第330話英雄さまの妹と双子の妹と




 ※今話は、スラムのホウ視点のお話です。

  (ホウ=双子姉妹の妹の方です)




「スミカお姉ちゃんたち遅いなぁ?」

「そうね、だったら晩ご飯は後にして、先にお風呂にするわよっ!ユーア」

「そ、そうですね、ラブナお姉さま。その方が遅くならなくていいかもです」



「お、お風呂だってさっ! ホウっ!」

「そ、そうだね、ボウお姉ちゃん」 


 スミカお姉さんの妹と聞いているユーアちゃんとラブナさん。

 そして孤児院の最年長のシーラさんたちの会話が聞こえてきました。


『お風呂かぁ……』

『お風呂…………』


 それを聞いて、ボウお姉ちゃんはちょっとソワソワしています。

 わたしも少しだけ、いや、かなり気になっています。

 だってスラムでは聞きなれない単語だったから。


 それはわたしだけではなく、スラムの女性みんなの憧れだったから。

 それが体験できる機会がいきなり訪れたのは幸運でした。

 


 ただその体験が強烈過ぎて、お風呂への認識が変わってしまったけど。





『それにしてもこの建物って一体何なんだろう……』


 ユーアちゃんに案内されてお邪魔しちゃったけど、色々とこのお家はおかしい。


 外を歩けば少し汗をかく季節なのに、この中は快適。

 暑くも寒くもなく、部屋の中はちょうどいい温度になっています。


 きれいな水が出る鉄の筒や、氷が勝手に出来て冷たい大きな箱。

 火も出ないのに、美味しくお肉が焼ける不思議な鉄板。



『こんなのきっと、貴族さまの家にだってないよ…… だって聞いたことも教えて貰った事もないもん。もしかしたらわたしが知らないだけなのかなぁ?』



 でもこの大きな建物は、スミカお姉さんがナジメさまに頼まれて、孤児院の子供たちの為に用意してくれたって聞きました。だからきっとどこの貴族さまでも持ってないと思う。


 だってあの蝶のお姉さんは、絶対普通の人とは違うから。

 もの凄く強くて優しくて、会って数日なのにたくさん驚かされたから。




「ボウちゃん、ホウちゃん先にボクと入ろう? お風呂教えてあげるから」


「へ?」

「えっ!?」


「だったらアタシは年少組を入れるわっ! シーラはビエ婆さんとニカ姉さんに教えてあげてよねっ!」


「わ、わしもいいのかい?」

「私もいいのっ!?」


「は、はいっ! わかりましたラブナお姉さま」


 気が付くと、わたしたちもビエ婆さんたちもお風呂に入れることになりました。

 その流れに、ビエ婆さんたちも驚いていました。

 だってこんな贅沢は一生できないと思ってたから。




「こっちだよ、ボウちゃんとホウちゃんっ!」


「う、うん。ユーアちゃん」

「は、はいっ! ユーアちゃん」


 わたしとボウお姉ちゃんは2階に案内されます。

 2階にも小さいながらお風呂があるそうなので。



 この変な大きな家にはお風呂がたくさんあります。


 1階には大きなお風呂が2つ。

 なんでもわざわざ男女別になってるそうです。


 こっちはラブナさんたちと小さな子たちで。

 もう一つはシーラさんとビエ婆さんたちです。

 あまり男女別の意味もない気もしました。



 そしてわたしたちは部屋のたくさんある2階に案内されました。

 こっちにも1階ほど大きいのじゃないけど、男女別のお風呂があるそうです。



「はい、ここで服を脱いでこっちの穴に入れてね? すぐにきれいになるから。あ、タオルとパジャマはボクの貸してあげるから気にしないでね」


 きれいな廊下を抜けて、曇ったガラスのある部屋に案内されました。

 そこには素敵な大きな鏡もありました。


 

