第574話復活のトテラと出立準備




 ザッ


「もう全然大丈夫だよっ!」


 ぴょんぴょんと周囲を跳ねた後で、私たちの前に華麗に着地するトテラ。

 治ったばかりの脚で屈伸しながら、満面の笑みを浮かべる。  



「そう。それは安心したよ」

「ん、良かった」


 そんなトテラの様子を確認し、マヤメと二人、顔を見合わせ、笑顔になる。

 どうやら後遺症も違和感もないようで安心した。

 

 如何に私のアイテムが、この世界では効力が増すと言っても、トテラのケガは片足を失うほどの大ケガだった。


 だから正直、完治できてるか、かなり不安だったけど――――



「本当にありがとうっ! スミカちゃんとマヤメちゃんには助けてもらってばかりだねっ! アタシ独りだったら、もうとっくに魔物に食べられてたよっ!」


 向日葵のような笑顔で話すトテラを見て、こっちが救われた気分になる。



「そんなの気にしないでいいよ。トテラはマヤメの力になってくれたし、そのお陰で私もメーサの中から出れたし。寧ろ巻き込んだのはこっちなんだから、逆にこっちがありがとうだよ」


「ん、マヤも助かった。トテラありがとう」


「そ、そうかな? てへへ」


 感謝を感謝で返されて、嬉しそうに照れるトテラ。 

 両耳がへなへなとおかしな動きをしている。



「さ、それじゃ、体力も気力も回復したから、そろそろ目的地に向かおうか?」


 レストエリアを収納しながら二人に声を掛ける。 

 一番の気掛かりだった、トテラの脚も確認できたので。


 ところが、


「あひゃ~、やっぱり砂漠は暑いねっ! これじゃウサギの丸焼けになっちゃうよ」


 ジリジリと差す太陽を見上げ、そのトテラが悲鳴を上げる。



「あ~、そう言えばそうだよね。でも私、陽射しを防ぐような服持ってないんだよ」


 今トテラの着ているものは、私が貸しているもの。

 確かに、薄手の白シャツと短パンでは、この先も辛いだろう。



「マヤメは何か持ってない?」


 なので隣のマヤメに聞いてみる。


「ん、マヤもない。でもこれならある」


 すぐさま麦わら帽子を取り出し、トテラに手渡す。



「え? マヤメちゃんいいの? それよりもそれどこから出したの?」


「ん、コムケの街でお隣さんに貰った。だから後で返して欲しい」


「でも、それじゃマヤメちゃんは?」


 手に持った麦わら帽子と、マヤメを心配気に眺める。


「ん、マヤは問題ない。ずっとこの姿」


 クルリとその場で回転し、大丈夫だと小さく頷く。


 そんなマヤメの出で立ちと言えば、ノースリーブで丈の短い、黒のライダース風ジャケットに、同じく黒の短パンと黒のロングマフラー。

 そして腰の後ろには、漆黒のククリナイフが2本ベルトに収まっている。



「そう言えばそうだよねっ! でもマヤメちゃんは暑くないの?」


 今更ながらマヤメの服装を見て心配する。


「ん、マヤは暑さも寒さもあまり感じない。構造が人族とは違うから」


「え? 人族じゃないんだっ! 見た目は人族なのにね?…… それじゃスミカちゃんは、蝶と人族との交配種? それとも蝶の生まれ変わり? それか蝶の妖精さん?」


 マヤメの話を聞き、同行者だった私に興味が湧いたのだろう。

 ぴょんぴょんと私の周りを跳ねながら、的外れな事を言ってきた。

 

 まあ、今の流れならきっと、こっちに来るとは思っていたけど。



「いいや、どれも違うよ。私がこの環境でも平気なのは、この衣装のおかげだよ。寒暖差以外にも、あらゆる状態異常も軽減してくれるから」


「そ、そうなのっ!? それはいくらしたの? なんで蝶なの?」 


「いきなり値段って…… これは賞品だから元の値段は知らないよ。それと蝶なのも」


「はぇっ!? ならきっとそれもの凄い高価なやつだよっ! それ売れば、お城みたいなおっきな家や、食べきれないほどの野菜が買えるよっ!」


 装備の効果を知って、食い気味どころか、ギラギラとした瞳に変わる。

 なんか暴走(発情)した時みたいに、目が赤くなってない?  



