第85話大会の話と不気味な存在
私たち三人はトロールの居場所を目指して、闇の中の森を駆けていく。
タタタタッ――――
「そういえばスミカお姉さま。村の中のオークの死体はどうなされたのですか?」
私の隣に並んで、姉のナゴタがそう聞いてくる。
村を抜けた時に、大量の死体が無くなっていたのを気にしてるのだろう。
「あれは元々私たちが倒したオークだったから、全部回収しちゃったけど」
隠してもしょうがないから、素直にそう答えた。
と、言うかあの数の死体が無くなっていたら誰だって気付くだろう。
「えっ! あれ全部回収できたのか? スミカ姉っ!」
今度は妹のゴナタ。
「う、うん、その予定であそこに戻ってきたから……」
あ、あれ? 何か変な事言った?
ゴナタの驚きようにちょっとだけ焦る。
「さすがですねスミカお姉さま。希少な収納魔法まで使えるなんて」
「へ?」
収納魔法?
「そ、そうなんだっ! その『収納魔法』が使えるんだよっ!」
何となしに話を合わせる。
この話の感じだと、収納魔法ってものの方がそれに当てはまるんだろう。
それに希少って言うくらいだから、その方がバレずらいんだと思うし。
『それにしても――――』
私の後に付いてくる姉妹を見る。
足場が悪い森の中をなんの影響も感じない程の速さで駆けている。
しかも暗闇の中、でだ。
姉のナゴタは、その能力故にどんな状態でも足運びはお手の物だろう。
だが、妹のゴナタまで何も気にせずに走り抜けている。
タタタタッ――――
「どうかなさいました? スミカお姉さま」
私の視線に気付いたナゴタが、走りながら話しかけてくる。
「ううん、二人とも周囲も暗くて足元も悪いのに、よく平地と同じくらいで走れるなあ、なんて思ってさ」
「スミカ姉っ! ワタシたちは小さい頃から両親とおじいちゃんに色んな事教えてもらったり、鍛えてもらったからなんだよっ! それでもスミカ姉には全然敵わないけどなっ!」
妹のゴナタの方が答えてくれた。
「うん、とっても、いい両親とおじいちゃんだったんだね」
「はいっそれはもうっ!」
「うんっ! 感謝してるんだっ! ワタシたちっ!」
二人とも笑顔でそう話してくれた。
その姉妹の様子で、いい両親と祖父だったんだなと良くわかる。
『うん。二人とも随分と険が取れて柔らかい表情になってきたよ。 男だったら惚れちゃってもおかしくないくらいに、表情も豊かで年相応の少女に見えるよ』
二人の穏やかな笑顔を見て、私はそう思った。
※
タタタタッ――――
「そういえばさぁ、ここに来る前はどこに行ってたの? やっぱり他の大陸にいたの?」
さっき姉妹から貰った果実水とドライフルーツみたいなのは『南の大陸、南方』と言ってたのを思い出して、気になりそう聞いてみる。
「はい。南の『アストオリア大陸』に行ってました」
「やっぱり何かの仕事だったの?」
「はい。西の『フリアカ大陸』から、アストオリア大陸に要人の護衛の依頼で行きました」
「大陸から大陸なんて、また随分と長い旅だったんだね?」
「まあ、そうなんだけど。もう慣れちゃったんだよなぁ。ワタシたちも」
「ふふっそうね。Bランクになってからは大陸間以外でも、この大陸の端から端までの依頼も、随分と増えてきましたから」
「そ、そうなんだ。Bランクって大変なんだね…………」
二人の話を聞いて私なりの労いの言葉をかける。
ヤバい。絶対にこれ以上ランク上げたくない。
更に面倒ごとが増えそうだし、ユーアとのんびり出来なくなりそう。
これからも悪目立ちしないように、ひっそりと生きて行こう。
そう
「あ、そう言えばその護衛で送った偉い人は、大会の賓客として呼ばれたみたいなんだよっ!」
妹のゴナタがちょっと興奮したように話題を変える。
「え、大会って何っ!?」
非常に気になる単語を聞いて、矢継ぎ早に聞き返す。
「なんでも、2か月半後くらいに腕試し的な催しがあるみたいですよ」
「そうなんだっスミカ姉っ! え――と確か、色々分かれてて、出場枠が――」
「腕試し?色々分かれてて?」
要領を得ない姉妹の答えにオウム返しのように聞き返してしまう。
「あ、すいませんっ! ちょっとわかりずらかったですね? 要するに色々な特技を競う、競技大会みたいなものです」
「そうなんだよっ! ワタシの得意な力勝負みたいなのもあるんだよっ!」
「へえっ―― どんなの?」
「全部の競技の内容とか、ルールは覚えていないのですが――」
――――――――
【剛腕、力自慢】部門
【素早さ、俊敏さ】部門
【魔法使い】部門
【射撃手】部門
【異種混合戦】部門
【チーム戦】部門
