第175話需要あるの?
「カ、カジカさん?一体その格好は……」
私は驚きながら、奥から姿を現したカジカさんに声を掛ける。
だってその衣装はまたもや……
「ああこれね。スミカちゃんたちシスターズも人気なんだけど、英雄相手に戦った領主のナジメ様も結構人気があるのよ。だからそれに便乗してみたってわけね」
そう言って、クルっと回って衣装を見せてくれる。
何で口調は普通なのかは良く分からないけど。
「………………」
その姿は急ごしらえながらもナジメのスク水を再現した衣装だった。
細い体にフィットしてはいるが、決してポリエステルやナイロンみたいな伸びそうな生地ではない。
素材は見た所ただの布に見える。
実用性はほぼない、ただの布切れだ。
でもまさか、20代後半のカジカさんが偽スク水姿で現れるとは……
『み、見る人が見たら、ご馳走なんだろうけど……』
ナゴタとゴナタみたいに肉感的な魅力はないが、スラッとした両手足と、ツンと張りのあるヒップライン。色白な大人のスレンダー美人といったところだ。
ただ、何かがおかしい。
『じ~~~~~~~』
と、横目でこっそりカジカさんのある部分を見つめる。
『っ!? な、何で大きくなってるの!』
カジカと書かれた胸のネーム部分が私の予想を超えて大きく盛り上がっていた。
その双丘のお陰で、文字が歪んでいた。
『じ~~~~~~~』
「………………?」
確か私の目測だと、カジカさんはAに近いギリギリBランクだったはず。
『じ~~~~~~~』
「………………??」
なのに何で、偽スク水になった途端にDランクまで膨らんでいるんだろう。
『じ~~~~~~~』
「……~~~~っ」
もしかして、私の目測が間違いだった? 大幅に狂っていた?
実はカジカさんは高ランクだった?
『じ~~~~~~~』
「~~~~~~っ!!」
いや、それは絶対にない。
プチトマトがいきなりデコポンにはならないのだから。
それ程の差があったのだから。
もちろん見間違う何てあるはずがない。
「あ、あのカジカさん、その胸――――」
「っ!! あ、ああやっぱりこの格好は寒いわっ!」
そう言ってそそくさと首に巻いてあった上着を即座に羽織る。
しっかりと前を閉めて。まるで胸元を隠すように。
「……………………」
「…………」
そしてログマさんの時と同じように、またもや気まずい空気が流れる。
『な、何でナジメのコスプレしといて、胸の大きさは強調するのっ!? ナジメはAAAランクだよっ?絶壁だよっ!盛って大きくする意味が無いよねっ!逆にしてどうするのっ!?』
私は上着の上からでも分かるその膨らみを見る。
『ま、まあ、その衣装だと色々と凹凸がはっきり見えちゃうから、見栄を張りたかったんだよね、そ、そうだよね?カジカさん――――』
私はそう思い立って、無言でカジカさんに頷く。
『…………コク』
「スミカちゃん……」
もちろんログマさんには気付かれないように。
女性は色々と大変なのだ。
そうして同じ悩みを抱える者同士の、新しい友情が生まれた瞬間でもあった。
※※※※※※
「うーん、まだ雨降ってるんだね」
私はスキルを傘代わりに頭上に展開し、空を見ながら一人呟く。
ログマさんにはオーク3体と、トロール1体の解体をお願いして店を後にした。
お礼にオーク1体を上げたら、多すぎるって遠慮されちゃったけど無理やり置いてきた。だってログマさん夫妻とはこれからも懇意にしたいし、個人的にも好きな人たちだからだ。
そしてお昼は、カジカさんのお店で舌鼓を打ちつつ料理を美味しく頂いた。
やっぱり異世界肉美味しい。
それは新鮮なお肉を仕入れるて捌くログマさんと、それと奥さんのカジカさんの料理の腕が良かったのが一番の理由だろう。
ユーアが冒険者以前に、虜になった理由も良く分かる。
「これからどうしようかな?ナゴタたちはギルドに行ってるし、ユーアたちはまだ帰って来てないだろうし……」
うーんと、腕を組みこれからの行き先に悩む。
『あれ? 私もしかしてこの世界に来て初めて時間を持て余してる?まぁ色々あったしね、ユーアと出会ったから……』
何て、しみじみと考えてしまう。
と言っても、まだ1週間も経ってないんだけどね。この世界に来て。
『そう言えばあの時はユーアとニスマジの店で買い物した後に、ログマさんの所にお肉を買いに行って、その後は――――』
ユーアの案内でこの世界での2日目はその2件を周った。
後は――――
「うん、だったら次はメルウちゃんの所に顔を出してみようかな?大豆商品も欲しいし。 それと屋台でユーアの好きな食べ物も補充したいしね」
と、次の目的地をユーアと周った所を思い出して歩みを進める。
「ユーアに手を引かれて、屋台に並んでいる時にメルウちゃんのお店を見つけたんだったよね?あまりにもお客さんが少なくて目立っちゃって」
見上げる空は相変わらずどんよりと曇り、細かい雨が地面を打ち続ける。
けれど私は足取り軽くのんびりと、大豆工房サリューを目指すのであった。
『~~~~~~♪』
たまには独りこういう日もあってもいいなって、思いながら。
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