第406話模擬戦終了と結果発表
「うう~、スミカお姉ちゃんには、ボクの矢も鎖も全然当たらなかったよっ! ハラミもいっぱい頑張ったのに~っ!」
『くぅ~ん』
「はぁ、はぁ、な、何なのよスミ姉はっ! あんなの人間の動きじゃないわよっ! いくら凄いアイテムがあったって、当たらなければ意味ないじゃないっ!」
初戦を終えたユーアとハラミとラブナの年少組。
その年少組が選んだフィールドは森の中だった。
ハラミに騎乗しての、ユーアのハンドボーガンを使った精密な射撃。
そして『千里の腕輪』&『チェーンWリング【緑】』のコンボ。
特に強力なのは、ユーアとの相性がいい千里の腕輪。
これを使われると、木陰や草むらに隠れる意味がなくなる。
今までは感覚的に捉えていた位置を、腕輪によって視覚情報として伝わるからだ。
次いでラブナの『リフレクトMソーサー』を使っての、多角からの魔法攻撃も非常に厄介だった。前後左右、はたまた上下からの死角からも撃ってくるからだ。
更にそこに、ユーアからの視覚情報を伝達されると、絶えず弾幕を周囲に張り巡らされて、迂闊に近寄れなかった。
※
2戦目は予定通りにナゴタとゴナタ。
「さ、さすがはお姉さまですね。まさか衣装に触れられるだけとは思わなかったです。それでも次はわかりませんからね。アイテムにも慣れてきましたから」
「はぁ~、やっぱりまだお姉には追いつかないかぁ~、せめて驚かせてやろうとしたんだけどなっ! でも新しい技もコツを掴んできたから、次は覚悟してくれよなっ!」
二人が選んだフィールドは平地。
そんな姉妹とは、これで3度目の対戦だ。
それに二人の戦いは、同じ双子のアオとウオとの対戦を見ている。
なので二人の戦い方も熟知しているし、それからの伸び幅を考えても、せいぜい善戦どまりだろうと、高を括っていた。
それが見事に覆されたのがナゴタとゴナタだった。
二人に渡したアイテムは『デトネイトHブーツ』
対象に蹴りを当てれば爆発効果を付与し、強弱で威力を変えられる。
それとホバー機能が付いている。
ナゴタの蹴りの威力、そしてゴナタの機動力を上げる為にと渡したもの。
その理由は、二人の苦手な部分を補填する意味合いで選んだものだ。
ただそれだけでは、慌てるほどでも、ましてや触れられるなんて思ってもいなかった。
アイテムの特性に関しても私の方が詳しいし、二人の強さも知っているからだ。
それでも尚、驚愕し、攻撃を受けたのは、ゴナタ言う新しい技に面食らったからだ。
しかも二人とも、それをモノにする一歩手前まで迫っていた。
その為不覚にも、攻撃を掠らせてしまったのだ。
いや、実際は不覚だなんて一言で済ませたくはない。
これは二人が努力してきた結果なのだから、それは必然だともいえる。
※
最終戦ナジメ。
選んだフィールドは順に、平地、森、湖の全て。
その3か所それぞれで、合計10分間戦った。
場所を途中で変更できるルールなんてなかったが、ナジメが強く希望したため、それを叶える事にした。何か考えがあっての事だろうと思って。
「ふぅ~、わしも場所を選ばずに、ある程度は戦えるように昔は修練しておったが、ねぇねはその遥か先をいくのじゃな。わしもまだまだじゃったという事なのじゃ。それでもねぇねに奥の手を出させたのは自慢に値するのじゃっ!」
どうやらナジメは私よりも、実戦を想定して模擬戦に挑んだようだ。
フィールドを3か所にしたのもその為だろう。
突如襲われた時に、必ずしも自分に有利の条件だとは限らないからと。
その模擬戦で私は、ナジメの言う、奥の手を使う。
いや、使わざる得なかったというのが本音だ。
余りにもの攻撃の種類と手数、その威力に捌き切れなくなったからだ。
ナジメはラブナと同じ魔法使いでも、魔法の繋ぎに殆ど隙が無い。
絶え間なく、大小何かしらの魔法を唱えて攻撃してくる。
