第176話着やせする蝶の英雄?
降り出した雨は、相変わらず頭上に展開した透明スキルを打ち付ける。
広場に見える人々は、各々に傘らしき物やマントを羽織って雨を防いでいる。
そんな悪天候でも、
「へぇ、お昼時過ぎたのに結構人いるんだねっ」
私は広場の、屋台や露店に並んでいる街の人たちを見て少し驚く。
それに喧騒の中にも屋台から香る良い匂いと、露店の売り込みの声も聞こえてきて非常に賑やかだった。天候の良し悪し何てあまり関係ないみたいだ。
「それじゃ先に、ユーアの好きなお肉関係をコンプリートしていこうかっ。その後でメルウちゃんのお店を覗いてみよう」
私は頭上の傘代わりの透明スキルを、更に上昇して面積を広げる。
並んでいる人たちにぶつかっても危ないので。
その際にスキルをお椀上に変形させる事にした。
これなら雫が端から垂れなくていいかも何て考えながら。
ただ徐々に雨がスキルの上に溜まっていってしまうが、そこまで長居する用事ではないので良いかなとも思いながら。
「おや、雨が止んだのか?」
「そうか?まだ降ってるぞ。ってあれ?」
「??何かここだけ止んでないか?」
「そうだな。向こうは傘やマントに雨が跳ねているもんな」
「あ、ゴメン。私が魔法でここだけ防いでるんだよ」
私は「はい」と小さく手を挙げ、不思議がっている人たちに声を掛ける。
このままずっと怪しがられても面倒だし。
なら最初に言っておいた方が良いだろうと思って。
「っ!?こ、子供? じゃなくてあなたは英雄スミカさまっ!」
「はぁっ!?こんな小さいのが英雄だって?」
「お、お前何て失礼な事をっ!昨日の戦い見てなかったのか!」
「そ、そうだぞっ!こんなに色々小さくて、まっ平でもBランクの姉妹と、この街の領主さまで元Aランクのナジメさまを無傷で叩き伏せたんだぞっ!」
「………………」
「ま、本気かっ!こんな子供であちこち小さいのにかっ!?」
「ああ、そうだっ!こんなナリでも成人してるスミカさまだっ!」
「………………」
「へっ?成人してるって15歳超えてるって事かぁっ!?」
「お前いい加減失礼な事言うなっ!これでも成人してるって言ってるだろっ!」
「い、いやだって、俺の13歳の娘の方がもっと成長――――」
「それを言ったら、従妹の11歳の娘だってよ―――――」
「………………私着やせするから。超もの凄く。あり得ないくらい」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
私は男たちの全身をジロジロ見られる視線に耐え切れなくなり、簡潔に一言で真実を告げる。
そうでも言わないといつまで経っても話題が終わりそうになかったから。
「あ、ああそうだよなっ!英雄スミカだもんなっ!そんなあり得ない事でも出来そうだもんなっ!分身も出来るしなっ!」
「……………………」
「そ、そうだぞっ!Aランクを無傷で倒せる実力があるんだから、胸をAAランクに見せる事だって朝飯前だよなっ!」
「……………………」
「な、なるほどっ!その絶壁は謎の能力でそう見せているのかっ!?さ、さすがこの街を救った蝶の英雄さまだっ!」
「……………………」
「あ、あのよぉ。聞いてて思ったんだが…………」
「な、何だ言ってみろっ」
「ど、どうしたっ!」
この中で私の事をあまり知らない男が一人。ポツリと口を開く。
「あ、あのさ、聞いてて思ったんだが、小さく見せる意味ってあるのか?」
し~~~~~~~~ん
「………………っ!」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「な、そう思うだろっ!」
ザバアッ!
