SSユーアとラブナの出会い

第106話没落貴族の少女の叫び



今回は、ある少女の思い出話になります。


※今話はちょっと暗いお話になります。

※少女同士のイチャイチャ成分はちょっとだけです。


 悲しくも、心温まる友情のお話です。きっと。


(1/2)






「はぁ~~~~~~~~~~」



 アタシはこれまでにないくらい、大きなため息をつく。

 無意識に出た訳じゃなく、意識して長く大きくついた。


 それぐらいショックな事があったからだ。



 ユーアがそう行動する事は、なんとなくわかってはいた。

 あの子はそう言う子だ。



 それに、ここにいる自分よりも小さい子供の面倒をよく見ていたし。

 こんなボロボロの孤児院に預けられている、子供たちを心配していた。



 でも、だからって――――



「ここから出て危険な『冒険者』になるなんてバッカじゃないのっ!」



 そんな愚痴が、今度は大声で出てくる。

 近くにあった木の幹を「ガシガシ」蹴りながら。



 ユーアの考えは分かっている。



 実入りが多いだろう冒険者で稼いで、

 孤児院にお金を援助したいのだろうと。


 少しでも負担を減らしたいと思い、孤児院を出て行った事も。



「アンタひとり出て行ったくらいじゃ大して変わらないのに……」



 でも大して変わらないとは思うけど、変わることも事実だ。

 ユーア一人分と、そしてユーアの稼ぎの一部が入ってくるからだ。



「でもさぁ、ユーアさぁ、それでもやっぱり変わらないかも」



 アタシはさっきまでユーアがいた、お別れを言われた場所に視線を移す。



『だって、この孤児院、絶対におかしいからっ! アンタがお金を渡したって、ここの奴らの小遣いになるだけだよっ! 私腹を肥やすだけなんだよっ!』



 大声を上げて、そう叫びたかったがそれは出来ない。


 何とか我慢して、を飲み込む。

 アタシは今、孤児院の裏庭にいるんだから。



『………………』


 アタシは、さっきお別れを言われたことを思い出す。



(ラブナちゃん、ボク、孤児院を出て冒険者になるんだ)



 そう言ったユーアの目は、見た事もないほど真剣だった。

 そんな強い意志を持ったユーアを止める事は、アタシには出来なかった。



 そしてアタシはいつもの雑木林の奥に、足を進める。



『―――――――――』



 こんな時が、来ることは分かっていた、ただそれが今日だったってだけだ。



 アタシはユーアがそうなる事が予想できた時から、再開していた、

 いつもの練習している場所に向かう。



『止める事は叶わなかったけど……』



 なら、


 とアタシは涙を拭いながら、ひたすらに鍛錬に打ち込んでいく。



『だったら、アタシがユーアに追いついてやるんだからっ!!』



 そう気合を入れ、自分を奮い立たせてガムシャラに鍛錬を繰り返す。





 ―――――――――――――




 バシュッ!

 ボシュッ!


「はぁ、はぁっ」



 もう何日、いや、何か月たっだだろう。

 さすがに数年は経っていない事は分かる。


 ユーアが孤児院を出て行ってから半年しかたっていないのだから。


 それでもアタシにはその時間が、数年にも思えるほど長い時間に感じた。



 アタシはそこまでの鍛錬をしてきた。


 

 次の日も、雨の日も、嵐の日も。



 それはあの少女に追いつくためだった。

 アタシたちのために、孤児院を出て行った年下のあの少女に。



「はぁ、はぁ、はぁ、…………………」



 一つ年下の女の子に、追いつきたいだなんて、正直カッコ悪い。

 けど、あの子は何か、不思議な力を持っている。


 本人が気付いてるかどうかわからないけど、それはきっと凄いものだ。

 あの鈍臭い子供が、半年近くも無傷で冒険者を続けているからだ。それに、



 それにアタシは、それと思われる体験を何度かしている。


 だから生半可では、このままでは足手まといだ。と。



『――――――――』



 でも、アタシもそういった何かを持っている。



 ユーアの物とは根本的に違うけど、もっと実戦的な力だ。



 きっと、それでも足りないからアタシは研鑽を続けていく。

 きっとユーアの手助けになる、力を磨いていく。



 それがユーアのになると信じて―――――――――





 

 アタシは貴族の娘だった。


 大きな街を統治するお父さんの娘だった、

 領主の5人娘の一人だった。



 なんで、そんな娘が孤児院に入っているかと言うと……


 大きな街の領主から、小さな村へと左遷された先の統治が出来なかった事。

 国に治めるべき、税金を納められなかった事。


 それはそうだろう。


 左遷させられた土地は、干からびた大地の広がる小さな村。

 そこで採れる穀物も、特産品も何もないそんな廃れた、砂漠のような村だった。


 それと悪い条件は続き、魔物も多く、村人の殆どが息子、娘が成人して、街を出て、子供が生まれている、年よりの多い村だったのだから。


 父曰く、この僻地への左遷の理由は、父の手腕を妬んでの、

 他の貴族の差し向けだろうと。


 もしかしたら、これからも力を付ける父を恐れての事だろうと。


 

 だが、そんな土地でも手腕を振るっていた父も、次第に資金繰りも出来ず、借金を繰り返し、お家を取り壊されてしまった。


 他の姉たちは、売られたり、何かしらの特技のある者は、家督の低い嫡子の息子などに嫁がされた。


 そして、成人していないアタシはこの孤児院に、言わば逃がされた事になるだろう。



 それでもアタシは父を憎んではいないし、今でも嫌ってはいない。

 寧ろ感謝しているくらいだ。


 好きでもない男に、しかも家督の低い者と結婚したって、将来は暗闇しか見えないだろうから。


 だったら、孤児院でも何でも、自由があった方が気分がいい。



 そうして、アタシは貴族ではなくなった。

 要は、没落貴族と呼ばれるものだ。



 今は只の、小汚い小娘。


 家名も地位も何もない、あるのはちょっとした、貴族だったプライドだけ。

 こんな街では必要のない、無駄なもの。



 そんな小さなプライドだけを持って、アタシはこの孤児院に入って来た。



 そんな訳で、アタシはひとりの時間が多かった。


 誰もアタシのいう事を聞いてくれなかったから。

 誰もアタシのわがままを許してくれなかったから。



 そして、アタシはいつもの孤児院裏の、暗い雑木林の奥で、その嘆きをぶつける。

 木の幹に、大岩に八つ当たりを繰り返す。



 誰も知らない、アタシの力を無駄遣いして。



「ははっ! 今日もあの小生意気な、姉さん気取りの子供を泣かせてやったわっ! この孤児院ではアタシが一番強いんだからっ! アタシが一番偉いんだっ! あはははははっ!―――――」



 乾いたアタシの笑いが、森の中に溶けていく。



「はははははっ! はは、は、はっ~~ う、ううっ、アタシは本当は、みんなと一緒に、なのにに何で、いつも、同じことを―――、ううううっ、うわぁ~~~~んっ! なんで、なのよぉ―― うううっ……」


 アタシは、悔しくなって、悲しくなって、大声で嗚咽を漏らす。

 自分が悪いのは分かっている、でも色々な今までの考え方がそれを遮る。

 下らないプライドがそれを邪魔をする。



「ラ、ラブナちゃんっ、だよねっ?」

「え?」


 そう言って、泣きじゃくるアタシに声を掛けてきたのは、

 いつも小さい子の面倒をよく見ている、ボクっ娘の少女だった。


 この先、アタシを救ってくれる、心優しい少女だった。



 そうして、アタシは独りではなくなった。




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