――――――――
姉のナゴタの話だと、主にこんな内容だった。
競技の種類は大きく分けて6部門あるらしい。
ナゴタの覚えている範囲でだけど。
出場者の性別は問わないが、年齢は冒険者登録の最低年齢と一緒の12歳から。となっていて、その上の上限はないとの事。
その他にも、細かい規定とかルールなどがあるらしいが、二人とも出場するわけではなかったので、それ以上の事は知らないらしい。
「……………ふ――ん」
『…………ヤバい、ちょっとだけ、ランカーとしての血が騒ぐかも――』
それを聞いて少しだけ興味が出てきた。
元のゲーム内でも大会という大会は殆ど出場してきた。
ソロでの大会はかなりの好成績を残してきたが、パーティー戦とかの「多人数VS多人数」戦いは、正直あまりいい成績は残せなかった。
ソロで最強でもやはり息の合った者同士で、パーティーを組めなかった影響が大きかった。元々私はソロメインだったのも余計だろう。
「で、各部門の優勝者には何が貰えるの?」
優勝者しての地位やステータス達成感もそうだけど、やはり優勝賞品の内容が気になる。
「う―ん、すいません。それも詳しくは知らないのですが、何でも賞金の他に『伝説級のアイテム』や『大型帆船』『領主』『豪邸』に『土地』など。他には、王都の騎士団への入隊とか、宮廷魔術師への登用、などもありましたかね? 今のは全て過去の賞品の話なんですけど」
「そうなんだ…………」
なんか、思ったほど大した商品がないな。
最後の方の、騎士団とか、宮廷魔術師とか、名誉ある狭き門の職業なんだとしても、ものすごく興味がない。
だって、社畜っぽい雰囲気だし。
領主に就けるってのもなんかおかしな話だ。
強ければ領主になれるなんて、なんか変だよ。
脳筋の領主なんて絶対に碌なもんじゃない。
でも、その他の
『伝説級のアイテム』『大型帆船』『土地』
には少し興味あるかな?
伝説級ってくらいだからこの世界でも希少なアイテムだろし、これをユーアにプレゼントしたら、喜んでくれそう。かな?
それと船があればユーアと世界を周れるし、土地があればレストエリアを出してユーアと一緒に暮らせるし――――ううむぅ。
「スミカ姉が出れば確実に優勝しちゃうってっ! だからどう? スミカ姉っ!」
「確かにそうですね。スミカお姉さまが出場すれば賞品を総取りできますねっ!!」
「え?」
なんて、姉妹二人とも煽ってくる。
総取りは、無理でしょう?
そんなに何個も登録できないだろうし。
「まあ、優勝は無理だと思うけど、いい所までは行くとは思う。まあ、出場は少し考えてみるけど。それと因みに過去の上位者ってどんな人がいたの?」
「えっと、それはですね。妥当というか、なんて言うか、高ランクの冒険者が殆どの競技の上位を占めてましたね。Aランクの方とか、Sランクの方とか」
「なるほどね」
やはりこの世界の冒険者は、一般人とは比べても明らかにレベルそのものが違うって事だろう。
「あと、冒険者じゃない奴らもいたみたいだぜっ! スミカ姉っ!」
妹のゴナタが思い出したように注釈を入れる。
「え? それはどんな奴らだったの?」
「なんか、見た事もない武器とか防具とかを持ってた集団がいたらしいよ? 上位者は冒険者ばかりだったけど、優勝はそいつらが殆ど持っていったみたいだぞっ!」
そう教えてくれた。
「ナゴタもゴナタもありがとね。教えてくれて」
「はい、スミカお姉さまにだったらこれくらいお安い御用ですよっ!」
「うん、これからも何でも聞いてくれよなっ! スミカ姉っ!」
なんて言って、にこにこして並走している。
それよりも――――
ナゴナタ姉妹が、さっき言っていた、
見た事もない装備と、高ランクより強いその集団。
『まさか、この未知の腕輪と何か関係あるの?』
アイテムボックスに保管している2つの未知の腕輪。
この世界の技術の水準では、加工できない程の細かい装飾。
それと使用者の大きさに合わせて、自動でサイズの変更が出来るのも、この世界では無い物だろう。
回収した2つの腕輪は、それぞれが同じ大きさだった事から、そう判断できる。私よりも小さいオークと、家屋より巨大だったオークが同じサイズの腕輪だとは思えない。
保管している腕輪を思いだし、私はなんとなくそう感じた。
「あ、そろそろトロールの住み家に着く頃だから油断しないでね」
「はい、スミカお姉さまっ!」
「おう、スミカ姉っ!」
二人に声を掛けながら、そんな嫌な予感が当たらない事を願った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます