第348話決着と覚醒するラブナ




「ス、スミカっ! この揺れは絶対地震なんかじゃないわっ! きっとまたアイツらが現れたのよっ! 揺れの規模からかなりの数よっ! …………って、それ何さっ!?」


 周囲に鋭く視線を這わせながら、リブが声高に叫ぶ。

 そして私に振り返り、違う意味での驚愕の声に変わる。


「ああ、これね――――」


 私はこの状況を予想済みなので、特に慌てる必要がない。

 なのでそれ用の透明壁スキルを展開し、待ち構える。



「――――これはこうやって使うんだよっ!」



 トンッ!


 ブフォンッ!!



 持っているスキルを、跳躍しながら全力でぶん投げる。

 ギュンと高速回転をしながら弧を描き、波紋の残る場所に向かって飛来する。


「もう一機っ!」


 ブフォンッ!!


 更に同じものを展開し、今度は左側方に投擲する。


 2機の巨大な物体が、波紋の立つ水面に向かって挟み撃ちするように飛んでいく。



「な、何なのよそれはっ!」

「あれはブーメランだよ。狩りとかに使ってなかった?」

「そうじゃないわっ! その大きさの話をしてるのよっ!」

「大きさ? ああ、それは相手に合わせたからだよ」

「相手?」


 水面を、激しく波立たせながら飛んでいくスキルを見てそう教える。



 ドガンッ!


『グガァッ――――!!!!』



「おおっ! 当たったっ! でもまだダメージが低いみたいっ! なら」


 鈍い音と奇声で命中したのは確認できた。

 でも白リザードマンのように姿を現さない。


 なので再度跳躍して、更に2機を左右から巻き込むように投擲する。

 今度は重さを10tずつ付与して、大きさは同じ全長20メートル。



『グオオォォォォッ!!!!』


 ドガンッ! ×2

 バジャンッ!


「はぁっ!? 直撃する前に撃墜された? あの大きさと超重量のスキルを?」


 突如、叩き落されたように、湿原に残るスキルを見て驚く。



「スミ姉っ! あそこに敵がいるのねっ! アタシも援護するわっ!」

「うん。ならなるべく広範囲でお願いっ!」

「私もっ!」


 近くのラブナに指示を出しながらスキルを回収する。

 その隣では、リブも詠唱の準備に入っていた。



「あ、でもそろそろエナジーチョーカーが切れるから、って、もう切れて――――」

「炎よ嵐よ岩よ氷よ、我が瞳に映る全てを切り裂く花となれっ!『百花乱舞』っ!」


 ラブナの唱えた魔法が、スキルが撃墜された付近に広範囲に顕現する。


「ラ、ラブナ、あなた四属性全ての魔法を使えるのっ!? それにその数は何さっ! まるで花びらの巨大竜巻じゃないっ!」


 現れた魔法を目の当たりにして、目を見開き驚愕するリブ。


 リブの説明通りに、色とりどりの花びらが巨大な渦を形成して竜巻に見える。

 しかも密度が濃く、向こう側が見えないがバチバチと内部で火花を上げている。

 四属性全てが高速で混じり合い、中で未知の反応が起きている。



『こ、これは凄いね………… ってか、エナジーチョーカーの効果が切れてるのに、ここまでの魔法が出来るなんて、ラブナの潜在能力って――――』



「………………」


 リブを見る。


 そのリブの首に巻かれているチョーカーは1/4ほどが白くなっている。

 あれ程の威力の魔法を連発した割には消費が少ない。

 これで、この世界の住人には、アイテムの効果が高いことがわかる。


 なので、黒の残り3/4が白く変われば効果が切れて、魔力の供給も止まる。


『はずなんだけど……』


 なのに、ラブナのチョーカーは全てが白く変わり、既に効力を失っているはず。


 だが目の前にあるラブナが唱えた魔法は、以前より格段に強く見える。



『これって、アイテムの効果で魔力を注ぎ過ぎて、無理やりに覚醒しちゃったって事? これがこの先の未来のラブナの力って事?』


 まだ幼い容姿を残しながらもながらも、険しい顔で魔法を操るラブナ。


「わ、私も負けてられないわっ! 炎よ敵を――――」


 

 ズガガガガガガ――――――ッ!!!!


『グギャオォ――――ッ!!!!』



 負けじとリブも魔法を唱えようとした瞬間、

 ラブナの放った魔法の中で咆哮が聞こえる。



「よ、よし、何とか捉えたわっ! スミ姉、あ、後はよろしく頼むわよ――――」


 魔力を使い切ったのか、ラブナがフラフラとしている。

 そして魔法を放った先に目を見やり、笑顔で近づいてくる。


 その視線の先には血まみれの巨大な白リザードマンの姿があった。

 その大きさは、6階建てくらいのアパートに匹敵する。

 もちろん、私の放ったブーメランより巨大なもの。


 ギュッ


「うん、ありがとうラブナ。後はこのお姉ちゃんに任せなさいっ!」

「うん、スミ姉…………」


 ラブナを抱きとめ、片手でスキルを展開する。

 姿が見えればここからは私の出番だ。



「それじゃ、妹が頑張ったから、お姉ちゃんもいいとこ見せないとねっ!」


 巨大白リザードマンを見て、今度は50メートルを超える大剣を展開する。

 その際に、手首の腕輪を見つけて意識を引き締める。



 天に伸びた巨大な大剣を片手で振り下ろす。その重さは30t。

 十分に両断できる大きさと重量だ。



『グオォッ!』


 ズダダッ――


 その大きさを目の当たりにし、避けるべく動き始める白リザードマン。


 ただし、その進路方向は――――



「――――私の敵を焼き尽くす柱となれっ!『炎上炎柱』」


 ――リブが放った巨大な炎の柱によって塞がれていた。



「ナイスだねっ! リブっ!」


 私はそれを確認して、躊躇いなく大剣を叩きつける。



 ズバン――――――ッ!!!!



『ギュ、エッ!?』


 バシャンッ! ×2


 スキルを叩きつけられた白リザードマンは脳天から分かれて左右に倒れ込む。

 そして水飛沫と風圧がこちらまで届く。



「スミ姉………… やっぱり凄いわ」

「スミカ、あなた本当に…………」


「うん、どうやら完全に倒せたね。ちょっと確認したい事があるから、ラブナにはこのアイテムを使ってあげて。それとここで待っててね」


 倒れた白リザードマンと私を見比べている二人にそう告げて歩き出す。

 その理由はもちろん、謎の腕輪の回収。


 それと――――



「ねえ? 近くにいるんでしょ? さっさと姿を現さないとここら一帯を更地にするから。それにあなたが巻き込まれても私は何とも思わないから」


 謎の腕輪を視界に収めながら小声で話す。

 その理由は巨大白リザードマンが現れると同時に、他の存在を感じたからだ。



『あの時、実はもう一つの水音が聞こえたんだよね。白リザードマンの立てた大きな水音と、それ以外の小さな水音が。だからいるとしたら恐らくこの腕輪を――――』


 狙ってくるはず。


 私はそこを狙えばいいだけだ。


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