者になるって言ったら、ユーアはどんな顔するんだろうっ! うん、楽しみだわっ! ユーアの驚く顔を見るのはっ!」
アタシは笑いながら、慣れた林の中を孤児院に向かって駆けていく、
どうしても止められない笑顔で、足取り軽く駆けていく。
恩人で初めての友だちの、ユーアに会いに。
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