第69話ユーアの戦いと覚悟と双子姉妹と
※今話も澄香がこの場所に留守なので、ユーア視点になります。
「やめろォ! ナゴタとゴナタっ! ユーアには手を出すなッ!」
「そ、そうですよっ! ナゴタさんとゴナタさんっ! その子に手を出したら、あなたたちが後悔しますよっ!」
苦しそうにしている、ルーギルさんとクレハンさんが、ボクをかばうようにそう言ってくれました。
「わはははっ! この小さい子供が実は隠れた実力者ってわけなのか? そんな風には見えないけどなっ!」
「なら、ゴナちゃん。それは試してみれば済む話でしょう?」
「そうだなっ! ナゴ姉ちゃんっ! だったら――――」
「そうよ。ゴナちゃん。そうなら――――」
そう言って二人ともお互いに目を合わせて笑顔になります。
「ワタシたちが試してやるぞっ!」
「私たち二人で試してみないとねっ!」
二人とも恐い笑顔のまま、もの凄い速さで駆けてきます。
「ううっ! お前たちなんかっ!」
ヒュンッ! ×5
ボクはスタンボーガンを二人に向かって5矢同時に射出します。
真正面だけじゃなく真上からも、横からも。
これは避けられないよねっ!
「うわっ! 同時に何本撃ってんだ! ナ、ナゴ姉ちゃんっ!」
「ええ、仕方ないわねっ! でもびっくりしたわ。まさか私たちを囲むように同時に5本も発射できるなんてねっ!」
双子の姉妹のお姉ちゃんの方の、ナゴタさんの体がまた光ったと思ったら、ゴナタさんの姿と一緒に消えちゃいました。
「えっ? いなくなったっ!」
そして「サササッ」と音だけがボクの周りから聴こえます。
「これって――――」
そう。
あのサロマ村にいた小さいオークと同じくらいか、
それ以上の速さで二人とも動いているのです。
「は、はやいっ!!」
その速さはもうボクの目では見えないです。
「ふふふっ。さっきは見事な射撃で驚いたけど、これならどうしたって、狙いが定まらないでしょ?」
「そうだっ! ナゴ姉ちゃんの速さは大陸で一番なんだぞっ!」
そう、何もない空間から二人の声が聞こえてきました。
妹のゴナタさんは姉のナゴタさんに抱えられているみたいです。
「べ、別に、見えなくてもいいもんっ! それでも視えるからっ!」
マジックポーチにもう一度手を入れて「それ」を出します。
「でも、これなら絶対避けられないよっ!!」
そういって、視える二人に向かって
「ぜ、全方位だってぇ!? ナゴ姉ちゃん一旦ワタシを降ろしてっ!」
「さ、さっきの倍だっていうのっ!? さすがにこれは避けきれないっ! ゴメンなさいねゴナちゃん。このまま二人ともって訳には」
ボクは予備にもう一つ持っていた、スミカお姉ちゃんに渡された『ハンドボーガン』を2つ同時に使いました。
『10矢一斉射出』
これが今のボクにできる最大最多の攻撃です。
「ぐあっ! なんだこれ? 体が痺れて動かないぞっ!」
二人では避けられないと判断したナゴタさんが、一度妹のゴナタさんを降ろしたみたいでした。そして避けられなかったゴナタさんだけに命中しました。
「くっ、これは予想外でしたわっ! 一体あなたはなんなのですかっ。Bランク冒険者の私たちに臆する事もなく立ち向かってくる、その見た目とは裏腹に強い意志とその腕前は。そう、それではまるで、お姉さまのような――――」
「ぐうっ、ぐわっ―っ!! よしっこれならギリ動けるぞっ!!」
ボクに見えないまま独り言のように話をするナゴタさんの後ろでは、痺れている筈のゴナタさんの体が光とともに動き出しました。
『なんで動けるの? それにボクの矢を全部避けたの!?』
もの凄く驚きながら、ボクはまだ諦めずにナゴタさんとゴナタさんの両方にスタンボーガンを発射します。
「ああっ!」
でも発射した光の矢は、その殆どがあっちこっちに飛んでいきました。
焦ってしまってきちんと撃てなかったんです。
それでも、
「ぐわぁっ!」
何とか動いているゴナタさんにはまた命中しました。
それでもまだ動けるようで、ゆっくりと向かってきます。
「うぐぐぐっ! こ、この野郎っ! 二度も当てやがって! 今そっちに行くから覚悟しろよなぁっ!」
