第346話スミカの誤算
「風よ水よ、我が敵を切り裂く雨となれ『風刃雨』そして『水刃雨』っ!」
小規模だが、ラブナの魔法が自身を中心に幾重もの刃の雨を降らせる。
「え? ラブナちゃん風と水魔法を使えるのっ!? さすがはスミカのパーティーメンバーねっ! なら私も負けてられないわっ! 炎の鳥よ数多の敵を狩り尽くせ『炎鷲』そして『炎鷹』っ!」
それに対しリブは、炎を纏った鳥を自在に操り、四方八方に羽ばたかせる。
それはまるで、炎の結界を張り巡らせているようだった。
「なかなかやるね、二人とも」
空では姿の見えない敵に対して、二人が善戦しているように見えるが、さっき以降魔物の姿を視認することが出来ない。
ただ何となく分かった事がある。
あの白リザードマンは何か行動する時に、一瞬実体化をするという事。
それ以外は実体が無く、触れる事も感じる事も出来ない。
ただそこに存在はする。
そして一定以上のダメージを受けると、その能力か、もしくはその
だからかダメージを受けた瞬間、発光と同時に一瞬だけ姿が見えた。
私はさっきの攻防でそう結論付けた。
『多分、これで合ってると思う。私の世界でも似たようなアイテムがあったし、敵も使ってきたからね。だから破り方も攻略済み。なんだけど、ちょっと私の能力との相性がね……』
それと気になるのが、この白リザードマンの行動本能。
一番最初はラブナやリブを無視して私に攻撃してきた。
それには何かしらの理由があるんだと思う。
『もしかして、胸部装甲の厚さの順とかかな? なら薄いリブは最後ってのは合ってるね。それと厚みのある私が最初なのも。でも今の攻撃対象は二人の火力に脅威を感じたせいだ。 後は、勘だけど――――』
――――誰かの命令か、操られてる可能性。
今回の場合はこっちの方がシックリとくる。
ただし、それは謎の腕輪と関係がある場合だけど。
先ほど姿が見えたのが一瞬で、その腕輪を確認できなかった。
もしそれが確認出来たら、そこからが本番になる可能性がある。
「それでも色々と分かんない事が多いけど、取り敢えずこいつらを倒してからだね。なら、相性のいい二人に頑張ってもらおう」
空中でドンパチを続ける二人を見てそう決めた。
ラブナにしても、リブにしても通過の能力と相性がいいし。
「あのさ~っ! 二人とも私が上げたアイテム忘れてない?」
確認の為に、空に向かって声を上げる。
魔法を連発しているのに何で使わないかが気になってたから。
だって使うなら今だよね?
「え? あ、そう言えば、スミ姉のっ!」
「ああっ! 反撃に必死で忘れてたわっ!」
「だったらそれ使ってこの辺り派手に攻撃してよ。あまり湿原に被害が及ばないように、私が周りを覆うからっ!」
「うん、スミ姉分かったわっ! ポチっとなっ!」
「周りは任せたわっ! ポチっとな」
二人は嬉々として、エナジーチョーカーのボタンを押す。
「ポチっとなって…………」
なに?
スイッチを押す時はそれ言わないといけないの?
すると途端に……
「うぴゅあっ! うまままま~~~~っ!」
「くぴゃあっ! くまままま~~~~っ!」
「?」
スイッチを押した二人が声にならない悲鳴を上げる。
何かの動物の名前に聞こえたけど、それはたまたまだろう。
「――――――はっ!」
「――――――あっ!」
「何? ちゃんと回復してないの?」
何かから目覚めたかのような二人に声を掛ける。
何故かシャキッと背筋を伸ばしている。
「な、何これスミ姉っ! 魔力は回復してるんだけど――――」
「ス、スミカっ! 確かに回復したわっ! けど――――」
「けど?」
「「あ、溢れ出る魔力が抑えられないわっ! あはははははっ!!」」
「え? 溢れ出るって?」
そう叫び、空に向かって顔と両手を掲げて奇声を上げる二人。
「へ? なんで? もしかして効果が強すぎ? それとも魔力と体力は別物?」
何かに目覚めたような二人を見て驚く。
よく見ると目元は吊り上がり、口元が歪んでいる。
「あははははっ! 火よ炎よ風よ嵐よ――――」
「うふふふふっ! 炎よ獄炎よ地獄の業火よ――――」
「はっ!? な、何? この魔法はっ!」
二人の周りにオーラのような強大な魔力の波を感じる。
そして力強く手を振りかざし、詠唱を続ける。
「――――全ての敵を飲み込み滅ぼせっ!『火炎大嵐』っ!」
「――――数多の敵を纏めて滅せよっ!『炎の螺旋車』っ!」
「わわっ!」
