第229話各々の謝罪と小さな手形



 ナゴタとゴナタに連れられてアマジが戻ってきた。

 ゴマチを抱いて逃げたアマジはナゴタたちに捕獲されていた。


 そもそも私が二人に頼んだんだけどね。

 森の中に消えていったアマジ親子を捕まえてって。



「もう戦意はないから連れてきてっ!ナゴタとゴナタでお願いっ」


 て、顔の前で両手を合わせて。


「「は、はいっ!お姉さま(お姉ぇ)っ!!」


 と、すぐさまナゴタもゴナタも、あの群青と真紅のオーラを出して追いかけて行った。何故そんな事でリミッター解除するのかな?何て不思議に思いながら。





「冒険者のお前らの…………勝ちだ」



 で、着いて早々、代表者としてアマジが口を開く。

 この瞬間に実質的に私たちの勝利が確定した。


 まぁ、そうは言っても2戦目で勝ち自体は決まってた。


『………………』


 何て言いたいけど、私も空気が読める大人なので今は黙って聞いている。


「そして口惜しいが俺たちの負けだ……」


 と、続けてアマジの口から負け宣言をする。


「………………」

「………………」

「………………」


「「「………………」」」


 ただその顔は口惜しいとは程遠く

 どこか毒気が抜けたような達観している様相だった。



 3連敗という大敗をして何か思うところがあったのだろうか?

 私たちを見渡すその顔は、若干険が取れたようにも見える。



「うん、まぁ、それはいいんだけどさ。それ何とかならないの?」

「うっ」

「なんか覚悟を決めた神妙な顔で負け宣言してたけど、正直笑いを堪えるのに大変なんだよ、こっちは」


 私はアマジの顔を指さしてそう発言する。


「………………ぷ」

「………………う」

「………………くっ」


「「「………………っ」」」



「ぐぅ、そ、それは俺に言っても仕方がなかろう……」


 と、咄嗟に自分の頬を片手で覆ってしかめっ面で返すアマジ。


「いや、そうは言っても、ねえ?」


 私はみんなを見渡しながらそう返事を返す。

 そんなみんなは私とアマジの会話を聞いて、肩を震わせている。


 そうアマジ陣営の仲間も含めてみんな我慢しているのだ。

 笑いを堪えるのに全員必死なのだ。 



 だってアマジの左頬には――――



「アマジが勘違いしてゴマチを抱いて逃げたのがいけないんだよ」

「くっ!元はと言えばお前があの魔法を出しっぱなしにっ」


 アマジの左頬には、キレイな手形の痣が残っている。


 簡単に言えばゴマチに本気ビンタされた跡が残っていた。


 これはゴマチが必死に逃げるアマジに喰らわせた一撃だった。

 展開しっぱなしのスキルで攻撃されると勘違いし逃走したアマジに。


 そんな情けない顔で、真面目な事を言われても正直耳に入ってこない。


 因みにゴマチはハラミに顔を埋めて、チラチラとこちらを伺っている。

 その顔は何処か気恥ずかしいそうだった。



「ねぇ?アマジがこんな事言ってるけど、私が悪い訳じゃないよね?あ、これはアマジの仲間を抜きにして聞いてるから」


 そう言って、ユーアを含むシスターズのみんなに聞いてみる。


「お、お前っ!そ、それは卑怯だぞっ!仲間だけに聞くなどっ!」


 と、私に食って掛かるアマジ。


 ああ、そんな事したら……



「ぷっ、くくっ、わははははっ!!」

「く、うふふ、うふふふふっ――」

「あっははははははっ!!!!」


「「「…………くくくっ」」」


 と、必然的にこうなる。


 腕を振り上げた事によって、隠していた左頬が見えてしまったからだ。

 それを見て我慢の限界だったみんなが一斉に笑い出していた。


 小さくて可愛いゴマチの手形の跡を見て。


「ぐっ!お、お前らまでもっ」


 信じていた仲間にも笑われたアマジは怒りの形相で鋭く睨む。

 若干拳にも力が入っているようだ。それと眉間にも。






「で、約束した事覚えてるよね?」


 私はみんなが地べたに座るのを見届けてそう口を開く。


「………………ああ」

「「「………………」」」


 それを聞いて、体面が悪そうに仏頂面で答えるアマジ。

 他の面々も似たような表情。



 あ、地べたって言っても、実際はレジャーシートの上に座っている。

 ニスマジのお店で買ってあった、ちょっと厚めの防水加工済みの。


 因みにみんなの前には冷たい果実水と、簡単な串焼きとかサンドイッチみたいな軽食などを置いてある。何だかんだで、もうお昼に近い時間だし。



「それじゃ最初に謝って貰おうかな?先ずはナゴタとゴナタに」


 私はバツが悪そうな3人にそう伝え、渦中の姉妹を見る。


「えっ?私たちですかっ!?」

「う、うんうんっ」

 

 と、いきなり降られて驚いているナゴタとゴナタ。


「えっ、て?もしかして忘れちゃったの?そういう約束したの」


 と、みんなに視線を向けられて居心地悪そうな二人に声を掛ける。


「い、いいえ、そういう訳でもないんですが……」


「ワ、ワタシたちはお姉ぇが悪く言われた事に頭に来てただけだから、別にナゴ姉ちゃんとワタシは構わないんだけどな色々言われたって。それと昔の事もあるしさ」


「それはダメ。ナゴタとゴナタはお互いに自分たちを軽視しているようだけど私はそうは思わない。だから自分たちの価値を下げる事は言わないで欲しいんだ。私は二人とも大事だし認めてるから」


