第482話遅れてきた副ギルド長




 ※クレハン視点




「な、なんですかこれはっ!? 一体ここで何がっ!?…………」


 着いて早々、目の前の光景に息をのむ。

 私の記憶の中にあった風景とは、大きく様変さまがわりしていたからだ。



「そ、それと同行していたナジメさまとユーアちゃん、ラブナさんはっ!?」


 報告に上がっていた3人の姿を探すが見当たらない。

 気配を探るが、この付近からは何も感じ取れない。


 そんなわたしクレハンは、エンドさんたちの動向を監視するように、依頼していた冒険者からの報告を受けて、急ぎ足でスラムの外れに来たはいいが、荒れた広場の風景と、探し人がいない事に焦りを覚えていた。



「…………みなさんはどこに? そして、この塔みたいなのは一体?」


 荒れ果てた広場のあちこちに、無数の巨大な柱がそびえたっている。

 一瞬、その大きさ故に塔と表現してしまったが、それよりかはまるで――――



「杭、ですかね? これはナジメさまの魔法でしょうか? まるで空に向かって攻撃した跡のような…… いやいや、そんな訳ないですね。そもそもそんな大型の魔物が街に侵入した報告は聞いてませんし」


 自分で言っておいて、思わず苦笑してしまう。 


 そもそも杭の大きさは、一番小さなものでも20メートルを超える。

 そんな巨大なもので、何と戦って何を串刺しにするというのか。



「それと気になるのは、この大穴ですね………… 以前に来た時は塞がれていたはずですが、なぜまた開いているんですかね?」


 広場の中央に開いた巨大な穴。


 その他にも大小の穴があるが、一際目立つのは中央の物だった。

 スミカさんからの報告で、その存在と塞がれた理由は把握している。


 それがまた開かれているという事は、



「ゴク、も、もしかして、この中にみなさんが?…………」


 おずおずと覗き込むが、陽の光が差し込むにも関わらず全く底が見えない。

 巨大な虫の魔物の住処だっただけに、数百メートルはあると判断する。 



 ゴ、ゴ、ゴゴゴ――――――


「えっ!? 地震ですか?」


 大穴を覗き込んでいるその最中、微かに地面が揺れ始める。

 幸い大きな揺れではないが、小刻みに振動している。


「で、でも、このまま続くと崩落するのでは? もし中にみなさんがいた場合は大変なことに――――」 


 中々収まらない地震に焦りを覚える。


 このまま長く続けば、数々の穴が崩れてしまうのではないかと。

 そして中に人がいた場合、それに巻き込まれてしまうのではないかと。


 そんな心配をしている矢先に、



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――――



「わわっ!?」


 さっきよりも強い衝撃が訪れた。

 大きな地鳴りと共に、足元の地面がグラグラと揺れ始める。


「こ、これは危険ですっ! 一度避難して、そして捜索隊を――――」



 ドゴオォォォォォォ――――――ンッ!!



 慌てて走りだした瞬間に、背後で何かが爆発した。

 地面が破裂するように盛り上がり、中から複数の影が飛び出てきた。



「えっ! み、みなさんっ!?」


 中空に舞い上がり、地面に落ちてきたのは4つの人影だった。  

 その中の一人がむくりと起き上がり、目が合うと――――



「ぬっ!? なぜクレハンがここにおるのじゃ?」


 わたしの姿を捉えて、驚きの声を上げるナジメさま。


「そ、それよりも、みなさんは大丈夫なのですかっ!?」


 ユーアさんとラブナさん、そして従魔のハラミが横たわっている。


「わ、わしは大丈夫じゃが、他の者がちと心配じゃ…… クレハンお主、良い回復薬を持っているじゃろうか? わしのでは効果が心許ないものばかりなのじゃ」


「は、はいっ! 以前スミカさんから貰ったものが残っていますっ!」


 急いでポーチより取り出し、足元がふらついているナジメさまに渡す。


「おお~っ! 助かるのじゃっ! ねぇねのならば安心じゃっ!」

「そ、それでなぜ穴から出てきたんですか?」

 

 体のあちこちに、擦り傷や痣が残るナジメさまに尋ねる。


「うむ、わしらはAランクのフーナの従者のエンドという者とここで戦っておったのじゃが、地下に戦場が移ってしまってのぉ」


「そ、そうだったんですか。だからあの穴から出てきたんですね」


 ナジメさまと二人、みなさんが出てきた大穴を見る。


「そうじゃ。それで地下の洞窟で戦っている最中、思わぬ事態が発生してみんなが倒れてしまったのじゃ。それで残ったわしがみんなを土魔法でせり上げて、地上に戻ってきたところじゃ」


