第553話青白マスクVS元冒険者狩りの姉妹 その1
「よしっ! それじゃ次はワタシの番だなっ!」
バンと膝を叩き、勢いよくベンチから立ち上がるのはゴナタ。
そんなゴナタは、ラブナの師匠の一人にして、Bランクの凄腕の冒険者だ。
愛用の武器を肩に担ぎ、ニカと笑みを浮かべ歩き出す。
「ゴナちゃん。一応気を付けてね? ユーアちゃんの相手もラブナの相手も、ランクが下とはいえ、相性によっては侮れない実力を持っていたわ」
身の丈程の超重量のハンマーを、軽々と担ぐゴナタに声を掛けるナゴタ。
そんなナゴタは、ゴナタの双子の姉にして、同じくラブナの師匠だ。
「うん、わかってるよナゴ姉ちゃんっ! アイツら動きもそうだけど、面白い能力も持ってたからなっ!」
「ふふ、面白いって、まあちょっと不謹慎だけど、その方が肩の力も抜けて、いつものゴナちゃんの実力を出せれば―――― うん?」
ゴナタの背中越しに、対戦相手を見ていたナゴタの口が止まる。
「どうしたんだ? ナゴ姉ちゃん」
「ううん、どうやらゴナちゃんだけじゃなく、私の出番も来たみたいね」
ゴナタに答えながら、愛用の武器を取り出すナゴタ。
妹に向けていた優しい笑みから一転、魅惑的で妖艶な笑みに変わる。
「出番? ああ、そういう事かっ!」
姉の表情と、視線の先に
そんなゴナタは、白マスクが自分の相手だと半ば決めつけていた。
その白マスクが訓練場に立つ姿を見て、自分の番だと武器を持ったのだ。
では何故白マスクが、自分の相手だと決めつけたかと言うと、
「うん、やっぱりラブナの言う通り、ワタシたちの事見てるなっ!」
「そうね、確かに私たちを執拗に見てくるわね? 敵意や殺気を帯びていないから、言われるまで気が付かなかったけど」
それは、ユーアの試合を観戦している最中に、ラブナから忠告されたからだ。
青マスクと白マスクが、ナゴタとゴナタの目立つ部分を見ていると。
「あ、でもちょっと変わったなっ!」
「うん? ああ、そうね。確かに――――」
変わった。
白マスクの元に、青マスクとルーギルが駆け付けてから変化した。
纏う気配と視線が明らかに、鋭く敵意を含んだものになったことを。
「なんか話してるな? でもなんでルーギルもいるんだ?」
「凡その見当は付くわ。恐らくルーギルが私たちの
「あ、だからずっとワタシたちを見てたのかい?」
「そうね、先刻までは半信半疑で、ただの対戦相手として見ていたのでしょうけど、きっとあの青マスクがルーギルから聞き出したんだわ。あの面子の中では、多少、口も頭も回るみたいだから」
「ふ~ん。なら青マスクも参戦って事になるのかな? 白マスクと一緒にいるし」
「ええ。恐らくその流れになるわね。その証拠に、早速ルーギルが私たち二人を呼んでいるから」
両手を挙げ、ナゴタとゴナタの名前を呼ぶルーギル。
その後ろでは、青マスクと白マスクが、姉妹の二人を横目で睨んでいた。
※
「悪りぃな、二人ともッ。ちっと物言いが入って、呼ぶのが遅くなっちまってよッ」
三人の元に着いて早々、ナゴタとゴナタに軽く頭を下げるルーギル。
「いいえ。私たちは別に気にしていません。それよりも模擬戦のルールを教えてください。何やら変更になったみたいですから」
ルーギルに答えながら、その後ろに立つ、青マスクと白マスクの二人を見る。
そんな二人は模擬戦用ではなく、見た事もない武器らしきものを持っていた。
「ああッ、さすがはそこの鈍そうなのと違って、お前は賢いなッ。で、お前の言う通りルールが変更になったッ。簡単に言やぁ、模擬戦じゃなく、決闘に近い感じになったッ。そこの青マスクからの要望でよッ」
親指で後ろを指さし、苦笑いを浮かべるルーギル。
「ちょ、ルーギルっ! 鈍そうってワタシの事かっ!?」
「そうですか。では決着のルールはどうなったのですか?」
「おうッ。武器は各自、各々のものを使う事になったが、決着のルールは変わらねえッ。気絶するか、負け宣言の文句を言やあ、そこで終了だッ」
「なるほど。わかりました。では
青と白マスクの目を見ながら質問する。
「おうッ。確かに真剣同士でやり合ったらそういう事はあるわなッ。だが、ここ一番ヤバい時には、アイツに出張ってもらうよう頼んであるからよッ」
ナゴタに答えながら、顎で待機所を指し示すルーギル。
そこには、グッと親指を立てる、元Aランクのナジメがいた。
「それによ、仮に重症なケガを負っても、嬢ちゃんに貰った
「嬢ちゃん? ああ、お姉さまのアレですね」
ルーギルの言いたい事を把握し、薄笑いを浮かべるナゴタ。