「ふうっ、本当に驚いたわ。その短弓みたいなのは装填しなくても何度も撃てるのね? あなたは中々頑張ったわ。でも、もうこれでお終いね?」
二人は更にボクに近付いてきます。
そしてお姉さんのナゴタさんの姿も見えなくなりました。
「やめろッ! もうそれ以上ユーアに手を出すなァ!!」
「そうですもうやめて下さい! それはあなた達の為でもっ!」
ボクの近くに迫る二人を見て、ルーギルさんとクレハンさんが、ナゴタさんとゴナタさんに怒鳴り声を上げています。
それでも二人はボクに徐々に近づいてきます。
「ううう…………」
これが『Bランク冒険者』の強さなんだ…………
全く歯が立たない。
スミカお姉ちゃんに貰った武器を握りながらそう思いました。
「でもっ!」
それでもボクは諦めない。
冒険者の皆を傷つけるこの人たちをボクは認めない。
ボクに向かってくる二人の姉妹を強く睨みます。
「く………………」
ガクガクとスタンボーガンを持つ手が震えます。
でもボクはまだ戦えます。
ルーギルさんとクレハンさんみたいにケガしてない。
体のどこも痛くない。
『そ、それにボクは強いスミカお姉ちゃんの弟子なんだからっ!』
そしてハンマーと槍の刃が、ボクに向かって振り下ろされます。
それでもボクは――――
ドゴォォォ――――ンッッ!!!!
「んがぁっ!!」
「ぎゃはぁっ!!」
何かかがぶつかった大きな音と、ナゴタさんとゴナタさんの悲鳴が同時に鳴って、二人は地面と平行に飛んでいきました。
「えええ――っ!?」
そして二人はスミカお姉ちゃんの魔法の壁にぶつかって倒れました。
20メートルくらい飛んでいきました。
『あれ、これって……』
「もう、さっきからうるさいよっ! こっちは徹夜明けで眠いんだから、いい加減に静かにしないと本気でぶっ飛ばすよっ!!」
ボクが大好きなその澄んだきれいな声。
そんな声がスミカおお姉ちゃんの家から聞こえてきました。
「ええっ! ス、スミカおねえちゃんっ! なんでっ!」
「ス、スミカ嬢帰ってたのかよォ! なんだってこんなに遅いッ!!」
「スミカさん帰っていたならなぜ!?」
「え?」
ルーギルさんたちはあまり驚いていないみたい。
もしかして何処にいたのか知ってたの?
でも、そんなのどうでもいいんだっ!
「スミカお姉ちゃ~んっ!!」
ボクは嬉しくなってスミカお姉ちゃんに「ギュッ」と抱き着きます。
格好悪いけどスミカお姉ちゃんを見て安心しちゃったから。
「あらら、ユーアおはよう。朝から随分と甘えん坊さんだね」
いつもの様に優しくボクの頭を撫でてくれます。
「えへへ。ねえスミカお姉ちゃん。朝はどこにいたの? お家の中にいなかったですよね?」
ボクは抱き着きながら気になったことを聞いてみます。
だって、朝起きたらお布団にもいないし
お風呂にもいなかったから?
『あれ? そう言えばボク、お風呂って?』
朝はお風呂は確認してなかった事を思い出しました。
ルーギルさんたちの声が聞こえてきたからお外に出たんだった。
でも一度ボクはお家に戻ってるし、それにお風呂だとしても、ナゴタさんたちが暴れている最中ずっと入っていた事になっちゃうし。いったい何処にいたんだろう。
「ああ、ゴメンゴメン。帰ってきたのが明るくなる少し前でお風呂に入ってたら、そのままうたた寝しちゃったんだよね」
「だから家の中にはいたんだけどね」と話してくれました。
なんだ。
それじゃボクがちゃんとお風呂を見ていたら
スミカお姉ちゃんは見つかったんだね。
「ああそうだ。ユーアちょっと待ってて。あの
そう言って、ボクの頭から手を離します。
「え? スミカお姉ちゃん、あの人たちを知ってるんですかっ!」
スミカお姉ちゃんの言葉に驚いて聞いてみます。
「うん、だってあの姉妹連れてきたの私だもん」
「えええっっ!!!!」
「な、なんだとォッ!!!!」
「ええっ!それは一体どうして!!」
そんな予想外のスミカお姉ちゃんの言葉に、ボクもルーギルさんたちも驚いて大きな声が出ちゃいました。
一体スミカお姉ちゃんは夜のいない間に何をしていたの?
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