「ねぇねよ。さすがに無理やり謝罪を聞かせたって、それは二人が飲み込まなければ意味がないじゃろ?だからそこまででいいとわしが思うんじゃが。どうだろう?」


「う~ん、まぁナジメの言う事も一理あるね」


 ナジメが私と姉妹の間に入ってそう仲裁してくれた。

 確かにナジメの言う通り無理やり謝罪を見せられたって戸惑うだけだろう。


『しかもこの場合は、私の自己満足だけになりそうだしね』


 私は首を傾げ少し考える。


 すると――



「すまなかった。俺たちは―」

「お前たち双子を誤解してた」


「はぁっ!?」

「ワ、ワタシたちにっ!?」


 と、今まで静かだったアオウオ兄弟が頭を下げる。


 それに触発され切っ掛けになったのか

 他の二人も次々に口を開き始める。


「そうだな、俺もお前たち双子をどこかの売女みたいな言い方をした。そこだけは詫びるとしよう」


「えっ?あなたもですかっ」

「うえっ?お前もっ!?」


「う~ん、まぁオレも口には出さなかったけどぉそう思ってたからねぇ。オレも謝るわぁ、ゴメンよぉ。ボインの双子ちゃん」


「お、お主もかっ」


 と、アマジもサバも続けて頭を下げる。


「………………」


 う~ん、大の大人3人がまだ成人したての二人に頭を下げている。

 土下座とはちょっと違うけど、でも似たようなものだしいいのかな?

 私も少しスッキリしたし。



「で、ナゴタとゴナタはどうする?最初イキり立ってた大人が、今度は逆転して、情けなく頭を下げてるのを見て?」


「ぐっ! お、お前は……」


「ウ、ウオ我慢だっ」

「あ、ああ分かったアオっ」


「こ、このチビッ子めぇっ!、いくらアマジさんに勝ったからと言って態度がデカいのよぉ。色々薄っぺらいくせにぃ!で、でもこんなでも恐ろしく強いのよねぇ……」


 そう姉妹に話を振り、私も隣に座る。

 そしてユーアを膝の上にのせる。


「………………?」


 姉妹に頭を下げている4人は、何かブツブツ文句を言ってたけど、その時だけは下を向いてたからよく聞こえなかった。



「で、後はユーアにだね。アマジか泣いて詫びる相手は」

「へっ?ボクがですかっ!なんで?」

 

 と、膝の上のユーアの頭をポンポンとしながら睨む。


 そんなユーアは突然の事であわあわしている。


 まぁ、それはそうだよね。

 ここまで何も説明して来なかったし。



「……一体そいつはお前の何なのだ」


 アマジは私と視線がぶつかりそう口を開く。


「私の一番の妹で、私が守る絶対的な存在で家族だけど」

 膝の上の温もりを感じながらユーアを撫で即答する。


「……守る、家族、か。なら、涙は出んが謝罪しよう。すまなかった」


 と、ユーアを見て深々と頭を下げるアマジ。


「えっ?えっ?ボ、ボクどうしたら、スミカお姉ちゃんっ!」


 アマジの謝罪の姿を見て、更に混乱するユーア。

 私までそのプルプル具合が伝わってくる。


「あ、そういった時は、その頭を思いっきり踏めばいいんだよ。それが礼儀だから。そうすると喜ぶかもしれないし」

「ほ、本当?は、初めて聞いたかも……」


「………………なっ」


 ユーア若干怪訝そうな顔をしながら

 小さな足をそ~とアマジの頭に伸ばす。


「………………くっ」



「もう冗談はそのくらいで許してやってくれな。スミカちゃんとユーアちゃん」

「ん?」

「おじちゃん。冗談って?」


 と、今まで黙っていたロアジムが口を挟む。


「まぁそうだね。今の踏まれそうなアマジの顔を見て、少しは溜飲が下がったからそれでいいよ。ただ惜しかったね?ユーアの足裏を堪能できなくて」


「は、はぁっ!?お前は何を言って俺はこんな子供――」

「ちょっとスミカお姉ちゃん冗談ってなにっ?またボクを――」


 と二人同時に私に食って掛かってくる。


「ってアマジも図星を突かれたからってムキにならないで。どうせご馳走逃したとか思ってんでしょ?ユーアの可愛い足を見て。それにユーア、そういった事も好きな人がいるから私が一方的に間違ってたわけじゃないからね」


 人差し指を立てそう説明する。


「ご、ご馳走ってなんだっ!なぜ俺がすき好んで幼女の足なぞをっ!」

「え、そうなんですか?ボク知らなかったです」


 と更にヒートアップするアマジ。

 その姿と自分の足を見て頭の上に「?」マークを浮かべるユーア。



「あのぉ、澄香ちゃんっ?余計に場が……」

「あ、ごめんごめん。もうこれで終わりにするよっ」


 私はロアジムのジト目を見ながらそう答えた。


 もうこれで十分ストレス発散出来たからいいかな?

 ユーアを巻き込んじゃったけど、それは私の癒しの為だしね。



「それじゃ、私たちの全勝の約束守ってもらうよ」


 と、アマジを見て私が口火を切るのであった。



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