「うわっ!冷てぇっ!?」
「うおっ!いきなり雨がっ!?」
「な、何で急に頭からぶっ掛けられたみたいにっ!?」」
「あっ! 何故か英雄スミカがいなくなったぞっ!?」
「……………………」
私は透明鱗粉を散布して、その場から離れる。
ついでに、ずっと傘代わりにしていた頭上の円形スキルを解除する。
雨が端から垂れるのが嫌だったので、お椀型に湾曲させていた。
したがって、スキルを解除した瞬間に溜まっていた雨が一気にその真下に降り注ぐこととなった。
新しく追加された透明スキルの『湾曲』はこういった場面で使うのが最適なのだ。便利すぎ。
『まぁ、そんなわけないけど』
私はそれから香ばしい匂いの屋台に並んで、片っ端から肉関係の物を買い込んだ。もちろん全部を買い込んだりしない。私のせいで完売したら後に並んでる人たちが可哀想だしね。
それと色々な果物の果実水や、スープ。そして海鮮物も買いこんだ。
前に来た時は全く気付かなかったから、海の幸関係は大量に買っておいた。
さすがに新鮮な魚とかはなかったけど、代わりに色々な魚の干物を購入した。
「これだけあれば、暫く困ることはないね。少し買い過ぎたから、ナゴタたちにもお裾分けしよう。後はナジメも喜びそうだし」
私はホクホクしながら屋台から離れる。
あちこちから、私の事を囁く声が聞こえるけど気にしない。
それよりも、
「おおっ!マズナさん親子の大豆工房サリューも賑わってるね」
他の露店や屋台よりも、多くの人たちが並んでいるのが見える。
ユーアやルーギル。冒険者たちや、ログマさん夫妻、ニスマジたちに協力してもらい、その味やヘルシーさに、最初は腐った豆の先入観で閑古鳥どころか、親子共々生活が危うかった経営状況が嘘のようだ。
今やその人気はうなぎ登り。
素材の採取を日に二度ほどギルドに依頼したり、大豆商品を真似て販売しようとする動きも出てきているらしい。それにニスマジのお店とも契約して商品を卸している。
「そんな人気なおかげで、私が買う分が減っちゃったんだよね」
私はちょこまかと動いている大豆工房サリューの看板娘のメルウちゃんを見てそう思い、近付いて声を掛ける。
「こんにちはメルウちゃん。私も買いに来たんだけど大丈夫?」
「あ、いらっしゃいませなのっ!ちょっと待って欲しいの!あっスミカお姉さんっ!」
メルウちゃんは額の汗を拭いながらも、私に気付いてすぐ返事してくれた。
随分と繁盛して忙しそうだった。嬉しい悲鳴とはこういう事だろう。
「あれ?メルウちゃん。お父さんのマズナさんはいないの?」
小さなメルウちゃん一人でいる事に気になって声を掛ける。
「お父さんは今、在庫を取りにいってるの。もうちょっとかかるのっ!」
「うん、そうだったんだ。だったら私は少し落ち着いたらまた来るね。邪魔になっちゃいそうだし」
私はそそくさとメルウちゃんから離れようと踵を返す。
話しているとメルウちゃんも他のお客さんにも迷惑になりそうだし。
「あっ!ちょっと待ってなのっ!スミカお姉さんも手伝ってなのっお願いなのっ!」
メルウちゃんが、離れようとした私に懇願するように背中に声を掛けて来る。
「わ、私、販売の事は素人だから、邪魔になっちゃうよ?余計仕事増えちゃうよっ!」
私は振り向きメルウちゃんに声を返すが、
「ううん、簡単なお仕事なのっ!だからお願いなのスミカお姉さんっ!」
と、美幼女の縋り付くような目で訴えられたら誰だって、
「わ、わかったよっ。だからそんな目で見ないでねっ!私が悪いみたいに感じちゃうから。後言っておくけどどうなっても知らないよ?あまりやった事ないし……」
「ありがとうなのっ!スミカお姉さんっ!!」
私は断り切れずに、メルウちゃんのお仕事を手伝う事になった。
そもそもが家族二人で切り盛りするのも大変だしね。
私は腕まくりをし手伝いの為に、気合を入れるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます