第308話絶品食材と耐える少女




 貴族街で偶然遭遇した、アマジとゴマチの親子と冒険者ギルドに到着した。


 私を先頭に扉を開け中に入る。


 アマジ親子はアオとウオの様子&ギルド見物? の予定で。

 私はアマジの父、ロアジムに会いに。


 

「おはよ~、ロアジ――――、じゃなかった、おじちゃんいる?」


 フロアを見渡し声を上げるが、中には数名の冒険者がいるだけだった。

 朝の混雑時間を過ぎているのでそんなもんだろう。

 もちろん、その中にロアジムは見当たらない。



「スミカ、俺とゴマチは少し中を見させてもらう。ゴマチも親父には聞いていたが、中を見る事はあまりなかったらしいからな」


「この前親父と来た時は、直ぐに出ちゃったからな、そして絡まれたけど」


 興味深そうにフロア内を見渡すアマジ親子。


「だったらクレハンに頼んであげるよ。ここの副ギルド長で、ギルド長よりかなり優秀だから、色々聞けば教えてくれるよ?」


「ん? 副ギルド長、に頼む? だと?」

「え? それって偉い人なんじゃ……」


「クレハ~ンっ! ちょっとアマジたちを案内してあげて~っ!」


 カウンターにいるクレハンを見つけ、手を振って呼ぶ。



「あっ、スミカさんおはようございます。昨日はどうもありがとうございました」


 カウンターで、何かの書類を見ていたクレハンが気付きこちらに来る。


「うん、おはよう。顔は知ってるでしょ? アマジたちが冒険者に興味があるから案内して欲しいんだけど。もしかしたら冒険者になってくれるかもよ?」


「はい、この前一度お会いしてますね。Cランク冒険者と揉め事になった時に。先日はすいませんでした。色々と変な癖が出てしまいましてギルド長共々」


 クレハンは私に挨拶をした後、アマジ親子に向き合い話始める。


「あ、ああ、あの時は副ギルド長だとは知らなくてすまなかった。それと今日は無理せずとも勝手に見て回るから仕事を優先してくれ」


「そ、そうだぞ、クレハ…… 副ギルド長さんっ!」


「はい、それなら大丈夫です。朝の忙しい時間帯は過ぎましたので、わたしがご案内いたします。スミカさんのご依頼ですし、アマジさんみたいな強者にも興味ありますからね」


 「にこぉ」と微笑み、アマジとゴマチを見るクレハン。

 そんな彼の頭の中では、アマジをどう引き入れようかと算段している事だろう。



「ああ、それではお願いする。それと登録するかは――――」


「それは後でゆっくり決めて頂いて。それでは空いてる部屋で簡単に仕組みについて説明いたしましょう。ゴマチさんにもわかりやすく説明いたしますので」


 アマジの答えを聞く前に、自然に話を被せるクレハン。

 さすが頭脳担当だ。


 人間言葉に出すとよく考えもせず、決心するところがあるからナイスな判断だ。

 これは本気でアマジを取りに来ている可能性が高い。



「それじゃ私は行くから。あ、そう言えばロアジムって言う人知ってる? おじちゃんって呼ばれてると思うんだけど」


 私は念のため、クレハンに近付き小声で聞いてみる。

 正体を隠して冒険者をしていると思ったからだ。


「はい、おじちゃんは今2階にいます。それとロアジムさんの事は、私とギルド長だけ知っていますのでお気を付けてください」


 クレハンも私に合わせて小声で答える。


「ああ、やっぱりそうなんだ。本人か、ゴマチに聞いておくんだったよ。それじゃ2階に行ってみるよ。昨日の部屋って事?」


「はい、そうです。後で職員に飲み物を持って行かせますので、ゆっくりとしてください」


「うん、ありがとう。それじゃ、アマジとゴマチ、私は用事があるから」


「ああ、わざわざすまんな。それとお前はまた何か企んでいるのか? 親父の様子といい、お前が親父に会いに行くと事といい」


「何よ、企むって……。そんなんじゃないよ。ちょっとやりたい事と聞きたい事があるだけだよ。賄賂は渡すと思うけど」


 言葉の割に、何故かニヤニヤしているアマジにそう返す。


「賄賂? まぁ、何かあったら俺たちも手を貸そう。戦闘以外は役立たずだろうがな」

「うん、ありがとう。その時は声を掛けるよ。それじゃ、私は行くね」

「ああ」

「スミカ姉ちゃん、また後でなっ! それとユーア姉ちゃんにもよろしくなっ!」

「うん。今度は家に遊びに行くよ」


 そうして3人と別れて、カウンター裏から2階に上がる。





 コンコン


「ルーギルとロアジムいる? スミカだけど」



 ルーギルの書斎を抜けて、隣の扉をノックする。

 さすがにいきなり開ける事はしない。


 ギルド長としても、貴族としても、私が聞いてはいけない話もあるだろうから。


 そう気を遣い、一応ノックをしたんだけど……



(おうッ!スミカ嬢かぁ。何やってんだッ! 勝手に入ってきていいぞッ!)

(スミカちゃん? おおっ! そんな他人行儀な事せずに入ってきていいぞっ!)


 そんな返答が扉の向こうから聞こえた来た。


「………………まぁ、そう言うならいいか」


 正しい判断をしたはずなのに、何故か悔しい。

 それに私は真っ赤な他人だって、ロアジム。



 ガチャ



「…………朝から何やってんの? お酒?」



 中に入ると食事の途中なのか、テーブルの上にお皿が並べてある。


 そして美味しそうな匂いが部屋中に充満していた。

 ただその匂いの中にもアルコールにも似た匂いも漂っている。



「ああ、あまりにも美味い食材だったから、思わず飲み始めちまってよッ!」

「1杯だけのつもりが、お酒が進んでしまってなっ!」


 コップを片手に、若干赤い顔で答えるルーギルとロアジム。

 一体ロアジムは何しに来たんだろう。ただの酒飲み?



「何が美味しいって? う、お酒好きじゃないから息をこっちに吐かないでね」

 

 そう言いながら、窓を開けて換気をする。

 朝のさわやかな風が入ってきて心地いい。



「ああ、これなんだがよぉ。もう一切れしかねえから喰ってみろよッ」


「うん? わかった。それじゃいただくね」


 表面を若干焼いてあって少し焦げ目のある、丸い何かを食べる。


 ハグ


 ジュワ~ッ!



「わ、何これっ!? 表面はちょっと固いけど、中はプリッとして弾力もあって、しかも濃厚な肉汁みたいなのが溢れてくるよっ!」


 そして焦げ目の風味も合わさって、味覚も嗅覚も幸せになる。


 この世界にご飯があったら、無限に行ける気さえする。 

 これならお酒のお供になってるのも頷ける気がする。



「もぐもぐ、これ、なんのお肉なの? ロアジム」



 ロアジムがいるって事は、きっと持ち主だろう。

 なので直に聞いてみる。


 こんなに絶品なら、ユーアたちにも持って帰りたいし。



「あ、それはだな、スミカちゃん――――」

「ああ、それはこの肉だぞッ! スミカ嬢が持ってきた」


「え? 私が持ってきたって、それってもしかして……」


 ロアジムが説明する前に、ルーギルがテーブルの下から何かの塊を出す。


 それはつい先日見た表面が真っ赤な外殻だった。

 私のアイテムボックスにもまだ大量に残っている。


「う、うっぷ! そ、それ虫の魔物じゃん、私が退治したっ! うえっ!」


 私は涙目になりながら、必死に吐き気に堪える。

 花も恥じらう乙女がこんなとこでゲロしたくない。

 吐いた汚物が、レインボーで加工される訳でもないし。


 美味しくても、絶対に食べたくないと思っていたはずなのに……。



「わっはははははッ! やっぱりスミカ嬢は苦手みたいだなッ! 虫の類は」

「大丈夫か、スミカちゃんっ!」


 私をまんまと嵌めて、笑い転げるルーギル。

 ロアジムは知らなかったのだろう。心配そうに声を掛けてくれる。


「うう、大丈夫だよロアジム。それよりもルーギルの心配した方がいいかも、うっぷ」


 私は口元を拭きルーギルを強く睨んでそう言った。


 『そして虫の魔物と同じ末路にしてやろう』と、そう思った。



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