第298話報告のお話とお土産の話
スラムを後にし森を抜け、一般地区まで戻ってくる。
そしてギルドがある商業地区を目指して、屋根の上を駆けていく。
「どれどれ、ちょっと確認してみようかっ!」
ウキウキしながらメニュー画面を映し出す。
その際に危ないので、少しだけ速度を落とす。
蝶の英雄さまが、屋根から転げ落ちたら笑われそうだから。
「ふむふむ、なるほど~、面白いスキルも増えてたね、ニシシ」
一人ほくそ笑んでニヤニヤしてしまう。
虫の魔物のラスボスとの戦いで、レベルが上がったスキルを見て。
その詳細はこんな感じだった。
■■■■■■
★変更点
防具
『M.Swallowtail butterfly(ゴスロリ風)』
防具スキル LV.5→LV.6
最大数 ★10→20
距離 ★50M→100M(射程内のみ操作可)
大きさ ★50M→100M(展開後に変更可)
形状 図形(展開後に変更可)
色 自由
重量 ★100t→200t(展開後に振り分け可)
【追加能力】
連結 透明壁スキル同士を連結する事が可能。
湾曲 図形の形状のまま湾曲可能。
追尾 ★対象を選択し追いかける。範囲内限定。
通過 ★透明壁スキルを通過できる。裏表の設定可。
変態 ★変態できる。最小1/5。最大5倍。
『鱗粉効果』
【透明鱗粉】
羽根の鱗粉を散布する事で、他者も含めて透明にできるが、
気配は消せない。任意で解除できる。
透明同士なら視認できる。
【実体分身】
実体を伴った自身を作成できる。
気配などはどちらにも移行可能。
基本能力は皆無。
多少の動作などは可。
【鱗粉発光】★
羽根から光を発することが出来る。
輝度は調整できる。
閃光としても使用可能。
鱗粉を散布したものも発光が可
■■■■■■
「うん、数値的にはほぼ倍に伸びているねっ! 追加効果の『追尾』と『通過』は単独でも、組み合わせても使えそうっ!」
「うんうん」と一人頷き、使い方を模索し楽しくなる。
その際『変態』て能力は無視する。
何だよ変態って。しかも変態が5倍って何?
「それと、鱗粉効果の『発光』は目くらましにも使えるし、暗いところでも使えるから、冒険には便利だね。羽根も拡大縮小できるようになったし」
走りながら、羽根を大きくして覗き込む。
今までの倍以上になったので、非常に目立つ。
私の頭よりも大きいし、体からもはみ出てるし。
「さすがに飛べはしないんだろうけど、なぜか空気抵抗も受けないんだね? 物理的にどうなってるか不思議。意識して動かさないと、ピクリとも動かないし」
もしかして、大きくなれば将来的には飛べるようになるんだろうか?
そしたらユーアを乗せて海とか、他の国とか大陸とか行ってみたい。
「きっと喜んでくれるよね? そしたら他のメンバーたちもびっくりするだろうね? 私が本物の蝶になったみたいで。そう考えると、これからのレベル上げに楽しみが出来たよっ!」
トンッ
スキルの詳細に一喜一憂している内に、目的地に到着する。
「よし、最初はここからだね」
地面に降り立った先、そこは冒険者ギルドだった。
その理由は先ず最初に、クレハンに報告をしようと思ったから。
恐らく話が聞きたくて待っているだろう。
スラムで起こった真偽についても、その結果についても。
「戻ったよ。クレハンいる?」
私は扉を開けて中に入っていく。
※
「あ、おかえりなさい、スミカさん…… って、えええっ! な、なんで大きくなってるんですか? 一体スラムで何があったんですかっ!?」
中に入ると、ちょうどクレハンが職員と話しているところに出くわす。
入ってきた私に気付き、驚いたようにジロジロと見てくる。
「はぁ? なんなの、会って早々セクハラ? それか嫌味で言ってるの?」
それを聞いて、睨みながら両腕を胸の前で抱き体を隠す。
いくら、入念に、真剣に、必死にバストアップ体操やマッサージ。大豆食品を食べてるからって、数日で大きくはならないだろう。お世辞を言うのにもほどがある。
もしそんな事になったら、他人ではなく、真っ先に私が気付くから。
なにせメニュー画面では、今まで1ミリの増減もないままだから。
「ち、違いますよっ! スミカさんは素敵だとは思いますが、わたしはもっとボリュームのある…… じゃなくて、何を言わせるんですかっ! それですよっ! それっ!」
「それ?」
クレハンは慌てふためきながらも、私の後ろを指さす。
何か余計な事が聞こえた気がしたけど。
「あ」
そうだった。
ここに来るまでに大きくして確認してたんだっけ。背中の羽根。
そして楽しい妄想をしたまま、小さくするのを忘れていた。
シュン
「えっ? それ大きさ変えられるんですかっ!?」
背中に回り込み、私の羽根を興味深く見ている。
「うん。色々あって変えられるようになったんだよ」
「い、色々って…… そもそもそれって衣装なんですか? 防具なんですか? どっちにしても自在に大きさを変えられるなんておかしいですけどね」
「う~ん、一応防具なんだけど、防御力はほぼないかな? だから衣装でいいよ」
「…………言ってる意味が分からないですが、まぁ、スミカさんだから詮索は止めておきます。あまり突っつくと、びっくり箱みたいで何が飛び出してくるかおっかないですからね」
「うん、それでいいよ。っていうかお願い」
「はい、わかりました。それで色々って事は何かわかったって事ですね? 一緒にいた女の子もいないですし」
クレハンは神妙な顔つきに変わって聞いてくる。
「うん、それじゃ――――」
「あ、それでは2階に行きましょうか? 先ほどの部屋でお聞きします」
「そうだね、それでいいよ」
そうしてクレハンの後に続いて、2階に上がる。
日中、ボウときた最初の部屋だ。
※
「―――― とまぁ、そんな事があったんだよ」
「………………」
街の状態から、助けた人々、それに討伐した多くの虫の魔物。
大雑把だけど簡単に話し終える。
それを聞き終えたクレハンは、黙り込み考え始める。
私はその間に、用意してくれた紅茶に口を付ける。
ついでに果物を使ったパンケーキみたいなのも食べる。
「もぐもぐ」
うん、あまり甘くないけど、果物の甘みが出てて美味しいかも。
「もぐもぐ…………」
クレハンにお店の場所聞いて、ユーアたちに買って行こうかな?