「まあ、そういうこったッ。そもそも観衆の面前で、死人を出すわけにゃいかねえからなッ。対策は出来る限りしておくに越したことはねえしなッ」
「はい。今ので全て了承しました。ならルーギルは直ぐにここを出てください」
スッと愛用の両剣をアイテムポーチから取り出すナゴタ。
「はッ? いや、まだ開始の合図が――――」
「ルーギル。これは決闘なのでしょう? なら合図はお互いに武器を構えたその時です。だから直ぐに離れてください」
両剣の切っ先を、青と白マスクに向けるナゴタ。
その隣では、ゴナタも愛用のハンマーを肩から降ろしていた。
「あ、ああ、わかったぜッ。なら俺が離れたら勝手に始めてくれやッ。それと言い忘れたが、お前ら二人の事は話してあるッ。もう察しているようだがよッ」
「ええ、わかっています。どうせあなたの事だから、あの青マスクに言い
「まあ、そんな感じだなッ。何やらお前らと会った事あるような口振りだったしよッ。もしかしてマズかったかッ?」
「いいえ。別に気にしてません。本当の事ですし。それより早く行ってください。じゃないとあなたも巻き込まれますよ? 私はどうでもいいですが、お姉さまに叱られますからね。それでまだ何かありますか?」
「んにゃッ。特にもう無えよッ。ただ一応気を付けろよッ? 俺が知らねえってのもあるが、どうも
「ええ。
「うん、なんか変な感じするもんな、
三人が揃って警戒し、注視するもの。
それは、青と白マスクが持っている武器と防具だった。
※
「いやはや、何なんですか、ここのギルド長は。長話にも程がありますよ」
「何を話してたか興味ねえが、待たされる身にもなれやっ! あの野郎はよっ!」
ルーギルがここを離れたと見るや否や、その背中に唾を吐くように、罵詈雑言を浴びせる青マスクと白マスク。
それに対し、
「そんな事はもうどうでもいいです。それではさっさと始めましょう? それとも私たちの正体を知って、何か思うところがあるのですか? 今更時間稼ぎは見苦しいですよ?」
「ん~、ワタシたちはお前らの事なんて知らないんだけどな。まぁ、何処かでやり合ったとしても、弱い奴らの事なんてすぐ忘れちゃうけどなっ!」
それに対し、いつもより口調が攻撃的になる姉妹。
傍から見ると、ルーギルを乏しめた事に対し、憤慨しているようにも見える。
「いいえ、私たちはあなたたちと戦ったことはありません。そこは勘違いしないでくださいよ。自意識過剰も甚だしいですね」
「だな。まあ、そんな大層なものをぶら下げてるんじゃ、見られてるって思われても仕方ねえかもだけどよっ!」
手に持つ武器を構えなおし、青マスクはおどけた様に、白マスクは小馬鹿にするように答えながら、ただその目は鋭く、姉妹のGランクの胸部に向けられていた。
「はぁ、いつまでこの不毛な会話を続けるつもりですか? あなたたちも武器を構えたのですから、開始の合図とみなして、こちらから行きますよ」
トンと軽く地を蹴り、その姿が瞬く間に消えるナゴタ。
『俊足』の能力を使い、一瞬にして、青マスクの間合いに入る。
そんなナゴタの武器は『両剣』。
槍ほどの長さでありながら、その両端には剣が付いている武器だ。
「お前たちの話はつまんないんだよなっ! だからさっさとぶっ飛ばして、その後でワタシを馬鹿にしたルーギルを折檻してやるんだっ!」
ダンと強く地を蹴り、一気に白マスクに迫るゴナタ。
『剛力』の能力を使い、超重量の武器を軽々と振り回す。
そんなゴナタの武器は『ウォーハンマー』。
自身の身長ほどの長さでありながら、その重さは半トンを超える。
青マスクにはナゴタが、白マスクにはゴナタが先制を仕掛けるが、
「あは、さすがは神速と呼ばれた速さですねっ! でもそれは迂闊ですよっ」
ザシュッ!
「え?」
ナゴタは、自身のドレスの一部が切り裂かれた事に驚愕し、
「どれ、大岩をも軽々と粉々にする、お前のチカラ見せてみろやっ!」
ボヨンッ!
「なっ!?」
ゴナタは、攻撃が跳ね返された事に愕然とする。
「ふふ。これは高い買い物でしたが、効果は抜群ですね」
「ああ、俺のもあの馬鹿力を無効化しちまったし、いい買い物だったぜっ!」
唖然とする二人を前に、見せびらかすように、自身の武器を軽く持ち上げる。
青マスクは、剣伸(刃の部分)が消え、柄だけになったレイピアを。
白マスクは、表面が風船のように膨張したバックラーを。
いずれもこの世界では初見の武器及び防具だが、その特殊性はスミカの持つアイテムに酷似していた。
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