「う、うん、ここに入れるのはいいけど、きれいって?」

「はい、何か穴が開いてますが、ここでいいんですか? ユーアちゃん」


 案内してくれたユーアちゃんの話だと、脱いだ服は穴に入れるそうです。

 わたしの街みたいな、洗濯物を貯めて運ぶための籠ではなくって。



「うん、これに入れるとせんたくきさんが、お洋服をきれいにしてくれるんだっ! お風呂あがる頃にはフカフカになってるんだよっ!」 


「洗濯き、さん?」

「????」


 ユーアちゃんがそう説明してくれたけど良く分かりませんでした。

 なので、取り敢えず服を脱いで言う通りにしました。



「こっちだよ。滑るから気を付けてね、ボウちゃんとホウちゃんっ!」


 ユーアちゃんが先頭で、裸でお風呂に入っていきました。

 わたしとボウお姉ちゃんも急いで脱いで後を追います。



「な、なんかツルツルしてきれいな壁だなぁ~」

「そうだね、それと部屋の中が暖かい…」


 案内された部屋の中は、大人でも5~6人で入っても余りそうな部屋でした。

 そしてまた見た事もないものがたくさんありました。


 なんの素材でできてるかわからない背の低い白い椅子。

 ぐにゃぐにゃと伸びた柔らかい筒に、ここにも貴重な小さな鏡。

 そして、湯気の出ている四角く大きなお風呂。



「それじゃここに二人とも座ってね、ボクが最初に洗ってあげるから」


「う、うん」

「は、はいっ!」


 見た事もないものに見ていると、椅子を二つ用意してくれました。

 なのでボウお姉ちゃんと二人で座ります。



「ボクがやるから覚えてね、それじゃお湯をかけるよ?」


「お湯って、まさか?」

「お湯? 出るんですか?」


「うんっ!」


 ユーアちゃんがそう言って、ぐにゃぐにゃしたものを手に取ります。

 どうやらこれは『しゃわー』ていうもので、水やお湯が出る装置みたいです。


 シャ~~


「あ、熱っ! じゃなくて、温かいやっ!」

「うん、温かくて気持ちいいかも……」


 足先に当った水が暖かったです。

 間違いなくお湯が出てきました。


「熱くなくて良かったぁ。それじゃ頭に先にかけるからねっ!」


「あっ!」

「きゃっ!」


 ユーアちゃんが丁寧に頭を濡らしてくれます。


 こんなにきれいな水で、しかもお湯が出るなんて凄いです。

 これなら飲んでも絶対に大丈夫です。



『………………』


 わたしは今度は体を流してくれるユーアちゃんをチラと見てみます。


『この人がスミカお姉さんの妹のユーアちゃん……』


 そんなユーアちゃんは、わたしが思っていた人物とは全く違っていました。

 強くて優しい、そしてある意味派手なスミカお姉さんとは正反対でした。


 それは、



 どっちかっていうと普通の街の子供。


 わたしとボウお姉ちゃんと変わらない。

 ただ見た目はスミカお姉さんみたいにきれない人。


 でも顔も髪の色も全然違うけど、将来は美人になるんだと思う。

 もしかしたらナゴタさんや、ゴナタさんよりも。



『冒険者は一緒だけど、全然違うよね? あ、でも……』


 それでも似ているところがありました。

 あのスミカお姉さんと一緒のところが。


『うん…… それは――――』


 それは出身と変な噂で、わたしたちを差別しない事でした。

 だって会った時からスミカお姉さんと同じく優しい目をしていたから。


 だからこのユーアちゃんも、きっとスミカお姉さんみたいな人になると思った。

 色んな人たちから憧れる、大きな存在になる人だって。



 そしてみんなの英雄さまになる、なんて何となく思ってたんだけど――――



 でもお風呂から上がったら、それは違うんだって思いしらされました。


 ユーアは確かに素敵でした。

 ただその意味合いが全く違う事で魅力のある人だと思いました。


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