第137話弾け飛ぶ?ゴナタの……




「あ、あのスク水幼女っ! 消すの忘れてたな――――っ!」


 目の前にこれでもかと主張する、黒光りした巨大な壁。

 訓練場と観客を、完全にシャットアウトしている。



「これじゃ、せっかくて真っ向勝負で戦ったのに、ゴナタが報われないよっ! こうなったら私がスキルでぶっ壊してやろうかっ!」


 腕まくりをし、怒りのままにズンズンと壁に向かい歩く。

 この壁のおかげでケガ人が出なかったのは良いけど、その後が最悪だ。



「よ~し、重さを最大にして跡形もなく――――」

「う、う~ん、あ、あれ、ワタシはっ?」

「あっ!」


 横たわっていたゴナタがふらふらと上半身を起こす。


「あ、そうか、ワタシ、お姉ぇにもの凄い攻撃を…… 痛つっ!」

「ゴナタ、無理して立たないでいいよ? 回復して上げるから」


 少し腰を上げたところで、痛みに顔をしかめるゴナタ。

 私は優しく背中を支えてあげる。




※※※※※



 一方その頃、スミカたちを覆う壁の外では、

 壁を作った当の本人が慌てて戻ってきた。



「おおっ、急ぐのじゃっ! 急ぐのじゃっ! みんなが騒いでいるのじゃっ!」


 ナジメは自身で作った壁の前に駆け付け、早速魔法を唱える。

 もちろん、みんなあ騒いでいる原因となった壁を解除する為だ。



「よし、これでいいのじゃっ! もぐ」


 そしていとも簡単に魔法を解除させ、持っていた串焼き口に入れ笑顔に戻る。



※※※※※



 その頃、巨大な壁の内側のスミカとゴナタは?



「ゴナタ、無理して立たないでいいよっ! 回復して上げるから」

「う、うん、でも肩を貸してくれるかい? なんとか一人でも立てそうだから」

「わかった。でもキツそうだったら直ぐに回復するから」

「あ、ありがと、お姉ぇ」

「うん」


 痛みに苦しむゴナタを介抱しているその時、



 ズズズ――――

 ズズズ――――


 ズンッ


「えっ? 壁が?」

「消えた?」


 ジャリジャリと擦れる音と共に、巨大な壁が地面に沈んで消えた。

 私とゴナタはそれを呆然と見ていた。


 そして今まで壁のせいで見えなかった大勢の観客の姿が見えた。


 しかしそれと同時に、ゴナタにも異変が起こった。


 ビリッ


「ん?」

「えっ!?」


 ビリリリリッ――――!


「う、うきゃっあああああああっ―――――!!」

「ゴナタ?」


 いきなり聞こえた甲高い悲鳴に驚き、その本人のゴナタに視線を移す。

 全身のケガが痛くて出た悲鳴だと一瞬焦ったけど……


 だけどそこにいたのはケガとは関係なく、体を隠して悶絶しているゴナタがいた。



「うぎゃっああああ――っ! お、お姉ぇ、ワ、ワタシの服がっ!」

「へっ? え、ええええええっっっっ!!!!」


 そこには、上半身のシャツがズタボロに破れて地面に蹲るゴナタの姿が。

 そして両手を交差させて、はち切れんばかりの巨大な胸を懸命に隠している。


 が、


『うわっ! もの凄く見えるんだけどっ!』


 ゴナタが蹲り両手で覆っているが、物理的に無理なものは無理。

 そんな細腕で隠しきれるサイズではなかった。


 隠した腕のあらゆる隙間、そして脇から、ただ「むぎゅっ」と変形しただけの豊満すぎる女性の象徴が露わになっていた。

 ギリギリで隠し通せているのはその先端だけだろう。



「うにゃああ――っ! お姉ぇ助けてっ! 見えちゃうっ!」


「はあっ!? なんでゴナタの服が破けてんのっ! あ、もしかして……」


 私のせい?