私は咄嗟に、自身と付近を透明壁スキルで覆う。
ラブナが放った魔法は、以前に教えてくれた混合魔法。
今回は火と風を合わせたもの。
巨大な嵐が炎を纏い、天に向かって渦を巻くように昇っていく。
簡単に言えば炎を纏った竜巻みたいなもの。
リブの魔法は、フラフープのような炎が周りを囲み、高速で回転している。
まるで巨大な燃える土管が私たちを閉じ込めているようだった。
そして回転力を上げるたびに中の温度が上昇している。
スキルで防御していなかったら骨まで溶解しそうだ。
二人の強烈無比な高火力の魔法が、辺りを覆い尽くす。
範囲内の水面全てが蒸発し、その下の地面が露になり更にひび割れを作る。
「す、凄いね二人ともっ! これだったら直接当てなくてもきっと――――」
透明壁スキルの中で、二人の魔法の威力に驚愕する。
地獄絵図とはまさにこのことだろう。だって炎以外何も見えないし。
『グギャッ!』×5
「よし、これならダメージ受けて姿を現した。かも?」
そうは言っても視認出来ない。
私たちを囲む透明壁スキルの中は、巨大な炎が渦巻いているからだ。
「お~い、一旦止めてよ二人ともっ! ちょっと確認したいからさぁっ!」
聞こえるかどうかわからないけど、一応空に向かって叫んでみる。
「わ、わかったわっ! は、はいどうぞぉっ!」
「うう、了解したわっ! はい、早くぅっ!」
するとすぐさま返事が聞こえたので安心した。
けどさっきと違い、何か上擦った声だったような気がするけど……
「おおっ! それじゃ私がいいって言ったら攻撃再開してねっ! よっとっ!」
スタタタ――――
私はスキルを飛び出し、白リザードマンを探す。
大気中を高熱が覆っていたけど、装備のおかげで問題ない。
「あ、見つけた」
白リザードマンの1体を見付ける。
残り4体もラブナとリブを襲っている最中だった。
「うん? 透明化は出来ないみたいだね。だったら能力ではなく、何かしらの機能が停止したって訳だ」
ただし、この白リザードマンの能力はこの世界では脅威となるものだ。
そしてこの罠を仕掛けたその存在も。
「どれ、一か所に集めて閉じ込めよう」
タンッ
ドカッ
『グガッ!』
私に気付いた1体の攻撃を避け、地面に蹴り落とす。
『グギャッ!』 ×4
残り4体は鉄球スキルを叩きつけて同じように地面に落とす。
そしてすぐさま透明壁スキルで覆う。
「うん、これで後は『通過』を付与して、外側からラブナたちに攻撃してもらおう。ある意味チキンな戦法だけど、それだけこいつらの能力には油断できないからね」
私の推測だと白リザードマンの透明化と実体化は別の能力。
恐らくだけど、実体化して空間に現れるのはトラップの可能性が高い。
あの橋の分岐点に侵入すると発動する、罠みたいな。
そして白リザードマンの能力は、透明化と存在の断絶。
透明になればそこに実在はするが、それを認識できない感じ。
だからか、似たような能力が重なって神出鬼没のように錯覚するのだと思う。
空間を跳躍して、現れては消えてを繰り返している様に。
ただし、それにも限界がある。
そこに存在する限りは何かしらの攻撃を受けるし、その能力の精巧さと緻密さ故に、外からの攻撃には脆い。
それがこの能力の欠点なのか、まだ未完成なのかは判別出来ないけど。
「それじゃ準備が出来たから、二人とも派手にやっちゃってよっ! 周りには被害が出ないように魔法壁で覆うからガンガン行っちゃってよっ!」
グッと親指を突き出し、空中の二人に発破をかける。
ここからはあなたたち二人が主役なんだとばかりに。
「わ、わかったわりょっ!」
「りょ、了解りょっ!」
「うんっ?」
二人は直ぐに応答するが、何やらまた呂律が怪しい。
今度は熱に浮かされたような赤い顔でフラフラとしている。
それはまるで酔っているような……
『も、もしかしてエナジーチョーカーの効果を勘違いしてたっ!? 減った魔力を補充するんじゃなくて常に与えているのっ!? これって魔力酔いって奴っ!?』
視線もどこか虚ろで、耳まで赤く染めた二人。
こんな状況でなければちょっとだけ扇情的にも見える。
「い、いくわにょっ! ちゅちよ我が敵を――――」
「ほにょりょよ目の前に存在する――――」
そんな泥酔のような状態で二人は魔法を唱え始めた。
「う~ん…………」
大丈夫かな?
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