シーラも、子供たちも喜ぶだろうし。
「スミカさん。その回収してきたもの見せてもらってもいいですか?」
ケーキに舌鼓を打っていると、考え込んでいたクレハンが顔を上げる。
「うん、これなんだけど」
虫の魔物の子分の方を一体分出して並べる。
頭と、胴体と、ハサミと。
「…………大きいですね、少なくともこの大陸には生息してない魔物です。わたしも気になって調べたんですが、南の大陸のアストオリアに生息する種類みたいです。ただ精々この半分の大きさらしいですが……」
座り込み、真剣な眼差しで眺めそう答える。
「で、今度は最後に出てきたラスボスなんだけど……」
ふと気付いて辺りを見渡す。
よく考えたら、ここで出すには些か巨大過ぎる。
「あ、でしたら誰もいないので、訓練場に行きましょう」
「そうだね、その方が良さそうだね」
躊躇している私にクレハンが気付き、部屋を後にする。
「そう言えば、ナゴタたちはまだ帰ってきてないの?」
訓練場に向かいながら、気になって聞いてみる。
私がスラムに行ってから、それほど時間が経ってはないけど。
「はい、まだ暗くなるには早い時間なので、あと数刻って感じですかね? 人数も多いので暗くなる直前まで頑張ってるみたいです」
「そっか。で、ついでにそこにギルド長も混ざって帰って来ないと」
ちょっと皮肉を込めて言ってみる。
あなたの上司は職権乱用してますよ、と。
「はは、耳が痛い話ですが、行きっぱなしじゃなく、時々帰ってくるんですよ? 満足したような、清々しいような顔をして」
「いやいや、満足したって、それは自分がナゴタたちと手合わせしたからでしょう? 冒険者の訓練を見てではないよね?」
戦うのが好きな、あのルーギルだ。
冒険者の成長具合よりも、8割以上は私欲のためだ。
「スミカさん更に耳が痛い事を…… なので、わたしとギルド長は交換で行く事に決めました。毎回ギルド長だけではズルイですからね」
「いやいや、それ色々間違ってるからね? 仕事しなよ二人とも」
のほほんと答えるクレハンに突っ込む私。
前提が色々と間違っている。
そんな事を話しながら、人気のない訓練場に到着する。
「で、これが、一番最後に出てきた、ボスの虫の魔物の胴体ね。さすがに邪魔になるから一部しか出せないけど。これが繋がって20メートルもあったんだけど」
部屋で出した子分ももう一度並べて、更にラスボスの1片を出す。
これだけでも、私の倍以上大きい。
「うわっ! そ、想像してたよりも巨大ですね、胴体一個が……」
恐々と近寄り、その破片に振れるクレハン。
「こ、これを、あとどれぐらいお持ち何ですか?」
「そうだね、ボスのは13個ぐらい。子分のは300個くらいだね」
アイテムボックスを見てそう答える。
ボスのは顔が無いのと、尻尾が2本だったので変な数になっている。
「あ、あのぉ、スミカさん。これを少しだけでいいので、売ってもらえることは可能でしょうか?」
「コンコン」と甲殻を叩きながら、クレハンがこっちを見る。
「ああ、やっぱり素材として使えるよね? 甲殻の部分は。それもあってきれいに切断して持ってきたんだよ。あまり傷つけないように」
「はい、この硬さでこの軽さですからねっ! 鎧としては加工が難しいですけど、胸当てや盾や、部分的な防具としては使いやすいですし、それに生活品にも――――」
「う、うん」
いきなりテンション上がって、さっきより饒舌に語り始めるクレハン。
それを若干引いて聞き流す。そこまで使い道に興味がないから。
「で、それで売ってくれるんですかっ!」
「う、うん、元々そのつもりだからいいよ。冒険者の底上げにも役立つだろうし。でも全部じゃないよ? それに他に持って行きたいところあるし……」
鼻息の荒いクレハンにそう答える。
ただ正直言って、自ら進んでは行きたくはない。
他に持って行きたいところ、そして私が抵抗を感じるところ、
それは――――
「ああ、商業ギルドですね。あそこなら喉から手が出るほど欲しがるでしょうね? こんな珍しい素材でしたら。それと『食材』としても高額で買い取ってくれますねっ」
私の意図を汲み取ってか、クレハンが即座に答える。
さすが、冒険者ギルドの頭脳担当だ。
て、それよりも
「え? これって食べられるのっ!?」
「はい。元々毒のない虫の魔物は食べられるそうです。かなり栄養価が高くて、しかも絶品らしいですよ? 煮ても焼いても、生でもいけるそうですっ!」
「……………………」
破片の切断面を見ながら、嬉しそうに話すクレハン。
それを聞いて驚き声が出ない私。
『こ、これ持って帰ったらユーアも喜ぶの? 美味しいよって食卓に並べてくれるの? いくらなんでも虫はユーアだって……』
どうせなら喜んで欲しくないと思う私だった。
そして逆にマズくてもいいと思った。
『だって、私、虫食べたくないもん』
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