「あっ! だから地面が爆発したんですね? そ、それで、その思わぬ事態とはどういった事があったのでしょうか?」


「うむ。ではエンドとの戦いの途中から、手短に説明するのじゃ」


「は、はい、お願いします」


 返事をしながら回復薬を使用している、ナジメさまの話に耳を傾けた。



――――  



 ※ナジメ視点

  エンドを大穴に落とした直後。




「うむ、即席じゃが中々息が合ってたのおっ!」


 一様に態勢を崩しているユーアとラブナに声をかける。


「うん、でもエンドちゃん大丈夫かな? あの穴きっと深いんだよね?」


「もう、心配性ねユーアは。あのエンドって子はかなり強いわよ? だってナジメの土魔法でできた土の岩を楽々壊したし、ユーアの鎖も矢も殆ど効かなかったじゃないの? そんな子が穴に落ちたぐらいでどうにかなるわけないわ。だから大丈夫よっ!」


 自分よりも幼い子を攻撃した事に、自責の念に駆られるユーア。

 それに対して理論立てて説明し、頭を撫でて励ますラブナ。


 勿論、ユーアの気持ちもわかるが、今回はラブナの方が正しいだろう。

 


『うむ。わしの土団子(特大)を腕力だけで容易く破壊する者に、あれぐらいでダメージを与えられたとは思わぬ。今回は奇をてらって成功したが、次からは警戒してくるじゃろうし』


 わしとラブナの魔法は勿論、ねぇねから授かったユーアのマジックアイテムでさえも、数秒の足止めにしかならなかった。

 それでも上手くいったのは、エンド自身の慢心と、連携が嚙み合った結果だろう。

 決してわしたちの実力が、エンドよりもまさっているわけではないのだ。

   


「ユーアとラブナよ。わしの役割はお主たちを守る事じゃ。ねぇねにも言われたが、わしの魔法と能力はパーティーの守りの要となるものじゃ。じゃからお主たちは攻めるのじゃ。わしが矢面に立ってお主たちを守るからのぉ」 


 二人の前に進み出て、腕を組みながらニコと微笑む。

 シスターズたちを守るのは、わしの役目だろうと胸を張る。


 ところが、そんなわしの宣言を聞いた二人の反応は――――


「はぁ? ナジメだけに任せるわけないじゃないっ! アタシだってナジメを守りたいし、ユーアだって同じこと考えてるわよ?」


「ぬ?」


「ナジメちゃん。ボクだってスミカお姉ちゃんのおかげで戦えるようになったんだよっ! だからナジメちゃんだけじゃなく、みんなで頑張ろうよっ!」


「むむ?」


 予想に反して、いや、これが二人にとって普通の答えなのだろう。

 ねぇねの作ったパーティーでは、それが当たり前だと意気込んでいる。


「二人の考えはよ~くわかったのじゃ。それでもわしは年長者じゃし、元Aランクじゃからな。ねぇねがいない今、わしが妹たちを守るのは至極当然なのじゃ、じゃが――――」


「まだそんな事言ってんの? アタシは守られるだけじゃ嫌なのよっ!」

「ボクもラブナちゃんと一緒だよっ!」


 二人とも余程意志が強いのか、わしの話を遮り声を荒げる。


「さ、最後まで話を聞くのじゃっ! わしの魔法も能力も万能ではないし、限界があるのじゃっ! じゃからわしが力が尽きそうな時には――――」


「もちろん、アタシたちが守ってあげるわよっ!」

「ボクだってみんなを守るもんっ!」


 またもや話に割って入り、守ると宣言するラブナとユーア。

 お互いに手を取って、わしの目を見て力強く頷く。



『いやはや、二人とも頼もしいを通り越して、以前よりも逞しく見えるのじゃっ。 これもねぇねからあの話を聞いた影響じゃろうな。今までにない気概を感じるのじゃ』


 出会ってまだ半月だが、確実に成長しているラブナとユーアの年少組。

 容姿はそれほど変わってないが、内に秘める強い意志が著しく成長している。



「二人ともわかったのじゃ、じゃからみなで戦おうぞ。では次なる手としてはな――――」

「どんなのよ?」

「なに?」



 ドガァァァァ―――――――ンッ!!



 話し合いの最中、轟音と共に、わしたちの背後の地面が噴火した。 


「な、なんじゃっ!?」 

「うわっ!」

「きゃっ!」


 いや、噴火などでは決してない。 

 巨大な何かが地面から飛び出して、噴火したように見えただけだ。



「んなっ! こ、これは――――」

「な、なんなのよっ! あれはっ!?」

「手だよっ! おっきな手が地面から生えてきたんだよっ!」


 ユーアの言う通り、巨大な腕が地面から生え出てきたように見えた。

 


「これが手じゃとっ! もしや穴に落ちたエンドなのかっ!?」


「そうよ。あまりこの力は使いたくなかったけど、フーナに貰った服を汚されたから頭に来ちゃったわ。だから少しだけ力を見せてあげる」


 みなが驚愕し、視線を向ける先には、黒いドレスの少女がいた。

 それは、巨大な手を空中で頭上に掲げ、わしたちを見下ろすエンドだった。




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