第39話知らないうちに悪さをしたようです




「結構遅くなっちゃったけど、ユーア、もう待ってるかな?」



 人気の少ない通りにストンと降りて小走りで向かう。


 街から若干離れたところにある孤児院は、灯りも届かずに周りは薄暗くなっている。

 私は昨夜レストスペースを出した、雑木林の前の空き地へと向かう。



「あっ! その前にユーアが帰ってきているか見てみよう」


 元々ユーアが住んでいたテントの中を覗いてみる。


「うん? まだ戻ってきてないなぁ」


 テントの中はもぬけの殻だった。荷物も何もなかった。

 ユーアもマジックポーチを持っているから、全部その中だろう。



 私は雑木林の前に戻って、レストエリアを設置する。


「よし、周りには誰もいないね」


 確認して中に入り、誰もいないリビングの床に座り込む。



「ふう~、今日も色々あったね。防具のお陰で身体的な疲れは殆どないけど、気を張ってたから疲れちゃった」


 ユーアまだかなぁ?


 アイテムボックスより、屋台で買った果実水を飲みながら脚を伸ばす。



「あっ! そういえばキチンと確認してなかった」


 ふと思い出し、ステータス画面を出す。

 Cランクの冒険者の4人をボコった時に、レベルが上がっていたのを忘れていた。



――――


 スキル1 【透明壁LV.3】


 任意の図形に変更可能

 任意の距離、 0-25メートルの範囲で設置可能

 任意の大きさ 0-25メートルの範囲で調整可能

 任意の数   最大5箇所


――――



「おお~っ!」


 かなりパワーアップしてたよ。


 一番の変更は『任意の図形に変更可能』かな?


 今までは四角の立方体しかできなかったのが、ギルドのルーギルの前で展開したように『円柱』や『円錐』『三角錐』など他にも種類が増えた。


 特に『スイ』などの図形は、飛ばせば投げ槍に、

 装備すれば通常の槍にも使える。


「ただ、投げ槍にするにはちょっと難しいかな?」


 射程が25メートルしかないから、使いどころが難しそう。



 あと最大の変更はなんといっても『最大5箇所』に設置だね。

 もうこれ、なんでもありじゃない!?


 攻撃、防御、移動、トラップに使ってもまだ余るし。



 ただ『任意の大きさ 0-25メートルの範囲で調整可能』は、今のところあまり使い道がない。ってか、そんな巨大な敵なんて滅多にいないしね。



「あ、でも――――」


 私は一度外に出てレストエリアを確認する。


「これならいけるかも……」


 うんうん、と頷いて一人満足する。





「あ、スミカお姉ちゃん帰ってきてたんだっ!」

「ん?」


 レストエリアを眺めていると、ユーアがトテテと駆けてきて抱き着いてくる。


「おかえりユーア。孤児院は大丈夫だった?」

「う、うん、大丈夫だったよ。ラブナちゃんもいるし……」

 

 笑顔で答えるが、どこか歯切れの悪いユーア。

 ってか、ラブナちゃんって誰?



「そう。なら家に入ろうか。今夜は私がご飯作っちゃうから」

「えっ? スミカお姉ちゃん、お料理もできるのっ! 凄いよっ!」


 ユーアがなんかキラキラした目で見ている。


「ま、まあ、あまり期待しないでね?」

「え? う、うん」



 二人で家の中に入っていく。



「おっと忘れるとこだったよ」


 周りを確認し、レストエリアにスキルを展開した。


     


―――――     

     

     


