第136話決着とゴナタの覚醒!?




「ふうっ」


 私は短く一息吐く。


「よしっ! これからは接近戦だぞっ! でもいいのかい、わざわざワタシに付き合って貰って?」


 そう言って私と対峙するゴナタは、巨大なハンマーを握り、心から楽しそうに無邪気な笑顔を浮かべている。


「うんいいよ。ゴナタの土俵で戦って上げる。その方が観客も特に冒険者たちが盛り上がると思うし」


「まあそうだなっ! それにお姉ぇは距離が近くても遠くても関係ないしなっ!」


「ただし、あまり時間はかけないけどね。あとそれと、私はここから動かないでゴナタの攻撃を完封してみせるよ。だから気の済むままに打ち込んできていいよ」


「うわっ! それは嬉しいけどちょっとへこむかも。でもお姉ぇだからいいかっ!」


「そういう事。だから何も気にしないでいいよ」


「よしっ! いくぞお姉ぇ――――っ!」


 一息気合を入れて、ハンマーを横薙ぎに振るう。

 私は最初の一息で、安全装置を5層まで外しているのでこのまま待ち構える。



『に、してもナゴタもそうだったけど、ゴナタも何だかんだ戦うのが好きだよね? 笑顔を浮かべるゴナタと違って、姉のナゴタの方は殺気の中に楽しさが滲み出てたけど』



 やはり双子だなと思っている私に、ゴナタのハンマーが迫る。

 当たれば間違いなく即死級の極悪な一撃だ。



「う~ん」


 バックステップ? 上に跳躍する? それとも――――


 ゴナタの一撃を受ける手段のない、今の私の選択肢はこれしかない。

 何故なら2つの制限を掛けて模擬戦に挑んでいるからだ。



 1.スキルを使わない


 これは模擬戦では使わないと最初から決めていた。

 確かに使えば姉妹を圧倒できるだろう。

 そしてその力に冒険者も驚くだろう。


 でもそんな訳の分からない力を使って勝利して、それで冒険者たちは何を思う?


 きっと理解の範疇を超えて逆に怪しむのではないか?

 知らない力を目の当たりにして混乱するだけなんじゃないか?


 だったら冒険者たちも知っている、二人の得意な土俵で圧倒した方がいいだろう。

 その方が現実的に見えるし、私の能力を曝け出すリスクもない。



 2.この場を動かない。


 これはたった今追加した制限だ。

 これも冒険者たちには効果のある見世物となる。


 ヒョコヒョコと逃げ回って、隙を突いて攻撃するだけならば、私じゃなくても、ゴナタと同じランクの冒険者なら出来ない事はないと思う。

 でもそれではつまらない。見世物としては。


 だから私はナゴタの得意な速さで打ち負かし、そして今戦っているゴナタの得意な力で打ち負かすつもりだ。それを含めて私は2つ目の制限を課したのだから。


 そして動けない私が、ゴナタの強烈な一撃を防ぐ方法は、避ける事も跳躍も、ましてやスキルも使えない。だったら答えは簡単。


 行きつき先は行き止まりではなく、もっと単純で効果の高い方法があるからだ。



 それは――――



「真っ向から受け止めるっとっ!」


 ガシッィ!


 横薙ぎに迫る、巨大なハンマーの一撃を両手で受け止める。



「はっ? はあああっ! す、素手で受け止めたのかいっ! お姉ぇっ!」


 止められたハンマーを見て、ゴナタは驚愕の表情を浮かべる。



「いや、ただ受け止めただけじゃないよ。普通に受け止めたら物理的に吹っ飛ばされるし、その時点で負けちゃうでしょ? まあ、これは私の勝手なルールだけどさ。 ほら? 足元見てごらんよ。飛ばなかった理由がわかるから」


「え、あ、足っ!? ってなんだこれっ! 片方が膝まで沈んでるじゃないかっ!」


「そう、それでゴナタの攻撃の衝撃に負けないように、踏ん張ってたんだよ。かなり力は使うけど」


「………………」


 ゴナタにした今の説明の通りに、私は左足の半分を地中に突っ込んで固定している。

 そして攻撃を受ける際には、腕の他に足にも力を入れて受け止めていた。



「ははっ! なんだそりゃっ! ワタシは素手で受け止めた事に驚いたのに、それは当たり前で、吹っ飛ばなかった理由を説明するなんて、やっぱりお姉ぇは強くて凄くて、きれいでカッコイイよなっ!」


「うん、ありがとねゴナタ。でもゴナタの一撃も凄かったよ」


「よし、それじゃ、まだまだいくぞっ、お姉ぇっ!」


 気合を入れ直したゴナタの超重量のハンマーが、再度私に振り下ろされる。

 今度は今までの重い一撃ではなく、手数を増やして攻撃してきた。


 単発では通じないことを悟り、数で圧倒するつもりだろう。



 ブウンッ ブウンッ ブウンッ ブウンッ!