それに溜めの長い大規模な魔法でも、本来持つ自身の耐久力と、小さな守護者の能力で、その弱点を補ってしまう。
そこに私が渡したアイテムの『リフレクトMソーサー』も合わさって、手数も精密さも、そして先読みしての意表を突く攻撃に、私は【実態分身2.0(7大罪ver)】を使って凌いでいた。
これがナジメも知らなかった『奥の手』と感じて、言っていたものの正体だ。
まだ試験段階で、使うつもりはなかったけれども、今回は仕方が無いと諦めた。
これが、午前中の数時間を使っての、シスターズたちとの模擬戦の結果だった。
単純に結果だけ見れば、誰しも私の圧勝に映っただろう。
ただし今回の模擬戦は、決して勝敗だけでは決着も優劣も付けられない。
最後に幕を下ろすのは、お互いの譲れない想いが一番の要になるからだ。
※※
「「「ごちそうさまでした~っ!(なのじゃっ!)」」」
「ごちそうさま~!」
模擬戦も終わり、湖で汗を流した後で、遅い朝食を食べた。
その食卓の様子はいつもと変わらず賑やかなものだった。
美味しそうに食べるユーアに、あ~んしてもらうラブナ。
お行儀よく静かに食べるナゴタに、時たま注意されるゴナタ。
たびたび口の周りを汚し、年少組に世話をしてもらうナジメ。
そしてそれを眺めて、笑顔を浮かべる私。
そんな風景が最近みんなとの食事でできた、見慣れた光景だった。
「お姉さま、食後は紅茶でよろしいですか?」
「は、はいっ! それでお願いしますっ! ナゴタさん」
「え?」
「い、いや、何でもないよっ」
ナゴタの問いかけに、思わず敬語で答えてしまった。
その理由は、昨夜の件と、朝に見た夢が気になっていたからだ。
変に気にし過ぎて、恐縮してしまった。
『い、今のところはみんな普通だよね? ちょっとだけ視線が気になるけど……』
食べ終わり手持ち無沙汰になったみんなは、チラチラと視線を向けてくる。
ただその視線は、私を嫌悪しているものではなく、どちらかというとソワソワしている感じ。私を中心に、それぞれの視線が行ったり来たりしていたから。
恐らくだけど、話を切り出す時機を伺っているんだろう。
模擬戦の結果がどうなったかの。
「うん、それじゃみんなに飲み物が行き届いたね」
出だしはリーダーの私の役目だろうと、口火を切る。
「「「は、はいっ!」」」
それに対して、表情を強張らせて、身を乗り出し私に注目する。
そんなみんなへの答えは決めてある。
今朝の模擬戦の最中に。
「みんな合格。で、それで――――」
「やった――――っ! これでボクたちも、スミカお姉ちゃんを守れるねっ!」
「ま、まぁ、アタシもユーアもハラミも頑張ったから、当り前じゃないっ!」
『がうっ!』
「ふぅ、良かったですっ! これでお姉さまへの恩が少しでも返せますっ!」
「ふぁ~、絶対だめだと思ったよ。でもこれでお姉ぇと肩を並べて戦えるぞっ!」
「うむ、うむ。みんな良かったのじゃ~っ! わしも嬉しいのじゃ~っ!」
話を最後まで聞き終わらないうちに、わっとみんなが騒ぎ出す。
そんな様子を見ると、かなり模擬戦の結果が気になってたのだとわかる。
なにせ椅子から立ち上がって、ハイタッチまでしているからね。
『う~、なんか話の続きがしづらい雰囲気に…… でも線引きはしっかりしないとね。喜んでいるみんなに水を差すようで悪いけど……』
若干気まずいと思いながらも、アイテムボックスからあるものを取り出す。
「あのさ、これを見て、話の続きを聞いて欲しいんだけど――――」
「「「え?」」」
それは、この模擬戦の発端ともなった謎の腕輪だ。
異常種の個体、それぞれから回収した5つの違いがある腕輪だ。
それの意味するものの説明をする為に、私は口を開いた。
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