第402話自重していなかったスミカ




 それぞれに渡したアイテムを前に、ソワソワとしているみんな。


「「「………………っ」」」


 それはまるで、エサを前に「待て」を言いつけられた飼い犬みたいだ。



 その理由は、


「今日はもう暗いし、寝るのも遅くなるから、アイテムを試すのは明日にしようね? 午前中なら時間あるからその時にでも、ね?」


「うなっ!?」

「ええっ!?」

「そ、そうですか……」

「うん、わかったお姉ぇ……」


 私の言いつけを守っての事だった。

 そんなこんなで、新しいアイテムを前に大人しくしている。


 ただし、そんな状況でも、


「うわ~、ハラミが小っちゃくて可愛いよぉ~っ! くすぐったいよぉ~っ!」

『ペロペロ』


 ユーアとハラミだけは違っていた。

 既に、アイテムを使っちゃったから。


 フレキシブルSバンドで小さくなったハラミが、ユーアの膝の上で立ち上がり、首筋を舐めてじゃれていた。何とも微笑ましい光景だった。


 そんな光景を、使用許可がおりていないみんなは恨めしそうに見ていた。



「スミカお姉ちゃん、ありがとうっ! ハラミにもこんな凄いアイテム用意してくれてっ! ハラミも喜んでるよっ!」


『きゃうっ!』


 小さくなったハラミを抱きあげて、満面の笑みの我が妹。


「うん。ハラミもBシスターズ一員だからね。当然だよ」


 私も笑顔で答えて、ハラミを軽く撫でる。

 こんなに喜んでくれる姿を見ると、あげた甲斐があったってものだ。


 まぁ、ハラミの分は忘れてたって事は絶対に言えないけど。



「それでお姉さま、なぜこんな価値も図り知れない、高価なマジックアイテムを、私たちに下さったのですか?」


 ハラミとじゃれるユーアを横目に、ナゴタが聞いてくる。


「ああ、そっか、出所も含めてきちんと話してなかったね。それじゃちょっと長くなるから、簡単に飲み物と甘いもの出すね」


 そう言えばそうだった。

 ユーアの件で説明するのを忘れていた。



「でしたら飲み物は私が用意します」

「あ、ボクも手伝います、ナゴタさん」


 二人が新しく紅茶を淹れ直し、私はスティックタイプレーションをお皿に並べる。


「それで、このマジックアイテムは何なのじゃ? こんなものわしでも見た事ないぞ?」


 ナジメの出だしの一言で、それぞれがアイテムを手に取る。


「う~ん、実はずっと言い出せなかったんだけど、それは元々持っていたものなんだ。私の故郷にあるストレージボックスの中に」


「すとれーじぼっくす? じゃと」 


「うん。分かりやすく言うと、マジックバッグの設置型。その中のものなんだ」


「じゃが、それはねぇねの故郷にあるのじゃろ? なぜ今ここにあるのじゃ?」


 ナジメが質問役なのか、他のみんなは頷いて聞きに入っている。


「あのさ、私って、収納魔法が使えるでしょ。その魔法が最近、故郷のストレージボックスに繋がるようになったんだ。で、そのアイテムたちは私が長年集めた物で、それをみんなにあげたんだよ」


「あ、あのぉ、確かお姉さまの出身地は、フリアカ大陸ってユーアちゃんに聞いたことがあるんですが、そんな海を越えて遠方の故郷にも魔法で繋がっているんですか?」


 ナゴタが手を小さく上げ、おずおずといった様子で会話に入ってくる。


「正確に言うと、繋がったのは最近で、今までは出せなかった。多分だけど、かなりの強敵を相手に戦ってきたから、魔法も強くなったんじゃないかな? はっきりとした理由はわからないけど」


 ナゴタも含め、みんなを見渡してそう話す。


 さすがに装備の『カウントダウン』の件は話せないし、

 ゲーム内の事ももちろん口には出せない。



「で、次にどこで入手したか、なんだけど――――」


「はいっ! それは言わなくてもいいんだ、お姉ぇ」


 手を挙げて発言したゴナタに、出だしから止められる。


「そうなの? どうして?」

「うん、それは聞いても意味ないって言うか、今更って言うか?」

「意味ない? 今更って?」


 予想とは反した答えのゴナタに聞き返す。


「え~と、だってお姉は、今までも見た事もないものばかりくれてるんだ。そのお皿に乗ってる甘いお菓子のれーしょん?もそうだけど、ユーアちゃんが持ってる短弓もそうだし――――」


「あ、後は私たちに貸し出してくれた『快適お家』や孤児院もそうですよね?」


「そうだわっ! 前にアタシに使った回復薬もそうじゃない? それとスミ姉とリブさんとで行った、シクロ湿原でも変なチョーカーくれたじゃない」


「うむ、そう言えば、ゴマチの背中の古傷を治したのも、ねぇねの薬じゃったな」


 ゴナタから始まり、ナゴタ、ラブナ、ナジメの順で、今までひけらかした数々のアイテムを暴露していく。この世界では存在しない、チート級のゲーム内のアイテムを。



「ああ、そうだね、確かに、うん」


 みんなの話を聞いて、カタコトで返事してしまう。


 だってゴナタの言う通り、それは今更ってなるよね?

 散々みんなの前で使ってきたんだから。

 元々隠すつもりもなかったし。



「そうだよ、お姉ぇ。だから今更気にしても意味ないって事なんだっ! それにワタシたちはお姉ぇが何者でもいいって前にも言ったし、それにやる事には必ず意味があるって事も知ってるしなっ! このアイテムの事も」 


 私とアイテムを交互に見て、ニカと微笑むゴナタ。

 その意味深な笑顔からすると、ゴナタにはお見通しらしい。


 姉のナゴタの様に聡明ではないが、ゴナタにはゴナタでいいところがある。

 理詰めで小難しい思考ではなく、物事の本質を直感的に捉える事に長けている。



『そんなところはユーアに似てるよね? 無邪気で真っすぐな故に雑念が無いって言うか、素直って言うか、たまに鋭いとこを突いてくるもんね。なら――――』


 話すべきタイミングかもしれない。

 ここまでお膳立てされたなら、今がその時だと思う。



「それじゃ、ゴナタの言うアイテムを配った意味ってのを話すけど。ここから先の話は、別に強要するつもりもないし、無理に協力してとも言わないから、それだけは頭に入れておいて」


 幾分、表情が固くなったみんなの前に、私はあるアイテムを置いた。


「で、これを見て欲しいんだけど――――」


 ゴト


 それは、この世界では異常種の、あの魔物が着けていた5つの腕輪だ。


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