 ブウンッ ブウンッ ブウンッ ブウンッ!


「んんっ!」


 ガンッ ガシッ バシッ ザザッ!


 私はそれを、弾き、受け止め、いなす。

 拳、掌、肘、膝、脛、踵、あらゆる人体の部位を使って防いでいく。



「うがああぁぁぁっっ!!!!」

「痛つっ!」


 どんどんと回転が上がるゴナタの攻撃を捌いていく。

 苛烈な一撃を全て撃ち落としていく。


 このまま防ぎ続ければゴナタの体力切れ。

 そこを私が反撃すれば全て終わり。



『…………だよね? このままいくと』


 この攻撃が途切れればそこで終わりだと。

 私はゴナタの重い攻撃を防ぎながらそう思っていた。


 だけど、



「ぐぬぬぬぬっ、お姉えぇ――――っ!!」

「っ!?」


 私に向けて吐く咆哮と絶叫と共に、ゴナタの体から発する光が――― になるまでは。 




※※※※




「ふうぅ――っ! って、痛ててっ!」


 痺れて未だに感覚のない、両腕をみながら痛みで声を上げる。


 そして痛みに顔をしかめながら、地面に横たわるゴナタを見る。

 気絶しているだけで大きな外傷はないみたいだ。



「うん、大丈夫みたい。それにしても、まさか一瞬でも今の全力を出す事になるとは思わなかったよ」


 倒れているゴナタを見ながら小さく呟く。


「あれは一体何だったの? ゴナタの力が倍以上になったよ。それも数撃で終わって力尽きたみたいになったけど」


 ゴナタの最後の攻撃だと思われた一撃は、ゴナタを纏う光が強くなったと同時に、その重さと鋭さを増していた。


 私はその振り下ろされる一撃に、拳を繰り出したまでは良かったが、


 ガッ!


 ブフォンッ!!!!


「え、弾けないっ!?」


 ハンマーを捉えた私の拳はその威力を抑えきれずに、ハンマーを振りぬかれてしまう。力負けして。

 そしてその振り下ろされた攻撃は、地面に届くことなく軌道を変えて、今度は私の顔面に迫ってくる。



「ふっ!!」


 空いている手でハンマーに向け、咄嗟に掌底をぶつけるが、


 ガッ!


 ブフォンッ!!!!


 またもや振りぬかれてしまう。



「ちっ! ってまたくるの?」


 掌底を振りぬき、そのまま弧を描いた凶悪なハンマーは頭上に振り上げられる。

 それをそのまま私の脳天に振り下ろさんと、更にゴナタが力を入れる。



「――――――――six」


 ズガガガガガッ!!!!


 そのゴナタの攻撃が振り下ろされる前に、私はゴナタを攻撃した。

 決して捉える事のできない刹那の時間で、十数撃、私は撃ち込んだ。



「っっっっっっ―――――!!!!」


 それを受けたゴナタは声も出せずに体が傾く。

 私はそっと体を受け止めて、ゴナタを優しく地面に寝かせた。


 もう戦闘不能だろうと。もう十分戦っただろと。



「ふぅ~、ナゴタもだけど、ゴナタもあれから強くなってる。数日しか経ってないのにここまで成長するものなの? それとも色々解放されて、何かに目覚めちゃったのかな?」


「う、う~~ん…………」 


「よし。ゴナタも大丈夫そうだし、観客の反応はどうだったのかな?」


 ゴナタの反応を見て、今度は観客に意識が戻る。

 その為の姉妹との模擬戦だったのだから。



「どれ、どんな感じかな? にしても、さっきから声が聞こえないね?」


 何となく不思議に思い、クルリと周りを見渡す。



「えっ? って、ああああああああああっっっっ!!!!!!」


 そこにはナジメがさっき出現させた黒い巨大な壁が、観客と私たちを隔てるように建っていた。その壁の内側には私とゴナタしかいなかった。


 こんな状況では、誰も決着を見ていないだろう。



「あ、あんのスク水幼女ぉっ! 消すの忘れてたなっ!!」


 唯一閉ざされていない空に向かって、私は両手を振り上げ絶叫した。



※※※※※



「くちんっ! うう、寒くも無いのにクシャミが出たのぉ。それよりも魔法を解除するのを忘れておったのじゃ。急ぐのじゃ」


 再度、屋台に並びながらその事に気付いた。

 わしが作った壁の周りの人たちが、口々に文句を言ってたのを聞いて。


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