「いやいや、いくら高くても売らないって。そもそもこれは私にしか着れないから」


 装備をチラと見下ろした後で、両手を広げてそう答える。



 【M.Swallowtail butterfly(ゴスロリ風)】


 この装備は私のアバターと紐付けしてある。

 外す事は出来ても、他のキャラが装備する事は出来ない。


 いや、正確に言えば装備は出来るけど、その恩恵を受ける事が出来ないってだけだ。

 

 そうなれば、防御力皆無の、ただのコスプレになってしまう。

 装備としての効果がないなら、誰しも好き好んで着たくはないだろう。


 そういう意味も含めて『私以外は着れない』って、言ったんだけど……



「そ、そうだよねっ! 子供用の服なんて、アタシじゃ着れないもんねっ! なんかゴメンねっ!」


「………………」


 勝手に勘違いして、一方的に謝罪される。

 気のせいじゃなければ、なんかチラチラと私の胸元見てない?



「あ、あのさ、そう言う意味じゃなくって、この衣装についてる効果が――――」


 色々と誤解しているようだから、慌てて訂正しようとするが、



「ん、澄香は脱いでも凄い。マヤ知ってる」


 何故かマヤメが割って入ってくる。



「え? そうなのっ!?」


「ん、マヤは見た。澄香は脱いでも凄かった(強かった)」 


「本当に? でもマヤメちゃんがそう言うなら。でもなぁ~……」


 マヤメの説明を聞いて、更に疑心暗鬼になるトテラ。

 私と自分の胸を交互に見比べて、首を傾げている


 

『これって………………』


 マヤメは一体なんのフォローなの?

 そもそもこれフォローなの?

 

 なんか嫌味って言うか、実際に見られてるから、逆に傷つくんだけど。

 この場合、脱いだ方が凄いじゃなく、脱いだ方が酷いって聞こえるんだけど。



「あ、あのさ、その話はもう後にしなよ。目的地も近いんだから。それとトテラにはこれあげるから。あ、マヤメにも一応渡しておくよ」


 なので、あるアイテムを取り出し、二人の話を中断させる。

 これ以上聞いてたら、SAN値がガリガリ削られるだけだし。



「え? なにコレ?」

「ん?」


 私から手渡されたものを不思議そうに眺める二人。



「それは『リデュースピアス』って言って、耳につけると体に見えない膜を張るんだよ」


「膜? これが? それでどうなるの?」

「んっ!?」


「で、その膜が、私の衣装ほどではないけど、暑さや寒さ、それに衰弱や睡眠―― って、最後まで話聞きなよっ!」


 説明を終える前に、早速装着した二人を睨む。



「えっ! 本当だっ! 全然暑くないよっ!」

「ん、澄香からの贈り物。マヤ大切にする」


 その効果を体感し、トテラは飛び跳ねて喜び、マヤメは耳に手を当て、どこか嬉しそうに目を細めていた。



「ね、それならあの中がどんなに過酷な環境でも大丈夫でしょ? 因みに風の方は、私の魔法で防ぐから心配しないでいいよ」 


 目前に見える、巨大な砂嵐を見上げて、そう声を掛ける。


「うん、これならどこでもへっちゃらだよっ!」

「ん、これならいつもより早く着ける」


 トテラはニコニコとしながら、更に気合の入った様子で、マヤメは私と同じように砂嵐を見上げて答える。

 


『道中色々あったけど、やっとここまできた。あの砂嵐のどこかに、マヤメのマスターの工房と、トテラが探しているって言う、お宝もあるんだよね』


 ここが二人の希望の地にして、最終の目的地。


 だけど今や私の目的でもあるし、延いてはシスターズも含めた、みんなの目的でもある。

 


『だって、この旅が無事に終わったら、ユーアやみんなもきっと喜ぶと思うんだ。マヤメやジーア、そしてもう一人、仲間が増えるかもだからね』


 対照的な表情を浮かべる二人の横顔を見て、また楽しみができたなと思った。  


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る