「スミカお姉ちゃん美味しかったっ! ごちそうさまでしたぁっ!」


 私が作った料理に、味も量も満足したユーア。

 今はニコニコと果実水を飲んでいる。



「うん。ユーアが喜んでくれて良かったよ」


 笑顔のユーアを撫でながら『高級素材と調味料は偉大だねっ!』なんて心の中で絶賛する。


 だってちょっと焼いただけなのと、少し塩コショウして、適当に付け合わせの野菜を乗せただけで、それで美味しくなっちゃうんだから。


 これでまた私に対する『お姉ちゃん株』が上がったことだろう。



「それじゃ、明日も早いからお風呂に入って寝ようか」

「やった~っ! おっふろ、おっふろっ! え~と……」


 ユーアはお風呂コールをしながら、マジックポーチからタオルとパジャマと下着を出して、抱えて待っている。


 やっぱり女の子だね。

 お風呂が好きになったみたいだし。


 私も今日購入した物をだして、洗面所に向かう。


「今日はボクがスミカお姉ちゃんを洗ってあげるねっ!」

「そう、ありがとう。それじゃお願いするね」

「うんっ! 任せてっ!」


 私とユーアは楽しくお風呂に入って、購入した布団で眠りについた。



※※



「――――――きてっ!」

「うん?」


 グラグラと体が揺れている。


 私は薄く瞼を開ける。


「う、うん?」


 まだちょっと薄暗い。

 なんだ、じゃないの。


 私は再び瞼を閉じる。


「――――――ちゃん、起きてっ!」


 ドサッ 


「うっ!?」


 今度はお腹に重みを感じ、そして両手が引っ張られる。


「スミカお姉ちゃん、起きてっ! もう明るくなっちゃうよぉっ!」

「……………………誰?」

「ボクだよっ、ユーアだよぉっ! スミカお姉ちゃん、早く起きてっ!」

「………………冗談だよ。もうとっくに起きてたよ」


 目を開けてみると、私は脚を伸ばして、上半身だけ起こしている。

 恐らく体を起こす途中だったのだろう。



「ほらね? 私起きてるでしょう?」


 自分の状態を見て、両手を広げて起きてるアピールする。


「それ、ボクがスミカお姉ちゃんを引っ張って起こしたんだよぉっ! いいの? メルウちゃんの所に行くんでしょっ!」


「え?」


 ああ、そうだった。今日は作戦決行の日だ。



「ユーア、まだ時間はあるから、シャワーと朝食を先にしようよ」

「え? スミカお姉ちゃんがそう言うなら」


 私とユーアは先にシャワーを浴びて目を覚ます。



 朝食はユーアがキッチンを使って用意をしてくれた。

 昨日買ったユーア用のエプロンを着けて。


 朝食の献立は肉野菜炒めで美味しかったけど、9割は肉だった。

 いい加減肉嫌いになりそう。



『う~ん、明日からは私だけはレーションだけでいいかな?』


 朝からボリューム満点の肉料理はちょっと、ねぇ……

 あ、でも私があまり食べないと、ユーアが遠慮しちゃうかな?


 なんて考える。


『ただユーアは育ちざかりだし、今まで好きなものを食べてこれなかった分、食べさせてあげたいしね…… なんかいい言い訳を考えておこう』


 小さくて線の細いユーアを見ながら、いつもの装備に着替える。



「ス、スミカお姉ちゃん。準備できた、よ?」


 着替えが終わったユーアは頬を赤く染め、モジモジしている。


 ユーアは昨日私がプレゼントした、白のワンピースを着ていた。



「こ、こういうの着たの初めてだから、そのぉ、似合う、かな?」


 目をうるうるとさせて、上目遣いで聞いてくる。


 タタッ


 ガバッ!



「ちょ、ちょっと、スミカお姉ちゃんっ?」

「んんっ! ~~」


 そんなユーアに我慢できる訳もなく、抱きしめて頬ずりをする。


『むふぅ~っ!』


 ムギューッ! スリスリッ! スリスリッ!


「や、やめてよぉ! シワシワになっちゃうよぉ! スミカお姉ちゃんに貰ったお洋服なのにっ~!」


 ジタバタと私の腕の中で暴れるユーア。

 それを無視し、数十秒堪能した後でゆっくりと離れる。



「ふう、ごちそうさまユーア。とっても似合ってるからねっ!」

「う、うん、ありがとう、スミカお姉ちゃんっ!」


 ユーアは私に褒められて、屈託のない笑顔で喜んでいた。

 買って上げて良かったよ。


 本当は『高い高い』の予定だったけど、レストエリアではできなかった。



 玄関口でユーアは昨日買ったばかりのクツを出し履いている。

 そういえば昨日まで裸足だった。


 ユーアはつま先を「とんとん」と鳴らして履き心地を確かめているようだ。



「どう、ユーア大丈夫そう?」

「うん、足にぴったりだよっ!」


 今度は「ピョンピョン」とジャンプしている。


「サイズがあって良かったね。それじゃ行こうか」

「うんっ!」


 ユーアが先頭に玄関を出て行く。



 ごんっ!