 あの時のゴナタの限界を超えた凄まじい攻撃に、瞬間的にだけど5層を超えて、ゴナタに撃ち込んでいた。

 刹那の間に十数撃もの連打を、普通の服の上からゴナタに浴びせていたんだ。



「ま、間違いないっ! きっとそうだっ! 服だけが耐えられなかったんだっ!」


 そう思いたって、即座に透明鱗粉をゴナタに散布してその姿を隠す。



「もう大丈夫っ! ゴナタは今見えなくしたからっ!」

「う、うん、ありがとうっ! 助かったよっ!」

「ほっ」


 なんて安心したのも束の間、どうやら透明にするのが遅かったようで、



「「「うおおおぉぉぉぉっ――――!!!!」」」


 今までの静寂が嘘だったかと思う程の歓声が、私たちに飛んできた。

 


「うおっ! 巨大な壁が消えたら、巨大なおっぱ〇がぁっ!」

「腕から、は、はみ出てるぞォッ! も、もう少しで全部がっ!?」

「ま、マジかっ! あんなものが存在するとはっ!」

「あ、ありがとうっ! 今日まで生きててよかったぁっ!」

「ゴクリッ、あんなものに挟まれてぇよ…………… くぅっ~!」

「あのお姉ちゃん、お母さんよりずっとおっきいよぉっ!」

「う、うるさいわねっ! 大きければ良いってもんじゃないでしょ!?」


 こちらは街の人や冒険者たちの声。

 老若男女問わず、ゴナタのあられもない姿を見て騒ぎ立てる。



「ああっ! ゴナタさんがっ!」

「あああっ、ゴナちゃんっ!?」

「ゴナ師匠はさすがに桁が違うわねっ! さすがアタシの師匠よっ!」


「はぁ、アイツら一体何やってんだァ?」

「一体何があったら、ゴナタさんの服があんなに破けるんですか!?」


 こちらはバタフライシスターズの面々と、ルーギル達の声。

 ゴナタの弟子のラブナは変なところで感心している。




「お、お姉ぇっ! ワタシをナゴ姉ちゃんのところに連れてってっ! 見えなくてもやっぱり恥ずかしいからさっ!」


「う、うん、わかったっ! それじゃ回復しながら連れて行くねっ! 向こうに着いたら急いで着替えちゃいなよ。着替えはあるんでしょ?」


「うん、それは大丈夫っ!」

「よし、それじゃ急ぐから、ギュッと捕まっててっ!」

「うんっ!」


 見えないゴナタをお姫様抱っこして、急いで姉のナゴタに向かい疾走する。


 ところが、


 シュタタタ――――


「うわわっ! ま、また見えてるよっ! スミカお姉ちゃんっ!?」

「ゴ、ゴナちゃんっ!」

「も、もう見せなくていいわよゴナ師匠っ! こっちが恥ずかしくなるからっ!」


「えっ! 見えてるっ! なんで?」


 走り出した途端、向こう前のシスターズが何やら騒ぎ出す。

 そんなシスターズの声に嫌な予感がしながらも、視線を真下に落とす。


「あ?」


 そう言えば急いでたから、全力で走ったような?

 だとすると、私の透明鱗粉の効果って………… 消えるよね?


 だって風に弱い能力なんだもん。

 私が本気で走ったら、数歩で鱗粉なんか消し飛ぶよ。


 

「ど、どうしたんだいっ? お姉ぇ」

「え?」


 ゴナタはきっとナゴタたちの声が耳に入らなかったのだろう。

 不思議そうな顔で、私を見上げてくる。



『まぁ、それはそうか。殆どはだか同然で、みんなの前で担がれてるんだからそんな余裕ないよね? でも一応どうなってるかは確認しないと――――』

 


 チラ


 ゴナタを見るついでに、気付かれないようにそっと視線を外す。

 目指すは、みんなが見えると騒いでいる、あの部分だ。


 するとそこには、


『うっ!』


 目を向けた先には、何も覆っていないゴナタの胸が目に入ってきた。

 抱っこする前は両腕で隠してたけど、その腕は今は私の首に巻かれている。

 それは落ちないように掴まっててと、私が言ったからだ。



「あはっ!」

「お姉ぇ?」


 私はあり得ない程の、その二つの膨らみを目の当たりにして、


「あはははははははは」

「お姉ぇ!?」


 そんな乾いた笑いしか出て来なかった。

 人間、過去一番に驚いた時はそんなもんだよ。



『…………はははっ、異世界の神さまは不公平だよ。その1/10でもあれば、私はきっと色々悩まなかったし、努力もしなかった…… って、今はそれよりも、こんな現実を私に見せつけた、その要因を作った幼女は――――』


 ゴナタをもう一度透明鱗粉で見えなくして、ある人物を視界に映す。

 元はと言えば、あの壁を急に解除したアイツのせいだ。



『こんな私に現実を見せつけ、更にどん底に落としたあの幼女は許せない』


 そこには、串焼きを口いっぱいに頬張る、無邪気な笑顔のナジメの姿があった。



「うん、やっぱり焼きたてはうまいのうっ!」


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