「きゃっ!」

「あっ!」


 その途中、ユーアは何かにぶつかったようで短い悲鳴を上げる。


「あれ? これってもしかして、スミカお姉ちゃんの魔法?」


 ユーアはおでこを抑えながら聞いてくる。

 少しだけ涙目だ。


「あ。ごめん、ごめん。今、解除するね」


 ぶつけたユーアのおでこを撫でながら謝る。



 そうそう、LV.3になって、範囲の広がった透明壁スキルで、レストエリアを覆って、保護色に着色したんだっけ。


 前よりかは見つかりずらいけど、流石に近づきすぎたらバレてしまう。

 でも、無いよりはずっといいだろう。



 私とユーアは、いつものように手を繋いで、繁華街を目指して歩く。


 商店街を抜け、繁華街に近づくにつれ、店の開店準備やそれを待つ人々で喧騒が大きくなってくる。



「お? いたいたっ! そこの『ちょう』の嬢ちゃ~~んっ!」


「??」

「えっ?」


 通りを歩く私たちの後ろから、見知らぬ声が聞こえる。


 『超』? 一体どんな女の人よ、それは。

 が付く程の美人さん? とかかな?



『それじゃ私は関係ないや……』


 聞こえないふりをしてユーアと歩く。

 振り返ったら人違いでした。なんて、恥ずかしすぎるからね。



「お~いっ! そこの羽根生えてる嬢ちゃんだよ――っ!」


「へっ!?」


 え、美人で羽根が生えてるって………… 天使さま?



「…………多分、スミカお姉ちゃんのことだよぉ……」


 ユーアが私に向いてそう伝えてくる。


「え、私っ?」


 なんで?


 声のした方に振り返る。


「はぁはぁ、やっと気付いてくれたか、ちょっと話があるんだ、はぁはぁ」


 そんな男は、両膝に手を掛けて息を整えている。


『……あれ?』


 この人って確か、街に入った時の門兵じゃない?

 街へ入る為の登録してくれた。



 それにしても――――



「…………あなたにとって、私が天使に見えるからって、朝から少女をナンパするなんて感心しないよ」


 そんな門兵の男に冷たく言い放つ。


「なんぱ? はぁ、なんのことだ? それに天使だとっ!?」


 この期に及んで、まだしらばっくれている。


「だって美人で、羽根が生えてるんでしょう? それって天使じゃないの?」


「いや、美人がどこから出てきたのかわからないが、俺が言ってるのは『蝶』の『羽根が生えている』嬢ちゃんのことだっ!」


 門兵の男は半笑いで、私の背中を指してそう言った。



「あ」

「あ、じゃねえよ。そんな目立つ服を着てて、自覚がないのかよぉ……」


 今度は薄い目で見てくる。



「スミカお姉ちゃん…………」


 そして、隣のユーアも門兵と同じ目をしていた。


「そ、それで、私に何か用なの?」


 そんなユーアの視線に耐え切れずに話を進める。



「おう、それなんだが。嬢ちゃんにある嫌疑が掛けられてるんだ。だからちょっとだけ話を聞かせてくれ」


 門兵の男は、真剣な顔でそう言った。



「ワ、ワナイさんっ! スミカお姉ちゃんは悪い事なんてしないよっ!」


 ユーアは何度も街の外に出ているからか、この門兵と顔見知りのようだ。

 そんなワナイにユーアは、私を守るように前に立ってくれた。



「私は大丈夫。ユーアありがとうね、後は私が聞くから。」


 ユーアを撫でながら、安心させるように伝える。



『それにしても…………』


 この街に来て、まだ二日目なんだけど、何かしたっけ?


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